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ラップ付き小説 ReversCrown 元気ないやつこっちおいで  作者: egubi
暴れ牛ビーフ編

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89/186

3-4-18 NO EASY PEACE



三本目のライブが始まる前から、客席には少しだけ張りつめた空気があった。


リバクルーがいる。

BEEF勢もいる。

前回の噂を聞いて来た初見客もいる。

スタッフが導線を見ている。

新川さんが後方で全体を確認している。


そして客席には、リバックラインから二人来ていた。


KateとMiwa。


表に出るためではない。

何かを動かすためでもない。


今日のリバクラとBEEFを、客席の中からちゃんと見るためだった。


一本目は荒れた。


音も、感情も、客席も、終演後も、全部が焦げるくらい熱くなった。


二本目は探った。


BEEFは見ようとしていた。

ただ、見方がまだ下手だった。

リバクラ三人も苛立った。

でも、前回とは違うとも感じた。


そして、三本目。


一曲目に持ってきたのは、あのあと作った曲だった。


荒れたライブ。

本屋で見つけた距離の詰め方。

駅ビルのベンチで出た短い謝罪。

飲み込んだ言葉。

音で返ってきた返事。


その全部を、綺麗に片づけずに曲にした。


一曲目。


NO EASY PEACE with DJ BEEF。


簡単な平和じゃない。

偽物の喧嘩でもない。


三回目のリバクラとBEEFの本気が、ここでぶつかる。


客電が落ちた。


ざわめきが沈む。


誰かの笑い声が途中で切れた。

紙コップの氷が、小さく鳴った。

前列の誰かが、床を踏み直した。


ステージはまだ暗い。


最初に光が当たったのは、DJブースだった。


BEEFの手元だけに、薄い白い光が落ちる。


黒いキャップの影。

フェーダーに置かれた指。

まだ鳴っていないスピーカー。


その前に、三本のマイク。


中央にmcRC。

右にwata。

左にEGUI。


三人は、まだ客席を煽らない。


「行くぞ」も言わない。

手拍子も求めない。

笑いにも逃がさない。


一曲目は、そういう始まり方ではなかった。


新川さんが後方で小さく合図を出す。


BEEFの指が動いた。


低音が、まだ音楽になる前の形で床へ沈んだ。


重い。


短い。


深い。


客席の足元に、見えない線が引かれる。


次の瞬間、BEEFが音を立ち上げた。


ここから、曲が始まった。


NO EASY PEACE。


三本目の箱の一曲目が、明確に始まった。


ステージの明かりが、三人の顔を順に切り出す。


mcRCが、一歩前へ出た。


マイクを上げる。


≫ 仲間?


その声だけが、箱に落ちた。


少し間。


≫ まだ決めるな


客席が静まる。


wataが横から入る。


≫ 敵?


EGUIが、低く続ける。


≫ それも早い


三人の声が、順番に箱の奥へ届いていく。


≫ どっち向いてるかなんて

≫ ぶつかるまで分からない


BEEFが、低音を少しだけ持ち上げた。


強すぎない。

でも、逃がさない。


客席の空気が、一段沈む。


ここからは、日常会話ではない。

リハでもない。

曲間でもない。


NO EASY PEACEが、三本目の箱に鳴り出した。


Hookに入る。


三人の声が重なる。


≫ No easy peace 馴れ合いじゃねぇ

≫ No fake beef 飾りじゃねぇ


客席が、すぐにざわっと反応した。


「ノーイージーピース……簡単な平和じゃねえってこと?」


「心地いい場所は、簡単に手に入らないって感じか?」


「いや、仲直りを簡単に済ますな、ってことじゃね?」


「じゃあNo fake beefは?」


「偽物の揉め方すんな、ってことだろ」


「BEEF、意味どっち!?」


「名前と、揉め事のbeef、両方じゃね?」


「うわ、うまいけど腹立つやつだ」


そこまで拾ったBEEF勢の一人が、腕を組んだまま笑った。


「これ、BEEFのことか」


隣の男が首を振る。


「だけじゃない。リバクラも入ってる」


「全員じゃん」


「全員だな」


歌は進む。


≫ 本音と本気が 火花になって

≫ 子どもみたいに 声を荒げた


そのラインで、客席の温度が少し変わった。


ただの煽りではない。


ただの和解ソングでもない。


リバクラが、自分たちの未熟さまでステージに乗せている。


それが伝わった。


「子どもみたいに、って自分で言うのかよ」


「そこ言うの、逆に強いな」


「かっこつけてない」


「前回なんかあったんだろうな」


「でも、隠してない感じする」


Kateは壁際で、その反応を見ていた。


客席は置いていかれていない。


細かい事情は知らない。

でも、曲が何をしようとしているかは感じている。


Miwaも、前方寄りの端で客の顔を見ていた。


怖がっている人はいない。


むしろ、少し前に来ている。


声を出す準備をしている。


mcRCのバースに入る。


≫ 本番前のフロア 低音が鳴る

≫ 袖の奥で 予定表を握る


BEEFが短いTape Stopを入れた。


音が一瞬、歪んで止まる。


予定が切れる。


その感じが、箱の空気に走った。


客席が、一瞬だけ息を止める。


「あ、止めた」


「これ、前回のやつ?」


「予定が切れた感じか」


「音で言ってるじゃん」


mcRCはそこに声を置く。


≫ まだそこじゃない

≫ 今じゃない


客席の前の方で、誰かが小さく頷いた。


「順番があったんだな」


「言葉の置き方、守りたかったんじゃね?」


「そこ壊されたのか」


「でも、今それを曲にしてる」


BEEFが、そこで低音をわずかに深くする。


mcRCの声が沈まず、前へ出る。


≫ 優しくない

≫ 説明もしない

≫ けど嘘の音は鳴らさない


BEEF勢から短い声が上がった。


「うわ、言った」


「嘘の音は鳴らさない」


「BEEF評としてキツいけど、褒めてるな」


「褒めてるのに腹立つやつ」


リバクルー側も反応する。


「mcRC、怒ってるのに見てる」


「見捨ててない感じする」


「それがリバクラっぽい」


Kateは、mcRCの目線を見た。


客席を見ている。

BEEFだけを見ていない。

でも、BEEFを外してもいない。


怒りを客席へぶつけていない。


景色として、ちゃんと置いている。


Kateは小さく息を吐いた。


一本目とは違う。


熱はある。


でも、焦がしていない。


Hookが戻る。


≫ No easy peace 馴れ合いじゃねぇ

≫ No fake beef 飾りじゃねぇ


今度は、客席の何人かが言葉を返した。


完璧な合唱ではない。


でも、ところどころで声が返る。


「No easy peace!」


「No fake beef!」


BEEF勢も混ざった。


リバクルーも混ざった。


初見客も、口の形だけで追っている。


「これ、言いやすいな」


「意味分かってくると気持ちいい」


「簡単じゃねえけど、偽物じゃねえってことか」


「うん、たぶんそれ」


BEEFはDJブースでその声を聞いていた。


自分の名前が入っている。


でも、ただの名前呼びではない。


beefとしてのBEEF。

衝突としてのBEEF。


それが客席に少しずつ伝わっている。


腹立つ。


でも、使える。


BEEFはクラップを少しだけ強めた。


wataが前へ出た。


≫ 終電前の窓に 顔が映る

≫ イヤホンの中 録音が戻る


BEEFが後ろでShort Silenceを作った。


本当に短い。


息が詰まる。


wataは、その沈黙へ滑り込んだ。


≫ さっきの声 さっきの間

≫ 何度も巻き戻して また止まる


客席が沈む。


「今の間、やば」


「wataの入り方も変えた?」


「BEEFが空けて、wataが受けた」


「前回は壊された感じだったけど、今日は受けてる」


BEEF勢の一人が笑った。


「BEEFが仕掛けた」


隣がすぐ返す。


「wataが返した」


「それが見えるのいいな」


wataはさらに畳みかける。


≫ peaceで包んで pieceが欠ける

≫ briefな言葉じゃ 火種は消えず

≫ beatが止まって breathが詰まる

≫ 胸の奥だけ まだ鳴ってる


「うわ、peace、piece、brief、beat、breath」


「英語の意味全部分からんでも音が気持ちいい」


「いや、peaceで包んでもpieceが欠けるってことだろ」


「平和っぽくしても、欠片が欠けるみたいな?」


「うま」


BEEFが、クラップを少しだけ遅らせる。


wataの足元を引っかける。


受けろ。


BEEFの音がそう言っている。


wataは受けた。


母音を少し詰める。

言葉を半拍だけ引く。

次で前へ出る。


客席が「お」と反応した。


「今の!」


「わざとズラした?」


「BEEFが?」


「wataが拾った!」


「これ、バトルじゃないのにバトルみたい」


wataはVerseの中で、さらに踏み込む。


≫ 俺は詰めた

≫ 韻も踏んだ

≫ 母音も寄せた

≫ フロウも組んだ


その言葉は、wata自身の武器を並べるようだった。


韻。

母音。

フロウ。

組み立て。


いつものwataなら、そこからさらに走る。


客席も、それを待っていた。


だが、次の瞬間。


音が消えた。


低音も、クラップも、余韻も。


全部が引いた。


箱の中に、wataの声だけが残った。


≫ なんでだよ


その一言は、ラップというより、裸の声だった。


韻でもない。

言葉遊びでもない。

技術の見せ場でもない。


wataが、wataのまま、逃げ道を失った音だった。


客席が止まった。


誰かが息を飲んだ。


「今、音消えた?」


「声だけ……?」


「wata、今のやばくない?」


「いつものテクじゃない」


「なんでだよ、って……そのままじゃん」


「ストレートタイプみたいになった」


「EGUIの場所みたいな声だった」


「いや、wataがそれ言うから刺さるんだろ」


「テクニシャンが、全部脱いだ」


「今の一言、いちばん残るかもしれん」


Miwaは思わず口元に手を当てた。


wataが、いつものwataではなくなったように見えた。


いや、違う。


いつものwataが、武器を外した。


そう見えた。


Kateも、その一瞬だけ客席の反応を見るのを忘れた。


wataの声が、箱の真ん中に落ちていた。


音がないから、逃げ場がない。


誰もノれない。


誰も笑えない。


ただ、聴くしかない。


BEEFは、その瞬間、何もしなかった。


音を足さない。

スクラッチもしない。

クラップも戻さない。


wataの「なんでだよ」を、剥き出しのまま置いた。


それが、一番残酷で、一番正しかった。


wataは、その無音のあとを、自分で受けた。


≫ そこは俺の見せ場だろ

≫ そこは走らせる場所だろ

≫ そう思ったはずなのに

≫ 客の声はそこで増えてる


客席が、ようやく少しだけ息を戻した。


「悔しいって言ってる」


「でも、認めてる」


「自分の見せ場より、客が動いた方を認めてる」


「wataがそれ言うの強い」


「さっきの“なんでだよ”からのこれ、えぐい」


「テクニシャンが負けを認めたんじゃなくて、次の武器を見つけた感じする」


wataは続ける。


≫ めんどくさい鏡だ

≫ 見たくない弱点を

≫ 音で返してくる


BEEF勢の一人が、ゆっくり頷いた。


「それ、BEEFだわ」


隣が返す。


「鏡みたいなDJって最悪だな」


「でも、必要なやつ」


wataの声は、少しずつフロウを取り戻していく。


≫ 技術があるほど

≫ 隠せるものがある

≫ 隠したつもりの薄さまで

≫ 耳元で剥がされる


客席の熱が、また違う方向へ上がる。


煽られて上がる熱ではない。


見せられて上がる熱。


自分の弱さを、誰かが先に晒した時の熱だった。


≫ だるい

≫ 痛い

≫ でも残る


その三つの短い言葉に、何人かが小さく声を漏らした。


「分かる」


「痛いけど残る、分かる」


「これ、BEEFだけじゃなくて全員に言ってる」


「リバクラって、こういうところ逃げないんだな」


wataは、最後に低く落とす。


≫ 本気で本音を出すって

≫ たぶん綺麗な会話じゃない


≫ 声が荒れて

≫ 顔が歪んで

≫ あとで恥ずかしくなるくらいが

≫ 本物なんだろ


その瞬間、さっきの「なんでだよ」が、客席の中で遅れて効き始めた。


綺麗ではない。


かっこよくもない。


でも、本物だった。


Miwaは、客席を見た。


笑っていた人も、そこでは黙っていた。


ちゃんと聴いている。


言葉遊びだけで終わっていない。


wataの悔しさが、客席に届いていた。


Hookが戻る。


≫ No easy peace 馴れ合いじゃねぇ

≫ No fake beef 飾りじゃねぇ


今度は、返す声が少し増えた。


「No easy peace!」


「No fake beef!」


「BEEF意味どっち!?」


誰かが冗談っぽく叫んだ。


すぐ近くの客が笑って返す。


「両方だろ!」


「名前も喧嘩も!」


「研鑽にいるやつ!」


「腹立つやつ!」


BEEFは顔をしかめた。


聞こえている。


かなり聞こえている。


客席が笑う。


BEEF勢も笑う。

リバクルーも笑う。


でも、曲の熱は落ちない。


笑いが、むしろ熱を逃がさずに回している。


Kateはそこを見て、小さく頷いた。


笑いに逃げているのではない。


笑いで受けられる形にしている。


EGUIが前へ出た。


≫ 搬出口の外

≫ 自販機の白い光


BEEFは低音を残した。


引きすぎない。


支えだけを残す。


客席が静かになる。


「ここ、EGUIの声いいな」


「急に景色が変わる」


「ステージじゃなくて終わった後の場所か」


EGUIは続ける。


≫ 誰も拍手してない

≫ 誰も煽ってない

≫ 残ってるのは

≫ 汗とケーブルと夜風だけ


BEEF勢の一人が、少しだけ真顔になった。


「これ、分かるわ」


「搬出の空気?」


「ライブ終わった後の変な静けさな」


「BEEFもそこ分かるだろうな」


EGUIは言葉を置く。


≫ あいつにも

≫ 守りたいものがあった


客席が、そこで少しだけ揺れた。


「“あいつ”ってBEEFか」


「でも名前言わないのいいな」


「守りたいものが違ったのか」


「リバクラは言葉の届き方で、BEEFはその場の熱?」


「たぶんそう」


完全な解説ではない。


でも、客席の中で少しずつ線がつながっていく。


EGUIが続ける。


≫ 俺らは

≫ 言葉の届き方を守ろうとしていた


≫ あいつは

≫ その瞬間の熱を逃がさないようにしていた


そのラインで、ざわめきが一度消えた。


誰かが小さく息を吸った。


「それ、どっちも分かるな」


「だから揉めたんか」


「どっちかが悪いだけじゃないのキツいな」


「だからNo easy peaceか」


「簡単じゃないってことか」


Miwaは、胸の前で手を握っている女性を見た。


怖がってはいない。


でも、軽く聞いてもいない。


ちゃんと受け取ろうとしている顔だった。


EGUIはまっすぐ落とす。


≫ 簡単に分かった顔をするな

≫ 簡単に丸く収めるな

≫ 簡単に綺麗な話にするな


箱が一瞬、静まり返った。


静かだ。


だが、熱い。


「それ、こっちにも言われてる気がする」


「分かった気になんなってことだよな」


「綺麗にしないのが逆にいい」


「この曲、痛いな」


「でも逃げてない」


BEEFはそこに何も足さなかった。


足さないことが、正解だった。


言葉だけが落ちる。


そこからしか、横には並べない。


そのラインで、客席の熱が一段深くなった。


Bridgeで、BEEFが前に出た。


MPC Chop。


三人の声の断片が、短く刻まれる。


予定。

沈黙。

白い光。

本音。

BEEF。

No easy peace。


切る。


戻す。


切る。


戻す。


客席が一気に上がる。


「来た!」


「BEEF来た!」


「これこれ!」


「でも前みたいに飲み込んでない!」


「見てる!」


「三人も受けてる!」


mcRCが入る。


≫ きれいな協力者だけじゃ

≫ 角は出ない


wataが続く。


≫ 痛い指摘なしじゃ

≫ フロウは変わらない


EGUIが意味を置く。


≫ 嫌な相手ほど

≫ 逃げ道を塞ぐ


三人の声が重なった。


≫ 腹立つ成長装置

≫ でも残った音は本物だった


そのラインで、客席が湧いた。


BEEF勢が笑い混じりに叫ぶ。


「腹立つ成長装置!」


「それBEEFじゃん!」


「BEEF、聞いてる!?」


「聞こえてるだろ!」


リバクルーも笑う。


「でも分かる!」


「腹立つけど成長したやつ!」


「最悪だけど必要なやつ!」


BEEFは、ほんの少し顔をしかめた。


腹立つ成長装置。


やっぱり腹立つ。


だが、そのラインで客席が動いた。


動いたなら、使う。


BEEFはさらに短くChopを入れた。


やりすぎない。


でも、少し意地悪く。


wataがそれを受けて、少しだけ笑う。


「来たな」


マイクには乗らない口の動き。


客席の前の方がそれを見て、また湧いた。


「wata笑った!」


「やり合ってる!」


「これ喧嘩じゃなくて、もうセッションじゃん!」


「いや、まだ喧嘩成分ある」


「それがいい」


BEEFは、次のScratch Transitionへ入る。


空気が切り替わる。


Final Hookへ。


Beat Drop。


箱全体が揺れた。


≫ No easy peace 馴れ合いじゃねぇ

≫ No fake beef 飾りじゃねぇ


今度は、客席の声もはっきり混ざった。


No easy peace。


No fake beef。


言葉の意味を全部知っているわけではない。


でも、もう身体が覚えている。


簡単には済ませない。

偽物では終わらせない。


≫ 本音と本気が 火花になって

≫ 子どもみたいに 声を荒げた


客席の熱が上がる。


BEEFは、低音を支える。


三人が前に出る。


≫ Say it raw

≫ Say it loud

≫ 分かったフリじゃ 届かないだろ


≫ 研鑽には BEEF

≫ 痛ぇけど need

≫ 傷の熱から 鳴り出す lead


BEEF勢が叫ぶ。


「研鑽にはBEEF!」


「BEEF、意味どっち!」


「両方!」


「痛ぇけどneed!」


「ムカつくけど分かる!」


リバクルーも声を返す。


「No easy peace!」


「No fake beef!」


「逃げんな!」


「横に来い!」


Kateは壁際で、客席全体を見た。


これは、もう置いていかれていない。


客席が、曲の意味を自分たちの言葉で拾い始めている。


誰かが完全に説明しているわけではない。


でも、それぞれの場所で受け取っている。


それがライブだった。


BEEFは、Final Hookの最後を支えた。


≫ No easy peace これで終わりじゃない

≫ No fake beef まだ鳴り止まない


≫ 怒鳴った声も 飲み込んだ間も

≫ 全部まとめて 次のライブへ


最後のライン。


≫ Say it raw

≫ Say it loud

≫ 綺麗な言葉で 逃げるなよ


≫ 研鑽には BEEF

≫ 痛ぇけど need

≫ ぶつけた先で 道になる beat


そして、曲が終わる刹那。


BEEFは、業務連絡どおり、すぐ次へは繋げなかった。


wataが一歩前に出た。


wataは、マイクを口元へ上げた。


短く。


本当に短く。


≫ 悪かったよ、、、


アウトロを歌い上げた。


一瞬。


箱が止まった。


客席は意味を完全には分からない。


でも、何かが置かれたことは分かった。


それだけは分かった。


mcRCは、BEEFを見た。


EGUIも見た。


BEEFは、一瞬固まっていた。


そのあと、顔を背けた。


耳が赤い。


照明のせいではなかった。


wataは、それを見た。


言いたい。


言いたい。


可愛いかよ。


でも、マイクには乗せない。


ここで言ったら、さすがに台無しになる。


wataは口元だけで笑った。


客席が、少し遅れてざわついた。


「え、今の何?」


「悪かったよ、って歌った?」


「誰に?」


「wataが?」


「BEEFに? それともBEEFの言葉?」


「BEEF顔赤くね?」


「赤い!」


「何があったか知らんけど、今のめっちゃよかった」


「謝罪を返したのか?」


「分からん。でも刺さった」


「BEEF、食らってる」


Kateは壁際で、目を細めていた。


あの一言が何なのか、全部は分からない。


でも、BEEFに届いたことは分かった。


Miwaも、客席の反応を見ていた。


怖がっていない。


笑っている。


でも、茶化しているだけではない。


ちゃんと、何かが返されたと受け取っている。


BEEFは、そのざわつきを聞いていた。


全部聞こえる。


やめろ。

騒ぐな。

見るな。

赤くねえ。


そう言いたい。


でもマイクはない。


言える相手もない。


だから、音を出す。


BEEFは、フェーダーに置いた指を少しだけ動かした。


短いスクラッチが、箱の端を切った。


三人が同時に反応する。


wataの笑いが止まる。


mcRCの目が客席からDJブースへ移る。


EGUIが、少しだけ姿勢を変える。


BEEFは何も言わない。


ただ、音で返した。


wataはマイクを握ったまま、小さく呟いた。


「……やりやがったな」


マイクには乗らない。


けれど、三人には聞こえた。


mcRCが、ほんの少し笑う。


EGUIも、低く息を吐く。


BEEFの指が、次の音を探っている。


予定表にはない動きだった。


三人の足元に、一瞬だけ火花が散った。


まだ、次の曲名は言われていない。


客席も、何が始まるのか分からない。


ただ、BEEFが何かを仕掛けたことだけは分かった。


そして、リバクラ三人も分かっていた。


これは怒りではない。


前回のような破壊でもない。


これは、仕返しだ。


やりやがったな、BEEF。


だったら。


受けるしかない。


mcRCは、マイクを握り直した。


wataは、口元に笑いを残したまま息を吸った。


EGUIは、客席をまっすぐ見た。


BEEFのスクラッチが、もう一度短く鳴った。


箱の温度が、一段上がる。


ここから先は、予定通りではない。


だからこそ、ライブだった。

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