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ラップ付き小説 ReversCrown 元気ないやつこっちおいで  作者: egubi
暴れ牛ビーフ編

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98/186

3-5-4 その席に座るなら

歓迎会は、ようやく全員の形になった。


BEEFは来た。

来るとは言っていない、と言いながら来た。

行っても構わない、と言いながら席に座った。

勝手に席を空けるな、と言いながら、その空けられた席に収まった。


それだけで、テーブルの形が変わった。


リバクラ三人。

リバックライン五人。

BEEF。


音のある場所。

会話が途切れても、沈黙が責めにならない場所。

BEEFがDJブースを見ていても、誰も無理に引き戻さない場所。


Kateが選んだ意味は、少しずつ場の中で効き始めていた。


BEEFは相変わらず無愛想だった。


けれど、席を立つ気配はない。


グラスを持つ。

メニューを見る。

DJブースを見る。

誰かの言葉に、ほんの少しだけ反応する。


それだけで、最初よりは場に馴染んでいた。


もちろん、本人は絶対に認めない顔をしている。


wataがそれを見逃すはずもなかった。


「BEEF、だいぶ座れてるやん」


「座ってるだけだ」


「それを参加って言うんやで」


「言わねえ」


mcRCが笑った。


「でも来たやん」


BEEFはグラスを見たまま言う。


「行っても構わないって言っただけだ」


EGUIが低く返す。


「来てる時点で、構った結果やな」


BEEFがEGUIを見る。


「お前、たまに一番面倒くせえな」


「たまにで済んでるならいい」


wataが吹き出した。


「EGUI、今日調子ええな」


Miwaが小さく笑う。


「EGUIさん、歓迎会なのに切れ味ありますね」


EGUIは真顔で返した。


「歓迎会だから、柔らかくしてる」


Ninaが首を傾げた。


「これで柔らかいんですね」


Saraが静かに言う。


「基準値の確認が必要です」


Yuiが少し手を動かしかけて、止めた。


「今日は記録を控えめにします」


BEEFは五人を見回した。


「お前ら、全員そんな感じなのか」


Kateが平然と答える。


「全員ではありません」


少し間を置いて、Miwaが言う。


「たぶん」


wataが笑う。


「たぶん付いた」


BEEFは面倒くさそうに息を吐いた。


でも、ほんの少しだけ、口元が緩んでいた。


話題は、いつの間にか食べ物に戻っていた。


リバクラーメン。

リバクライス。

ササミ。

ライブ後のエネルギー補給。


前に一緒に行ったラーメン屋の話になった時、BEEFは少しだけ眉を寄せた。


「あの時のラーメンにライス追加、あれ本気だったのか」


wataがすぐ反応する。


「本気も本気や」


mcRCも笑う。


「ライブ後のご褒美やからな」


EGUIが静かに続けた。


「普段はちゃんとやってる」


BEEFは三人を見た。


たしかに、雑に太っている感じではない。

身体は作っている。

ステージで動ける身体をしている。

声を出し続けるだけの土台もある。


それでもBEEFは、素直には頷かなかった。


「体作ってる顔して、ラーメンにライス足すな」


wataが胸を張る。


「だから、ご褒美や言うてるやろ」


mcRCが続ける。


「疲れたらエネルギーがいるねん」


EGUIも真顔で言う。


「リバクライブの後やからな」


BEEFは鼻で笑った。


「言い訳だけは若いな」


一瞬、テーブルが止まった。


wataがゆっくり顔を上げる。


「……今、なんて?」


BEEFはグラスを持ったまま、何でもない顔で言った。


「言い訳だけは若いって言った」


mcRCがグラスを置く。


「おい」


EGUIも静かに視線を向ける。


「それは聞き捨てならんな」


Miwaが小さく笑った。


「始まりました」


Ninaが少し楽しそうに言う。


「年齢紛争ですね」


Saraが淡々と返す。


「発端はBEEFさんの発言です」


Yuiが言いかける。


「年齢紛争、発端――」


Kateが視線だけで止める。


Yuiはすぐに頷いた。


「記録しません」


wataはBEEFを指した。


「じゃあお前、いくつやねん」


BEEFは黙った。


その沈黙で、場の温度が少しだけ変わった。


ただ、その止まり方は、初めて知った驚きではなかった。


リバックライン側では、すでにその可能性が共有されていた。


BEEFの過去SNS。

昔のクラブイベントの出演告知。

DJコンテストの受賞歴。

名前が載っていたインタビュー記事。

そこに残っていた年代表記。


それらをNinaが拾い、Saraが外部情報として扱いを確認し、Yuiが「未確認情報」として内部メモに落としていた。


確定ではない。


本人が明言したわけではない。


だから外には出さない。


でも、公開されている過去情報を並べると、BEEFはリバクラ三人より年下の可能性が高かった。


だからKateもMiwaも、NinaもSaraもYuiも、声には出さなかったが同じことを思った。


やっぱり。


その線、合っているかもしれない。


wataはBEEFを見たまま言う。


「今の言い方やと、お前、俺らより若い前提やん」


BEEFは黙った。


その沈黙だけで、テーブルの温度が少し変わった。


mcRCが静かに言う。


「……公開情報的には、そうっぽいって話は出てたけどな」


BEEFの眉がわずかに動く。


「何調べてんだよ」


Ninaが少しだけ背筋を伸ばした。


「調べたというより、過去の出演情報と受賞歴からです。外部には出していません」


Saraが続ける。


「本人確認のない年齢情報なので、扱い注意として内部止まりにしています」


Yuiも小さく言った。


「確定情報ではなく、推定扱いです」


BEEFは、面倒くさそうに舌打ちした。


「気持ち悪いな」


wataがすぐ返す。


「いや、こっちは急に若い言い訳扱いされた側やぞ」


mcRCも乗る。


「俺らもまだまだ若いわい」


EGUIが低く言う。


「それは今日何回目や」


Miwaが小さく笑った。


「グルチャから数えると、結構言ってます」


wataは胸を張った。


「若さは何回主張してもええねん」


BEEFが鼻で笑う。


「おっさんほどそう言う」


「おい!」


「今それ二回目やぞ!」


「年下疑惑あるやつが言うな!」


BEEFはそこで、少しだけ黙った。


笑いの流れで返してもよかった。


でも、返さなかった。


グラスのふちを指で軽く叩いて、視線をDJブースの方へ逃がす。


「年上なら、できると思ってただけだ」


その一言で、笑いが少し奥へ引いた。


年下かどうか。


そこだけが問題ではなかった。


BEEFがリバクラ三人に何を見ていたのか。


何を期待していたのか。


その話に、空気が移っていった。


mcRCはBEEFを見る。


wataも、口を閉じた。


EGUIは何も言わずに待った。


BEEFは続けた。


「だいたい、俺についてこれない」


言い方は相変わらず悪かった。


でも、声の奥にあるものは、ただの悪態ではなかった。


「音を止める。切る。変える。空気を見る。こっちが動かした瞬間に、向こうが固まる。予定と違うって顔をする」


BEEFは少しだけ顔をしかめた。


「何でそうしたかなんて、その場で分かるだろって思う。後からじゃ遅い。客はその瞬間に動いてる」


wataは、黙って聞いていた。


NO EASY PEACEの「なんでだよ」が、自分の中でまた鳴った。


BEEFは続ける。


「でも、だいたい止まる。怒る。崩れる。こっちの音を邪魔扱いする」


mcRCが静かに言う。


「俺らも、一本目はそうやったな」


BEEFは答えなかった。


否定もしなかった。


EGUIが低く聞く。


「だから、俺らなら返せると思った?」


BEEFはしばらく黙った。


音が流れている。


近くのテーブルで誰かが笑っている。

DJブースでは、曲が次の曲へ混ざっていく。


その間があったから、BEEFは逃げずに済んだ。


「……年上だろ」


wataが口を開きかける。


「だからおっ――」


EGUIが手で止めた。


BEEFは、少しだけ苛立ったように続ける。


「経験あるなら、崩れても返せると思った。予定が壊れても、客を置いていかないと思った。俺が切っても、飲まれずに使うと思った」


それは、勝手な期待だった。


荒い。

雑。

説明不足。

相手の事情を見ていない。


でも、そこには確かに期待があった。


年上だから。

経験があるから。

前に立っているから。

マイクを持っているから。


なら返せるだろう、という期待。


mcRCはゆっくり息を吐いた。


「なるほどな」


BEEFが見る。


「何だよ」


「いや、腹立つけど、分かった」


「分かった顔すんな」


「分かった顔はしてへん。腹立った顔してる」


wataが少し笑った。


「それはしてる」


EGUIも頷く。


「してるな」


Miwaが、小さく呟いた。


「THAT SEAT……」


BEEFがそちらを見る。


「何だそれ」


Miwaは少しだけ慌てた。


「あ、すみません。リバクラの曲です」


Ninaが補足する。


「その席に座るなら、という曲です」


Saraも静かに言った。


「役割や立場に座る人への期待と責任の曲ですね」


BEEFは少しだけ眉を寄せた。


「知ってる」


wataが目を上げる。


「知ってんの?」


「聴いた」


mcRCが少し笑う。


「あれ、引っかかってた?」


BEEFはすぐに返す。


「引っかかってねえ」


wataがにやっとする。


「引っかかってるやつの返事やん」


「うるせえ」


EGUIが静かに言った。


「一本目で、少し反応してたな」


BEEFがEGUIを見る。


「見てたのか」


「見てた」


「気持ち悪いな」


「それはお互いやろ。お前も人の反応見てる」


BEEFは言い返さなかった。


Miwaが少しだけ前のめりになる。


「BEEFさん、THAT SEATのどこが引っかかったんですか」


BEEFはしばらく黙った。


答えたくない顔だった。


でも、この場所には音がある。


黙っていても、沈黙が責めにならない。


BEEFは、DJブースの方を見たまま言った。


「その席に座るなら、って言うだろ」


mcRCは頷く。


「うん」


「その席にいるなら、できるだろって思うのは普通だろ」


誰もすぐには返さなかった。


BEEFは言葉を続ける。


「こっちは、相手がその席にいるから投げる。年上だから、経験あるから、前に立ってるから、マイク持ってるから。なら返せよって思う」


wataが、少しだけ眉を寄せた。


「期待値が高すぎるんやろ」


「低い方が失礼だろ」


その言葉に、mcRCは少しだけ反応した。


低い方が失礼。


BEEFの乱暴さの中にある、厄介な礼儀みたいなものが見えた気がした。


Kateは、静かにそのやり取りを見ていた。


BEEFの言葉は荒い。


でも、ただ人を見下しているわけではない。


むしろ、勝手に高く見ている。

だから、届かないと腹を立てる。

期待していることすら言わずに、失望だけを音でぶつける。


それでは伝わらない。


でも、その奥にあるものは、少しだけ分かった。


EGUIが言う。


「THAT SEATは、座ってる側だけを責める曲じゃない」


BEEFはEGUIを見る。


「は?」


EGUIは続けた。


「その席に座るなら責任がある。でも同時に、期待する側も相手を見ないといけない。何を背負ってるのか。何が見えてるのか。何がまだできないのか」


BEEFは黙った。


mcRCも続ける。


「俺らも、あの曲で言いたかったのは、役職とか年齢とか肩書きだけで判断するなってことや。席に座るなら責任はある。でも、その人が今どういう状態か見ずに、できるやろって投げるだけやと、それは雑になる」


BEEFはグラスを置いた。


「じゃあ期待すんなってことか」


wataが首を横に振る。


「ちゃう。期待するなら、伝えろってことやろ」


BEEFはwataを見る。


wataは続けた。


「俺も、NO EASY PEACEで思った。BEEFが何見てたか、後から分かったとこある。でも、その場では腹立った。なんで今止めんねん、なんでそこ切んねんって」


BEEFは視線を外した。


wataの声は、少し低くなった。


「でも、期待してたなら言え。試すんじゃなくて、言え」


BEEFは黙った。


言い返さない。


wataは少しだけ笑った。


「まあ、言うの下手なんやろうけど」


BEEFが睨む。


「殺すぞ」


「はい出た」


mcRCが笑う。


「でも、今ので少し分かったわ」


BEEFは不機嫌そうに言う。


「だから分かった顔すんな」


「分かった顔はしない。でも、少し見えた」


BEEFは何も言わなかった。


Kateが静かに言った。


「BEEFさんは、期待していない人には、たぶん仕掛けないんですね」


BEEFはKateを見た。


「……知らねえ」


Saraが小さく頷く。


「否定はしないんですね」


「お前ら、いちいちうるせえな」


Yuiが思わず言った。


「記録したいです」


Kateが即座に見る。


Yuiは口を閉じた。


「しません」


Miwaが少しだけ笑った。


「BEEFさんがTHAT SEATに引っかかった理由、少し分かりました」


BEEFはそちらを見た。


「分かってねえよ」


Miwaは首を横に振る。


「全部は分かりません。でも、年上だからできるはず、って期待してたことは分かりました」


BEEFは黙った。


Miwaは続ける。


「でも、たぶんリバクラは、年上だからすごいんじゃないです」


mcRCが少しだけMiwaを見る。


Miwaは、言葉を選びながら言った。


「見ようとするから、すごいんだと思います」


テーブルが静かになった。


Miwaは慌てて目を伏せる。


「すみません。ファンモードでした」


wataが小さく笑う。


「いや、今のは良かった」


EGUIも頷く。


「うん」


mcRCは少し照れたようにグラスを持った。


「やめて。俺が困る」


BEEFは何も言わなかった。


でも、少しだけmcRCを見た。


見ていない顔で。


wataがそれを見て、言いたそうにした。


EGUIが先に止める。


「言うな」


wataは両手を上げた。


「何も言ってへん」


「顔が言ってた」


BEEFが低く言う。


「ほんと面倒くせえな、お前ら」


mcRCが笑う。


「歓迎会やからな」


「関係ねえだろ」


「あるやろ」


「ねえ」


でも、BEEFは席を立たなかった。


それどころか、少しだけ深く座った。


それだけで、十分だった。


少しして、店内の曲が切り替わった。


DJブースの方で、歓声が上がる。


BEEFがそちらを見た。


自然な動きだった。


今度は、wataもいじらなかった。


BEEFの目が、少しだけ真剣になっている。


クラブの中では、BEEFはやはりBEEFだった。


客として座っていても、音を見ている。


フロアの呼吸を見ている。


曲のつなぎ方を見ている。


Ninaが小さく言った。


「やっぱり、クラブにしてよかったですね」


Kateは頷く。


「はい」


Saraも言う。


「BEEFさんの居場所があります」


Yuiが小さく続けた。


「会話以外の居場所」


Miwaが、空いたグラスを両手で持ったまま言った。


「音があるから、話せてる感じがします」


mcRCはその言葉に頷いた。


「あるな」


BEEFは聞こえているのに、聞こえていない顔をした。


その時、フロア側から誰かが声を上げた。


「BEEFじゃね?」


一瞬、テーブルの空気が止まった。


BEEFは顔をしかめる。


「面倒くせえ」


別の声が続く。


「え、マジでBEEF?」


「回してよ!」


「BEEF、今日回さねえの?」


店の中で、少しだけざわめきが広がった。


クラブだけに、BEEFは知られていた。


リバクラのライブに来ていた人ではない。

でも、BEEFを知っている人たちだった。


wataが小さく笑う。


「有名人やん」


BEEFが睨む。


「うるせえ」


mcRCが様子を見る。


店の空気は悪くない。


騒ぎになっているわけではない。

期待が少し上がっただけだ。


DJブースの方にいたスタッフが、BEEFに気づいて軽く手を上げた。


BEEFは面倒くさそうに目を逸らした。


でも、その手元は、少しだけ動いていた。


音を触りたい顔だった。


mcRCはそれを見た。


wataも見た。


EGUIも見た。


リバックライン五人も、それぞれに気づいた。


Miwaが小さく言う。


「BEEFさん、回したそうですね」


BEEFは即座に返す。


「回したくねえ」


wataが笑う。


「嘘つけ」


「うるせえ」


EGUIが低く言う。


「音が呼んでるな」


BEEFはEGUIを睨んだ。


「詩人みたいなこと言うな」


wataがにやっとした。


「ならさ」


BEEFが嫌そうに見る。


「何だよ」


wataは、mcRCとEGUIを見た。


三人の間で、一瞬だけ目が合う。


mcRCが頷いた。


EGUIも、静かに頷いた。


wataはスマホを出した。


「この曲で、やってくれへん?」


BEEFは眉を寄せた。


「何の曲だよ」


mcRCが言った。


「Hands on Deck」


BEEFは一瞬、表情を変えなかった。


でも、目だけが少し動いた。


「……あれか」


EGUIが頷く。


「データは渡してある」


BEEFは低く言う。


「全曲渡されてるからな」


wataが笑った。


「ならできるやろ」


BEEFは睨む。


「簡単に言うな」


mcRCは、リバックライン五人を見た。


「この曲、今日やるなら、今やと思う」


Miwaが首を傾げる。


「Hands on Deck……?」


Ninaが少し考える。


「未発表ですよね」


Saraが静かに言う。


「公開前の曲ですか」


Yuiがペンを持ちかけて、また置いた。


「記録したいですが、今は聞きます」


wataが少しだけ笑った。


「この曲は、直接名前を出してるわけじゃない」


mcRCが続ける。


「でも、今日ここでやるなら、たぶん意味は伝わる」


EGUIがリバックライン五人を見た。


「任せられる手がある、って曲や」


Kateは、少しだけ目を伏せた。


Miwaは何かを察したように、口元を押さえた。


Ninaはスマホを裏返して置いた。


Saraは、姿勢を正した。


Yuiは、ペンを完全に置いた。


BEEFはその五人の反応を見て、面倒くさそうに言った。


「……重い曲か」


wataが首を横に振る。


「重いだけちゃう」


mcRCが言う。


「上がる曲や」


EGUIが続けた。


「でも、ちゃんと届く曲や」


BEEFはしばらく黙った。


フロアから、また声が飛ぶ。


「BEEFー!」


「一曲だけ!」


「回して!」


BEEFは舌打ちした。


それから、スマホを見た。


mcRCが送った音源ファイルを確認する。


Hands on Deck。


画面に出たタイトルを見て、BEEFは少しだけ目を細めた。


「……任せられる手、ね」


mcRCは何も言わなかった。


wataも黙った。


EGUIも、ただ待った。


リバックライン五人も、誰も急かさなかった。


BEEFは、ゆっくり立ち上がった。


「一回だけだ」


wataが笑う。


「出た」


「二回はやらねえ」


mcRCが頷く。


「一回でいい」


EGUIが低く言った。


「十分や」


BEEFはDJブースへ歩き出した。


黒いキャップの影が、照明の中へ入っていく。


フロアがざわつく。


「マジでBEEF回すぞ!」


「え、何の曲?」


「知らない曲?」


「リバクラもいる?」


「え、あれリバクラじゃね?」


「何これ、内輪会じゃなかったの?」


wataがテーブルから立ち上がる。


mcRCも立つ。


EGUIも、静かにグラスを置いた。


リバックライン五人は、その背中を見ていた。


Miwaが小さく言う。


「これ、もしかして」


Kateが静かに答える。


「はい」


Ninaが、少しだけ息を吸う。


「始まりますね」


Saraが言う。


「未公開曲の初披露です」


Yuiが、何も記録しないまま呟いた。


「でも、これは記録より先に見ます」


BEEFがDJブースに立つ。


店内の音が少しだけ落ちる。


フロアの視線が集まる。


リバクラ三人が、マイクではなく、手持ちの小さなワイヤレスを受け取る。


完全なステージではない。


でも、音はある。


人もいる。


見ている手もある。


BEEFが、フェーダーに指を置いた。


mcRCが、リバックライン五人を一度だけ見た。


wataも、少し照れたように笑った。


EGUIはまっすぐ前を向いた。


次の瞬間。


Hands on Deckのイントロが、クラブの床に落ちた。

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