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ラップ付き小説 ReversCrown 元気ないやつこっちおいで  作者: egubi
暴れ牛ビーフ編

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3-4-16 オーダー入りまーす

BEEFは、明らかに帰るタイミングを失っていた。


駅ビルの休憩スペース。


丸いテーブル。

背もたれのないベンチ。

自販機。

観葉植物。

買い物袋を持った人。

スマホを見ながら通り過ぎる学生。

ベビーカーを押す親子。

コーヒーショップの匂い。


そんな、ものすごく普通の場所で。


BEEFは、三人の前に座っていた。


しかも、さっき謝った。


悪かった。


言った。


言ってしまった。


それだけでもう、かなりまずい。


そこへ、さらにwataが言った。


「これ、曲になるな」


BEEFは、心の中で思った。


なるな。


なるな。


絶対になるな。


だが、三人の顔はもう変わっていた。


さっきまでの「探り探り話している顔」ではない。


あれは、曲が見えた時の顔だ。


BEEFにも、それくらいは分かる。


mcRCは少し遠くを見ている。

たぶん、景色を探している。

さっきの本屋。

駅ビル。

距離の詰め方。

変なベンチ。

不自然な沈黙。

その全部を、もう曲の入口にしようとしている。


wataはスマホを持っている。

速い。

もうメモを打っている。

あいつは言葉が出る時だけ、指の動きがやけに軽い。


EGUIは黙っている。

でも、黙っている時ほど厄介だ。

言葉の芯を見ている。

何を言うべきか、何を言ってはいけないか、勝手に線を引いている。


BEEFは、低く言った。


「やらねえぞ」


wataは、顔を上げた。


「まだ何も頼んでないです」


「頼む顔してる」


mcRCが普通に頷いた。


「してますね」


EGUIも続ける。


「してます」


BEEFは三人を見た。


「そこは否定しろ」


wataがスマホを胸の前で持ったまま言う。


「いや、嘘はよくないんで」


「急に誠実になるな」


mcRCが少し笑う。


「BEEFさん、今のツッコミ早かったですね」


「分析すんな」


EGUIが静かに言う。


「反応速度は高い」


「評価すんな」


wataが頷く。


「やっぱMCもいけるんちゃいます?」


BEEFは即座に睨んだ。


「やらねえ」


mcRCが手を上げる。


「そこは大丈夫です。BEEFさんはDJです」


EGUIも頷く。


「歌わせません」


wataも真面目な顔で言う。


「そこはルールです」


BEEFは一瞬だけ黙った。


それから言った。


「そこだけは分かってんの腹立つな」


wataが笑った。


「褒められた?」


「褒めてねえ」


「照れ隠し?」


「殺すぞ」


mcRCがすぐに言う。


「距離の詰め方、また一章からです」


EGUIが続ける。


「謝罪後の殺意、二回目です」


wataが本屋の袋を叩いた。


「再履修ですね」


BEEFは、ほんの少しだけ顔を伏せた。


笑ってはいない。


たぶん。


でも、前より怒っている感じではなかった。


―― wata ――


wataは、スマホのメモを見た。


もう、いくつかの言葉が並んでいる。


No easy peace

No fake beef

本音と本気

火花

分かったフリじゃ届かない

研鑽にはBEEF


自分で打って、自分で少し笑う。


研鑽にはBEEF。


言葉としては、かなりいい。


痛い。

腹立つ。

でも必要。


今のBEEFそのものだった。


ただ、これを本人の前で言うと確実に面倒になる。


だから、まだ黙っておく。


いや、もうかなり言っている。


wataは、BEEFを見た。


「一応、確認なんですけど」


BEEFは警戒した顔で見る。


「何だよ」


「BEEFさん、リバクラのオーダー文化って知ってます?」


BEEFは、少しだけ間を置いた。


「知ってる」


「ですよね」


「コメント拾って曲にするやつだろ」


mcRCが補足する。


「コメントだけじゃないですけどね」


EGUIが言う。


「人の声、状況、出来事、違和感。曲にできるものは拾います」


BEEFは嫌そうな顔をする。


「今まさに拾われてるってことか」


wataは満面の笑みで言った。


「はい」


「やめろ」


「止まりません」


「止めろ」


「無理です」


BEEFは、深く息を吐いた。


「最悪だな」


wataは真顔で頷いた。


「最高です」


「お前、話通じねえな」


「よく言われます」


EGUIが横から言う。


「主に俺らに」


mcRCが頷く。


「かなり」


wataが二人を見る。


「今それいる?」


EGUIは普通に返す。


「観察」


mcRCも続ける。


「傾聴」


wataは一瞬止まり、BEEFを見る。


BEEFも、少しだけ眉を寄せた。


wataはスマホを閉じた。


「……あ、これやな」


mcRCが見る。


「何が」


wataは、ゆっくり言う。


「今回の曲、気をつけるポイント」


BEEFが嫌そうに言う。


「勝手にポイント作るな」


wataは無視する。


「観察と傾聴」


EGUIが頷く。


「よく見る。耳を傾ける」


mcRCが言う。


「分かったフリをしない」


wataが続ける。


「でも、見すぎない」


EGUIが補足する。


「聞きすぎて黙らせない」


mcRCが頷く。


「踏み込む前に、相手の反応を見る」


wataが、BEEFを見る。


「つまり、BEEFさん向け教材です」


BEEFが低く言った。


「お前も受けろ」


wataは止まった。


mcRCが小さく笑う。


EGUIが頷く。


「それはそう」


wataは胸に手を当てた。


「急にこっちに返ってくるやん」


BEEFは、少しだけ勝ったような顔をした。


「お前、茶化して逃げるだろ」


wataの顔が固まる。


mcRCが「お」と小さく言う。


EGUIも少し目を細める。


wataはBEEFを見た。


「……今の、観察?」


BEEFは顔を逸らす。


「知らねえ」


wataが少し笑った。


「いや、当たってるから腹立つ」


BEEFは短く返す。


「だろ」


「腹立つなぁ」


でも、wataの声に本気の怒りはなかった。


むしろ、少し嬉しそうですらあった。


BEEFが見た。


そして言った。


それは確かに、少しだけ変化だった。


―― mcRC ――


mcRCは、そのやり取りを見ながら、心の中で少しだけメモを取っていた。


観察。


傾聴。


この二つを、説教にしたら終わる。


BEEFに向かって、


「人を見ましょう」

「話を聞きましょう」

「相手の気持ちを大切にしましょう」


なんて歌ったら、たぶん曲は死ぬ。


BEEFも死ぬ。


いや、逃げる。


だから、歌にするなら違う。


観察は、ライブ中の目線で見せる。


傾聴は、音の引き方で見せる。


そして、失敗も入れる。


見すぎた。

引きすぎた。

聞こうとして、逆に手を離した。

距離を詰めようとして、踏み込みすぎた。


それを笑える形にしつつ、芯は残す。


mcRCは、ゆっくり口を開いた。


「BEEFさん」


「あ?」


「この曲、BEEFさんを丸くする曲にはしません」


BEEFの目が少し動いた。


mcRCは続ける。


「それをやったら、BEEFさんを呼んだ意味がないので」


BEEFは黙る。


「でも、前回みたいに人を見ないまま壊す曲にもしません」


wataが頷く。


EGUIも頷く。


mcRCは言った。


「本気でぶつかった後に、何を見るかの曲です」


BEEFは、しばらく黙っていた。


それから、短く言った。


「……綺麗に言うなって言っただろ」


mcRCは止まった。


またやったか。


そう思った。


でも、今度はすぐ謝らない。


謝ったら、また「すぐ謝るな」と言われる。


mcRCは、少し考えてから言い直した。


「じゃあ、言い方変えます」


BEEFが見る。


mcRCは、少しだけ雑に言った。


「腹立った。でも、音は残った」


BEEFは黙る。


mcRCは続ける。


「許してない。でも、次はある」


wataが静かに笑った。


EGUIが頷く。


mcRCは、BEEFを見た。


「だから曲になります」


BEEFは、数秒黙った。


そして、低く言った。


「……最初からそう言え」


wataが指を鳴らした。


「採用」


mcRCが少し笑う。


「採用ですね」


EGUIが言う。


「かなり近い」


BEEFは顔をしかめた。


「何で俺が添削してんだよ」


wataが即答する。


「参加してるからです」


「してねえ」


「してます」


「してねえ」


「今しました」


BEEFは、心底嫌そうな顔をした。


「お前、ほんと嫌なタイプだな」


wataは胸を張る。


「ありがとうございます」


「褒めてねえ」


「でも受け取ります」


EGUIが静かに言う。


「傾聴の失敗例」


wataがEGUIを見る。


「俺?」


「うん」


「今の俺?」


「うん」


mcRCが笑いをこらえる。


BEEFが少しだけ鼻で笑う。


wataは二人と一人を見て、悔しそうに言った。


「なんか今日、俺が教材にされてない?」


EGUIが言う。


「教材は全員」


mcRCが頷く。


「俺もすぐまとめる教材」


BEEFが小さく言う。


「俺は?」


wataが即答する。


「距離感バグ教材」


BEEFが睨む。


「殺すぞ」


EGUIが言う。


「三回目」


mcRCが本屋の袋を見る。


「再々履修ですね」


BEEFは立ち上がりかけた。


「帰る」


wataが慌てる。


「待って待って、まだオーダー処理中!」


「知るか」


「受付番号発行されてます!」


「勝手に発行するな」


「キャンセル不可です!」


「悪徳業者か」


mcRCがとうとう笑った。


EGUIも、少しだけ顔を背けて笑った。


BEEFは、三人を見て、ものすごく嫌そうな顔をした。


でも、座り直した。


その時点で、たぶん負けだった。


―― EGUI ――


EGUIは、笑いながらも、曲の線を考えていた。


笑いは必要だ。


この会話に笑いがなければ、たぶんBEEFは閉じる。


三人も重くなりすぎる。


謝罪。

怒り。

未熟さ。

観察。

傾聴。


そのまま並べれば、自己啓発のセミナーになる。


それは違う。


リバクラの曲にするなら、現場が必要だ。


言い合いが必要だ。


恥ずかしさが必要だ。


「悪かった」と言ったBEEFの耳が赤くなる場面。

それを見て、wataが「可愛いかよ」と言う場面。

BEEFが「殺すぞ」と返す場面。

距離の詰め方の本を、結局みんなで買う場面。


そこに、曲の体温がある。


EGUIは言った。


「曲の中で、BEEFさんを直接説明しすぎない方がいい」


wataが頷く。


「名前は出しすぎない」


mcRCが言う。


「でも、with DJ BEEFではある」


BEEFが即座に反応する。


「おい」


wataが、何でもない顔で言う。


「タイトルです」


「いつ決まった」


「今」


「俺の許可は」


「あとで」


「順番」


EGUIは淡々と続けた。


「BEEFさんは歌わない。ラッパーにもならない。DJとして参加」


BEEFは、そこだけは少し真面目な顔で頷いた。


「そこはそうだろ」


mcRCも頷く。


「そこは守ります」


wataがスマホに打つ。


「DJ BEEF:ライブDJテクスチャ。声ではなく、音で参加」


BEEFは少しだけ眉を動かした。


「テクスチャって言い方、何か腹立つな」


wataが顔を上げる。


「じゃあ、何がいいですか」


BEEFは少し考えた。


「……再構築」


三人が止まる。


BEEFは、少しだけ気まずそうに顔を逸らす。


「壊して、組み直す。そういう音だろ」


mcRCが静かに言う。


「REBUILD」


EGUIが頷く。


「それは強い」


wataがスマホに打つ。


「DJ BEEF:Rebuild texture」


BEEFがすぐ言う。


「英語にするな」


wataが止まる。


「じゃあ、再構築担当」


「それでいい」


mcRCが笑う。


「自分の肩書きに厳しいですね」


BEEFは低く言う。


「変な名前つけられたくねえ」


wataが言う。


「リバクラ、すぐ名前つけるからな」


EGUIが頷く。


「文化になる」


BEEFは本気で嫌そうだった。


「ほんと最悪だな」


でも、その声に少しだけ慣れが混ざっていた。


怒りではなく、呆れ。


呆れながらも、逃げない。


EGUIは、それを見て少しだけ思った。


この人は、会話を拒否しているわけではない。


下手なだけだ。


ただし、その「下手」を免罪符にはしない。


下手なら、学ぶ。


見て、聞く。


そして、伝える。


そこまでしないと、また同じことになる。


EGUIは、静かに言った。


「曲で気をつけることは、三つにしましょう」


wataがスマホを構える。


「はい先生」


EGUIは無視した。


「一つ目。BEEFさんを悪役にしない」


mcRCが頷く。


「うん」


「二つ目。リバクラを正義にしない」


wataが少し顔をしかめる。


「それ大事やな」


「三つ目。綺麗な和解にしない」


BEEFが、少しだけ見る。


EGUIは続けた。


「簡単には片づかない。でも、次に行く」


mcRCが小さく言う。


「No easy peace」


wataが続ける。


「No fake beef」


BEEFは黙っていた。


その言葉が、少しだけ自分の中にも入ってくるのが分かった。


簡単な平和じゃない。


偽物の喧嘩でもない。


それなら、少しは分かる。


BEEFは、低く言った。


「……俺を美談にするな」


mcRCが頷く。


「しません」


wataも言う。


「美談にしたら、BEEFさんじゃなくなる」


EGUIが続ける。


「痛いまま残します」


BEEFは、少しだけ目を細めた。


「なら、まだマシだな」


wataが即座に言う。


「参加承諾いただきました」


BEEFが鋭く見る。


「してねえ」


「まだマシ、いただきました」


「契約書みたいに言うな」


mcRCが笑う。


「口頭承認」


EGUIが静かに言う。


「録音はしていません」


BEEFは、三人を見た。


「お前ら、うるせえな」


wataが笑って言う。


「それはそう」


そこは、全員が認めた。


―― オーダー処理 ――


駅ビルの休憩スペースで、四人はしばらく曲の話を続けた。


ただし、曲作りというより、ほとんど口喧嘩だった。


wataが言う。


「Hookは分かりやすくしたいですね」


BEEFが言う。


「分かりやすくするとダサくなるだろ」


wataが反論する。


「分かりやすいとダサいは違います」


BEEFが返す。


「説明しすぎるとダサい」


EGUIが入る。


「そこは同意」


wataがEGUIを見る。


「味方して」


「事実」


mcRCが言う。


「看板ワードは残す。説明はVerseでやる」


wataが頷く。


「No easy peace、No fake beef」


BEEFが顔をしかめる。


「fake beefって何だよ」


wataが言う。


「飾りの喧嘩」


EGUIが補足する。


「演出だけの対立ではない、という意味」


BEEFは少しだけ考える。


「……まあ、そこは分かる」


wataがすぐ反応する。


「いただきました」


「うるせえ」


mcRCが言う。


「Bridgeは三人の視点を合わせたい」


BEEFが警戒する。


「視点」


mcRCは指を折る。


「俺は現場の景色。予定が崩れたフロア」


wataが続ける。


「俺は録音。あとから聴き返して腹立つ感じ」


EGUIが言う。


「俺は搬出口。終演後の距離」


BEEFは、少しだけ目を細める。


「搬出口?」


EGUIが頷く。


「ライブが終わって、誰も拍手してない場所です」


BEEFは黙った。


その景色は、分かる。


ステージではない。

客席でもない。

撤収の音がする場所。

スタッフの声。

ケースを転がす音。

汗が冷えていく感じ。


BEEFには、かなり分かる景色だった。


「……そこはいい」


EGUIが頷く。


「ありがとうございます」


BEEFはすぐ言う。


「褒めてねえ」


wataが小さく言う。


「でも受け取ります」


BEEFが睨む。


「お前は受け取るな」


mcRCが笑いながら、スマホにメモする。


「BEEFさん、実は結構曲の芯には反応してますよね」


BEEFは無言で睨む。


「分析すんなって」


「今のは観察です」


EGUIが訂正する。


「観察結果の共有」


BEEFは深く息を吐いた。


「お前ら、覚えた言葉をすぐ使うな」


wataが言う。


「よく見る、耳を傾ける」


BEEFが返す。


「そして黙れ」


mcRCが笑う。


EGUIも少し笑った。


wataは胸に手を当てる。


「傾聴の結果、黙れと言われました」


EGUIが言う。


「受信確認」


BEEFはもう、怒るのも面倒くさそうだった。


それでも、帰らない。


帰らないまま、時々ぽつりと意見を出す。


「そこは長い」


「その言い方は綺麗すぎる」


「痛いけどneedは、ちょっと腹立つけど残る」


「研鑽にはBEEFは、言い方がムカつく」


「でも、意味は分かる」


wataは全部メモした。


mcRCも景色をメモする。


EGUIは、言っていい言葉と言わない方がいい言葉を分けていく。


四人は、まだぎこちない。


でも、曲は少しずつ形になり始めていた。


―― リバクラボラトリー ――


その日の夜。


三人は、リバクラボラトリーに戻った。


BEEFとは駅ビルで別れた。


別れ際、BEEFは最後まで「やらねえぞ」と言っていた。


言っていたのに、最後にwataが、


「できたら送るんで、リミックスよろしく」


と言ったら、BEEFは即座に、


「送るな」


と言った。


wataが、


「送ります」


と言うと、


「見るだけだ」


と返した。


mcRCが、


「見たら、たぶん触りますよね」


と言うと、


「触らねえ」


と返した。


EGUIが、


「触ったら返してください」


と言うと、


「触らねえって言ってんだろ」


と返した。


そして帰った。


三人は、それを思い出して、部屋に入った瞬間に少し笑った。


wataが椅子に沈む。


「絶対触るやろ」


mcRCがノートパソコンを開く。


「触りますね」


EGUIが水を置く。


「触る」


wataが笑う。


「三人一致」


mcRCは、スマホのメモを開いた。


タイトル。


NO EASY PEACE with DJ BEEF


その文字を見ただけで、少し胸が熱くなる。


これは、簡単な曲ではない。


でも、必要な曲だ。


wataが言う。


「最後の一言、どうする?」


mcRCは見る。


「最後?」


EGUIもwataを見る。


wataは、少しだけ静かな顔になった。


「悪かったよ」


部屋の空気が少し変わる。


BEEFが言った言葉。


駅ビルのベンチで、ぎこちなく、短く、でも確かに出した言葉。


mcRCは、ゆっくり頷いた。


「入れたい」


EGUIも言う。


「入れるべきやと思う」


wataはスマホを見ながら言う。


「でも、BEEFさんには言わん」


mcRCは少し笑った。


「言ったら絶対嫌がる」


EGUIが言う。


「絶対に嫌がる」


wataは頷く。


「だから、最後に一拍空けてもらうだけお願いする」


mcRCが言う。


「理由は言わない」


EGUIが続ける。


「当日まで秘密」


wataは、もう楽しそうな顔になっていた。


「真っ赤になるぞ」


mcRCが笑う。


「なるかな」


EGUIが静かに言う。


「なる」


wataは椅子の上で少し跳ねた。


「可愛いかよ」


mcRCがすぐ言う。


「今から言うな」


EGUIも言う。


「当日用です」


wataは真面目な顔で頷いた。


「了解。当日まで温存」


少し沈黙。


そのあと、三人は同時に笑った。


この笑いは、前回の終演後にはなかった。


BEEFを馬鹿にする笑いではない。


完全に許した笑いでもない。


ただ、何かが少しだけ動いたことへの笑いだった。


mcRCはキーボードに手を置いた。


「じゃあ、作ろう」


wataが髪を結び直す。


「オーダー入りまーす」


EGUIが水を飲む。


「今回は、荒れたな」


wataが笑う。


「荒れたオーダーほど、曲になる」


mcRCは画面に最初のタグを打った。


[Intro: Three Male Rap Vocals - All 3MC]


そして、一行目。


仲間?


まだ決めるな。


wataが横から覗き込む。


「敵?」


mcRCが打つ。


敵?


それも早い。


EGUIが静かに言う。


「どっち向いてるかなんて」


mcRCが続ける。


どっち向いてるかなんて

ぶつかるまで分からない


wataが笑った。


「来た」


EGUIが頷く。


「始まったな」


mcRCは、画面を見た。


さっきの駅ビルのベンチ。

本屋の袋。

BEEFの赤い耳。

wataの茶化し。

EGUIの静かな確認。

自分の悪い癖。

三人の黒歴史フォルダ。

まだ開いていない、オリジンへの扉。


全部が、曲の中に入ってくる。


でも、全部は説明しない。


観察。


傾聴。


よく見る。

耳を傾ける。


そして、分かったフリをしない。


その芯だけを、音にする。


wataが小さく言った。


「No easy peace」


EGUIが続けた。


「No fake beef」


mcRCが、キーボードを叩いた。


三本目の箱で鳴る一曲目が、その夜、動き出した。

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