3-1-2 私たちも手伝わせてください
mcRC「この小説の歌は実際に聴けるから、聴きながら読んでみてくれよな」
聴く場合はこちら:
コピペしてブラウザに貼り付けて、、、。とぶぞ。
feel
https://youtu.be/vIFok9cHBFo?si=BltKDciOFT-jbGts
that’s live with DJ BEEF
https://youtu.be/-28obcZFELY?si=e0UzxlgkXGEdppOy
from now
https://youtu.be/HMrHGZu5vGM?si=68GTUXr0zvZq1b0W
no easy peace with DJ BEEF
https://youtu.be/tD71bFU1yBA?si=NjinWgSexnojMWrK
after dark
https://youtu.be/YYKz7xZNQ98?si=bLTnhd_RQNudNToF
hanz on deck
https://youtu.be/00k3jQ3UZXk?si=Hlg_DZCcdBnAZ4cR
リバクラチャンネル 全曲、過去曲
https://youtube.com/@revecro?si=Qj6kLxP2cwp1GXFX
約束の時間より、三十分早く着いてしまった。
リバクラボラトリーの時計は、夜の八時を少し回ったところだった。
窓の外には、仕事帰りの街が残っている。
ビルの隙間を通る車のライト。
コンビニの白い看板。
横断歩道で立ち止まる人の影。
少し湿った夜風。
ライブ翌々日の熱は、まだ完全には抜けていない。
机の上には、昨日からほとんど変わらない景色があった。
売上表。
物販残数。
発送予定リスト。
新川から届いた簡易報告書。
客席アンケート。
リバ点呼のカード。
READYタオルのサンプル。
赤ペン。
養生テープ。
黒いマーカー。
そして、のびきったカップ麺の容器。
wataが、それを見て眉をひそめた。
「これ、まだ置いてるん?」
mcRCはノートパソコンを開きながら言った。
「捨てるタイミング逃した」
「タイミングっていうか、ただ忘れただけやろ」
EGUIが容器を手に取り、静かにゴミ袋へ入れた。
「終わったものは片づけろ」
wataが肩をすくめる。
「リバクラーメン第一号、廃棄」
「文化にするな」
「もうなってる」
「だから責任を押しつけるな」
そのやり取りに、mcRCは少しだけ笑った。
笑える。
けれど、今日は笑うためだけに集まったわけではない。
机の中央には、昨日ホワイトボードから書き写したメモが置かれている。
音楽
曲作り。歌詞。リハ。配信。ライブ構成。三人だけの話し合い。
音楽以外
物販。発送。問い合わせ。告知。切り抜き確認。音源提出。権利確認。会場連絡。日程調整。精算。忘れ物対応。ファン企画。
その右側が、どう見ても多すぎた。
wataは椅子に腰を下ろし、メモを見てから、深く息を吐いた。
「これ、やっぱり右側だけで別の会社やな」
mcRCは頷いた。
「だから今日、話す」
「前職勢と」
「うん」
EGUIは、机の上に水を置いた。
「五人来るんやな」
mcRCはスマホを確認した。
「来る。たぶん、時間ぴったり」
wataが少し笑う。
「元部長の元部下、時間に厳しそう」
「俺のせいみたいに言うな」
「実際、そういうの言ってそうやん。五分前行動とか、相手の時間を奪うなとか」
mcRCは黙った。
wataが目を細める。
「言ってた顔やな」
EGUIが短く言った。
「言ってたな」
mcRCは観念したように息を吐く。
「……言ってた」
「ほら」
「でも、あれは大事やろ」
「そうやけど、元部下が全員五分前に来たら、部長語録の影響やなってなる」
「やめろ。今日はそういう場じゃない」
wataは、少しだけ姿勢を正した。
茶化してはいる。
でも、彼も分かっている。
今日は、ただ懐かしい人たちと会う日ではない。
リバクラが、三人だけでは抱えきれなくなった現実を、初めて外へ出す日だった。
mcRCは、ノートパソコンの画面を閉じた。
それから、少しだけ指先で机を叩いた。
一定のリズム。
wataがそれを見て言う。
「考えすぎてる」
「考えるやろ」
「まあな」
EGUIが、mcRCの方を見る。
「嫌なら断っていい」
mcRCは首を横に振った。
「嫌じゃない」
「助かるんやろ」
「助かる」
「なら、受ける条件を決めればいい」
EGUIの言葉は、今日も短い。
けれど、置き方が丁寧だった。
mcRCはその言葉を受け取る。
「うん」
wataが、メモの右側を指で叩いた。
「俺は正直、助かるなら助かりたい」
「それはそう」
「だって、発送確認しながら韻踏むの、無理やで」
EGUIが少しだけ眉を上げた。
「踏めるやろ」
wataが食い気味に返す。
「踏めるけど、踏みたくない韻がある」
「発送と発想か」
「やめろ。今それ言おうとしてた」
mcRCが吹き出した。
緊張が少しほどける。
wataはその空気を見て、少しだけ声を落とした。
「でもさ」
mcRCが見る。
「これ、頼んだら、もうただのファンじゃなくなるやん」
部屋が少し静かになった。
「関わる側になる」
wataは続ける。
「俺らのこと好きで来てくれてる人たちに、作業頼むって、ちょっと重いやろ」
EGUIが頷く。
「ただ好きでいてくれるのと、裏に入るのは違う」
mcRCは、机の端に置いた赤ペンを見た。
前職勢が、ライブで胸ポケットに挿していた赤ペン。
CALL ME OUTで刺されて、笑って、THAT SEATで泣いて、Unseen Handsで何度も目元を拭っていた五人。
彼女たちは、ただのファンではない。
でも、仕事相手に戻るわけでもない。
元部下。
リバクルー。
現職で実務能力のある人たち。
その全部が重なっている。
だから簡単ではなかった。
mcRCは、ゆっくり言った。
「だから、最初に線を引く」
「線?」
wataが聞く。
「何を頼むか。何は頼まないか。お金はどうするか。断れるか。いつでも抜けられるか。音楽に口を出すか出さないか」
EGUIが続ける。
「個人情報も」
「うん」
「客との距離も」
「うん」
wataが、椅子の背もたれに身体を預けた。
「元部長、完全に会議モード」
「今は会議や」
「言い切った」
その時、インターホンが鳴った。
三人が同時に顔を上げた。
時計を見る。
約束の五分前。
wataが小さく笑った。
「来た」
mcRCは立ち上がった。
一瞬だけ、息を整える。
ステージに出る前とは違う緊張だった。
客席に言葉を届ける緊張ではない。
過去に自分の下で働いていた人たちと、今の自分の活動をつなぐ緊張。
ドアへ向かう足音が、少し硬い。
wataが後ろから言った。
「部長、顔」
mcRCは振り返った。
「部長って呼ぶな」
「まだ呼んでない」
「今、呼んだ」
EGUIが静かに言った。
「顔は少し部長や」
mcRCは、諦めたように息を吐いた。
「……直す」
「直せるんや」
「知らん」
ドアを開ける。
そこに、五人が立っていた。
夜の廊下の蛍光灯が、彼女たちの後ろから淡く落ちている。
ライブの時とは違う。
あの時は、READYタオル、赤ペン、少し泣いた目元、終演後の熱をまとっていた。
今日は、仕事帰りの顔だった。
ジャケットを腕にかけた人。
髪をまとめ直している人。
小さなノートパソコン用バッグを持っている人。
クリアファイルを抱えている人。
スマホにメモを出したままの人。
けれど、五人の目には、同じ温度があった。
緊張。
期待。
そして、迷惑にならないようにしたいという、少し遠慮した光。
先頭に立っていた女性が、丁寧に頭を下げた。
「お時間いただき、ありがとうございます」
Kateだった。
落ち着いた声。
短めに整えた髪。
派手な装いではないが、姿勢がいい。
手に持った薄いファイルの角が、きれいに揃っている。
彼女は前職では、外部との連絡や調整を任されることが多かった。
誰に何を伝え、どこまで出し、どこから先は確認を取るか。
その線を見誤らない人だった。
mcRCは、少しだけ頭を下げた。
「こちらこそ。来てくれてありがとう」
その言い方に、五人のうち一人が小さく反応した。
Miwaだった。
明るい目元。
よく動く表情。
バッグには、物販サンプルでも入っていそうな大きめのポーチがついている。
彼女は物販企画の人だ。
ただ売るだけではなく、「誰が、どんな気持ちで、どこで使うか」を想像するのがうまい。
可愛い、便利、記念になる、買ったあと話したくなる。
そういう角度を見つけるのが早い。
Miwaは、口を開きかけて、Kateに目で止められた。
wataがその一瞬を見逃さない。
「今、絶対なんか言おうとしたやろ」
Miwaは口元を押さえた。
「言ってません」
「嘘つけ」
Kateが静かに言う。
「Miwa、まだです」
「はい」
wataは笑った。
「もう役割出てる」
その後ろで、Ninaが小さく肩を揺らした。
Ninaは、告知販促担当。
髪は肩より少し長く、表情は柔らかい。
でも、スマホの画面を見ている時の集中力が違う。
投稿のタイミング。
見出しの一文。
どの切り抜きを先に出すか。
どんな言葉なら押しつけにならず届くか。
そういう判断が速い。
彼女は、入室しながら部屋を見渡し、壁のホワイトボードに残った「音楽」「音楽以外」の文字を見た。
そして、少しだけ目を細めた。
見ている。
もう状況を読もうとしている。
その隣にSaraがいた。
Saraはクリアファイルを抱えている。
動きは静かだが、視線が細かい。
机の上の資料、パソコン、紙袋、赤ペン、ゴミ袋に入ったカップ麺の容器まで、一度ずつ見た。
彼女は、版権・法律・音源提出に近い実務をしている。
言葉を軽くしない人だ。
「大丈夫だと思います」ではなく、「ここまでは確認済みです」「ここから先は要確認です」と分ける。
安心を作るために、曖昧なものを曖昧なままにしない。
最後にYuiが入ってきた。
Yuiは小さめのメモ帳を持っている。
一番静かに見える。
けれど、職場では庶務雑務と実務整理の要だった。
誰が何を持っているか、何が不足しているか、いつまでに何を返すべきか。
人が見落とす小さな穴を、先に塞ぐ。
彼女は椅子の数を見て、すぐに言った。
「椅子、三脚足りません。折りたたみ出しますか」
mcRCが一瞬止まった。
「あ、うん。出す」
wataが小声で言う。
「早」
EGUIも頷く。
「早い」
Yuiは少しだけ照れた。
「すみません。癖で」
mcRCは笑った。
「いや、助かる」
その一言を聞いて、Yuiの表情がほんの少し緩んだ。
七人分の椅子が並ぶ。
机の片側にリバクラ三人。
向かいに前職勢五人。
人数の比率だけで言えば、前職勢の方が多い。
wataがその状況を見て、真顔で言った。
「なんか、面接される側みたいになってない?」
Miwaがすぐ言いかける。
「大丈夫です、採用です」
Kateが止める。
「Miwa」
「はい」
wataが笑った。
「採用なんや」
Saraが淡々と言った。
「まだ条件確認前です」
「急に現実」
Ninaが、にこっと笑う。
「でも、気持ちとしては採用です」
mcRCは、少し頭を抱えた。
「始まる前から圧がある」
EGUIが言う。
「愛の圧やな」
wataがEGUIを見る。
「お前がそういう言い方するん珍しいな」
「見れば分かる」
前職勢五人が、少しだけ笑った。
その笑いで、部屋の空気がやわらぐ。
Kateが、ファイルを机の上に置いた。
「改めて、今日はお時間ありがとうございます」
「こちらこそ」
mcRCが返す。
Kateは、一度だけ他の四人を見た。
四人が小さく頷く。
それから、彼女はまっすぐ三人を見た。
「私たちも、手伝わせてください」
その言葉は、昨日DMで読んだものと同じだった。
でも、声で聞くと違った。
文字よりも、ずっと体温がある。
wataは、少しだけ腕を組んだ。
EGUIは黙っている。
mcRCは、すぐには返事をしなかった。
Kateは、その沈黙を急かさない。
「勢いだけで言っているわけではありません」
彼女は続けた。
「ライブを見て、感動しました。泣きました。笑いました。叫びました。それは本当です」
Miwaが小さく頷く。
Ninaも、目を少し伏せる。
「でも、今日ここに来たのは、ファンとして騒ぎたいからではありません」
Kateの声は、落ち着いていた。
「単独ライブのあと、Reverse Crownの周りで起きていることを、少しだけ外から見ました」
「問い合わせ」
「物販」
「発送」
「コメント」
「切り抜き」
「次のライブの相談」
「ファン企画」
「権利確認」
「外部連絡」
ひとつずつ、彼女は並べた。
mcRCが昨日ホワイトボードに書いた右側と、ほとんど同じだった。
wataが思わず言った。
「見えてるやん」
Kateは少しだけ笑った。
「見えます」
Saraが補足した。
「正確には、全部は見えていません。外から見える範囲だけです。ただ、見える範囲だけでも、かなり作業が増えていると思いました」
Ninaも続ける。
「SNSの反応速度も上がっています。今のままだと、拾いたい声を拾う時間より、流れていく情報を追う時間の方が増えるかもしれません」
Miwaが身を乗り出す。
「物販も、今の熱のままだと再販希望が増えます。嬉しいんですけど、在庫を読み違えると大変です。余ってもつらいし、足りなくてもつらいです」
Yuiがメモを見ながら静かに言う。
「発送と問い合わせは、数が増えるほどミスの確率も上がります。誰か一人が頑張る形にすると、その人から崩れます」
部屋が静かになった。
wataは、ゆっくりmcRCを見た。
mcRCは、五人を見ていた。
その顔に驚きはない。
正確には、驚いているが、納得の方が大きい。
知っていた。
この人たちは、こういうことを言える。
感情だけで飛び込んでくる人たちではない。
今の部署で、それぞれの実務をすでにやっている。
その実務の中で結果を出している。
だから、見える。
mcRCが前職で上にいた時から、彼女たちはそうだった。
すごい子たちだと思っていた。
ただ、そのすごさを今、リバクラの前で改めて見ると、少しこわいくらいだった。
wataが、ぽつりと言った。
「いや、君ら、ガチのプロじゃん……」
Miwaが小さく笑った。
「プロではないです」
Saraがすぐに言う。
「業務として扱っている範囲はあります」
wataがSaraを見る。
「言い方がプロ」
EGUIが頷いた。
「プロの言い方やな」
Saraは少しだけ困ったように眉を下げた。
「そういう意味ではなくて」
Kateが柔らかく受ける。
「会社のものは一切使えません。情報も、設備も、取引先も、仕組みも、持ち出せません」
mcRCが頷く。
「それは当然」
「はい。なので、全部一からになります」
Kateは、ここで少しだけ声を強くした。
「それでも、考え方と経験は使えます」
Ninaが続ける。
「告知の組み方」
Miwa。
「物販の作り方」
Sara。
「確認すべき権利や提出物」
Yui。
「作業の分け方と抜け漏れ防止」
Kate。
「外部との連絡、日程調整、距離感」
五人の言葉が、順番に並ぶ。
それは、まるで五人それぞれの担当紹介だった。
mcRCは、静かに息を吐いた。
「……助かる」
その言葉に、五人の表情が少し明るくなる。
でも、mcRCはすぐに続けた。
「助かる。けど、簡単にはお願いできない」
Kateは頷いた。
「そう言われると思っていました」
wataが小声で言う。
「読まれてる」
mcRCは、視線だけでwataを止めた。
そして、Kateを見る。
「君たちも仕事してる」
「はい」
「昼、働いてる」
「はい」
「俺たちと同じ」
Kateは、少しだけ笑った。
「はい。だから、夜だけです」
wataが即座に反応する。
「同じですね」
Miwaが笑いをこらえきれなかった。
Ninaも肩を揺らす。
mcRCは少し眉を寄せた。
「笑いごとじゃない」
Kateは、笑わなかった。
「はい。笑いごとではありません」
その返しで、部屋がまた少し静かになる。
Kateは続ける。
「私たちも無理な時は無理と言います」
Yuiが頷いた。
「言います。言わないと、結局ご迷惑になるので」
Ninaが言う。
「できる範囲とできない範囲を、その都度出します」
Saraが続ける。
「線を決めずに始めるのは危ないと思っています」
Miwaも、いつもの明るさを少し抑えて言った。
「楽しいからやりたい、だけで走ったら、たぶん続きません」
mcRCは、五人を見た。
思ったより、ずっと冷静だった。
いや、熱はある。
それは分かる。
でも、その熱を現実の作業に落とそうとしている。
そこが彼女たちらしかった。
「お金のこともある」
mcRCが言った。
Kateが頷く。
「はい」
「働いてもらって、無償はだめ」
Miwaがすぐに言いそうになって、今度は自分で止めた。
Kateが代表して言う。
「その件ですが」
mcRCは少し身構えた。
Kateはファイルを開いた。
そこには、簡単なメモが入っていた。
提案
協力範囲
費用
リバクラブ案
wataが目を細める。
「資料あるん?」
Ninaが少し得意そうに言う。
「あります」
EGUIが短く言う。
「準備してきたな」
Yuiが頷く。
「はい」
Kateは、まず一枚目を出した。
「私たちは、最初からお金をいただく前提では考えていませんでした」
mcRCが口を開きかける。
Kateは、先に手で制した。
「ただし、無償で働き続ける形が良くないことも分かっています」
mcRCは黙った。
Kateは続ける。
「なので、段階を分けたいです」
Saraが補足する。
「初期は、仕組みづくりと整理。継続的な作業が発生する段階で、協力費や実費の扱いを明確にする」
Yuiがメモを見る。
「交通費、発送に使う備品、通信費、作業時間が大きくなる場合の協力費などは、最初から記録します」
Miwaが言う。
「物販の利益から一定額を運営補助費に回す形も、後で検討できます」
Ninaが続ける。
「ただ、最初からお金の話だけにすると、動き出しにくいと思いました」
mcRCは、ゆっくり言った。
「……ちゃんと考えてる」
Kateは、ほんの少しだけ表情を緩めた。
「部長に、そう教わりました」
その言葉が、静かに部屋へ落ちた。
wataが顔を上げる。
「出た」
EGUIも少しだけ目を細める。
mcRCは、動けなかった。
Kateは慌てて言い直す。
「あ、すみません。今はmcRCさんですね」
Miwaが小さく笑う。
「もう遅い」
Ninaが言う。
「言っちゃった」
Yuiは真面目な顔で頷く。
「出ました」
wataが、待ってましたと言わんばかりに身を乗り出した。
「なに、まだあるの? 部長語録」
mcRCが低い声で言う。
「掘るな」
「掘るやろ」
「掘るな」
Miwaが、我慢できなくなったように笑った。
「あります」
mcRCが頭を抱える。
「Miwa」
「すみません。でも、あります」
wataが嬉しそうに手を叩いた。
「ほら!」
EGUIが静かに聞く。
「どんな言葉ですか」
mcRCがEGUIを見る。
「お前も聞くんか」
「必要やろ」
「何に」
「この人たちの判断基準を知るのに」
言われてみれば、その通りだった。
これは昔話ではない。
彼女たちがどう考えて、なぜ今日ここにいるのか。
その根にあるものを知る話だった。
Kateは、少しだけ姿勢を正した。
「相手の立場で考える」
Ninaが続ける。
「相手が求めることを想像する」
Yui。
「距離感を大切にする」
Miwa。
「本気で本音でぶつかる」
Sara。
「伝わらなければ、伝わらない。だから伝える」
五人の声は、騒がしくなかった。
まるで暗記した標語を読み上げているわけでもない。
それぞれが、自分の中に残っている言葉を、少しずつ置いていくようだった。
wataは、最初こそ笑うつもりでいた顔を、途中で変えた。
EGUIも、さっきより深く五人を見ている。
mcRCだけが、少しだけ視線を落としていた。
自分が昔言った言葉。
忙しい現場で。
誰かが泣きそうだった日に。
誰かがクレーム対応で固まった日に。
誰かが自分を責めすぎた日に。
誰かが相手のせいにしすぎた日に。
その時々に、必要だと思って言った言葉。
それが、まだ残っている。
しかも、今、自分に戻ってきている。
Kateが、静かに言った。
「苦しい時に教えてもらった言葉です」
Miwaも頷く。
「私たち、みんなで共有してました」
Ninaが少し笑う。
「勝手に部長語録って呼んでました」
wataが即座に反応する。
「公式やん」
mcRCが小さく言う。
「非公式であれ」
Saraが真面目に言う。
「申し訳ありません。正式文書にはしていません」
wataが吹き出した。
「そういう意味ちゃうやろ」
Yuiが、ほんの少しだけ笑った。
その笑いで、重くなりかけた空気が戻る。
愛がある。
でも、甘いだけではない。
笑える。
でも、軽く扱わない。
この距離感が、前職勢の空気だった。
Kateは、もう一枚の資料を出した。
「それで、お願いがあります」
mcRCが顔を上げる。
「お願い?」
「はい」
Kateは、少しだけ緊張したように指先を揃えた。
他の四人も、同じように背筋を伸ばす。
wataが小さく呟く。
「なんか来る」
EGUIが黙って見る。
Kateは言った。
「リバクラブを作らせてください」
一瞬、誰も反応しなかった。
wataが先に声を出す。
「リバクラブ?」
Miwaが、待ってましたと言いたげに少し前へ出る。
「リバファンクラブです」
wataが目を細める。
「名前そのままやな」
「分かりやすさ大事です」
Ninaが補足する。
「まだ正式サービスの話ではありません。まずは、応援してくださる方々を整理する考え方です」
Saraが続ける。
「会費制などにするかどうかは、法的・運用的に確認が必要です。現時点では、名称とコンセプトの提案です」
Yuiが言う。
「番号管理や連絡、特典、情報発信の範囲も、今後検討です」
mcRCは、少しだけ額に手を当てた。
「待って。展開が早い」
Miwaが言う。
「でも、今やらないと、あとで大変です」
「それは分かる」
wataが聞く。
「で、そのお願いって、リバクラブ作りたいってこと?」
Kateは、少しだけ息を吸った。
「それと、もう一つあります」
mcRCは嫌な予感がした。
「何」
Kateは、五人を代表して言った。
「リバクラブの一番から五番を、私たちにください」
沈黙。
本当に、部屋が止まった。
wataの口が少し開く。
EGUIがまばたきを一回する。
mcRCは、言葉を失った。
Miwaが、顔を赤くしながらも続ける。
「すみません。でも、そこは譲りたくないです」
Ninaも言う。
「私たち、ライブの時に思ったんです。ちゃんとリバクルーとして支えたいって」
Yuiが小さく頷く。
「でも、ただのファン番号が欲しいわけではありません」
Saraが静かに言う。
「責任番号です」
wataが聞き返す。
「責任番号?」
Kateが頷く。
「はい。もし一番から五番をいただくなら、それは自慢ではなく、最初に動く側としての番号にしたいです」
mcRCは、ようやく声を出した。
「……待って」
五人が止まる。
mcRCは、言葉を選んだ。
「気持ちは、ありがたい」
「はい」
「本当に助かる」
「はい」
「でも、俺たちは会社じゃない」
Kateは頷く。
「はい」
「本気でやってる。でも、まだ経済活動として外に大きく出しているわけでもない」
「はい」
「最低限のお金は必要。活動費用として」
「はい」
「でも、いつまで続くかも分からない」
その言葉を言うのは、少し痛かった。
でも、言わなければいけなかった。
「今は熱がある。数字も伸びた。ライブも成功した。でも、これがずっと続く保証はない」
「はい」
「振り回すことになるかもしれない」
Kateは、まっすぐmcRCを見た。
「構いません」
早かった。
迷いのない返事だった。
mcRCが言葉を失う。
Kateは続ける。
「逆に、私たちも無理な時は無理と言います」
Yuiが頷いた。
「ちゃんと声に出します」
Ninaも言う。
「仕事も生活もあります。全部を投げ出して動くわけではありません」
Saraが言う。
「だからこそ、都度相談が必要です」
Miwaが言う。
「できる中でやっていきたいです」
五人の言葉は、夢だけでできていなかった。
そこに生活がある。
仕事がある。
できない日がある。
でも、それでも関わりたいという意思がある。
mcRCは黙った。
wataも、もう茶化さなかった。
EGUIが、低い声で言った。
「音楽には、口を出さないと言っていましたね」
Kateがすぐに頷く。
「はい」
その返事は、今日の中でも特に早かった。
Kateは、言葉を選びながら続ける。
「私たちは、物販や告知や連絡や整理はします」
「でも、三人だけの時間は必ず必要だと思っています」
「曲の芯に、私たちが入るつもりはありません」
「歌詞の方向を決めたり、曲の意味を変えたり、そういうことは致しません」
Miwaも、少し真面目な声で言った。
「好きだからこそ、そこは触りたくないです」
Ninaが続ける。
「コメントを集めたり、反応を整理したりはできます。でも、それをどう曲にするかは三人が決めることだと思っています」
Saraが言う。
「境界線として明文化した方がいいです」
Yuiが頷く。
「あとで揉めないために」
wataは、少しだけ笑った。
「ほんまにちゃんとしてるな」
Miwaが、今度は茶化さずに返した。
「ちゃんとしてないと、好きなものを壊すので」
その言葉で、mcRCの表情が変わった。
好きなものを壊す。
それは、かなり大事な言葉だった。
善意で近づきすぎると壊れる。
支えたい気持ちで抱えすぎると、相手の足を止める。
応援したい熱が、いつか要求になることもある。
前職勢は、それを分かっていた。
だから、線を引こうとしている。
mcRCは、ようやく少しだけ肩の力を抜いた。
「俺たちも、そこは助かる」
五人が見る。
mcRCは続けた。
「俺たちは、三人で曲を作る」
「配信の声も拾う。リバクルーの言葉も受け取る。誰かのオーダーから曲ができることもある」
「でも、最後にどこへ向けるかは、三人で決めたい」
wataが頷く。
「mcRCが景色作って」
EGUIが続ける。
「wataが言葉を走らせて」
wataがすぐ言う。
「自分で言えや」
EGUIは無視して言う。
「俺が意味を通す」
mcRCが笑った。
「そういうグループだから」
Kateは、ゆっくり頷いた。
「はい。だから、支えたいです」
その声に、嘘はなかった。
部屋の空気が、少し変わった。
最初にあった緊張は、まだある。
でも、それだけではない。
形が見え始めている。
三人だけで抱えきれなかったものを、誰かに奪われるのではなく、渡す。
音楽の芯を守るために、音楽以外を整える。
それは、甘えることとは違う。
続けるための組み直しだった。
wataが、ふと聞いた。
「ちなみにさ」
五人が見る。
「リバクラブ一番から五番って、誰が一番なん?」
その瞬間、五人の空気が変わった。
Miwaが口を開く。
「それは」
Ninaも同時に言う。
「そこは」
Yuiが小さく言う。
「議題です」
Saraが真面目に頷く。
「平等性に配慮が必要です」
Kateが困ったように目を伏せた。
「そこは、まだ揉めています」
wataが大笑いした。
「揉めてるんかい!」
Miwaが少し赤くなって言う。
「だって一番ですよ?」
Ninaが続ける。
「でも代表コメントしたのはKateだから、Kateが一番ではという意見もあります」
Yuiが言う。
「ただ、物販初期案を出したのはMiwaです」
Saraが言う。
「最初にDMを送る文案を整えたのはKateです」
Ninaが胸を張る。
「でもライブ後のタグ分析を一番やったのは私です」
Yuiが控えめに言う。
「作業表を作ったのは私です」
Miwaが言う。
「じゃあ全員一番でよくない?」
Saraが即座に返す。
「番号の概念が崩れます」
wataは机を叩いて笑った。
EGUIも、口元を少し緩めた。
mcRCは、笑いながらも胸の奥が少し温かくなっていた。
愛がある。
ちゃんと馬鹿馬鹿しい。
でも、仕事になる部分は本気。
この五人が入ることで、リバクラは少し変わる。
でも、壊れるわけではない。
むしろ、続けるための形が見え始めている。
Kateが、笑いを収めるように咳払いをした。
「番号の件は、こちらで再度協議します」
wataが涙目で言う。
「真面目に戻れるのすごいな」
Kateは少し笑った。
「仕事なので」
「いや、リバクラブ番号の協議は仕事なん?」
Yuiが真剣に言う。
「重要です」
EGUIが頷いた。
「重要やな」
wataがEGUIを見る。
「乗るな」
mcRCは、息を整えてから言った。
「分かった」
五人の視線が集まる。
「すぐに全部は決められない」
「はい」
「でも、今日の話は持ち帰る」
「はい」
「俺たち三人で相談する」
「はい」
「その上で、お願いする範囲、費用、線引き、情報管理、音楽に関わらない範囲、全部整理する」
Kateが頷いた。
「お願いします」
mcRCは、少しだけ言葉を止めた。
そして、五人を見た。
「でも、まずは」
五人が待つ。
「ありがとう」
その一言に、Miwaの目元が少し赤くなった。
Ninaがすぐ横を向く。
Yuiはメモ帳を見つめる。
Saraは静かに頷く。
Kateだけが、まっすぐmcRCを見た。
「こちらこそ」
その声は、仕事の返事ではなかった。
前職から続いている時間と、ライブで生まれた新しい時間が、同じテーブルの上に置かれている。
そういう返事だった。
wataが、空気を変えるように言った。
「じゃあ、今日は仮でいい?」
mcRCが見る。
「何が」
「リバクラブ番号」
五人が一斉にwataを見る。
wataは、にやっと笑った。
「一番から五番、保留」
Miwaが言う。
「保留」
Ninaが頷く。
「仮押さえ」
Saraが言う。
「正式確定前の予約状態」
Yuiがメモする。
「リバクラブ番号一から五、前職勢に仮押さえ」
mcRCが慌てる。
「メモるな」
Yuiは顔を上げた。
「議事録です」
wataが椅子から崩れそうになった。
「議事録にすな!」
EGUIが静かに言う。
「でも、あとで見返せる」
mcRCは天井を見た。
「どんどん正式になっていく……」
Kateが、少しだけ楽しそうに言った。
「正式化するかどうかは、三人の判断です」
「その言い方がもう正式なんよ」
部屋に笑いが広がった。
大きな笑いではない。
でも、確かに明るかった。
ライブの翌々日。
まだ疲れは残っている。
通知は増え続けている。
物販の段ボールは片づいていない。
売上表も、発送リストも、問い合わせも、全部まだそこにある。
それでも、この夜、少しだけ形が変わった。
三人だけで抱えていた右側の仕事に、手を伸ばす人たちが現れた。
ただし、その手は奪う手ではない。
横に来る手だった。
帰り際、Kateがドアの前で振り返った。
「また、連絡をお待ちしています」
mcRCは頷いた。
「うん。また連絡する」
Miwaが、小さく手を振る。
「リバクラーメン、商品化する時は呼んでください」
wataが即答する。
「する前提やめろ」
Ninaが笑いながら言う。
「タグはもう育ってます」
EGUIが真顔で言う。
「栄養バランスは考えろ」
Miwaが吹き出す。
「そこから?」
Yuiがメモ帳を閉じた。
「リバクライスもあります」
mcRCが頭を抱える。
「増やすな」
Saraが真面目に言った。
「食品を扱う場合は確認事項が多いので、慎重に」
wataが腹を抱えて笑った。
「誰も本当に売るって言ってない!」
Kateが最後に、少しだけ笑った。
「でも、こういう話を笑ってできるのは、いいことだと思います」
それだけ言って、五人は廊下へ出ていった。
ドアが閉まる。
部屋に、三人だけが残る。
さっきまでより、少し広く感じた。
いや、違う。
広くなったのではない。
背負っていたものの一部が、別の手にも見えたからだ。
wataは椅子に座ったまま、天井を見上げた。
「……すごいな、あの子ら」
mcRCは、静かに頷いた。
「すごいよ」
EGUIが言う。
「知ってたんやろ」
mcRCは少し間を置いた。
「知ってた」
「でも、今また知った」
wataが言う。
「なんか、それ歌詞みたいやな」
mcRCは笑った。
「使わん」
EGUIが、ホワイトボードを見た。
音楽。
音楽以外。
その右側に、mcRCはさっきまで何も書いていなかった。
EGUIはマーカーを取り、静かに一本線を引いた。
そして、「音楽以外」の下に書く。
任せられる人がいる
wataがそれを見た。
「おお」
mcRCも見る。
EGUIはマーカーのキャップを閉めた。
「まだ決まりではない」
「でも、見えた」
mcRCは、その文字を見ていた。
任せられる人がいる。
それは、三人だけではないという意味ではない。
三人で立つために、横に来てくれる人がいるという意味だった。
mcRCは、ゆっくり頷いた。
「うん」
夜のリバクラボラトリーは、まだ片づいていない。
でも、散らかった机の上に、少しだけ次の形が見え始めていた。
成功したから、終わったのではない。
成功したから、次の責任が来た。
そしてその責任を、ひとりで抱えなくていい夜が、静かに始まっていた。
mcRC「この小説の歌は実際に聴けるから、聴きながら読んでみてくれよな」
聴く場合はこちら:
コピペしてブラウザに貼り付けて、、、。とぶぞ。
feel
https://youtu.be/vIFok9cHBFo?si=BltKDciOFT-jbGts
that’s live with DJ BEEF
https://youtu.be/-28obcZFELY?si=e0UzxlgkXGEdppOy
from now
https://youtu.be/HMrHGZu5vGM?si=68GTUXr0zvZq1b0W
no easy peace with DJ BEEF
https://youtu.be/tD71bFU1yBA?si=NjinWgSexnojMWrK
after dark
https://youtu.be/YYKz7xZNQ98?si=bLTnhd_RQNudNToF
hanz on deck
https://youtu.be/00k3jQ3UZXk?si=Hlg_DZCcdBnAZ4cR
リバクラチャンネル 全曲、過去曲
https://youtube.com/@revecro?si=Qj6kLxP2cwp1GXFX




