3.花祭のハロウィン
十月三十一日。ハロウィン当日の放課後。
花祭は準備の為に一足先に理科室に向い、
「香奈ちゃんのハロウィンパーティーってどんなだろう?」
「あ~、取りあえず昨日の放課後、張り切って色々と買い物してたよ」
「まぁいいわ。存分に楽しませてもらいましょ」
俺たちは教室で時間を潰した後、指定された時刻通りに理科室の扉を開けた。
「のわぁぁぁぁぁぁぁあっ!?」
「きゃぁぁぁぁぁあっ!?」
冒頭に戻り、そこで出迎えたのが例の禍々しい邪神。
うん、これ絶対にハロウィンパーティーじゃない。
二○十四年秋。邪神崇拝会場はこちらです、ってな位にあから様に違う。
「香奈っ! あんた、本当はハロウィンパーティーなんてしたことないでしょ!? 何よ、この邪神はっ!?」
いち早く邪神の恐怖に打ち勝った横川が声を荒げた。その声で、邪神の存在に圧倒されていた俺も現実に立ち返る。
「なっ!? そ、そんな訳ないでしょ!? あれよ……皆で集まって邪神降臨の儀式をして過ごすのが、最もポピュラーなハロウィンの――」
「それどこ情報だよ!? っていうか清水さんがびっくりし過ぎて止まっちゃったぞ!」
横川に追従して声を荒げた俺は、清水さんを指差す。そこには「あはは~大丈夫だよ~」と、口から魂が抜け出てしまった感じで弱々しく笑う清水さんの姿が。
「って? 京香ぁぁぁ! だめ、死んじゃだめよ!!」
「うふ、うふふふ」
そんな清水さんを、大げさに叫びながら掻き抱く横川。スポットライトでも浴びせてやれば、宝塚の舞台のような光景だ。
そんな二人のやり取りをよそに、花祭がボソリと一言。
「可笑しいわね、『世紀末覇者』の”ハロウィンパーティー”って曲によると、この路線で間違いない筈なのに……」
我が耳を疑った俺は、これ以上ない位に不信感たっぷりな表情で花祭を見た。
『世紀末覇者』って……確かこいつが好きなデスメタルバンドじゃなかったか?
花祭はカラオケに赴いた際には、デスメタルの曲を狂ったように歌いまくる程のメタルファンだった。
『ンギャラジュワッシュラー!』
『ジャギャラジェッガッター!』
こんな訳の分からん感じで、興奮した猿が叫んでいるように花祭は歌う。
ちなみにちゃんとした(?)歌詞が映像と共に流れているのだが、本家をリスペクトするとこんな感じの奇声になってしまうらしい。
以前、友達を作る為にクラスメイトとカラオケに赴いた際にも『鯖の水煮は、飲み物じゃねぇ!』という変な歌を歌っていたが、あれは別グループのもので、しかも気を遣った選曲だというから驚きだ。
また、前に花祭の家でライブDVDを見せてもらったことがあるが……。
その際に、俺たちは言葉を失った。
画面に映った”イカにも”な風貌をしたボーカルは、何故かライブの癖に歌わず、片手にジャックダニエルと書かれた酒瓶を持ち、狂ったようにチェーンソーを振り回していた。ギターとベースとドラムが、超絶テクを披露している中でだ。
最終的にボーカルは、体に火を着けられたままワイヤーアクションで会場の中央に。観客は観客で、その火の粉を浴びて狂ったように叫んでいた。
異文化過ぎて正直ついていけない光景だったが、花祭は鼻息荒く興奮していた。そこまで考えて、思考を現実に戻す。
「花祭……今、お前なんて言った? 『世紀末覇者』ってデスメタルの――」
「っ!? な、何でもないわよ! っていうか、花祭家でのハロウィンパーティーではこうするのよ!」
俺が胡乱な目つきで尋ねると、花祭は言葉を遮り、あまつさえ苦し紛れにとんでもないことを口走った。
「花祭家って……あの心優しそ~な親父さんが、邪神降臨の儀式をするのか?」
「えぇそうよ!」
腕を組んだ態勢で、毅然と応える花祭。だが目は泳ぎに泳ぎまくっていた。
「これまた心優しそ~な母親とか?」
「も、もちろんよ!」
「小さなお前を囲んで? ハロウィンの日は家族みんなで邪神降臨の儀?」
「うっ……え、えぇ。そ、そう――」
「どんな家族だよ!」
「だぁぁ! うっせぇなぁ! とりあえずハロウィンパーティーを始めるわよ!」
言及すればする程に花祭はムキになり、ついにはキレたように叫び出した。
というかこの状態で、何をどうパーティーするんだ?
やっぱり降臨か? 邪神降臨の儀なのか?
「ハロウィンパーティーって……この状況でどうパーティーするって言うのよ?」
すると生気を取り戻した清水さんの横で、俺と同じような感想を抱いていた横川が困惑の声を上げた。俺も全面同意とばかりに、腕を組んでウンウンと頷く。
「あぁん? それは……だから邪神の降臨を……」
そこで珍しく、弱気に言い淀む花祭。
花祭には悪いが、このハロウィンパーティーは完全にしっぱ……。
だがその時、俺に不意に悪戯心が生まれた。
『ゆけい、樋口よ! 日頃の鬱憤をここでぶつけてやれい!』
ともすればそれは、邪神様のそんな囁きだったのかもしれない。
「おい横川」
俺は企みを秘めた顔で横川に近づき、小声で囁く。
「ん? 何よ樋口、あんたもこの変なパーティーを――」
「このまま花祭にやらせてみよう」
そう提案すると、横川は一度眼をむいた後、訝し気に俺を見つめ、
「はぁ? 樋口何言ってんの? このまま香奈に任せてたら、珍妙なだけの――」
そこまで言うと、横川は何かに思い至ったように口を噤んだ。そして俺と含みを持った視線を交わし合い、ニヤリと悪そうに笑う。
そうだ、このまま花祭に謎のハロウィンパーティーをさせた方が色々と面白い。
追い詰められた花祭がどんなことをしでかすか興味もあるが、それよりも何よりも、花祭に恥をかかせるチャンスでもある。
俺は今、結構酷いことを言っている自覚はある。しか~し! 常日頃、花祭に好き勝手に振り回されてるんだ。たまにはこんな日があってもいいだろう。
俺と横川は、一瞬でそのことを意識共有すると、
「さぁて。じゃあ花祭家のハロウィンパーティーを見せてもらいましょうか?」
花祭に悠然と向きなおり、二人でほくそ笑んだ。
「なっ!? ア、アナタ達、何を急に乗り気に!?」
「やだなぁ花祭。俺たちはただ単に、花祭家のハロウィンパーティーに興味があるだけさ。なぁ横川」
「えぇまったく、樋口の言う通りよ。それじゃぁ香奈、はやくハロウィンパーティーを始めましょう」
うふふ、おほほと若干気色悪く、優雅に……ん? 優雅か? まぁとにかくそんな風に余裕を振りまき、花祭を小馬鹿にしたように微笑む俺と横川。
すると花祭は「くっ!」と悔しそうに歯を食いしばり前髪に表情を隠した後、わなわなと震え出した。
だが一呼吸置いた次の瞬間には、邪悪に微笑んだ面を上げ、
「ふ、ふふふ、ははは、あ~はっはぁ! いいわ、えぇいいわよ! 花祭家のハロウィンパーティー、とくとご覧にいれるわ!」
こうして花祭家流の、ハロウィンパーティーの幕が切って落とされた。




