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ラップ付き小説 ReversCrown 元気ないやつこっちおいで  作者: egubi
暴れ牛ビーフ編

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59/186

3-1-1 「続けるには三人だけでは足りない」

mcRC「この小説の歌は実際に聴けるから、聴きながら読んでみてくれよな」

聴く場合はこちら:

コピペしてブラウザに貼り付けて、、、。とぶぞ。


small win

https://youtu.be/SwQWUrYHf-E?si=gROitAythWZkGliJ


リバ点呼

https://youtu.be/gxHNR1Utnso?si=GxhyaBuPoYXKMjt4


THAT’S LIVE

https://youtu.be/ujqsLz2TWQA?si=MmEQcLI5hnIdcJpq


green light

https://youtu.be/YR4ECQMRI9E?si=gXQ5EDmQWGXRzpYt


ESCORT

https://youtu.be/U-FlEKJfJ9U?si=m_t-jL5suG1I4umI


Reverse Crown/リバクラ

https://youtu.be/FI0rcVj1WUA?si=YTlhx_1Sq_TaV9Qe


DESTINATION

https://youtu.be/JTYqNX2aSEM?si=XiPvuQManbc7qZ__


UNSEEN HANDS

https://youtu.be/-7JI-GA7Jkg?si=1bDm7SNAOzQLAYts


THAT SEAT

https://youtu.be/RroRseSoJ_8?si=hIIpjx5z-IxxfnTJ


BBQ

https://youtu.be/EtMf8rkKn_0?si=fOf9lmgp2QZR2MKR


HOMEBASE

https://youtu.be/ARSsZ0r8CRc?si=2e8PbVXltjdbNr2Q


feel

https://youtu.be/PAmI_q-HbFU?si=FZuLbe2ZiBzmms51


keep moving

https://youtu.be/QWW73v7L1D0?si=7YEjlRgRRuQhve80


CALL ME OUT

https://youtu.be/Y161l0pX_wA?si=GZjh8_JyrDkMdkLv


READY

https://youtu.be/P2sNZMSjjdU?si=GsE110DD92sYEhr4


SHOWTIME!

https://youtu.be/RrqmZjsded4?si=kZt8W-O5sWGhMJaN


ATTACK

https://youtu.be/tRSOHKXvij8?si=xqiYugwdtS0mTWMu


SAY IT TO ME

https://youtu.be/AdAhmiHwxfM?si=BMBopJs6y9S6hLWM


ORIGIN

https://youtu.be/v7r3_l4mYQM?si=l1vPLtDcNWjW9O6H


nofake

https://youtu.be/oV7c-3TJMgM?si=WDW85lU6iqQsmqZy


決めろ!はコチラ

https://youtu.be/P_2d3hcx3Uw?si=hvvTW3RMB2adTtwN


RUN IT

https://youtu.be/ptZZJdr_2hc?si=1Fw9cRYCdJAd1so4


ORDER

https://youtu.be/AdAhmiHwxfM?si=BMBopJs6y9S6hLWM


ライブが終わった翌々日の夜、リバクラボラトリーには、まだ少し夏の匂いが残っていた。


誰かが置き忘れたREADYタオル。

物販用の空き段ボール。

折り畳まれたスタッフ用の導線図。

机の端に寄せられた売上表。

未開封の水。

食べかけのミントタブレット。

赤ペン。

黒いマーカー。

そして、床に置かれたままの大きな紙袋。


紙袋の中には、昨日の余韻が詰まっている。


余ったステッカー。

回収したアンケート。

リバ点呼で使った小さなカード。

客席からもらった手紙。

新川から届いた簡易報告書。

スタッフ用の忘れ物リスト。

終演後に慌てて突っ込んだ養生テープ。


歓声はもうない。


あの夜、会場の床を揺らしていた低音もない。

THAT’S LIVEで湧いた笑いもない。

SMALL WINの最後に起きた、泣きながらの拍手もない。


それなのに、部屋は静かではなかった。


スマホが鳴る。


一つではない。


mcRCのスマホ。

wataのスマホ。

EGUIのスマホ。

ノートパソコンの通知。

SNS管理用に開いた画面。

動画サイトのコメント通知。

メール。

DM。

タグ付き投稿。

切り抜き申請。

物販問い合わせ。

ライブ感想。

忘れ物確認。

次回イベントの相談。


音は小さい。


でも、積もる。


一つひとつは小さな通知なのに、数が増えると、部屋の空気そのものを押してくる。


wataは椅子に座ったまま、スマホを見ていた。


髪はいつもよりゆるく結ばれている。

結び目から落ちた黒い毛束が、首元にかかっていた。

ライブの日はステージライトを受けて少し光って見えたその髪も、今日はただ生活の中にある髪だった。


彼は片手でスマホをスクロールしながら、もう片方の手でカップ麺の蓋を押さえていた。


三分待っている。


ただし、その三分はすでに五分を超えていた。


「……これ、もうのびてる?」


mcRCはノートパソコンの画面から顔を上げなかった。


「何が」


「俺のリバクラーメン」


EGUIが水を飲む手を止めた。


「ただのカップ麺やろ」


wataは眉を寄せた。


「言い方」


「違うのか」


「違う。ライブ後の文化を背負った食べ物や」


「カップ麺が?」


「いま、リバクルーの間ではそういうことになってる」


EGUIは静かに首を傾けた。


「リバクルーに責任を押しつけるな」


「押しつけてない。育ってる文化を受け止めてる」


「麺が伸びてるだけや」


wataは蓋を開けた。


中を見て、少しだけ目を細める。


「……育ちすぎてる」


mcRCがそこでようやく笑った。


笑い方は、まだ少し疲れていた。


ライブが終わってから、三人ともまともに休めていない。


打ち上げというほどの打ち上げもしていない。

軽くラーメンを食べて、少しだけ話して、それぞれ帰った。

いや、帰ったというより、身体を自宅へ移動させただけだった。


眠ったはずなのに、眠った気がしない。


目を閉じると、会場が戻ってくる。


暗転。

逆さまのクラウン。

一曲目の低音。

客席の顔。

ESCORTで静まった空気。

THAT SEATで固まった五人。

Unseen Handsで泣いた人。

BBQで笑った人。

トラブルのざわめき。

THAT’S LIVEの一拍。

リバ点呼。

SMALL WIN。

帰り際の「ありがとう」。


全部が、まだ身体の内側に残っている。


その余韻が消えないうちに、現実は次のページを開いていた。


mcRCは、ノートパソコンの画面を見ながら、ペンで紙の端を叩いた。


一定のリズム。


考えている時の癖だった。


「wata」


「はい」


「カップ麺はあとで食べろ」


「もうあとがない」


「麺の話じゃない」


wataは箸を持ったまま止まった。


EGUIが少しだけ笑う。


「伸びきった話やな」


「今、うまいこと言った?」


「言ってない」


「いや、言ったやろ」


「言ってない」


mcRCは二人のやり取りを聞きながら、画面を少しだけこちらへ向けた。


「問い合わせ、増えすぎてる」


その一言で、wataの箸が止まった。


EGUIの表情も変わる。


さっきまでの薄い笑いが、床に落ちる。


mcRCの画面には、いくつものタブが開いていた。


公式SNS。

動画サイト。

メールボックス。

グッズ販売ページ。

スプレッドシート。

切り抜き共有フォルダ。

新川からの報告書。

そして、メモ帳。


メモ帳の上には、短い文字が並んでいる。


返信待ち

発送確認

在庫確認

次回ライブ候補

切り抜き許可範囲

曲使用確認

会場問い合わせ

物販再販希望

ファン番号?

リバクラーメン?

リバクライス?

スタッフ足りない


wataは最後の方を見て、少しだけ眉を上げた。


「リバクライス、もう入ってるん?」


mcRCは真顔で言った。


「入ってる」


「早すぎるやろ」


「リバクラーメンの横に、なぜかリバクライスが発生してる」


EGUIが言った。


「炭水化物が増えた」


wataが胸を張る。


「俺ら、文化圏広がってるな」


「食卓方向に広がりすぎや」


mcRCはそう言ってから、すぐに表情を戻した。


笑える話はある。


でも、笑っているだけでは片づかない。


「正直、今の状態で全部拾うのはきつい」


その言葉は、部屋の真ん中に置かれた。


wataは、箸をカップ麺の上に置いた。


EGUIは、ペットボトルのキャップを閉めた。


mcRCは画面を見たまま続ける。


「ライブ後の感想はありがたい。全部読みたい」


「うん」


wataが頷く。


「物販の問い合わせも、再販希望もありがたい」


「ありがたい」


EGUIも言う。


「切り抜きも、広げてくれてる。ありがたい」


mcRCは一つずつ言った。


一つずつ、ありがたいと確認するように。


「でも、数が増えると、ありがたいだけでは処理できない」


wataは黙った。


EGUIも何も言わなかった。


当たり前の話だった。


けれど、当たり前の話ほど、口に出すのが遅れる。


夢に失礼な気がするからだ。


応援してくれる人がいる。

見てくれる人がいる。

買ってくれる人がいる。

遠くから来たいと言ってくれる人がいる。

次はいつですか、と聞いてくれる人がいる。


それを、負担だと言いたくない。


でも、処理する身体は一つしかない。


夜は伸びない。

睡眠は削れば減る。

昼の仕事は消えない。

家の用事も消えない。

食事も、洗濯も、風呂も、移動も、全部ある。


Reverse Crownは、急に夢だけでできた生き物になったわけではない。


三人は、昼に働く大人だった。


mcRCは、元々前職では部長だった。


今は別の場所で、まったく違う仕事をしている。

それでも、身体に残っているものがある。


人を見て、役割を見て、導線を見て、責任の置き場所を考える癖。


ライブの時、彼はステージで景色を作る。


Scene Maker。


駅前も、会議室も、夏の会場の外も、客席の涙も、白ポロの新川も、スポーツドリンク一本さえ、言葉の中へ連れてくる。


でも、今の彼は、ステージの真ん中ではなく、リバクラボの長机の前にいる。


見ているのは客席ではない。


未返信のDM。

未発送の物販。

未確認の切り抜き。

未整理の予定。

未確定の次。


彼は、景色を作る人である前に、見えてしまう人だった。


散らかっているものが見える。

抜けそうなところが見える。

誰かが疲れる未来が見える。

誰かに失礼になる返事の遅れが見える。


そして、自分が抱えすぎる未来も見えている。


wataは、そんなmcRCの横顔を見ていた。


「……今、全部頭の中でフォルダ分けしてるやろ」


mcRCは画面から目を離さずに言った。


「してる」


「しかも、フォルダ名ちゃんとしてそう」


「ちゃんとしてる」


「だる」


「だるいのはこっちや」


wataは、少しだけ笑った。


wataはTechnicianだ。


韻を踏む。

言葉を転がす。

母音をそろえる。

一つの音から別の言葉へ飛ぶ。

固い韻を、笑いに混ぜたり、痛みに混ぜたりする。


ステージでは、言葉を弾丸のように飛ばすこともあれば、客席の小さなざわめきを拾って遊ぶこともある。


でも、彼の技術は、単にうまさを見せるためのものではなかった。


空気が固まった時、wataが笑わせる。

泣きすぎた客席に、彼が小さな逃げ道を作る。

痛い言葉のあとに、「今の全員アウト」みたいな言い方で、笑いながら戻してくる。


それがあるから、リバクラは重いだけにならない。


wataは、言葉で遊ぶ男だ。


ただし、遊びの奥に、かなり細かい気遣いがある。


彼はふざけているようで、誰が置いていかれているかを見ている。

見ているのに、見ていないふりで笑いにする。


そのwataが、今は笑いを少し引っ込めていた。


「これ、曲作る時間なくならん?」


mcRCはすぐには答えなかった。


その沈黙が、答えだった。


EGUIが口を開く。


「なくなるな」


短い。


でも、その一言で終わらせない。


EGUIは水を机に置き、画面に視線を向けた。


「今のままなら」


mcRCが頷く。


「うん」


EGUIはStraight Typeだ。


まっすぐ言う。

曲の最後に意味を通す。

難しくしすぎない。

逃げ道を作りすぎない。

必要な言葉を、必要な形で置く。


彼の言葉は、時々そっけなく聞こえる。


でも、それは冷たいからではない。


余計な飾りをつけると、意味がぼやけると知っているからだ。


EGUIは、日本語を大事にする。


言い切るべきところで言い切る。

言い換えるべきところで言い換える。

人を傷つける可能性がある言葉は、短くても選ぶ。

笑いに逃がしていい話と、逃がしてはいけない話を分ける。


だから、今も彼は簡単に「無理」とは言わなかった。


「今のままなら」と付けた。


つまり、変えればいい。


変えれば、まだ続けられる。


wataが、机に肘をついた。


「じゃあ、どうする?」


mcRCは、ペンを置いた。


その音が、小さく響いた。


「分けるしかない」


「何を」


「音楽と、音楽以外」


wataは少し考えた。


「当たり前っぽいけど、当たり前に難しいやつやな」


「そう」


mcRCは、ホワイトボードを引き寄せた。


そこには、昨日までのライブ構成の名残が残っている。


Reverse Crown。

ESCORT。

THAT SEAT。

Unseen Hands。

THAT’S LIVE。

BBQ。

DESTINATION。

リバ点呼。

SMALL WIN。


消しかけの文字。


汗で少し滲んだマーカー。


mcRCは、その横に新しく線を引いた。


音楽


その右に、もう一本線。


音楽以外


wataが、椅子を少し前に出した。


「出た。分類」


「必要やろ」


「必要やけど、言い方が会議」


EGUIが言う。


「会議やろ」


「曲作りの話やん」


「活動の話や」


wataは少し顔をしかめた。


「急に現実」


mcRCは頷いた。


「急にじゃない。ライブが終わったから見えただけ」


その言い方で、wataも黙った。


ライブが終わったから現実に戻ったのではない。


ライブをやったから、現実が見えた。


あの夜をもう一度やりたい。

もっと遠くへ行きたい。

各地で待っている人に会いたい。

新曲も作りたい。

配信もしたい。

切り抜きも見たい。

リバクラーメンも、できればちゃんと食べたい。


でも、それを全部三人だけで抱えると、どこかが壊れる。


壊れる前に、形を変えなければならない。


mcRCはホワイトボードの「音楽」の下に書いた。


曲作り

歌詞

リハ

配信

ライブ構成

3人だけの話し合い


そして「音楽以外」の下に書いた。


物販

発送

問い合わせ

告知

切り抜き確認

音源提出

権利確認

会場連絡

日程調整

精算

忘れ物対応

ファン企画


書けば書くほど、右側が増えていく。


wataは、顔をしかめながら見ていた。


「右、増えすぎやろ」


EGUIが言う。


「それを今まで左に混ぜてた」


wataは少し黙った。


それは、本当にその通りだった。


曲を作ろうとして、物販の通知を見る。

歌詞を直している途中で、切り抜き許可を確認する。

ライブ構成を話している時に、発送の宛名ミスに気づく。

配信の振り返りをしている最中に、次の会場候補が来る。


全部が混ざる。


混ざると、どれも中途半端になる。


そして、三人の一番大事な時間が削られる。


三人だけの時間。


あのライブで、客席が見たのは三人だった。


Reverse Crownは、三人の声で立っている。


mcRCが景色を作り、wataが言葉を走らせ、EGUIが意味を通す。


三人が別々の場所を見ているのに、最後は一つの合言葉へ集まる。


それがリバクラだった。


だから、そこだけは渡せない。


音楽そのものは、三人の中から出なければならない。


wataが、少し低い声で言った。


「右側、誰かに頼むってこと?」


mcRCはすぐ答えなかった。


頼む。


その言葉は簡単だ。


でも、誰に頼むか。

どこまで頼むか。

お金はどうするか。

責任はどうするか。

個人情報はどう守るか。

ファンとの距離はどうするか。

音楽に口を出されない線をどう引くか。


そこまで考えないと、頼むという言葉は危ない。


mcRCは、ホワイトボードを見たまま言った。


「頼むなら、線を引かないといけない」


EGUIが頷く。


「範囲」


「そう」


wataが言う。


「でもさ、誰に頼むん?」


その瞬間だった。


mcRCのスマホが鳴った。


短い通知音。


三人が、ほぼ同時にそちらを見た。


机の上のスマホ。


画面に表示された名前を見て、mcRCの眉がほんの少し動いた。


wataがすぐに反応する。


「誰?」


mcRCは画面を伏せかけて、やめた。


隠すほどのことではない。


でも、すぐに開くには少し心の準備がいる名前だった。


「……前の職場の子」


wataの目が丸くなる。


「部長って叫んだ子ら?」


「その一人」


EGUIが少しだけ身を乗り出した。


「前職勢か」


mcRCは頷いた。


前職勢。


その言い方は、いつの間にか定着していた。


ライブ中に「ぶちょーーーーー!!!!!!!」とコメント欄を割った彼女たち。

THAT SEATで固まり、Unseen Handsで泣き、安心ハンズを自分たちの歌のように受け取った彼女たち。

mcRCの前職時代を知っている、数少ない人たち。


ただし、彼女たちはただの懐かしい人たちではない。


mcRCは、彼女たちの仕事ぶりを知っている。


どこまで任せられるか。

どんな時に前に出るか。

どんな時に引けるか。

誰が何を得意とするか。

誰が空気を読みすぎて抱えすぎるか。

誰が明るく見えて、実はかなり細かいか。


知っている。


だからこそ、画面を見る前から少し緊張した。


wataは、その顔を見逃さなかった。


「なんか、仕事の顔してる」


mcRCは小さく息を吐いた。


「元仕事の相手やからな」


「でも、今はリバクラの話やろ」


「そこが難しい」


EGUIが静かに言った。


「読め」


mcRCはEGUIを見た。


EGUIは、まっすぐ返す。


「読まんと始まらん」


それはそうだった。


mcRCはスマホを手に取った。


通知を開く。


画面には、短い文章が表示されていた。


最初の一文を見た瞬間、mcRCの指が止まった。


wataが身体を乗り出す。


「何?」


mcRCは黙っていた。


EGUIも、急かさなかった。


mcRCは、もう一度最初から読んだ。


そして、ゆっくりスマホを机に置いた。


「……これ」


wataが首を傾げる。


「何?」


mcRCは、少しだけ困ったように笑った。


笑ったのに、顔は軽くなっていない。


「いや」


「だから何」


「手伝わせてください、って」


部屋が止まった。


通知音も鳴らない。


カップ麺の湯気も、いつの間にかほとんど消えていた。


wataが、先に声を出した。


「誰が?」


mcRCは画面を見た。


「前職勢」


EGUIが短く言う。


「複数か」


「うん」


mcRCは頷いた。


「五人で話してるっぽい」


wataは椅子の背もたれに倒れた。


「五人」


EGUIは、ホワイトボードの右側を見た。


物販。

発送。

問い合わせ。

告知。

切り抜き確認。

音源提出。

権利確認。

会場連絡。

日程調整。

精算。

忘れ物対応。

ファン企画。


そこに、たった今、答えのようなものが届いた。


もちろん、答えとは限らない。


むしろ、考えることは増える。


でも、タイミングが良すぎた。


wataが半笑いで言う。


「見てた?」


mcRCがすぐ返す。


「見てない」


「ホワイトボード見てた?」


「見てない」


「盗聴?」


「違う」


EGUIが静かに言った。


「文化が育つと、人も動く」


wataがEGUIを見る。


「今の、なんか締めっぽいな」


「締めてない」


「いや、ちょっとかっこよかった」


「別に」


mcRCはスマホを持ったまま、まだ少し迷っていた。


返信するべきだ。


それは分かっている。


でも、すぐに「お願いします」とは言えない。


相手も仕事をしている。

生活がある。

夜がある。

休みがある。

無料で動かしていいわけがない。


そして、彼女たちは元部下だ。


部下だった人間に、また何かを頼む。


その形が、どうしても軽く見えない。


wataは、mcRCの表情を見て、少し声を落とした。


「嫌なん?」


mcRCは首を横に振った。


「嫌じゃない」


「じゃあ、助かる?」


「助かる」


「なら、何でそんな顔してんの」


mcRCは、少し言葉を探した。


「……助かりすぎるから」


wataは黙った。


EGUIも黙った。


助かりすぎる。


それは、かなりmcRCらしい言い方だった。


頼るのが苦手なのではない。


頼った時の重さが見えすぎる。


誰かが時間を使う。

誰かが気を回す。

誰かが責任を持つ。

誰かが表に見えない作業をする。

誰かが、自分たちのために夜を差し出す。


mcRCは、それを簡単に「ありがとう」で済ませられない。


Unseen Handsを歌ったばかりだから、なおさらだった。


見えない手を見えてるぜ、と歌った人間が、見えない手を当然のように使うわけにはいかない。


EGUIが言った。


「だから、条件を決める」


mcRCが見る。


「うん」


「相手の善意だけにしない」


「うん」


「金も、範囲も、断れる線も決める」


wataも頷いた。


「あと、音楽には口出ししないって線もいるやろ」


mcRCは、そこで少しだけ驚いたようにwataを見た。


wataは肩をすくめる。


「いや、そこ大事やん」


「俺ら、三人で作ってる」


「もちろん、声はもらうよ。オーダーももらうし、コメントも拾う。リバクルーの言葉から曲ができることもある」


「でも、曲の芯をどこに置くかは俺らで決める」


「そこが曖昧になると、たぶんしんどい」


EGUIが頷く。


「正しい」


wataがすぐ反応する。


「褒めた?」


「確認した」


「それほぼ褒めやろ」


「調子に乗るな」


少しだけ笑いが戻った。


mcRCは、その笑いを聞いて、ようやくスマホをもう一度見た。


画面の向こうには、短い文章がある。


でも、その向こうにいる五人の顔が浮かぶ。


前職の会議室。

売場の空気。

忙しい日のバックヤード。

締切前の夕方。

誰かが泣きそうになった日。

誰かが怒っていた日。

誰かが「もう無理です」と言った日。

そして、それでも次の日に来た日。


mcRCは、彼女たちがただの善意で動いているわけではないことを知っている。


彼女たちは、自分たちの意思で言っている。


それでも、受け取る側には責任がある。


mcRCはゆっくり返信を打った。


すぐに送らない。


文章を読み返す。


wataが横から覗きそうになって、EGUIに止められた。


「見るな」


「気になるやん」


「送る前の文を見るな」


「先生か」


EGUIは淡々と言った。


「送る前の文章は、人の内臓みたいなものや」


wataが顔をしかめた。


「例えが重い」


「開くな」


「はい」


mcRCは少し笑った。


そして、送信した。


数秒。


既読がついた。


wataが目を丸くする。


「早」


EGUIが言う。


「待ってたな」


mcRCは画面を見たまま、小さく息を吐いた。


返信が来る。


ありがとうございます。

一度、ちゃんとお話しさせてください。

私たち、勢いだけで言っているわけではありません。

できること、できないこと、線引きも含めて話したいです。


mcRCは、その文章を見て、少し黙った。


wataが言う。


「ちゃんとしてる」


EGUIも頷く。


「ちゃんとしてるな」


mcRCは、目を細めた。


「……この子たちは、ちゃんとしてるんよ」


声に、前職の時間が混じった。


ただ懐かしむ声ではない。


認めている声だった。


「はっきり言って、相当できる」


wataが反応する。


「そんなに?」


「うん」


「どんな感じ?」


mcRCは少し考えた。


「こっちが言う前に、半分くらい読んでる」


wataが眉を上げる。


「怖」


「怖くない。ありがたい」


EGUIが聞く。


「仕事の部署が近いのか」


mcRCは頷いた。


「近いというか、今やってる仕事がそのまま重なる子もいる」


「物販とか?」


「うん。企画、販促、権利周り、外部との連絡、庶務」


wataがホワイトボードを見た。


右側。


物販。

発送。

問い合わせ。

告知。

切り抜き確認。

音源提出。

権利確認。

会場連絡。

日程調整。

精算。

忘れ物対応。

ファン企画。


wataは、ゆっくり言った。


「……いや、君たち、その道のプロじゃん」


mcRCは、苦笑いした。


「そうなんよ」


EGUIが静かに言う。


「なら、話す価値はある」


mcRCは頷いた。


「ある」


ただし、すぐに明るくはならなかった。


助かる。


でも、それで終わらない。


人が増えるということは、役割が増えるということだ。

役割が増えるということは、決めることが増えるということだ。

決めることが増えるということは、責任も増える。


けれど。


三人だけで全部抱えれば、曲が削れる。


曲が削れれば、リバクラは何のために続けているのか分からなくなる。


wataは、すっかりのびたカップ麺を見た。


それから、箸を持ち直した。


「とりあえず」


mcRCが見る。


「何」


wataは、麺を持ち上げた。


かなり柔らかくなっている。


「これはもう、俺が責任を持って処理する」


EGUIが眉を寄せる。


「食べるんか」


「食べ物を無駄にしたらHOMEBASEに怒られる」


mcRCは吹き出した。


「曲に怒られるな」


wataは麺を口に入れ、すぐに顔をしかめた。


「……これは、SMALL WINではない」


EGUIが短く言う。


「負けやな」


「言い切るな」


「のびてる」


「のびた麺にも未承認の価値があるかもしれんやろ」


EGUIは少し考えてから言った。


「ないことはない」


wataが目を輝かせる。


「ある?」


「時間を守る大切さを教える」


「教材やん」


mcRCは笑いながら、ホワイトボードを見た。


音楽。

音楽以外。


その二つの間に、まだ線がある。


でも、その線は壁ではない。


橋をかけるための線だった。


三人は、まだ何も決めていない。


前職勢とどう関わるのか。

お金はどうするのか。

どこまで頼むのか。

どこからは三人で守るのか。

リバクラブとは何なのか。

ファン番号とは何なのか。

音楽に口を出さないという線を、どう言葉にするのか。


全部これからだ。


でも、少なくとも一つだけ分かった。


成功したから、終わったわけではない。


成功したから、始まった。


机の上のスマホが、もう一度光る。


新しい返信ではない。


別の通知。


物販再販希望。

地方ライブ希望。

「次はどこで会えますか」というコメント。

「昨日行けなかったけど、いつか行きたいです」という投稿。


wataが、のびた麺をすすりながら言った。


「……これ、ほんまに続き始めたな」


mcRCは、画面を見た。


EGUIは、ホワイトボードを見た。


三人の視線は、別々の場所にあった。


でも、考えていることは近かった。


このままでは続かない。


だから、続ける形に変える。


mcRCは、ホワイトボードの下に、小さく書いた。


続けるために、組み直す。


wataがそれを読んだ。


「また会議っぽい」


EGUIが言う。


「でも、曲にもなる」


mcRCは頷いた。


「なるかもしれん」


wataは、箸を置いて笑った。


「じゃあ、その前に前職勢と会議やな」


mcRCはスマホを伏せた。


そして、少しだけ肩の力を抜いた。


「うん」


短い返事だった。


でも、その声には、さっきまでなかったものが混じっていた。


不安だけではない。


助かる、という感覚。


頼ることへの怖さ。


そして、その怖さを持ったまま、誰かと組むという選択。


Reverse Crownは、まだ三人だった。


三人の声で立つグループだった。


でも、三人だけで作った場所に、少しずつ人が集まり始めている。


リバクルー。

新川。

前職勢。

まだ名前も知らない、次の街の誰か。


上からではない。


横に来る。


その言葉を、自分たちが試される番だった。


窓の外で、夜の車が一台、静かに通り過ぎた。


夏はまだ終わっていない。


むしろ、ここからだった。

mcRC「この小説の歌は実際に聴けるから、聴きながら読んでみてくれよな」

聴く場合はこちら:

コピペしてブラウザに貼り付けて、、、。とぶぞ。


small win

https://youtu.be/SwQWUrYHf-E?si=gROitAythWZkGliJ


リバ点呼

https://youtu.be/gxHNR1Utnso?si=GxhyaBuPoYXKMjt4


THAT’S LIVE

https://youtu.be/ujqsLz2TWQA?si=MmEQcLI5hnIdcJpq


green light

https://youtu.be/YR4ECQMRI9E?si=gXQ5EDmQWGXRzpYt


ESCORT

https://youtu.be/U-FlEKJfJ9U?si=m_t-jL5suG1I4umI


Reverse Crown/リバクラ

https://youtu.be/FI0rcVj1WUA?si=YTlhx_1Sq_TaV9Qe


DESTINATION

https://youtu.be/JTYqNX2aSEM?si=XiPvuQManbc7qZ__


UNSEEN HANDS

https://youtu.be/-7JI-GA7Jkg?si=1bDm7SNAOzQLAYts


THAT SEAT

https://youtu.be/RroRseSoJ_8?si=hIIpjx5z-IxxfnTJ


BBQ

https://youtu.be/EtMf8rkKn_0?si=fOf9lmgp2QZR2MKR


HOMEBASE

https://youtu.be/ARSsZ0r8CRc?si=2e8PbVXltjdbNr2Q


feel

https://youtu.be/PAmI_q-HbFU?si=FZuLbe2ZiBzmms51


keep moving

https://youtu.be/QWW73v7L1D0?si=7YEjlRgRRuQhve80


CALL ME OUT

https://youtu.be/Y161l0pX_wA?si=GZjh8_JyrDkMdkLv


READY

https://youtu.be/P2sNZMSjjdU?si=GsE110DD92sYEhr4


SHOWTIME!

https://youtu.be/RrqmZjsded4?si=kZt8W-O5sWGhMJaN


ATTACK

https://youtu.be/tRSOHKXvij8?si=xqiYugwdtS0mTWMu


SAY IT TO ME

https://youtu.be/AdAhmiHwxfM?si=BMBopJs6y9S6hLWM


ORIGIN

https://youtu.be/v7r3_l4mYQM?si=l1vPLtDcNWjW9O6H


nofake

https://youtu.be/oV7c-3TJMgM?si=WDW85lU6iqQsmqZy


決めろ!はコチラ

https://youtu.be/P_2d3hcx3Uw?si=hvvTW3RMB2adTtwN


RUN IT

https://youtu.be/ptZZJdr_2hc?si=1Fw9cRYCdJAd1so4


ORDER

https://youtu.be/AdAhmiHwxfM?si=BMBopJs6y9S6hLWM

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