3-5-2 行っても構わない
その夜、共有グルチャは一度静かになった。
歓迎会をする。
BEEFにも声をかける。
場所は、BEEFが来る可能性を考えて、音楽のある場所にする。
ただし、無理には呼ばない。
来ても来なくてもいい。
でも、来るなら歓迎する。
そこまでは決まった。
けれど、決まっただけでは何も始まらない。
誰かが、BEEFに声をかけなければならなかった。
wata@Technician:
で、誰がBEEFに連絡する?
EGUI@Straight Type:
mcRCやろ。
mcRC@Scene Maker:
俺?
wata@Technician:
そりゃそうやろ。
仲間だろ、って言った本人やん。
EGUI@Straight Type:
責任者。
mcRC@Scene Maker:
責任者って言うな。
Miwa@物販:
部長……。
Nina@告知販促:
泣いてます?
Miwa@物販:
いいえ。
これはまだ目の奥に水が待機しているだけです。
Yui@庶務・作業表:
目の奥に水、待機。
記録します。
Miwa@物販:
しなくていいです。
Kate@秘書・外部連絡:
ただ、確認です。
BEEFさんへの連絡は、まだ新川さん経由ですか?
そこで、三人の反応が少し変わった。
前まではそうだった。
BEEFとのやり取りは、新川さんを通していた。
連絡を直接取り合えるほどの関係ではなかった。
言いたいことがあっても、すぐには届かない。
BEEFも、リバクラも、新川さんを挟んだ少しもどかしい距離にいた。
けれど、今は少し違っていた。
mcRC@Scene Maker:
いや。
昨日のラーメンの時に、連絡先は交換した。
Nina@告知販促:
交換したんですね。
Sara@権利確認:
そこは大きいですね。
Yui@庶務・作業表:
BEEFさんとリバクラ、連絡先交換済み。
記録しました。
wata@Technician:
記録されると、急にイベントみたいになるな。
EGUI@Straight Type:
実際、かなり大きい。
Miwa@物販:
見てました。
というか、私とKateも同席してました。
Kate@秘書・外部連絡:
はい。
ラーメンの時に、自然な流れで交換していました。
Nina@告知販促:
ずるい。
Sara@権利確認:
ずるいですね。
Yui@庶務・作業表:
非常にずるいです。
Miwa@物販:
すみません。
Kate@秘書・外部連絡:
謝ることではないと思います。
Nina@告知販促:
いえ、羨ましいだけです。
Sara@権利確認:
同じくです。
Yui@庶務・作業表:
同じくです。
wata@Technician:
あの時、BEEFがめっちゃ嫌そうな顔してたな。
EGUI@Straight Type:
でも断らなかった。
mcRC@Scene Maker:
「必要なら送れ」みたいな顔やった。
wata@Technician:
いや、実際には「用があるならな」って言ってた。
Miwa@物販:
言ってました。
Kate@秘書・外部連絡:
言っていました。
Nina@告知販促:
BEEFさんらしい。
Yui@庶務・作業表:
BEEFさん連絡先交換時発言。
「用があるならな」
記録しました。
mcRC@Scene Maker:
それは記録せんでええ。
Yui@庶務・作業表:
内部限定です。
Sara@権利確認:
内部でも、少し恥ずかしい記録ですね。
wata@Technician:
BEEFが見たら「消せ」って言うやつ。
EGUI@Straight Type:
言う。
mcRC@Scene Maker:
まあ、そういうことやから、今回は俺から直接連絡するわ。
Miwa@物販:
部長……。
Nina@告知販促:
水ですか?
Miwa@物販:
はい。
少し来ました。
Yui@庶務・作業表:
目から水、少量。
Miwa@物販:
記録しないでください。
Kate@秘書・外部連絡:
BEEFさんへの連絡文は、圧をかけない形が良いと思います。
Sara@権利確認:
はい。
参加を強制しているように見えないこと。
リバックライン歓迎会が主目的であること。
BEEFさんは任意参加であること。
この三点は必要です。
wata@Technician:
メール文みたいになってきた。
EGUI@Straight Type:
大事やろ。
mcRC@Scene Maker:
じゃあ、こうか。
少し間が空いた。
mcRCが、下書きのように文章を打った。
mcRC@Scene Maker:
リバックラインの歓迎会をすることになった。
場所はまだ決めてないけど、少し音のあるところにしようと思ってる。
来ても来なくてもいい。
ただ、来るなら歓迎する。
無理はせんでいい。
wata@Technician:
おお。
EGUI@Straight Type:
いいと思う。
Kate@秘書・外部連絡:
圧が少なくて良いです。
Nina@告知販促:
ちゃんと歓迎の意思もありますね。
Sara@権利確認:
問題ないと思います。
Yui@庶務・作業表:
BEEFさん連絡文案、承認。
Miwa@物販:
でも少しだけ、寂しいです。
mcRC@Scene Maker:
寂しい?
Miwa@物販:
来ても来なくてもいい、が正しいのは分かります。
でも、来てほしい気持ちも入れたいです。
グルチャが少し止まった。
Miwaは、少しだけ続けるのを迷ってから送った。
Miwa@物販:
圧はかけない。
でも、来てくれたら嬉しい。
それは伝えてもいい気がします。
Kate@秘書・外部連絡:
それは、たしかに。
Sara@権利確認:
任意参加と歓迎の気持ちは両立できます。
Nina@告知販促:
「来ても来なくてもいい。でも来てくれたら嬉しい」
素直でいいと思います。
Yui@庶務・作業表:
追記候補。
「来てくれたら嬉しい」
記録しました。
wata@Technician:
BEEFに「嬉しい」って送るんか。
EGUI@Straight Type:
嫌がりそう。
wata@Technician:
でも見るやろな。
mcRC@Scene Maker:
見てない顔で見る。
Miwa@物販:
見てない顔で見ますね。
Kate@秘書・外部連絡:
見ますね。
Sara@権利確認:
見ると思います。
Yui@庶務・作業表:
見てない顔で見る、全員一致。
mcRC@Scene Maker:
じゃあ、こう送る。
mcRCが、もう一度文面を打った。
mcRC@Scene Maker:
リバックラインの歓迎会をすることになった。
場所はまだ決めてないけど、少し音のあるところにしようと思ってる。
来ても来なくてもいい。
無理はせんでいい。
でも、来てくれたら嬉しい。
歓迎する。
wata@Technician:
これは部長。
mcRC@Scene Maker:
やめろ。
Miwa@物販:
部長……。
Nina@告知販促:
水ですか?
Miwa@物販:
はい。
これは水です。
Yui@庶務・作業表:
目から水、発生。
Miwa@物販:
記録しないでください。
EGUI@Straight Type:
送れ。
mcRC@Scene Maker:
送る。
数秒、誰も投稿しなかった。
グルチャの全員が、画面の向こうで同じものを見ているようだった。
mcRCがBEEFにメッセージを送る。
それだけのことだった。
でも、昨日までの流れを考えると、それはただの連絡ではなかった。
新川さんを通さずに、直接送る。
一本目でぶつかった相手。
二本目で探った相手。
三本目で音と言葉を返し合った相手。
「仲間だろ」と言われて否定しなかった相手。
ラーメン屋で「ササミを食え」と言った相手。
そして、ラーメンのあとに「用があるならな」と連絡先を渡した相手。
そのBEEFに、今度は歓迎会の連絡をする。
歓迎する、と言う。
それは、次の関係へ進むための、かなり小さくて、かなり大きい一手だった。
mcRC@Scene Maker:
送った。
wata@Technician:
お。
Nina@告知販促:
送った。
Miwa@物販:
送った……。
Sara@権利確認:
Miwa。
Miwa@物販:
まだ水は出ていません。
Yui@庶務・作業表:
待機状態。
Miwa@物販:
だから記録しないでください。
wata@Technician:
返事いつ来るかな。
EGUI@Straight Type:
読んでから、しばらく置くやろ。
mcRC@Scene Maker:
たぶんな。
Nina@告知販促:
見てない顔で見て、しばらく置く。
Kate@秘書・外部連絡:
返事を考えている顔も見てみたいですね。
Sara@権利確認:
Kate。
Kate@秘書・外部連絡:
すみません。少しファンモードでした。
Miwa@物販:
Kateがファンモード。
Yui@庶務・作業表:
Kateさん、ファンモード。
記録します。
Kate@秘書・外部連絡:
しなくていいです。
wata@Technician:
BEEF、既読は?
mcRC@Scene Maker:
まだ。
wata@Technician:
見てない顔で見てへんのか。
EGUI@Straight Type:
本当に見てない可能性もある。
wata@Technician:
それはそう。
数分が経った。
グルチャの流れは、止まっているようで止まっていなかった。
誰かがスタンプを送る。
誰かが消す。
誰かが「まだですか」と打って、送らずにやめる。
Yuiが何かを記録しようとして、Kateに止められる。
その間に、mcRCの画面の上で、小さく表示が変わった。
mcRC@Scene Maker:
既読ついた。
Miwa@物販:
あ。
Nina@告知販促:
来ましたね。
wata@Technician:
返事予想。
「何の歓迎だよ」
EGUI@Straight Type:
「行っても構わない」
Sara@権利確認:
「別に」
Kate@秘書・外部連絡:
「好きにしろ」もあり得ます。
Yui@庶務・作業表:
BEEFさん返答予想一覧。
・何の歓迎だよ
・行っても構わない
・別に
・好きにしろ
記録しました。
mcRC@Scene Maker:
もうやめろ。
本人から来た。
グルチャが止まった。
wata@Technician:
来た?
mcRC@Scene Maker:
来た。
Miwa@物販:
なんて。
mcRCが、BEEFからの返答を貼った。
BEEF:
何の歓迎だよ。
wata@Technician:
一個目!
EGUI@Straight Type:
当たった。
Yui@庶務・作業表:
予想的中。
記録しました。
mcRC@Scene Maker:
まだ続きある。
BEEF:
……まあ。
BEEF:
行っても構わない。
グルチャが、一瞬で爆発した。
wata@Technician:
言ったあああああ!
Nina@告知販促:
本当に言った!
Miwa@物販:
行っても構わない!
Yui@庶務・作業表:
BEEFさん返答予想、完全的中。
Sara@権利確認:
予想通りすぎます。
Kate@秘書・外部連絡:
かなり見えていましたね。
EGUI@Straight Type:
来るな。
wata@Technician:
来るやん。
mcRC@Scene Maker:
来るな。
Miwa@物販:
来るんですね……。
Nina@告知販促:
Miwa、水ですか?
Miwa@物販:
はい。
これは水です。
Yui@庶務・作業表:
目から水、発生。
Miwa@物販:
止まりません。
Sara@権利確認:
それは泣いています。
Miwa@物販:
いいえ。
BEEFさんが来ると決まったことにより、体内の水分が外部へ移動しているだけです。
wata@Technician:
言い方が理系。
EGUI@Straight Type:
体液移動。
mcRC@Scene Maker:
やめろ。
Kate@秘書・外部連絡:
mcRCさん、返信はどうしますか。
mcRC@Scene Maker:
そうやな。
wata@Technician:
「じゃあ来い」でええんちゃう?
EGUI@Straight Type:
雑。
wata@Technician:
仲間やろ。
EGUI@Straight Type:
それはそう。
mcRCは少しだけ考えた。
それから、短く打った。
mcRC@Scene Maker:
分かった。
じゃあ場所決まったら送る。
来るなら歓迎する。
送信。
すぐに、BEEFから返ってきた。
BEEF:
来るとは言ってねえ。
wata@Technician:
来るやつ!
Nina@告知販促:
来るやつです。
Miwa@物販:
来るやつですね。
Sara@権利確認:
来るとは言っていないが、行っても構わないとは言っています。
Yui@庶務・作業表:
BEEFさん参加状況。
正式確定:未
実質参加意向:高
記録しました。
mcRC@Scene Maker:
そのまとめやめろ。
EGUI@Straight Type:
正確やけどな。
wata@Technician:
返事返しとけ。
「はいはい」で。
mcRC@Scene Maker:
煽るな。
mcRCは少し笑って、BEEFに返した。
mcRC@Scene Maker:
はいはい。
来るとは言ってないな。
でも、席は空けとく。
BEEF:
勝手にしろ。
wata@Technician:
勝手にしろ来たあああ!
Nina@告知販促:
二個目!
Sara@権利確認:
好きにしろ系統ですね。
Yui@庶務・作業表:
予想語群「好きにしろ」に類似。
記録しました。
Miwa@物販:
BEEFさん、分かりやすすぎません?
Kate@秘書・外部連絡:
本人には言えません。
wata@Technician:
言ったら殺すぞ出る。
EGUI@Straight Type:
出る。
mcRC@Scene Maker:
でも、これで声はかけた。
来るかどうかはBEEF次第。
Kate@秘書・外部連絡:
はい。
圧をかけない。
でも席は空ける。
それで良いと思います。
Sara@権利確認:
外部には当然出しません。
Yui@庶務・作業表:
外部非公開。
内部共有。
Nina@告知販促:
でも、これで場所探しの前提は固まりましたね。
Kate@秘書・外部連絡:
はい。
BEEFさんが来る可能性が高いなら、クラブ寄りで探します。
ただし、会話可能なラウンジ寄り。
Miwa@物販:
歓迎会でクラブ。
すごいですね。
wata@Technician:
俺らわけぇな。
mcRC@Scene Maker:
また言う。
EGUI@Straight Type:
実際、若い。
wata@Technician:
俺らまだまだ若いわい。
Nina@告知販促:
その感じ、好きです。
Sara@権利確認:
ただし、帰宅導線は若さでごまかさないでください。
Yui@庶務・作業表:
終電確認、必須。
wata@Technician:
一気に現実。
mcRC@Scene Maker:
大事や。
Kate@秘書・外部連絡:
では、候補を三つほど出します。
音量、会話しやすさ、撮影可否、安全導線、混雑具合を見ます。
Yui@庶務・作業表:
日程候補も作ります。
Miwa@物販:
物販側の予定も出します。
Nina@告知販促:
告知スケジュールと被らないところを見ます。
Sara@権利確認:
場所の規約を確認します。
wata@Technician:
リバックライン、強すぎん?
EGUI@Straight Type:
強い。
mcRC@Scene Maker:
ほんまに助かる。
Miwa@物販:
部長……。
Nina@告知販促:
水ですか?
Miwa@物販:
はい。
もうこれは水です。
Yui@庶務・作業表:
水分補給も必要。
wata@Technician:
歓迎会当日、Miwaさんに水置いとかな。
Miwa@物販:
水分ください。
目から出るので。
EGUI@Straight Type:
だから逆。
Kate@秘書・外部連絡:
歓迎会の持ち物。
Miwa用の水。
Sara@権利確認:
それは権利的には問題ありません。
wata@Technician:
そこ見るんや。
Sara@権利確認:
役割です。
少しだけ、また笑いが流れた。
昨日のライブの重さは、まだ消えていなかった。
でも、重さだけではなかった。
次の予定が決まると、人は少し前を向く。
歓迎会。
リバックラインのための会。
でも、BEEFが来るかもしれない会。
音がある場所で、会話しなくても沈黙が責めにならない場所で、昨日までの全員が同じ空間にいる。
それは、ただの飲み会でも食事会でもなかった。
昨日のライブの続きだった。
伝えないと伝わらない。
でも、誘えば、来るかもしれない。
新川さんを挟まずに、直接言えるようになった。
来るとは言っていない。
行っても構わない。
勝手にしろ。
それだけで、十分だった。
mcRC@Scene Maker:
じゃあ、歓迎会は進めよう。
みんな、よろしく。
Miwa@物販:
mcRCさん。
mcRC@Scene Maker:
はい。
Miwa@物販:
今のは、敬語じゃないけど部長です。
mcRC@Scene Maker:
もうどうしたらええねん。
wata@Technician:
存在が部長。
EGUI@Straight Type:
逃げられないな。
Kate@秘書・外部連絡:
では、部長案件として進めます。
mcRC@Scene Maker:
Kateまで。
Nina@告知販促:
部長案件。
Sara@権利確認:
内部呼称です。
Yui@庶務・作業表:
部長案件、記録しました。
mcRC@Scene Maker:
記録するな。
Yui@庶務・作業表:
庶務なので。
最後に、wataが短く送った。
wata@Technician:
BEEF来たら、乾杯の一言言わせよ。
EGUI@Straight Type:
逃げるやろ。
mcRC@Scene Maker:
言わんやろ。
Miwa@物販:
音で乾杯してくれるかもしれません。
Nina@告知販促:
グラスじゃなくてスクラッチ。
Sara@権利確認:
店の設備次第です。
Yui@庶務・作業表:
設備確認項目に追加します。
wata@Technician:
ほんまに追加するんかい。
その夜、歓迎会の計画は少しだけ具体的になった。
まだ日付も場所も決まっていない。
でも、BEEFには声をかけた。
そして、BEEFはこう返した。
行っても構わない。
来るとは言っていない。
でも、たぶん来る。
その曖昧で不器用な返事が、共有グルチャの全員を妙に安心させていた。
またひとつ、音が近づいた気がした。




