2.ハロウィン前日
「そういえば、明日はハロウィンだね~」
全てのことの発端は、清水さんのこの一言だった。
十月三十日の昼休み。
俺たちは四人で仲良く……とはいかないが……。
「ストリートでならした、この私の実践的なつまみ食い!」
「はっ? って、私が楽しみにしてた唐揚げがぁ!?」
「完全にお前を舐め切った、この私のハードなつまみ食い!」
「ちょっ!? 何してくれんのよ! なら、あんたのオカズもよこしなさいってば!」
清水さん達のクラスである一年三組の教室隅を陣取り、俺たちは弁当を広げていた。そこでポツリと彼女がハロウィンについて言及したのだ。
「ハロウィン? あぁ、そう言えば町でそんなの見かけたなぁ」
「あはは、樋口君はあんまり興味なさそうだね」
特に感慨もなく呟いた俺に、清水さんがニコニコといつも通りの笑顔を咲かせる。俺は彼女の言葉に曖昧に笑って見せた。
「まぁ確かに……っていうか、実はあんまりハロウィンのこと知らなくてさ。クリスマスとかと違って、どうも馴染みが薄いっつ~か」
すると先程まで、花祭と壮絶な弁当の奪い合いを演じていた横川が俺たちの会話に気づき、
「あ~~樋口の言いたいこと分かるかも。毎年、この時期になると京香がカボチャケーキを焼いてくれるんだけどさ。それで私も”あ~そういやハロウィンか~”って気付く位だしね」
そう。今思い返しても、ここまではよかった。
邪神も儀式も百十番もない、有り触れた日常の一コマ。
「そっか~あははぁ」
「そうなんだよ、ははは」
「そうよねぇ、うふふ」
と三人で牧歌的に笑っていられた。
だがその会話に、目を光らせた花祭が参加したことからあの惨劇が生まれた。
――邪神降臨の儀式が!
花祭はわざわざその場で立ち上がると、肩まで伸びた髪をかき上げて不敵に微笑んだ。
「全く……樋口にデコ。デコ助! 乱反射! 太陽拳しか能のない人造人間の旦那!」
「香奈、あんた人をさり気に罵倒するの――」
「アナタ達はハロウィンを何だと思ってるの? せっかくのイベントを楽しまないなんて、あ~勿体ない」
会話に横入りしつつ、横川をぼろっかすに罵倒。その後、抗議の声を無視し平然と再び話し出すという高等テクニックを駆使して花祭は言う。
『いや、クリ○ンは地球人最強だぞ。気円斬とかマジ半端ねぇ、クリ○ンさんカッケ~っす』
と反射的にどうでもいいことを考えた俺は、『ん? 待てよ?』とその直後、嫌な予感を覚えた。
感触がしたのだ。花祭が碌でもないことを始める前の、前兆とでもいうべき不気味な感触。
「っていうか香奈。あんた、それだけ言うってことはハロウィンに詳しいわけ?」
花祭の挑戦的な物言いに、これまた横川が挑戦的な口調で尋ねる。
すると花祭は「はっ」っと鼻で笑い、
「当たり前じゃない! 中学の頃は”ハロウィンの花さん”と呼ばれた程にハロウィンをふざけ倒したわ! そう、ハロウィンの為に生き、ハロウィンの為に死す女とは私のことね」
何だよ”ハロウィンの花さん”って。絶対、それ今適当に作っただろ。
俺は胡散臭そうなものを見る目つきで花祭を眺め、声に出さずに突っ込んだ。
だが、そんな俺のうんざりとした感慨をよそに、
「わぁ、じゃあ今年は皆でハロウィンパーティー出来るね。楽しみだなぁ」
清水さんが天使のような邪気のなさで微笑み、喜んでいた。
その顔を見ると、思わず心がぽわぁ~っと暖かくなる。
今、清水さんが結構エグイ内容の誓約書に判を押せとか迫って来ても、喜んで押してしまう自信があった。
『うふふ、お前の臓器をよ・こ・せ♪』
『はひぃ~~肝臓、腎臓、すい臓。どれでもどうぞ~~』
…………すまん、よく考えたらないわ。うん。
まぁそんなことよりも、ハロウィンパーティーか。正直、何をやるのか全く想像がつかないが、それはそれで楽しそうだ……花祭が奇抜なことさえしなければ。
――だが俺の不吉な予感は、的中することになる。
「ねぇ香奈、あんた本当にハロウィンパーティーしたことあるの? 今まで友達いなかったのに?」
よく考えれば横川、このデコ野郎! すまん、ちょっと調子こいた。とにかくだ。この横川の挑発的な言葉がなければ、当日は花祭の家か何処かで、それなりに平和なハロウィンパーティーが開催されていたのかもしれない。
しかし、賽は投げられてしまった。
そんなことを言われれば、花祭がムキになるのは目に見えていて……。
「んだとこのダボハゼがぁ!? 中学の頃はワンサカいたんだよ! ふっ、まぁいいわ……明日の放課後、理科室に来て下さい。私が本物のハロウィンをご覧にいれます」
そんな流れで、急遽として花祭主催のハロウィンパーティーが開かれることになった。
清水さんはウキウキとして「ならカボチャのケーキを作って来るよぉ」と言い、横川は立ち上がって腕を組み、花祭と視線を重ね熱い火花を散らしていた。
「おいデコ女、私のハロウィンは凄いぞ。無修正海外ポルノよりもな。ついて来れんのかよ」
「上等じゃない。ハロウィンの花さんの実力を存分に味あわせてもらうわ」




