3-1-4 リバックライン
翌日の夜、リバクラボラトリーには、少しだけ新しい空気があった。
机の上は、相変わらず片づいていない。
売上表。
物販残数。
発送予定リスト。
客席アンケート。
切り抜き確認メモ。
赤ペン。
READYタオルのサンプル。
リバ点呼カード。
新川から届いた簡易報告書。
前職勢が置いていった資料。
そして、ホワイトボード。
そこには、昨日の夜に書いた文字がまだ残っていた。
任せられる人がいる
任せるための線
横に来る人たち
wataは、その文字を見ながら、コンビニの袋からおにぎりを取り出していた。
「これさ」
mcRCがノートパソコンを開きながら見る。
「何」
wataは、海苔が少しだけ湿ったおにぎりを持ったまま言った。
「横に来る人たち、ってちょっと長ない?」
EGUIが水を飲みながら言う。
「意味は分かる」
「意味は分かるけど、呼びにくいやん」
「呼び名いるか」
「いるやろ」
wataは当然のように言った。
「文化は呼び名から育つんやで」
mcRCが少し笑う。
「リバクラーメン作った男が言うと説得力あるの腹立つな」
「作ったっていうか、発見した」
「同じや」
「違う。ラーメンはもともとそこにあった。俺は名前を与えただけ」
EGUIが静かに言った。
「神話にするな」
wataは無視して、ホワイトボードの前に立った。
「で、名前よ」
mcRCは椅子に座ったまま腕を組む。
「リバクラブは?」
「それ、あの子らが言ってたやつやな」
「うん」
リバクラブ。
五人が言った言葉だった。
リバファンクラブ。
その一番から五番を自分たちにください。
言われた時、三人とも一瞬、反応に困った。
かわいい。
嬉しい。
ありがたい。
でも、少し違う。
リバクラブという言葉は、ファン全体の場所に近い。
リバクルーがすでにいる。
会場で声を返す人。
配信でコメントする人。
切り抜きを作る人。
グッズを身につける人。
曲を生活に持ち帰る人。
その人たち全部が、もうリバクラの一部だった。
だから、五人だけを「リバクラブ」と呼ぶと、少しずれる。
wataも、そこは分かっている顔をした。
「リバクラブは、広いよな」
mcRCが頷く。
「うん。ファン全体っぽい」
EGUIが言う。
「五人だけにすると、囲い込みみたいに見える」
wataはおにぎりを置いた。
「そう。それは違うんよ」
彼はマーカーを手に取った。
「リバクルーはもうある」
ホワイトボードに書く。
リバクルー
「これは客席側というか、リバクラを一緒に作ってくれる人たち」
mcRCが頷く。
「うん」
wataは、その下にもう一つ書いた。
リバクラブ
「これは、言葉としては好き。でも五人限定にするには広すぎる」
EGUIが頷く。
「ファンクラブ感がある」
「そう」
wataは少し考えてから、今度は横に大きく書いた。
リバックライン
mcRCは、その文字を見た。
「リバックライン」
EGUIも、少しだけ眉を上げた。
「バックライン?」
「そう」
wataはマーカーのキャップを親指で回しながら言った。
「音楽の現場でいうバックラインって、演奏者の後ろにある機材とか支えるものやん。アンプとかドラムとか、ステージの土台側」
mcRCが頷く。
「うん」
「それをリバクラに寄せて、リバックライン」
wataは、少し照れたように笑った。
「前じゃない。上でもない。下に敷くっていうより、後ろと横から支える線」
EGUIは、ホワイトボードを見たまま言った。
「悪くない」
wataが振り向く。
「珍しく素直」
「意味が合ってる」
「もっと褒めていいで」
「調子に乗るからやめる」
mcRCは、しばらくその文字を見ていた。
リバックライン。
リバクラの後ろにある線。
ステージの奥にある支え。
観客からは見えにくいけれど、音が鳴るために必要な場所。
でも、裏に隠れて消えるのではない。
線として、ちゃんとある。
名前がある。
「いいな」
mcRCが言った。
wataの表情が少し明るくなる。
「やろ」
「うん」
mcRCは、ホワイトボードに近づいて、リバックラインの横に小さく書き足した。
Reverse Crown Backline
wataが覗き込む。
「英語入れた」
「入れた」
EGUIが言う。
「説明しやすい」
mcRCは頷いた。
「それに、リバクラブを否定しなくて済む」
wataが首をかしげる。
「どういうこと?」
「リバクラブは、あの子たちが言ってくれた気持ちとして残す」
mcRCは、ホワイトボードにもう一つ線を引いた。
リバクラブ:好きで集まる場所
リバクルー:一緒に声を返す仲間
リバックライン:活動を横から支える実務線
EGUIが、珍しくすぐに頷いた。
「分けると分かりやすい」
wataも、腕を組んで少し黙った。
「それ、いい」
mcRCはマーカーを置いた。
「五人には、リバックラインでどうかって聞こう」
wataが言う。
「リバクラブ一番から五番の話は?」
「それは、それで大事にする」
「どうやって?」
mcRCは少し考えた。
「リバックラインの初期メンバー」
EGUIが言う。
「番号は?」
wataが即座に反応した。
「そこよ。昨日から揉めてるやつ」
mcRCはスマホを手に取った。
「聞いてみるか」
「今?」
「今」
wataが少し笑う。
「夜の八時半に“番号どうする?”って元部長から来るの、まあまあ怖いな」
EGUIが言う。
「でも待ってると思う」
mcRCは、メッセージ画面を開いた。
Kateとのやり取りの下には、昨日の言葉が残っている。
横に行きます。
mcRCは少しだけ息を吐いて、文章を打った。
⸻
昨日の話を三人で整理しました。
「リバクラブ」という言葉、すごく嬉しかったです。
ただ、リバクルー全体との関係も考えて、五人の実務サポートチーム名としては、
リバックライン
はどうかと思っています。
Reverse Crown Backline。
前に出るのではなく、後ろと横から活動を支える線、という意味です。
リバクラブという言葉は、好きで集まる場所として残したいです。
あと、一番から五番の件ですが、まだ揉めていますか。
⸻
送信。
既読は、すぐについた。
wataが机に肘をつく。
「早」
EGUIが静かに言う。
「待機してる」
「怖いくらい優秀」
mcRCは画面を見たまま固まった。
返信が来る。
Kate。
ありがとうございます。
いったん五人で確認します。
続けて、Miwa。
最高です。
リバックライン、めちゃくちゃ好きです。
Nina。
バックラインって裏方感あるけど、消えてない感じがいいです。
Sara。
用語としても説明しやすいです。
リバクルー全体と混同しにくいのも良いと思います。
Yui。
議題:チーム名
結論:リバックライン案、採用希望
wataが笑った。
「Yuiちゃん、議事録で返してくるの強いな」
EGUIが言う。
「助かる」
「お前、Yuiちゃん好きやろ」
「作業が正確」
「それは好きやん」
mcRCは画面をスクロールした。
またKateから来る。
番号の件は、解決していません。
wataが声を出して笑った。
「そこだけ未解決!」
続けてMiwa。
私は一番を希望します。
理由は、最初に言い出したからです。
Nina。
異議あり。
言い出した人が一番理論は危険です。
Sara。
法的には問題ありませんが、感情面の対立が予想されます。
Yui。
抽選案、年齢順案、役割順案、五十音順案が出ています。
すべて反対意見あり。
EGUIが、少しだけ口元を緩めた。
「揉め方が平和やな」
wataが言う。
「いや、本人たちは本気やで」
mcRCは笑いながら、返信を打った。
⸻
番号は急がなくて大丈夫です。
まずは、五人全員を初期リバックラインとして考えています。
一番から五番は、いつかちゃんと決めましょう。
もしくは、決めないまま揉め続けるのも文化かもしれません。
⸻
送信してから、mcRCは少しだけ後悔した。
「揉め続けるのも文化」は余計だったかもしれない。
案の定、すぐに返信が来た。
Nina。
文化化されました。
Miwa。
じゃあ揉めていいんですね?
Sara。
揉め方のルールを決めます。
Yui。
議題追加:番号で揉める時のルール
Kate。
すみません。
でも、楽しそうです。
wataは机に伏せて笑っていた。
「もう強い。運営チームが番号で揉めるルール作り始めた」
EGUIも、少しだけ笑っている。
mcRCは、画面を見たまま呟いた。
「……助かるな」
その声は、小さかった。
でも、二人には聞こえた。
wataが笑いを引っ込める。
「うん」
EGUIも頷いた。
「助かる」
そこから、少しだけ部屋が静かになった。
笑いのあとに来る静けさだった。
さっきまで軽く見えていたやり取りの奥に、ちゃんと支えがあった。
彼女たちは楽しんでいる。
でも、ふざけているだけではない。
言葉の扱いを見ている。
リバクルー全体との関係を見ている。
チーム名の意味を見ている。
番号ひとつにも、感情の扱いがあることを分かっている。
mcRCは、ホワイトボードの文字を見た。
リバックライン
「これで、一つ決まった」
wataが頷く。
「うん」
EGUIが言う。
「次は、投げる話やな」
その一言で、空気が変わった。
投げる話。
それは、前職勢に頼る話ではなかった。
今度は、新川に投げる話だった。
机の端には、まだ新川から届いた簡易報告書がある。
単独ライブの終演後、彼は細かい報告を残してくれていた。
導線。
退館。
物販。
忘れ物。
トラブル対応。
スタッフ所感。
客席の反応。
次回以降の改善点。
その文面は、いつもの新川らしかった。
熱を褒めるだけでは終わらない。
良かった点と、危なかった点を分ける。
感動と運営を混ぜない。
けれど、冷たいわけではない。
ちゃんと、次に繋げるための報告だった。
wataは、その報告書を手に取った。
「新川さんに、どこまで話す?」
mcRCは椅子に座り直した。
「全部」
EGUIが見る。
「全部?」
「全部と言っても、未発表曲とか内部の細かい感情じゃない」
mcRCは、ホワイトボードの空いている場所に新しく書いた。
今抱えている問題
その下に、ひとつずつ書く。
三人だけでは事務が回らない
前職勢=リバックラインに一部任せる
でもライブ運営は専門外
今後、小箱や外部ライブをどう組むか分からない
配信と現場ライブの比率
移動・宿泊・箱選び・契約条件
曲間の流れが切れる問題
DJが必要かもしれない
wataは最後の一行を見て、少し黙った。
「DJ」
EGUIもその文字を見る。
「いつか欲しいって言ってたな」
mcRCは頷いた。
「言ってた」
最初は、軽い話だった。
曲と曲の間が止まる。
音源を流して、曲が終わって、拍手が来て、MCをして、次の曲に行く。
それは悪くない。
でも、単独ライブをやって分かった。
流れを作るには、曲順だけでは足りない。
一曲ずつの意味はある。
ORDERで入口を作る。
RUN ITで走らせる。
ATTACKで撃つ。
TAKE OFFで飛ばす。
THAT SEATで沈める。
Unseen Handsで泣かせる。
BBQで笑わせる。
リバ点呼で存在確認する。
SMALL WINで帰す。
その流れは、三人の中にはある。
リバクルーにも、かなり伝わっている。
でも、初見客や外部イベントでは、曲ごとに景色が切れる。
一曲終わる。
拍手。
少し止まる。
説明。
次の曲。
その間に、熱がこぼれることがある。
wataは、指で机を叩いた。
「DJいたら、そこ繋げられるんかな」
mcRCが頷く。
「たぶん」
EGUIが言う。
「でも、俺らは分からん」
「そう」
mcRCは、新川の報告書を見た。
「だから、新川さんに聞く」
wataが少し不安そうに言う。
「イベント会社の人に、DJ欲しいかもって相談してええんかな」
EGUIが返す。
「現場の相談やろ」
「そうやけど」
wataは腕を組む。
「俺ら、音楽の中身の話は自分たちで決めるって言ったばっかやん」
mcRCは頷いた。
「うん」
「で、DJって音楽の中身に近い」
「近い」
「そこを新川さんに投げるのは、どうなん?」
mcRCは、その問いをすぐに否定しなかった。
wataの言う通りだった。
新川はイベント会社の人間だ。
ライブを形にするプロ。
導線、客席、音響、会場、時間、スタッフ、契約。
そこは間違いなく頼れる。
でも、音楽そのものはリバクラの領域だ。
三人の声。
三人の景色。
三人の感情。
曲の芯。
そこを外に渡すつもりはない。
だから、線引きがいる。
mcRCは、ホワイトボードに新しく書いた。
相談するのは、音楽の中身ではなく、現場での届け方
EGUIが頷いた。
「それならいい」
wataも、少しだけ表情を緩めた。
「届け方」
mcRCは続ける。
「DJを入れるかどうかを決めてください、じゃない」
「うん」
「俺らが今、こういう問題を感じてます」
「うん」
「現場として、どう見えますか」
「うん」
「必要なら、詳しい人を紹介してもらえますか」
「うん」
「そこまで」
EGUIが言う。
「判断は俺ら」
mcRCは頷いた。
「そう」
wataは、しばらくホワイトボードを見ていた。
それから言った。
「なら、投げられる」
mcRCは、ノートパソコンを開いた。
新川へのメール文面を作る。
wataがすぐ横から覗こうとして、EGUIに止められた。
「見るな」
「いや、今回は業務メールやん」
「それでも本人が送る」
「厳しい」
mcRCは苦笑した。
「別に見てもええけど、あとで整える」
wataはすぐに椅子を寄せた。
「見る」
EGUIも、結局少し近づいた。
「見るんかい」
「内容確認」
「素直じゃないな」
三人は、画面を囲んだ。
mcRCは、ゆっくり打ち始めた。
⸻
新川様
お世話になっております。
Reverse CrownのmcRCです。
先日の単独ライブでは、本当にありがとうございました。
報告書も確認しました。
感情面だけでなく、導線・退館・物販・忘れ物・トラブル対応まで整理していただき、改めて自分たちだけでは見えていなかった部分が多かったと感じています。
今日は、今後の活動について相談があります。
単独ライブ後、三人で話し合い、音楽以外の作業がかなり増えていることを整理しました。
物販、告知、問い合わせ、発送、提出物、外部連絡などについては、信頼できるメンバーに一部サポートしてもらう方向で動き始めています。
チーム名は仮ですが、リバックラインと呼ぶ予定です。
Reverse Crown Backline。
前に出るのではなく、後ろと横から活動を支える実務線、という意味です。
ただ、それでも自分たちはライブ運営の専門家ではありません。
今後、配信だけでなく、現場ライブも少しずつ増やしていきたいと考えています。
ただ、その場合に、以下の問題を感じています。
・小箱や外部ライブをどう選ぶべきか
・移動や宿泊、会場条件をどこまで現実的に見るべきか
・配信と現場ライブの比率をどう考えるべきか
・物販やリバクルーの導線をどう作るべきか
・曲間の流れが一曲ごとに止まりやすいこと
・今後のライブでは、DJのような存在が必要になるのか
最後の点については、音楽の中身を外に任せたいという意味ではありません。
自分たちの曲の芯は、これまで通り三人で決めます。
ただ、現場での届け方として、曲と曲をどう繋ぐか、ライブ全体の流れをどう見せるかについて、自分たちだけでは判断材料が足りません。
一度、お時間をいただいて相談できないでしょうか。
よろしくお願いいたします。
Reverse Crown
mcRC
⸻
wataは、読み終えてから言った。
「ちゃんとしてる」
EGUIも頷く。
「線も書いてある」
mcRCは画面を見たまま、少しだけ息を吐いた。
「送る?」
wataが言う。
「送ろう」
EGUIも言った。
「送る」
mcRCは、送信ボタンにカーソルを合わせた。
一瞬だけ、止まる。
新川に相談する。
それは、また一つ外へ出すということだった。
前職勢に音楽以外の仕事を投げた。
今度は、ライブの現場について、新川に相談する。
自分たちだけで抱えない。
その判断は、正しい。
正しいはずだ。
でも、どこかで少し怖い。
人に頼るたびに、リバクラが自分たちだけのものではなくなっていく気がする。
けれど、それはたぶん違う。
自分たちだけで握りしめて、壊れる方が違う。
横に来る人を増やす。
そのうえで、三人の声を守る。
それが、続けるための作り直しだった。
mcRCは、送信した。
画面に、送信済みの表示が出る。
wataが小さく拍手した。
「投げた」
EGUIが言う。
「投げたな」
mcRCは、椅子にもたれた。
「投げた」
三人は、しばらく黙っていた。
通知はすぐには来なかった。
新川は、たぶん仕事中だ。
あるいは現場にいる。
あるいは別のイベントの片づけをしている。
彼なら、すぐに感情で返すことはしない。
読んで、整理して、必要な返事をする。
そういう人だ。
wataは、机の上のおにぎりをようやく手に取った。
「なあ」
mcRCが見る。
「何」
「リバックラインできて、新川さんにも投げて」
「うん」
「俺ら、なんか急に活動者っぽくなってきたな」
EGUIが言う。
「前から活動者やろ」
「いや、そうなんやけど」
wataは、おにぎりの包装を開けながら言った。
「前は、曲作って配信して、ライブして、うおーって感じやった」
「今は、資料、線引き、実費、情報管理、バックライン、外部相談」
彼は少し笑った。
「急に現実がスーツ着て入ってきた」
mcRCも笑った。
「スーツではないやろ」
EGUIが言う。
「白ポロかもしれん」
その一言で、三人とも少し笑った。
白ポロ。
サングラス。
腕を組んで現場を見る男。
新川。
彼のことを思い浮かべると、少しだけ背筋が伸びた。
頼れる人。
でも、甘やかす人ではない。
熱を分かる。
でも、熱だけでは進めないことも知っている。
次に会う時、たぶんまた現実を突きつけられる。
それでいい。
リバクラは、もう一度現実を見る必要がある。
wataは、おにぎりを一口食べて言った。
「で、リバックラインの最初の仕事って何になるん?」
mcRCは資料を見た。
「まずは、今の問い合わせ整理と物販残数の確認」
EGUIが言う。
「発送予定も」
wataが少し嫌そうな顔をする。
「うわ、現実」
mcRCが笑う。
「でも、それを分けるために始めたんやろ」
「そうやけどさ」
wataは、ふとホワイトボードを見る。
リバックライン
「でも、いいな」
mcRCが見る。
「何が」
「名前がつくと、存在する感じがする」
EGUIが頷く。
「見える」
「そう」
wataは、口の中のご飯を飲み込んでから言った。
「見えない支えに、名前がついた」
その言葉で、三人は少し黙った。
Unseen Hands。
見えない手。
あの曲を歌った時、彼らは見えない支えにありがとうと言った。
掃除のおばちゃん。
事務の人。
空気を整える人。
誰にも呼ばれない手。
誰にも見られない支え。
でも、今度は自分たちの活動の中に、その手が生まれようとしている。
だからこそ、見えないままにしてはいけない。
リバックライン。
名前をつける。
役割を決める。
時間を記録する。
お金を曖昧にしない。
無理を言えるようにする。
それは、ただの運営整理ではなかった。
リバクラが、自分たちの歌ったことを、自分たちの活動で守るための線だった。
mcRCは、ホワイトボードの下に小さく書いた。
見えない支えを、見える線にする
wataは、それを見て言った。
「それ、かなりええな」
EGUIも静かに頷く。
「今日の答えやな」
mcRCはマーカーを置いた。
その時、スマホが鳴った。
三人の視線が一斉に動く。
新川からだった。
mcRCは、画面を開いた。
短い返信。
ご相談内容、確認しました。
一度、直接話しましょう。
そのうえで、ひとつ提案があります。
これからのReverse Crownには、DJがいた方がいいかもしれません。
紹介したい人がいます。
wataが、画面を覗き込んだまま固まった。
「……来たな」
EGUIも、静かに画面を見ている。
mcRCは、スマホを持った手を少しだけ下げた。
DJ。
紹介したい人。
その言葉だけで、部屋の空気が変わった。
さっきまで、リバックラインの話をしていた。
活動を横から支える線ができた。
そして今度は、音そのものの流れを変えるかもしれない人の名前が、まだ姿も見せないまま、夜の画面に現れた。
wataは、ゆっくり言った。
「いつか欲しいね、って言ってたやつやん」
EGUIが頷く。
「来るかもしれんな」
mcRCは、画面を見つめたまま、しばらく何も言わなかった。
やっと一つ、形を作ったと思った。
前職勢がリバックラインになる。
音楽以外を少しずつ分ける。
三人の声を守る。
その直後に、次の線が現れる。
曲と曲の間。
景色と景色の間。
リバクラの今までと、これからの間。
そこを繋ぐかもしれない存在。
mcRCは、小さく息を吐いた。
「……新川さんに、会おう」
wataが頷く。
「会おう」
EGUIも言った。
「行こう」
リバクラボラトリーの外で、夜の街が静かに流れていた。
車のライト。
コンビニの白い看板。
仕事帰りの人の影。
湿った風。
その中で、リバクラはまた一つ、抱えていたものを外へ出した。
リバックラインという名前で、支えを見える線にした。
そして、次の問題を、新川へ投げた。
三人だけで全部を抱えない。
でも、三人の声は手放さない。
その線を握ったまま、彼らは次の扉を見る。
まだ名前も知らないDJが、その向こうにいる。




