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「悪いな、こんなことに付き合わせて。しかも俺の都合で」
「いや、大丈夫だ。しかも迅火の事故と関係があるかもしれないんだから、俺も行きたいし」
賢人は笑って返事をする。
午後7時。
俺たちはもう一度、あの倉庫街だったか──例の場所へ行くことにした。
賢人が沖田のことを知っている様子はなかったから、そこは適当に嘘でごまかした。
……。
友達に嘘をついてまで、調べようとした。
それは、やはり俺の非情さと最低さを表しているだろう。
もっと言うと、友達を利用している。
だから俺は、たとえ、いずれ賢人に罵られるとしても、それを黙って受け入れようと思う。
まあ、その時には、賢人はもう──
「なあ、迅火、ここらへんだったっけ?」
賢人の声が、俺の思考を遮る。
「ああ、たぶんここらへんだと思う。じゃあ、始めるか」
「うーす」
そして俺たちは、黙々と機材の設置を進める。
まずカメラを置いて、SDカードを差し込んで、スマホとの接続をして……
全ての作業が終わる頃には、もう月は真南にのぼろうとしていた。
「ふぅ。これで、一通り完成だな、迅火」
「そうだな。……本当にごめんな、こんな遅くまで」
「いや、いいさ。……でも、ここまでかかるとは思わなかったなぁ」
賢斗のその言葉に、俺は激しく共感する。そんなに複雑な作業ではないはずなのに、時間がかかってしまった。
「うん、そうだな。なら、缶コーヒーの一本でも奢ってもらおうかな」
「わかった。あそこの自販機で買ってくるよ」
「おーけー」
俺は軽く了承する。というか、ここまで面倒で自分勝手なことのために動いてくれたのに、缶コーヒー一本で済ませられるとはな。……それは、やっぱり、賢斗が俺を……
ああ、くそっ。
俺は葛藤を振り切るように、乱暴に財布からお金を取り出した。
「……缶コーヒーだったな。俺の分も買っていくか」
どうせ飲むなら二人の方がいいと思い、俺は缶コーヒーを二本買う。
そしてそれを落とさぬよう、慎重に運ぶ。
「賢斗ー、買って来たぞ」
「おお、どーも。……あ、迅火の分もか。なら……」
俺はその言葉に視線で返し、乾杯をする。
「いやー、やっぱ冷えたときのコーヒーはいいな」
賢斗がご満悦といった表情で言う。
「確かにな。暖まるし」
それからは会話もなく、互いにコクコクとコーヒーを喉に流していった。
やがて、二人とも飲み終わると。
「……それじゃあ帰るか。随分夜も更けてきたし」
「そうだな。……それじゃ賢斗、また明日」
俺は、賢斗の言葉に対して家路を向きつつ答える。
歩きながら、手を軽く上げる。
「……」
?
返事がない。
俺が無愛想に、そそくさと帰ろうとしたから怒ったのだろうか?
俺は立ち止まり、先ほどいた場所を振り返った。
───────────
「おい、賢斗⁉︎」
俺は、カメラの傍で倒れている賢斗に声をかける。
動揺し、大声が出てしまう──
「騒ぐな、"麻酔をかけた"だけだ」
倉庫の奥から声がする。
どこかで聞いたことのあるような……?
いや、それよりも。今は。
「おい、賢斗?しっかりしろよ、おい!」
俺は賢斗のところに駆け寄り、体を揺さぶりながら声をかける。先ほどの男の声の「騒ぐな」というのが頭の中に残っており、声は自然と小さくなった。
──反応なし。
それならば、次に打つべき一手は──
俺は、動揺と心配を押し殺し何をすべきか考える。
この状況は、一体……
「……誰だ」
俺は声のした倉庫に向かって、言う。
とりあえず、そこにいる男に話を聞かないと進まない。
……いや、待て。
確かさっき、麻酔をかけたと言ったな……?
とすれば、賢斗の意識を奪った犯人は、こいつということになる。
──しまった‼︎
俺としたことが、抜かっていた。
なぜ、わざわざ犯人に話を聞こうとしたのか。
叫んでしまっただけならまだしも、こんな危険人物に情報を求めようなど、愚の骨頂──
「っ‼︎」
俺は一歩飛び退き、同時に抜刀し剣を正面に構える。
麻酔、というのが正確には何を表しているのか。俺にもまだよくわからないが、推測するに『アビリティ』だろう。
それならば、相当な危険人物である可能性が高い。
すぐに戦闘に移行できる準備をしておかねばならない。
万一のことがあれば、口封じも視野に入れなければ──
「……剣をしまえ。俺は、今はまだお前と戦う気はない」
……降伏か?
いや、違う。
今はまだと言った。ということは、いずれ俺と敵対することになる人物──
そして、セリフから察するに俺の素性も知っている。
それほど、俺の裏の顔と近しい存在の男──
「まさか、沖田か⁉︎」
俺は抜刀したまま、男に問う。
倉庫に隠れたままで、まだ姿は見えない。
「……その問いに答えてほしければ、まず剣をしまえ」
……くそ。
やりづらい奴だ。
その返答で、もう分かるんだよ。
「……」
俺は無言で剣をしまう。
相手は、自分の返答で、相手に正体が知られていることなど気づいているだろう。その上での、あの言葉。
さらに言うなら、先ほどの「今はまだ」というところ。あれは、時期が整えば戦うという宣告でもあり、そのための実力や準備はある程度整っているということでもある。
したがって、俺も戦闘態勢をほどくしかない。
「……答えろ。お前は沖田か?」
沖田なら、俺の正体を知っていることも頷ける。
幼少期の、俺の生殺与奪を握っていたのだから。
さあ、返答はどうなる──?




