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ラップ付き小説 ReversCrown 元気ないやつこっちおいで  作者: egubi
暴れ牛ビーフ編

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3-4-14 正しい距離の詰め方


三本目の箱まで、あと数日あった。


二本目のライブは、荒れなかった。


少なくとも、前回のような大荒れではなかった。


壁を殴る音もなかった。

怒鳴り合いもなかった。

スタッフが硬い顔で間に入ることもなかった。

新川さんが、全員を逃がさないように場を押さえることもなかった。


ライブは終わった。


客席も温まった。


BEEF勢も、リバクルーも、初見客も、それぞれ何かを持って帰った。


ただ、三人の中には、ひとつだけ残った。


おや。


それだけだった。


BEEFは、前回とは違った。


でも、それが良い変化なのか、ただ迷っていただけなのか、まだ分からない。


見ていた。


ただし、見方が下手だった。


支えようとしていた。


ただし、支え方が遠かった。


壊さないようにしていた。


ただし、壊さなさすぎて、音が少し薄くなった。


それをどう扱えばいいのか、三人ともまだ分からなかった。


だから、次のライブまでは、何も決めない。


観察。


それが、三人の仮の結論だった。


―― mcRC ――


本屋に寄ったのは、完全に偶然だった。


三人で行く予定ではなかった。


リバクラボラトリーに集まる前、mcRCが少し早く駅に着いた。


まだ時間がある。


まっすぐ行けば、三十分近く早く着く。


早く着いたところで、部屋の鍵を開けて、机の上の資料を見て、また考えすぎるだけだった。


それが分かっていたから、駅ビルの本屋に入った。


広い本屋だった。


入口には、新刊。

その横にはビジネス書。

奥には雑誌。

音楽誌。

コミック。

文庫。

技術書。

実用書。

自己啓発。

人間関係。


mcRCは、最初に音楽誌の棚を見た。


特に買う予定はない。


ただ、ライブ特集やインタビュー記事を見るのは好きだった。


人がステージをどう見ているのか。

曲順をどう考えているのか。

どんな言葉で自分の音を説明するのか。


そういうものを見ると、自分たちの足りない場所が少し見える。


しばらく立ち読みしていると、スマホが震えた。


wata:

今どこ?


mcRC:

駅ビルの本屋。


wata:

なんで?


mcRC:

時間あったから。


wata:

俺も近くおるわ。寄る。


mcRC:

なんで。


wata:

時間あったから。


mcRCは、画面を見て少し笑った。


数分後、wataが来た。


黒い髪を後ろでゆるく結んでいる。

まだライブの疲れが少し残っている顔。

でも、目だけはいつも通りよく動く。


「何見てんの」


「音楽誌」


「勉強熱心やな」


「お前も見る?」


「俺は韻の本探す」


「韻の本?」


「あるか知らんけど」


「ないことはないやろうけど」


「なかったらラーメン本見る」


「方向変わりすぎやろ」


その時、もう一度スマホが震えた。


EGUI:

本屋にいるのか。


mcRC:

いる。


EGUI:

俺も着いた。


wataが画面を覗く。


「集合場所、本屋になってるやん」


「たまたまや」


「たまたま三人とも本屋に吸われてる」


「まあ、悪くはない」


「本屋は平和やしな」


mcRCは、その言葉に頷きかけて、少しだけ止まった。


平和。


今の自分たちには、少しだけ居心地の悪い言葉だった。


―― wata ――


wataは、本屋が嫌いではない。


むしろ好きだった。


ただ、目的なく本屋に入ると、だいたい余計な本を買う。


タイトルに釣られる。

帯に釣られる。

目次に釣られる。

「これは歌詞に使えるかも」と思って買い、半分読んで机に積む。


積んだ本は、だいたい後で役に立つ。


そう自分では思っている。


mcRCには「半分くらいは積みオブジェやろ」と言われる。


EGUIには「読め」と言われる。


どちらも腹が立つ。


だいたい当たっているからだ。


wataは、言語・文章術の棚を見た。


「伝わる文章の書き方」

「一瞬で心をつかむ言葉」

「会話が続く質問力」

「相手に刺さる言い換え辞典」


刺さる、という文字を見て、少しだけ眉を寄せる。


最近、刺さるという言葉を使いすぎている気がする。


言葉が胸に残る。

あとから効く。

その場で息が止まる。

逃げ道がなくなる。


全部、刺さるで済ませると、曲が痩せる。


そう思って、本を戻した。


その時、少し離れた棚にEGUIがいるのが見えた。


日本語表現の本を見ている。


らしい。


重そうな本。


見るだけで眠くなる種類のやつ。


wataは近づいて言った。


「お前、また硬そうな本見てるな」


EGUIは表紙を見たまま答えた。


「日本語の用例辞典」


「ライブ前に読むもんちゃう」


「言葉はいつでも使う」


「正論を棚から取り出すな」


EGUIは何も言わず、本を棚に戻した。


その時だった。


wataの視界の端に、見覚えのある黒いキャップが入った。


最初は、気のせいだと思った。


本屋で見るはずがない。


いや、別にBEEFだって本屋くらい来る。


来るだろう。


人間だし。


でも、見えた場所が問題だった。


音楽誌ではない。


機材本でもない。


DJ関連でもない。


ビジネス書でもない。


人間関係。


コミュニケーション。


その棚の前に、BEEFがいた。


黒いキャップ。

黒いジャケット。

片手に本。

もう片方の手は、棚の端に置かれている。


背中だけでも分かる。


妙に姿勢が硬い。


wataは、少しだけ首を傾げた。


「……え」


EGUIも気づいた。


「BEEFさん?」


mcRCが少し遅れて来る。


「どうした?」


wataは、黙って指を差した。


mcRCがその先を見る。


止まった。


三人とも、しばらく動かなかった。


BEEFはまだ気づいていない。


棚の前で、真剣に本を読んでいる。


いや。


真剣というより、追い詰められた顔で読んでいる。


そして、その本のタイトルが見えた。


あなたにもできる、正しい距離の詰め方


wataは、口を開いた。


閉じた。


もう一度開いた。


「……あかん」


mcRCが小声で言う。


「何が」


「これは、あかん」


EGUIが、静かに言った。


「見てはいけないものを見た気がする」


wataは震える声で言う。


「パンドラや」


mcRCも、さすがに口元を押さえた。


笑ってはいけない。


笑ってはいけない。


でも、無理がある。


BEEFが。


あのBEEFが。


本屋の人間関係棚で。


正しい距離の詰め方。


wataは、肩を震わせた。


「いや、努力の方向……」


mcRCが小声で止める。


「言うな」


EGUIが真顔で言う。


「言うと刺さる」


「もう刺さってるわ」


その瞬間、BEEFが振り向いた。


目が合った。


―― BEEF ――


最悪だ。


BEEFは、そう思った。


見られた。


三人に。


しかも、この棚で。


しかも、この本を持っているところを。


最悪だ。


BEEFは、反射的に本を閉じた。


だが、遅い。


タイトルは、もう見えている。


三人の顔が、ひどい。


mcRCは笑わないようにしている顔。

wataは完全に何か言いたそうな顔。

EGUIは真顔で見ているが、その真顔が一番嫌だ。


BEEFは、本を棚に戻そうとした。


だが、戻すと余計に負けた感じがする。


仕方なく持ったまま言った。


「見るな」


wataが一歩前に出る。


「いや、もう見えてます」


「見るな」


mcRCが、できるだけ普通の声で言う。


「正しい距離の……」


EGUIが続ける。


「詰め方」


BEEFは低く言った。


「読むな」


wataが口元を押さえる。


「すみません、文字がでかくて」


「うるせえ」


本当に最悪だった。


BEEFは、昨日までこの本を買うつもりなどなかった。


そもそも、こういう棚に来る気もなかった。


ただ、二本目のライブ後から、頭の中がずっと同じところで止まっていた。


見ろ。


でも、見すぎるな。


支えろ。


でも、遠くなるな。


壊すな。


でも、自分を消すな。


じゃあ、どうすりゃいい。


その答えが、音楽誌に載っている気はしなかった。


機材の本にもない。


ミキサーのつまみをどう動かすかは分かる。


でも、人との距離をどう動かすかは分からない。


それで、ふらっとこの棚に来た。


たまたま目に入った。


あなたにもできる、正しい距離の詰め方。


ふざけたタイトルだと思った。


でも、目次にあった。


相手の反応を見る

踏み込みすぎない

自分の意図を短く伝える

分からない時は確認する

沈黙を恐れない

相手の領域を奪わない


腹が立った。


当たり前みたいな顔で書いてある。


そんなことが当たり前にできるなら苦労しない。


そう思いながら、読んでいた。


そこを見られた。


最悪だ。


BEEFは、三人を見た。


「何だよ」


wataが、少しだけ笑いを押し殺した声で言う。


「いや……勉強熱心やなと」


「殺すぞ」


mcRCがすぐ入る。


「距離の詰め方、一章からやり直しですね」


BEEFはmcRCを睨んだ。


mcRCは、自分で言ってから少し笑いそうになっている。


EGUIが真面目な顔で言う。


「今のは、たぶん距離を詰める言い方ではないです」


「お前も乗るな」


wataがとうとう少し吹いた。


「すみません、でもこれは……これはちょっと……」


BEEFは本を閉じたまま、棚に押し込んだ。


「見なかったことにしろ」


mcRCが言った。


「無理です」


「無理って言うな」


EGUIが静かに続ける。


「記憶には残りました」


「消せ」


wataが小さく言う。


「バックアップ取られてる」


BEEFは、三人を順番に睨んだ。


三人とも、完全に笑っているわけではない。


でも、笑いをこらえている。


それが余計に腹立つ。


だが同時に、前回までの硬い空気とは少し違った。


BEEFは、それを少しだけ感じた。


笑われている。


でも、馬鹿にされているだけではない。


たぶん。


たぶん。


そこがまた、分からなかった。


―― mcRC ――


mcRCは、笑いそうになるのを抑えながら、同時に少しだけ胸が痛くなっていた。


この本を持っているBEEFは、面白い。


それは本当にそうだった。


だが、笑いだけでは終われなかった。


BEEFは、何かをしようとしている。


不器用に。


ものすごく不器用に。


音ではなく、本で。


人間関係の棚で。


距離の詰め方を読んでいる。


その事実が、妙に重かった。


mcRCは、本棚を見た。


そこには、似たようなタイトルが並んでいる。


「嫌われない話し方」

「人間関係で疲れない距離感」

「伝わる聞き方」

「もう悩まない職場のコミュニケーション」


その中の一冊を、BEEFは読んでいた。


mcRCは、少しだけ視線を落とした。


「……それ」


BEEFが見る。


「何だよ」


「俺らも、昔読んだことあります」


wataが即座に反応した。


「おい」


EGUIが静かに言う。


「そこ開けるのか」


wataがmcRCを見る。


「やめろ。今ここで開くな」


mcRCは苦笑した。


「いや、タイトル見て思い出しただけ」


wataは両手で顔を覆った。


「黒歴史フォルダ、パスワード付きやぞ」


EGUIが言う。


「サムネイルはもう表示された」


「表示すな」


BEEFは、少しだけ眉を寄せた。


「お前らも?」


wataが嫌そうな顔をする。


「今の聞き方やめてください」


「何で」


「仲間発見みたいにするな」


BEEFは鼻で息を吐く。


「してねえよ」


EGUIが、ほんの少しだけ口元を緩めた。


「昔、三人の距離感が全然合ってなかった時期があったんです」


wataがEGUIを指差す。


「表紙開いた! 今表紙開いた!」


mcRCが言う。


「まだ目次や」


「目次でも嫌や」


BEEFは少し黙った。


三人の言い合いを見ていた。


いつものようなテンポ。


ただ、完全に軽いわけではない。


その奥に、何かある。


BEEFにも、それは分かった。


分かる。


単純な喜怒哀楽なら分かる。


三人は今、笑っている。


でも、笑いだけではない。


痛いものを、笑いで扱っている。


たぶん。


BEEFは、少しだけ目を細めた。


「何があったんだよ」


三人が同時に黙った。


wataが真っ先に答える。


「言いません」


mcRCも頷く。


「今日は言わないです」


EGUIも言う。


「今は早い」


BEEFは、少し苛立ったように言った。


「何だよ、それ」


wataが返す。


「距離の詰め方です」


BEEFは黙った。


言い返そうとして、少し止まる。


その止まり方に、mcRCは気づいた。


前なら、たぶんすぐ返していた。


うるせえ。

知るか。

めんどくせえ。


そう言って、切っていた気がする。


でも今、BEEFは一瞬止まった。


止まって、考えた。


それは小さい。


本当に小さい。


でも、見えた。


―― EGUI ――


EGUIは、BEEFの手元を見ていた。


本はもう棚に戻されている。


だが、BEEFの手はまだ少し落ち着いていない。


指先が、棚の端を軽く叩いている。


不機嫌そうに見える。


でも、本当に不機嫌なだけではない。


照れ。

焦り。

見られたくなかったものを見られた時の苛立ち。


そういうものが混じっている。


EGUIは、それを見ながら、自分の昔を少しだけ思い出しかけた。


言葉を正しく使えばいいと思っていた時期。


正しい説明をすれば、相手は納得するはずだと思っていた時期。


相手が黙ると、分かったのだと思っていた。


本当は、言葉を受け取る準備ができていなかっただけかもしれないのに。


その記憶が開きかける。


EGUIは、心の中で閉じた。


まだここで開ける話ではない。


でも、完全には閉まらない。


BEEFの姿が、無理やり鍵穴を照らしてくる。


EGUIは、静かに言った。


「BEEFさん」


BEEFが見る。


「何だ」


「その本を読んでいたこと自体は、別に悪いことではないと思います」


wataが横から言う。


「むしろ偉い」


BEEFが睨む。


「上から言うな」


wataが両手を上げる。


「すみません、褒め方ミスりました」


mcRCが少し笑う。


EGUIは続けた。


「ただ、読んだからできるようになるものでもないと思います」


BEEFは黙った。


「人との距離は、正解を覚えて終わりではないので」


BEEFは、少しだけ顔をしかめた。


「じゃあ意味ねえじゃねえか」


「意味はあります」


EGUIは即答した。


「でも、それだけでは足りない」


BEEFは、しばらくEGUIを見た。


「足りないって何が」


EGUIは言葉を選んだ。


ここで言いすぎると、また押しつけになる。


「試す相手です」


BEEFの眉が動く。


「相手?」


「はい」


EGUIは、ゆっくり言った。


「読んで分かることと、人の前でやって分かることは違います」


wataが小さく言う。


「それはそう」


mcRCも頷く。


BEEFは、少し苛立った声で言う。


「だから、何だよ」


mcRCが口を開いた。


「気持ちがあるなら、話はできます」


BEEFの目が、mcRCへ向いた。


mcRCは続ける。


「でも、何も言わないまま音だけぶつけられたら、無理です」


その言葉で、空気が少し変わった。


笑いの中から、本題が少しだけ顔を出した。


wataも黙った。


EGUIも、何も足さなかった。


―― BEEF ――


BEEFは、mcRCの言葉を聞いていた。


気持ちがあるなら、話はできる。


何も言わないまま音だけぶつけられたら、無理。


それは、たぶん正論だった。


でも、腹が立つ。


正論だから腹が立つ。


BEEFは、棚から少し離れた。


通路の向こうで、誰かが雑誌を戻す音がした。


本屋の中は静かだ。


静かな場所でこういう話をするのは、落ち着かない。


クラブの音の中なら、まだいい。


低音があれば、言葉の輪郭をごまかせる。


でも、ここは本屋だった。


ページをめくる音。

レジの小さな音。

空調。

遠くの子どもの声。


その中で、自分の言葉だけがやけに乾いて聞こえる。


BEEFは、低く言った。


「俺が全部お前らに合わせるのも違うだろ」


三人が止まる。


BEEFは続けた。


「前回、壊しすぎたんだろ」


mcRCは何も言わない。


wataも黙っている。


EGUIが静かに見ている。


BEEFは、少し苛立ちながら言った。


「だから二本目は見た。見たら見たで、見すぎだの、引きすぎだの、遠いだの」


wataが口を開きかける。


BEEFは止めるように続けた。


「分かってる。下手なんだろ」


wataの口が止まった。


BEEFは自分で言って、少しだけ嫌な顔をした。


下手。


その言葉を自分で言うのは、気に食わない。


でも、言わないと話が進まない気もした。


「でも、全部合わせるなら、俺じゃなくていいだろ」


沈黙。


BEEFは、棚の方を見た。


「予定通り流して、三人がやりやすいように支えて、客席が安心して聴けるようにするだけなら、他のやつでもできる」


mcRCが静かに言う。


「それは違います」


BEEFは見る。


mcRCは、まっすぐではなく、少しだけ考えながら言った。


「BEEFさんの音が消えたら、呼んだ意味がない」


wataも続ける。


「ただの優しい伴奏者になられても困る」


EGUIが言う。


「壊す力は必要です。でも、人を見ないまま壊すのは違います」


BEEFは、少しだけ息を吐いた。


「じゃあ、どうすりゃいいんだよ」


その言葉が出た瞬間、三人の空気がほんの少し変わった。


BEEF自身も、言ってから気づいた。


少し前の自分なら、たぶん言わなかった。


どうすりゃいいんだよ。


そんな言い方は、助けを求めているように聞こえる。


それが嫌だった。


BEEFはすぐに顔を背けた。


「別に、聞いてねえけど」


wataが小さく言う。


「聞いてるやろ」


BEEFが睨む。


「うるせえ」


mcRCは、笑わなかった。


ただ、少しだけ柔らかい声で言った。


「それを話すんです」


BEEFは黙る。


mcRCは続けた。


「分からないなら、分からないって言う」


EGUIが言う。


「それだけで、こちらの受け取り方は変わります」


wataも言う。


「こっちも、全部分かってるわけじゃないですし」


BEEFは、三人を見た。


「お前らは、分かってる側みたいな顔してるだろ」


wataが一瞬で嫌な顔をした。


「それは、刺さる言い方するなぁ……」


mcRCも苦笑した。


「分かってる側みたいな顔、してました?」


BEEFは言う。


「してる」


EGUIは少し考えてから言った。


「していたかもしれない」


wataがEGUIを見る。


「認めるんか」


EGUIは頷く。


「少なくとも、BEEFさんからはそう見えた」


mcRCは、少しだけ黙った。


自分たちは、BEEFを見ようとしていた。


でも、もしかしたら。


見方が分かっていない人を、上から見ていた瞬間もあったのかもしれない。


その可能性は、嫌だった。


mcRCは言った。


「それは、気をつけます」


BEEFが見る。


「すぐ言うな」


「え?」


「そういうとこだよ」


mcRCは止まった。


BEEFは、少し言いにくそうに続ける。


「綺麗に受け取りすぎる」


wataが「あ」と言いかけて、止まる。


EGUIも少しだけ目を細めた。


BEEFは言った。


「俺が何か言ったら、すぐ意味にして、綺麗に置こうとするだろ」


本屋の空気が、少しだけ重くなった。


mcRCは、すぐには返せなかった。


それは、BEEFの言いがかりではなかった。


少なくとも、少しは当たっている。


痛いものをそのまま置けず、意味にしてしまう。


整理してしまう。


物語にしてしまう。


救いにしてしまう。


それはリバクラの強みでもある。


でも、時々、人の未整理な怒りを早く片づけすぎるのかもしれない。


wataが小さく言った。


「……それは、あるかもな」


mcRCはwataを見る。


wataは苦い顔をしていた。


「俺ら、言葉にするの得意やから。言葉にできたら、ちょっと分かった気になる時ある」


EGUIが頷く。


「言葉にした時点で、相手より一段上に立ったように見えることもある」


BEEFは黙っていた。


mcRCは、少しだけ息を吐いた。


「……すみません」


BEEFはすぐ言う。


「だから、すぐ謝るな」


mcRCは止まった。


wataが小さく吹いた。


「難しすぎるやろ」


BEEFが睨む。


「笑うな」


wataは両手を上げた。


「いや、これは笑う。だって今、距離の詰め方やってるやん」


EGUIが静かに言う。


「実践編ですね」


BEEFが低く言う。


「本を戻した意味がねえ」


mcRCは、今度は少し笑った。


さっきより自然に。


「じゃあ、実践編ってことで」


BEEFは顔をしかめた。


「勝手に章立てするな」


wataが即座に言う。


「第二章、謝りすぎるな」


mcRCが反応する。


「俺の章?」


EGUIが続ける。


「第三章、すぐ意味にするな」


wataが自分を指す。


「第四章、茶化して逃げるな」


EGUIが自分で言う。


「第五章、正しさで押すな」


三人が、少しだけ黙る。


言ってしまった。


それぞれ、自分の分まで。


BEEFは三人を見た。


「……お前らもめんどくせえな」


wataが即答する。


「お前が言うな」


その一言で、空気が少しだけほどけた。


本屋の通路で、四人が変な距離で立っている。


誰もまだ仲間ではない。


少なくとも、BEEFとリバクラは、まだそう呼べるほど近くない。


でも、前よりは話している。


音ではなく。


言葉で。


不器用に。


失敗しながら。


mcRCは、本棚に戻された一冊を見た。


あなたにもできる、正しい距離の詰め方。


たぶん、この本だけでは足りない。


でも、BEEFがそこに手を伸ばしたことは、なかったことにはできない。


wataが小さく言った。


「……とりあえず」


三人とBEEFが見る。


wataは、少しだけ口元を緩めた。


「その本、買います?」


BEEFは一瞬止まった。


「買わねえ」


mcRCが言う。


「でも途中まで読んでましたよね」


「読んでねえ」


EGUIが本の背を見て言う。


「しおり位置、かなり進んでいました」


「見るな」


wataが、棚からその本を抜いた。


BEEFがすぐ手を伸ばす。


「おい」


wataは本を持ったまま言う。


「いや、買いましょうよ。俺らも読み直した方がいいかもしれんし」


mcRCが嫌な顔をする。


「俺らも?」


wataが笑う。


「黒歴史フォルダ、参考文献」


EGUIが頷く。


「資料は必要」


mcRCが額を押さえる。


「最悪や」


BEEFは本を奪い返そうとして、少し止まった。


そして、低く言った。


「……勝手にしろ」


wataが本を持ったまま固まる。


「え、買っていいんすか」


「知らねえ」


「知らねえってことは?」


BEEFは顔を背けた。


「いらねえとは言ってねえ」


mcRCとEGUIが、wataを見る。


wataは本を胸元に持って、深く頷いた。


「では、リバクラ備品として購入します」


BEEFが言う。


「するな」


EGUIが静かに言った。


「領収書は不要です」


mcRCが小さく笑った。


BEEFは、完全に不機嫌な顔をしている。


でも、帰らない。


通路から逃げない。


それだけで、今日のところは十分かもしれなかった。


まだ謝罪はない。


まだ解決もない。


まだ信頼もない。


でも、会話は始まった。


本屋の人間関係棚の前で。


正しい距離の詰め方という、あまりにも直球なタイトルの本を挟んで。


三人とBEEFは、まだ少し離れたまま、同じ棚の前に立っていた。

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