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ラップ付き小説 ReversCrown 元気ないやつこっちおいで  作者: egubi
暴れ牛ビーフ編

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71/186

3-3-4 三本だけ、現場で見る



リバクラボラトリーのホワイトボードには、前回の文字がまだ残っていた。


感情

結果

情報

確認すること


その横に、mcRCは新しく一行を書いた。


三本限定 現場検証


wataは、それを見て椅子の背もたれに体を預けた。


「検証って言葉、便利やな」


mcRCが振り返る。


「何が」


「ツアーって言うと重い。検証って言うと、ちょっと軽く聞こえる」


EGUIが水のキャップを開けながら言った。


「でも実際は軽くない」


「そこなんよ」


wataは机の上の資料を指で叩いた。


「三本って聞くと、数曲だけ試して終わりみたいに聞こえるけど、これ普通にライブやろ」


mcRCは頷いた。


「うん」


机の上には、新川さんから届いた会場候補が並んでいた。


一つ目は、比較的ホームに近い小箱。

二つ目は、少し外部色の強い箱。

三つ目は、BEEFの界隈とも接点がある、空気の読みにくい場所。


どれも、大きな会場ではない。


けれど、ちゃんと客を入れる。

照明もある。

音響もある。

物販も出す。

BEEFも入る。

リバックラインも裏で動く。


ただの試し打ちではない。


一本一本、普通にライブだった。


前回の単独ライブほど大きくはない。

けれど、短いイベントでもない。


一時間から一時間半ほどの、小箱ライブ。


wataは資料を見ながら、少しだけ眉を寄せた。


「前回の単独ライブの、少し軽い版を三本やる感じやな」


EGUIが頷く。


「そうなる」


「軽いって言っても、三本やったら普通に重いけどな」


mcRCはホワイトボードに書き足した。


各回 60〜90分

通常ライブとして成立させる

既存曲もやる

新曲も入れる

BEEFはゲストDJ


wataは、その文字を見ながら言った。


「まあ、やるならちゃんとやるしかないな」


mcRCは頷いた。


「うん。中途半端にはできん」


EGUIも言う。


「お客さんは、検証を見に来るわけじゃない」


その言葉で、三人の空気が少し締まった。


そうだった。


自分たちにとっては、BEEFと続けられるかを見るための三本。

新川さんにとっては、現場で確かめる三本。

リバックラインにとっては、反応と数字を拾う三本。


でも、お客さんにとっては違う。


お客さんは、ライブを見に来る。


Reverse Crownの三人を見に来る。

BEEFが入る音を聴きに来る。

小箱の距離で、声を浴びに来る。


そこに、こちらの事情を背負わせる必要はない。


wataは、ふと画面を見た。


「お客さんにはさ」


mcRCが見る。


「うん」


「BEEFさんと今後やるかどうかとか、そういうの言わん方がいいよな」


EGUIがすぐに頷いた。


「言わない方がいい」


mcRCも頷く。


「それはこっちの事情やからな」


wataは言った。


「お客さんは楽しみに来るんやし」


「うん」


「俺らが裏で悩んでるとか、BEEFさんと横に立てるか見に来ましたとか、そういうのはこっちで持っとけばいい」


EGUIが続けた。


「本番中に説明すると、お客さんに余計な荷物を渡す」


mcRCはホワイトボードに書いた。


お客さんには楽しんでもらう

裏事情は本番で説明しない

ステージではライブをする


wataはその文字を見て、少しだけ頷いた。


「そう。必死にやるのは見えていい。でも“今、俺たち検証してます”って言うのは違う」


mcRCは言った。


「ステージでやるのは、ライブ」


EGUIが言う。


「会議じゃない」


「そこやな」


wataは椅子に座り直した。


「BEEFさんと喧嘩してても、お客さんには関係ない。いや、滲むのはあるかもしれんけど、楽しませる方が先」


mcRCは頷いた。


「うん」


その時、リバックLINEの通知が鳴った。


Kate@秘書・外部連絡:

三本について、実務面の整理案を送ります。


ファイルが一つ添付されている。


mcRCが開く。



リバックライン:三本限定ライブ 実務整理


1. 呼称

外向きには、通常の小箱ライブとして告知。

内部では三本限定の現場確認として管理。

2. ライブ尺

各回60〜90分想定。

短いお試しイベントではなく、通常ライブに近い構成。

3. 出演形態

DJ BEEFは正式加入ではない。

告知ではゲストDJとして自然に表記。

Reverse Crownの三人の声が主軸であることを崩さない。

4. 構成

既存曲と新曲を組み合わせる。

MC、曲間、物販導線、終演後導線を確認。

BEEFさんとの音合わせ時間を別途確保。

5. 物販

通常物販を基本。

初見にも分かる導線を作る。

Reverse Crownを初めて見る人にも、三人の色が伝わるようにする。

6. 終演後

各回、考察スレ・SNS反応・現地感想・切り抜き候補を回収。

リバックラインが初動分析を作成。

三人はライブ後に必ず確認。

7. 注意

本番中に裏事情を語りすぎない。

お客様にはライブとして楽しんでもらう。



wataは読み終えて、少しだけ目を細めた。


「分かってるなあ」


EGUIが頷いた。


「かなり」


mcRCも静かに頷いた。


「ありがたい」


Miwaから追加でメッセージが来た。


Miwa@物販:

お客さんは楽しみに来ます。

なので、三人が裏でどれだけ必死かは、ライブの熱で伝わればいいと思います。

あとで考察会が勝手に掘ります。


Nina@告知販促:

「勝手に掘ります」は本当にそう。


Sara@権利確認:

考察文化が強いので、余白は残した方が良いです。


Yui@庶務・作業表:

終演後スレ確認を作業項目に追加済みです。


Kate@秘書・外部連絡:

毎回、スレは立つと思います。

初動分析に入れます。


wataは笑った。


「終演後スレ確認、作業項目になるのか」


EGUIが言う。


「なるやろ」


mcRCも笑った。


「毎回立つなら、見るしかない」


wataは、少しだけ楽しそうに言った。


「考察会、怖いけどな」


「怖いな」


「でも、見てくれてるってことやしな」


mcRCは頷いた。


「うん」


三人は、しばらくリバックLINEの画面を見ていた。


自分たちが見えていないところを、見てくれる人がいる。


それは心強い。


同時に、逃げ場もない。


ライブをやれば、数字が出る。

コメントが残る。

考察される。

切り抜かれる。

曲の意味も、態度も、BEEFとの距離感も、見られる。


でも、それが今のリバクラだった。


ステージだけでは終わらない。


ライブが終わるたびに、次の物語がネット上で始まる。


wataは、机に広がった歌詞ファイルを見た。


「で、曲」


mcRCは頷いた。


「曲」


EGUIも、画面を見た。


今日の本題は、そこでもあった。


最近、BEEFとの関係やライブの構成ばかり話していた。


でも、自分たちはラッパーだ。


話し合いだけでは進まない。

曲を持っていく必要がある。


新しい現場に持っていく、新しい曲。


三本の一本目で、軸にできる曲。


mcRCは、ファイルを開いた。


タイトルは、


Keep Moving


画面に歌詞が表示される。


Hey come on

いいの いいの 考えすぎない

一分だけで good enough

Keep moving


wataは、画面を見ながら言った。


「これ、一本目に合うと思う」


mcRCも頷く。


「俺もそう思ってる」


EGUIは、少しだけ目を細めた。


「軽いな」


wataが聞く。


「悪い意味?」


EGUIは首を横に振る。


「良い意味」


mcRCは、歌詞をスクロールした。


部屋の空気。

冷めたcoffee。

low battery。

鍵。

靴。

外の風。


大きな感情の話ではない。

人生の大転換でもない。

重たい決意表明でもない。


ただ、少し動く。


一分だけでいい。

完璧を待たなくていい。

小さく始めればいい。


wataは、自分のVerseを指差した。


「俺らさ、すぐ理屈こねるやん」


mcRCは苦笑した。


「こねるな」


EGUIが短く言う。


「全員こねる」


「それはそう」


wataは続けた。


「感情を理屈でまとめる。理由つける。意味づけする。納得できる形にする。それで熱くなるのもあるし、それがリバクラの良さでもある」


mcRCは頷いた。


「うん」


「でも、最近ちょっと思うんよ」


wataは、画面を見たまま言った。


「心を、言葉で隠してる気もする」


部屋が静かになった。


EGUIは、すぐには言わなかった。


mcRCも黙る。


wataは続けた。


「怖いとか、腹立つとか、嬉しいとか、そういうのをさ。すぐ分析して、構造にして、言葉で整えて、納得した顔する」


mcRCは、小さく息を吐いた。


「分かる」


EGUIも言った。


「感じる前に、説明している時がある」


「そう」


wataは頷いた。


「BEEFさんは逆やん。説明は下手。というか足りない。そこは普通に問題。でも、現場の空気とか、身体の反応とか、そういうのを見て動く力はある」


mcRCは、画面の歌詞を見た。


いいの いいの 考えすぎない

一分だけで good enough


「だから、これか」


wataは頷いた。


「うん。考えるな、って乱暴に言うんじゃなくて、軽く始める」


EGUIが言う。


「お客さんにも渡しやすい」


mcRCは頷いた。


「説教じゃない」


wataが笑う。


「説教じゃないけど、俺のVerseはちょっと説教くさいかも」


EGUIが静かに言った。


「韻で包んでるからまだ大丈夫」


「まだって何」


mcRCは少し笑った。


それから、ホワイトボードに書いた。


一本目:Keep Moving

軽く始める

考えすぎる前に動く


wataはその文字を見た。


「これ、最初の方に入れたいな」


mcRCが頷く。


「うん。序盤から中盤くらい」


EGUIが言う。


「客席が固ければ早め。温まっていれば少し置いてもいい」


wataは少し考えた。


「でも、基本はセットリスト通りにいこう。変にその場で迷うと崩れる」


mcRCも頷いた。


「うん。大枠は決める」


三人は、一本目のセットリストを組み始めた。


最初に空気を作る曲。

次に少し体を動かす曲。

そこで短くMC。

そして、Keep Moving。


そこから既存曲で流れを上げ、途中で少し言葉を置き、最後は明るく帰す。


BEEFが入ることで曲間は変わる。

だが、流れそのものはこちらで作る。


そのつもりで、三人は紙の上に曲順を並べていった。


mcRCが曲名を書き、wataが赤ペンで印をつける。


「ここ、BEEFさんに軽くつないでもらえば気持ちいいと思う」


EGUIが別の箇所を指した。


「ここは言葉を置く時間が欲しい。音を残しすぎると伝わらない」


mcRCが頷いた。


「じゃあここはMCを短めにして、次の曲に入る前だけ少し空ける」


wataが言う。


「BEEFさん、空けてくれるかな」


EGUIが静かに返す。


「そこは事前に伝える」


「伝えて分かる人かな」


mcRCは苦笑した。


「分からせる」


wataは少し笑った。


「強い」


セットリストが少しずつ形になっていく。


曲順に意味が乗る。

MCの位置が決まる。

BEEFに任せたい接続が見えてくる。

逆に、触られたくない間も見えてくる。


リバクラは、そうやってライブを作ってきた。


一曲ずつではなく、流れとして作る。


それが自分たちのやり方だった。


その後、mcRCは別のファイルを開いた。


Feel


wataが、少し表情を変える。


「これは二本目」


mcRCは頷いた。


「うん」


EGUIも歌詞を見る。


Feel, feel, feel it now

痛みごと履いてく tonight

割れそうな胸でも don’t hide


Keep Movingとは違う。


こちらは、軽くない。


でも、重さを理屈で包みすぎない。


痛みを、痛みとして感じる。

苦しさを、苦しさとして認める。

孤独も、仕事のしんどさも、仲間の中での距離も、ひとりの夜も。


それを説明で片づけない。


感じたまま、越える。


EGUIが言った。


「一本目で動く」


wataが続ける。


「二本目で感じる」


mcRCが頷いた。


「MoveからFeel」


三人は、少しだけ黙った。


BEEF編の流れが、少し見えた。


言葉を捨てるわけではない。


リバクラは言葉のグループだ。

そこは変わらない。


でも、言葉の前に、身体がある。

理屈の前に、心がある。

曲順の前に、客席がある。


それを分かっているようで、まだ分かり切ってはいない。


だからこそ、三本やる。


三人は、二本目のセットリストも組んでいった。


Feelをどこに置くか。

その前にどこまで空気を作るか。

どこで一度、客席を沈ませるか。

最後はどう持ち上げるか。


一本目よりも少し深い流れになる。


その分、曲順の意味は重くなる。


wataが赤ペンを動かしながら言った。


「二本目、重くしすぎたらしんどいな」


mcRCが頷く。


「うん。Feelに入る前に、ちゃんと身体を起こしておきたい」


EGUIが言う。


「痛みに入る前に、受け取れる状態にする」


「それ」


wataは赤ペンで一箇所を囲んだ。


「ここ、少し明るい曲挟もう」


mcRCが曲順を見直す。


「いいと思う」


EGUIも頷いた。


「その方が入れる」


三本目も組んだ。


一番読みにくい場所だった。


BEEFの界隈に近い人も来る。

初見もいる。

リバクルーも来る。

空気がどちらへ寄るかは分からない。


けれど、分からないからこそ、きちんと流れを作る。


最初に掴む曲。

三人の色を見せる曲。

BEEFが入る意味が出る曲間。

一度落とす場所。

最後に帰す場所。


三人は、ああでもない、こうでもないと言いながら、三本目のセットリストも並べていった。


気づけば、机の上には三本分の紙が広がっていた。


一本目。

二本目。

三本目。


それぞれ違う流れになっている。


けれど、全部Reverse Crownのライブだった。


mcRCは三枚を並べ、少し離れて見た。


「これで出そう」


wataが椅子にもたれた。


「ちゃんとライブやな」


EGUIが頷く。


「三本とも、ただの試し打ちじゃない」


mcRCは新川さんへメッセージを送った。



新川さん

三本分のセットリスト案をまとめました。

BEEFさんにも共有お願いします。


一本目はKeep Movingを軸に、軽く始めて空気を作る構成。

二本目はFeelを軸に、少し深く心へ入る構成。

三本目も通常ライブとして成立する流れで組んでいます。


使用予定の音源データも、まとめて送ります。



送信して、数分後。


新川さんから返事が来た。



新川:

確認しました。

BEEFさんにも共有します。



さらに少しして、もう一通。



新川:

BEEFさんからです。


「セットリストは分かった。

でも音源は全部くれ」


とのことです。



wataが画面を見て、眉を寄せた。


「全部?」


mcRCも、少しだけ目を細めた。


「セットリスト以外も?」


EGUIが静かに言う。


「そういう意味やな」


wataは椅子から少し身を乗り出した。


「いや、使う予定ない曲まで渡す必要ある?」


mcRCは、しばらく画面を見ていた。


BEEFの言葉は短い。


理由は書いていない。


ただ、


全部くれ。


それだけ。


wataが言う。


「また説明不足や」


EGUIが頷いた。


「でも、音源を渡すこと自体に問題はない」


mcRCは少しだけ息を吐いた。


「まあ、渡そう」


wataが見る。


「全部?」


「うん。知らないまま触られるよりはいい」


EGUIも言った。


「少なくとも、聴いてくれるなら悪いことではない」


wataはまだ納得しきっていない顔だった。


「それはそうやけど」


mcRCは新川さんへの返信を打った。



新川さん

了解しました。

セットリスト使用予定分に加えて、既存曲の音源もまとめて共有します。


当日の構成は送付済みセットリストを基本に考えています。

その点もBEEFさんに共有お願いします。



送信。


wataは、画面を見ながら小さく言った。


「基本に考えています、か」


mcRCは頷いた。


「そこは言っとかないと」


EGUIも言う。


「準備した流れがある」


wataは少しだけ笑った。


「BEEFさん、分かってんのかな」


mcRCは、答えなかった。


分かっているのか。

分かっていないのか。

それとも、分かった上で短いのか。


どれもありそうで、どれも決めきれない。


wataは、音源フォルダを整理しながら言った。


「全部聴く気なんかな」


EGUIが答える。


「聴くんやろ」


「全部?」


「たぶん」


mcRCは、フォルダを送信しながら、少しだけ画面を見つめた。


BEEFは短い。

説明しない。

腹は立つ。


でも、音に関してだけは雑ではない。


それは、もう三人とも分かっていた。


送信完了の表示が出る。


mcRCは椅子にもたれた。


「送った」


wataは、赤ペンを置いた。


「これで準備はできたな」


EGUIが頷いた。


「三本分」


mcRCも頷く。


「うん。三本分」


ホワイトボードには、三本の流れが並んでいる。


一本目。

二本目。

三本目。


それぞれに曲順があり、意図があり、MCの位置があり、帰し方がある。


三人は、その流れをもう一度確認した。


wataが赤ペンで一箇所を直す。


EGUIが、間を置く場所を指で示す。


mcRCが、最後の曲順に小さく丸をつける。


「よし」


mcRCが言った。


「一本目、ちゃんとやろう」


wataが頷く。


「ちゃんとやる」


EGUIも言った。


「ライブとして」


リバクラボラトリーの時計は、もう夜をかなり回っていた。


それでも三人は、もう少しだけ残った。


曲順を見直し、MCの入りを確認し、BEEFに渡す音源フォルダを整えた。


小箱一本目。


新しいゲストDJがいるライブ。


いつもとは違う音になるかもしれない。


でも、ステージに立つ以上、やることは変わらない。


来てくれた人に、ちゃんと楽しんでもらう。


そのために、準備をする。


三人は最後にホワイトボードを見た。


一本目の欄に、Keep Movingの文字がある。


wataがそれを見て、少しだけ笑った。


「軽く始める、ね」


mcRCが言う。


「軽く始めるために、重めに準備してるけどな」


EGUIが返す。


「それが俺らやろ」


三人は、そこで少し笑った。


リバクラボラトリーの明かりを消す。


黒い布も、マイクも、ノートパソコンも、ホワイトボードも、暗がりの中に沈んだ。


次は、小箱一本目。


三人は、それぞれの荷物を持って、部屋を出た。

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