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ラップ付き小説 ReversCrown 元気ないやつこっちおいで  作者: egubi
単独ライブ編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

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45/186

2-7-1 夏、会場の外で

mcRC「この小説の歌は実際に聴けるから、聴きながら読んでみてくれよな」

聴く場合はこちら:

コピペしてブラウザに貼り付けて、、、。とぶぞ。


DESTINATION

https://youtu.be/JTYqNX2aSEM?si=XiPvuQManbc7qZ__


UNSEEN HANDS

https://youtu.be/-7JI-GA7Jkg?si=1bDm7SNAOzQLAYts


THAT SEAT

https://youtu.be/RroRseSoJ_8?si=hIIpjx5z-IxxfnTJ


BBQ

https://youtu.be/EtMf8rkKn_0?si=fOf9lmgp2QZR2MKR


HOMEBASE

https://youtu.be/ARSsZ0r8CRc?si=2e8PbVXltjdbNr2Q


feel

https://youtu.be/PAmI_q-HbFU?si=FZuLbe2ZiBzmms51


keep moving

https://youtu.be/QWW73v7L1D0?si=7YEjlRgRRuQhve80


CALL ME OUT

https://youtu.be/Y161l0pX_wA?si=GZjh8_JyrDkMdkLv


READY

https://youtu.be/P2sNZMSjjdU?si=GsE110DD92sYEhr4


SHOWTIME!

https://youtu.be/RrqmZjsded4?si=kZt8W-O5sWGhMJaN


ATTACK

https://youtu.be/tRSOHKXvij8?si=xqiYugwdtS0mTWMu


SAY IT TO ME

https://youtu.be/AdAhmiHwxfM?si=BMBopJs6y9S6hLWM


ORIGIN

https://youtu.be/v7r3_l4mYQM?si=l1vPLtDcNWjW9O6H


nofake

https://youtu.be/oV7c-3TJMgM?si=WDW85lU6iqQsmqZy


決めろ!はコチラ

https://youtu.be/P_2d3hcx3Uw?si=hvvTW3RMB2adTtwN


RUN IT

https://youtu.be/ptZZJdr_2hc?si=1Fw9cRYCdJAd1so4


ORDER

https://youtu.be/AdAhmiHwxfM?si=BMBopJs6y9S6hLWM



夏は、いつの間にか来ていた。


カレンダーの上では、まだ何日も前からそこにあった。

スマホのリマインダーにも、SNSの固定投稿にも、リバクルーたちのプロフィール欄にも、ずっと同じ日付があった。


けれど本当に夏が来たと分かったのは、その日の朝だった。


駅を出た瞬間、アスファルトの熱が足元から上がってきた。

ビルの窓が白く光って、横断歩道の白線すらまぶしい。

風はある。けれど涼しくない。湿った熱を少し動かしているだけだった。


それでも、その街角には朝から人がいた。


首にタオルをかけた若い男。

黒いTシャツを畳んで大事そうに持っている女の子二人組。

キャリーケースを転がしながらスマホの地図を見る遠征組。

親子連れ。

少し年配の夫婦。

仕事帰りではなく、明らかにこの日のために服を選んできた社会人たち。


その人たちの多くが、どこかに同じ印を持っていた。


逆さまのクラウン。


黒地のTシャツの胸元。

スマホケースに貼られた小さなステッカー。

バッグにつけた缶バッジ。

首にかけたタオルの端。


まだ会場は開いていない。


それでも、すでにそこはリバクラの場所になり始めていた。


「え、あれだよね」


駅前で、女子二人組の片方が小さく言った。


彼女の首には、白地に黒い文字のタオルがかかっている。

READY と太く入った、少しスポーツ用品みたいなデザインのタオルだった。


もう片方が、同じ方向を見る。


ビルの入り口の横に、小さな案内板が出ている。


Reverse Crown First One-Man Live


その文字を見た瞬間、二人は同時に息を飲んだ。


「ほんとにある……」


「あるよぉ……」


「やめて、朝から泣く」


「まだ入場もしてないのに」


「無理。もう今日無理」


「早い早い早い」


言いながら、二人は笑った。


泣きそうな顔で笑っていた。


会場の外には、まだ大きな列はできていない。

でも、明らかに目的を持った人たちが少しずつ集まり始めていた。


スタッフが早めに出て、入口の前で案内を始める。


「物販列はこちらです」

「チケット確認は開場時間が近づいてから行います」

「近隣の通行の妨げにならないよう、こちら側へお願いします」

「暑いので、水分を取ってください」


その声は落ち着いていた。


イベント会社のスタッフたちは、すでに朝から動いている。

黒いスタッフTシャツ。

首から下げたパス。

インカム。

手元のリスト。

日陰へ流すための導線ロープ。

冷房の効いたロビーへ入れるタイミングの確認。


そして、少し離れたところに白いポロシャツの男が立っていた。


新川だった。


白ポロ。

サングラス。


夏の日差しのせいで、今日はむしろ自然だった。


いや、自然かどうかで言えば分からない。

ただ、誰も違和感を口にできないくらい、似合っていた。


新川は腕時計を見て、スタッフに短く声をかける。


「物販列と入場列は分けてください」

「日陰側を優先」

「外待機が長くなりそうなら、予定より早くロビーだけ開けます」

「ただし中の導線が詰まるなら止めます」


スタッフが頷く。


「了解です」


新川の声は大きくない。

でも、周りは動いた。


イベントの現場は、曲のようには始まらない。


音が鳴る前に、線が引かれる。

貼り紙が出される。

ロープが置かれる。

スタッフ同士の確認が走る。

物販テーブルの位置が一センチ単位で直される。

暑さ、混雑、トイレ、帰り道、列の折り返し。


客席から見えないところで、ライブはすでに始まっていた。


物販のテーブルには、まだ布がかかっている。

その下には、今日のために作られたグッズが並んでいた。


Reverse Crown ロゴTシャツ。

黒地に、逆さまのクラウン。

胸元は控えめで、背中に大きくロゴが入っている。


飯はREADY Tシャツ。

白地に、少しふざけたような、でも妙に気合いの入った文字。

一見ネタなのに、よく見ると普段着としても着られそうな絶妙なデザイン。


READYジムタオル。

これが一番実用性で強かった。

ライブでも振れる。

ジムでも使える。

夏の外待機でも使える。

汗を拭きながら「これ、もう元取ってる」と言う人が出そうな商品だった。


そして、今回なぜか異様に話題になっていたもの。


変われる人は聞ける人 赤ペン。


普通の赤ペンである。


いや、普通ではない。

本体に小さく文字が入っている。


変われる人は聞ける人


キャップ部分には、小さな逆クラウン。


物販担当スタッフは、最初その数量を見て少し不安そうだった。


「これ、そんなに出ますかね」


隣のスタッフが言った。


「出るらしいです」


「赤ペンが?」


「赤ペンが」


「Tシャツより?」


「人によっては」


その会話を、新川は聞こえていたのかいないのか、サングラスの奥の表情を変えずにリストを見ていた。


「在庫の位置を手前へ」


「え、赤ペンですか」


「はい」


「手前なんですか」


「手前です」


「了解です」


現場の指示は、たまに信仰のように見える。


スタッフは、赤ペンを手前に並べた。


そして一時間後、その判断は正しかったと分かる。


物販開始の三十分前、列が伸び始めた。


最初はゆるやかだった。

会場の前に数人。

壁際に十数人。

少し離れた日陰に遠征組。


それが、十分ごとに増えていった。


「物販、こっちで合ってますか?」


「Tシャツ、サイズ見られますか?」


「赤ペンって何本まで買えますか?」


「タオル、ライブ中に使っていいやつですか?」


「飯はREADYのTシャツ、これってネタですか? 本気ですか?」


スタッフは笑顔で答える。


「どちらとも言えます」


「それが一番困る」


列の中で笑いが起こる。


会場前には、手書きのうちわを持った人もいた。


大きすぎるものは事前に注意されている。

後ろの人の視界を遮らない。

中では高く上げない。

通路で広げない。


それでも、小さなうちわやボードはたくさんあった。


情緒


温度計ください


飯はREADY


野菜どこー!?


知らーん!


変われる人は聞ける人


今日を越えたら勝ち


横に来ました


聞いてます


見えてます


一つ一つが、曲や配信やコメント文化のかけらだった。


それを見て、初めて来たらしい若い男が友人に小声で言った。


「これ、予習してないと分からんやつ多いな」


友人は首にREADYジムタオルをかけている。


「大丈夫。分からんくても雰囲気で笑える」


「温度計って何?」


「リバクラの情緒が急に上がったり下がったりするから、温度計つけてくれってやつ」


「何それ」


「今日たぶん分かる」


「怖いな」


「楽しい怖さ」


少し離れたところで、親子連れが物販を見ていた。


小学生くらいの男の子が、飯はREADY Tシャツを指さす。


「これがいい」


母親が少し笑う。


「ほんとに?」


「飯はREADYだから」


「意味分かってる?」


「ごはん食べる」


「だいたい合ってるかもしれない」


父親らしき男性が隣でREADYタオルを手に取っている。


「これ、ジムで使えるな」


母親が見る。


「あなた、それ普通に気に入ってるでしょ」


「いや、ライブのために」


「絶対ジムで使うでしょ」


「使う」


その横で、女子三人組が赤ペンを見ていた。


一人が手に取る。


「これ、買うでしょ」


「買う」


「自分用?」


「自分用と、渡す用」


「誰に」


「聞けない男に」


「刺しに行くな」


「刺さって変われるなら優しさ」


「怖い優しさ」


物販テーブルの周りは、思っていたより早く熱を持ち始めた。


事前販売はしていた。

それでも当日買いたい人は多い。


実物を見たい。

サイズを確かめたい。

会場で気持ちが上がって買いたい。

赤ペンは勢いで買いたい。

タオルは今日使いたい。


当然、列は伸びる。


スタッフは動いていた。


「Tシャツのサイズ確認はこちらです」

「赤ペンはお一人様、まず二本まででお願いします」

「タオルとステッカーのみの方はこちらへ」

「現金の方とキャッシュレスの方で列を分けます」


でも、熱は人を少しずつ前のめりにする。


一人が迷う。

後ろが詰まる。

サイズを見たい人と、もう買うものが決まっている人が混ざる。

遠征組のキャリーケースが列の足元を狭くする。

家族連れが日陰を探して一度列を離れる。

戻る場所が分からなくなる。


小さな詰まりが、いくつも生まれ始めた。


それを少し離れた場所から見ていた五人組がいた。


全員が派手すぎない格好をしている。

でも、どこかきちんとしていた。


黒のTシャツに細身のパンツ。

白いブラウスに軽い羽織。

スニーカー。

小さなバッグ。

髪をまとめている子もいれば、下ろしている子もいる。


一人はREADYジムタオルを肩にかけていた。

一人は赤ペンをすでに胸ポケットに挿している。

一人は、物販で買ったばかりのステッカーをスマホケースに貼ろうとして、角度で迷っている。


五人のうち、Kateが物販列をじっと見ていた。


彼女は、笑っていなかった。

ライブ前の浮つきもあった。

でも、それ以上に、列の流れを見ていた。


「これ、詰まるね」


隣のMiwaが、はっと顔を上げる。


「え、もう?」


「うん。商品選ぶ人とサイズ見る人が同じ場所にいる。あと、赤ペンだけ買いたい人が巻き込まれてる」


Saraが列を見る。


「キャリーケースも地味にきついね」


Ninaが言った。


「日陰に逃がす案内もいるかも。暑いし」


Yuiが、少しだけ眉を下げる。


「手伝えそうだけど……勝手には無理だよね」


Kateは頷いた。


「絶対無理。勝手に動いたら迷惑」


Miwaが小さく息を吐く。


「だよね」


Saraが、少しだけ笑った。


「でも、得意ではある」


Ninaも頷く。


「接客、列案内、初期対応、サイズ説明。いける」


Yuiが言った。


「てか、余裕」


Kateはそこで少しだけ笑った。


「言い方」


「でも余裕でしょ」


「余裕だけど、余裕だからこそ確認がいる」


五人は、互いに目を合わせた。


誰かのために動きたい。

でも、前に出すぎてはいけない。

ここは自分たちの場所ではなく、イベント会社の現場だ。

リバクラの単独ライブだ。

自分たちは客として来ている。


その線引きは、五人とも分かっていた。


だからこそ、Kateはスタッフに近づく前に、スマホを取り出した。


「まず、連絡する」


Miwaが少し緊張した顔になる。


「いきなり?」


「いきなりじゃない。確認」


「何て送るの?」


Kateは少し考え、短く打った。


物販列が少し詰まりそうです。

私たち、列案内と商品説明補助なら手伝えます。

ただ、勝手に動くのは違うので、イベント会社さんとリバクラさん、両方に確認を取ってください。

必要なら、私たちの信用はリバクラ側で確認してください。

金銭管理には入りません。案内だけで大丈夫です。


送信。


五人の間に、少しだけ沈黙が落ちた。


Miwaが小声で言う。


「なんか、こういうの見るとさ」


「うん?」


「思い出すね」


Saraがすぐ言う。


「ここでは言わない」


「言わないけど」


「言わない」


Miwaは口を閉じた。


言える言葉と、言えない言葉がある。

その境界を、五人は知っていた。


リバクラのステージに来た。

でも、過去の関係性を客席に持ち込む場所ではない。


だから、ここではただのリバクルーとして立つ。


それでも、胸の奥では別の記憶が動いている。


Miwaはそれを顔に出さないように、赤ペンのキャップを意味もなく開けたり閉めたりした。


Ninaがそれを見て、にやりとする。


「落ち着いて」


「落ち着いてる」


「赤ペン、五回開け閉めした」


「してない」


「してる」


Saraが小声で言った。


「恋ではある」


Miwaが真っ赤になった。


「それ言うのやめて……!」


Kateが少し笑いをこらえる。


「言ったのMiwaだよ」


「なんであの時あんなこと言っちゃったんだろう……」


Yuiが優しく言う。


「恋だけじゃないから、言葉が迷子になったんでしょ」


Miwaは両手で顔を覆った。


「それっぽくまとめないで……余計恥ずかしい……」


Saraは真顔で追撃する。


「情緒」


「やめて」


Nina。


「温度計」


「やめてって!」


五人は小さく笑った。


外に聞こえるほどではない。

列を乱すほどでもない。

でも、緊張が少しほどけるくらいの笑いだった。


その時、Kateのスマホが震えた。


返信。


短い文面だった。


確認します。動かず待ってください。


Kateは頷いた。


「待機」


Miwaが、ぴしっと背筋を伸ばす。


「待機」


Saraが言う。


「客として待機」


Ninaが言う。


「でも、呼ばれたら即動く」


Yuiが頷く。


「READY」


五人は、少し離れたところで待った。


物販列はさらに伸びていた。


スタッフは必死に回している。

でも、熱が増えている。


「赤ペン、まだありますか?」


「タオル、二枚買えますか?」


「Tシャツ、MとLで迷ってて」


「ロゴTと飯T、どっちが人気ですか?」


「飯Tはネタですか?」


「本気です」


「本気なんだ」


「本気です」


スタッフの答えも、だんだんリバクラに染まっていく。


その様子を、会場入口近くのガラス越しに見ていた新川は、スタッフから報告を受けた。


「外の五人組からヘルプの申し出です。リバクラ側にも確認依頼が来ています」


新川は、サングラスの奥で少しだけ目線を動かした。


「内容は」


「列案内、商品説明補助、サイズ確認補助。金銭管理には入らないと明記しています」


「リバクラ側の確認は」


「今、mcRCさんに回っています」


新川は少し黙った。


イベント現場では、好意ほど扱いが難しい。

手伝いたい、という気持ちはありがたい。

でも、権限のない人間を現場に入れるのは危険でもある。


金銭管理。

個人情報。

クレーム対応。

責任の所在。

事故があった時の説明。


善意だけでは現場は回せない。


新川はスタッフへ言った。


「金銭管理には入れない」

「判断権限も持たせない」

「こちらのスタッフの指示下で、列案内と商品説明補助のみ」

「名札は臨時補助と分かるものを渡す」

「休憩と水分を必ず入れる」

「無理ならすぐ下げる」


スタッフが頷く。


「了解です」


その少し後、リバクラ側からも返答が来た。


内容は短い。


信用できます。

ただし無理はさせないでください。

迷惑になる範囲なら止めてください。

よろしくお願いします。


新川はその文面を見て、少しだけ口元を動かした。


「では、入ってもらいましょう」


スタッフが外へ向かった。


Kateたち五人に説明する。


「ご協力ありがとうございます。ただし、金銭管理には入らないでください」

「販売判断、返金判断、在庫判断もしないでください」

「こちらのスタッフの指示に従って、列案内、商品見本の説明、サイズ確認補助をお願いします」

「無理はしないでください。水分も取ってください」


Kateは深く頷いた。


「承知しました」


Miwaも頷く。


「勝手な判断はしません」


Sara。


「金銭には触りません」


Nina。


「列の分岐とサイズ案内だけですね」


Yui。


「声かけ、できます」


スタッフは少し驚いた顔をした。


説明が一度で通ったからだ。


「では、こちらへ」


五人は一度だけ互いに目を合わせた。


ライブに来たはずだった。


でも、こういう形で関われるなら、それも悪くない。


むしろ、彼女たちらしかった。


五人は臨時補助の小さな札を受け取り、スタッフの指示に従って動き始めた。


Kateはまず、列を二つに分けた。


「Tシャツのサイズを見たい方は、こちらで見本を確認できます」

「購入が決まっている方は、奥の列へどうぞ」

「赤ペンとステッカーのみの方はこちらです」

「タオルだけの方、こちら空いてます」


声は大きすぎない。

でも通る。


Miwaは、少し緊張しながらも笑顔で対応する。


「ロゴTは少しゆったりめです」

「飯はREADYは白なので、気になる方は中に一枚着てもいいと思います」

「赤ペンは、はい、ちゃんと書けます。グッズだけど文房具としても使えます」


客が笑う。


「刺す用ですか?」


Miwaは一瞬迷い、にこっと笑った。


「聞ける人になる用です」


隣でSaraが小さく親指を立てた。


Ninaは、キャリーケースを持った遠征組へ声をかける。


「通路に置くと詰まりやすいので、こちらの壁側へお願いします」

「買い終わった方は、日陰側でお待ちください」

「水分取ってくださいね。今日暑いので」


Yuiは家族連れに丁寧に説明している。


「お子さまのTシャツサイズは、こちらの見本に近いです」

「タオルはライブ中に振る方もいますが、周りの方に当たらないようにお願いします」

「うちわは、胸の高さまでなら大丈夫です」


五人が入ったことで、列は明らかに流れ始めた。


スタッフだけでは拾いきれなかった小さな迷いが、ひとつずつ消えていく。


どこに並べばいいのか。

サイズを見たい時はどうすればいいのか。

赤ペンだけ買う人はどこへ行けばいいのか。

家族連れはどこで待てばいいのか。

キャリーケースをどこに寄せればいいのか。


大きな決断ではない。


でも、その小さな詰まりが取れるだけで、人の流れは変わる。


新川は少し離れたところでそれを見ていた。


「……いいですね」


スタッフが頷く。


「かなり助かってます」


「無理はさせないでください」


「はい」


新川は、五人の動きを見た。


彼女たちは目立とうとしていない。

前に出すぎない。

でも、必要なところに入る。

客を不安にさせない。

スタッフの指示を超えない。


非常に扱いやすい補助だった。


それは簡単なようで、簡単ではない。


善意で現場に入る人間は、ときどき善意のまま現場を乱す。

自分の判断で動く。

よかれと思って別の列を作る。

客に余計なことを言う。

責任範囲を超える。


でも、彼女たちはそれをしなかった。


誰の現場かを分かっている。


新川は、少しだけ印象を改めた。


リバクラの周りには、ただ熱いだけではない人間がいる。


それは、イベントを組む上でかなり大きい。


会場の外では、チケットを持たない人たちも少しだけ残っていた。


もちろん、会場周辺に長時間滞留することは推奨されていない。

スタッフも声をかけている。

近隣の迷惑になるほど集まることはできない。


それでも、数人が少し離れた場所にいた。


チケットは取れなかった。

でも、どうしてもこの日の空気だけ感じたかった。


駅前のベンチ。

会場から少し離れた歩道。

近くのカフェ。

建物の陰。


そこに、逆クラウンのステッカーを貼ったスマホを持つ人がいる。

READYタオルをバッグに結んだ人がいる。

SNSを見ながら、入場する人たちの写真ではなく、感想の流れを追っている人がいる。


その一人が、会場の方を見て小さく言った。


「音、漏れるかな」


隣の友人が笑う。


「漏れたら怒られるやつじゃない?」


「大音量じゃなくていいの。始まったって分かるだけでいい」


「それは分かる」


「中に入れないけど、今日ここに来たっていう思い出は欲しい」


「次は取ろう」


「次も一週間で完売したらどうしよう」


「その時は、もっと早くREADYする」


二人は笑った。


会場に入れる人。

入れない人。

物販だけ買う人。

音を感じたい人。

家族で来た人。

一人で来た人。

遠くから来た人。

近くなのに緊張して早く来すぎた人。


それぞれの小さな事情が、会場の周りに集まっている。


夏の光の中で、それらは少しずつ一つの熱になっていった。


入場開始の時間が近づく。


スタッフが案内を変える。


「チケットをお持ちの方は、こちらへお願いします」

「物販購入後の方は、入場列にお並びください」

「再度、チケット画面のご準備をお願いします」

「手荷物は足元へ。通路には置かないようお願いします」


ロビーへ入ると、外の熱とは違う冷気が肌に当たった。


その瞬間、何人かが同時に息を吐く。


「涼しい……」


「生き返る」


「READYタオル、もう汗吸った」


「ライブ前に仕事しすぎ」


会場内の壁には、案内が貼られている。


撮影ルール。

物販案内。

終演後の導線。

トイレの場所。

緊急時の案内。

応援グッズの使用ルール。


その一つ一つが、誰かの準備の跡だった。


ロビーの片側には、花ではなく、小さなメッセージボードが置かれていた。


リバクルーが自由に短い言葉を書けるものだった。


すでにいくつか書かれている。


今日を越えに来ました。

飯は食ってきました。

初ライブです。

一人で来たけど、一人じゃない気がしてます。

変われる人は聞ける人、赤ペン買いました。

遠征しました。明日仕事です。

READYしてきた。

横に来ました。


その最後の言葉を見て、一人の女性が少しだけ目を押さえた。


隣の友人が気づく。


「もう泣く?」


「横に来ました、はずるい」


「まだ始まってない」


「知ってる」


「温度計いる?」


「いる」


ロビーには、黒いロゴTの人が増えていった。


飯はREADY Tも、思ったより多い。

ネタTとして買ったはずなのに、並んでいると妙に一体感がある。


赤ペンを胸ポケットに挿している人もいる。

ペンケースに入れている人もいる。

首から下げたチケットホルダーに挟んでいる人もいる。


それを見て、別の客が笑う。


「赤ペン勢、多くない?」


「刺される準備できすぎ」


「いや、聞く準備です」


「言い方が優等生」


「変われる人なので」


「自分で言うな」


会場内に入ると、照明はまだ明るい。


ステージには黒い布。

三本のマイク。

奥には逆さまのクラウンを思わせるロゴ。

過剰な装飾はない。

でも、余白があった。


これから何かが始まるための余白。


前列に近い席では、女子グループがうちわを確認している。

大きく上げない。

胸の高さ。

後ろに迷惑をかけない。


そのうちの一人が、小さなボードを見て笑った。


情緒


「これだけで通じるの強い」


「今日、情緒持つかな」


「持たないでしょ」


「温度計ある?」


「ない」


「終わった」


その少し後ろで、五人組がようやく客席に入ってきた。


物販ヘルプを終えた彼女たちだった。


スタッフから礼を言われ、水分を取るよう促され、ようやく自分たちの席へ向かう。


Miwaが小声で言う。


「もう、ライブ前に一仕事したんだけど」


Ninaが笑う。


「でも流れたね」


Sara。


「赤ペン、あれ絶対まだ伸びる」


Yui。


「家族連れの子、飯はREADY着てくれてたね」


Kateは、客席を見渡した。


「いい会場になってる」


その言葉に、五人は少しだけ黙った。


いい会場になっている。


それは、リバクラだけで作ったものではない。

イベント会社だけでもない。

客席だけでもない。


今日ここに来た人たちが、少しずつ持ち寄っている。


声。

タオル。

Tシャツ。

赤ペン。

うちわ。

汗。

期待。

緊張。

マナー。

節度。

ふざけた文字。

言えない感情。


その全部が、会場の空気を作っていた。


Miwaが、ステージを見たまま小さく言った。


「……ほんとに始まるんだね」


Saraが、今度は茶化さなかった。


「うん」


Ninaも頷く。


「始まる」


Yuiはタオルを膝の上で畳み直した。


Kateは、ステージの三本のマイクを見ていた。


誰も、余計なことは言わなかった。


言える言葉と、言わない方がいい言葉がある。

今日、彼女たちはそれを守る。


でも、守ったからといって、感情がないわけではない。


胸の中では、いろいろなものが波打っていた。


楽しみ。

誇らしさ。

少しの緊張。

少しの寂しさ。

そして、どうしようもないくらいの期待。


照明が、一段落ちた。


会場の声が少し静まる。


ざわめきが、波のように引いていく。


ステージ袖で、スタッフが最後の確認をしているのが見えた。


新川は壁際に立ち、インカムに短く返事をしている。


「入場完了」

「物販列、解消」

「ロビー確認」

「外周、滞留少数。スタッフ対応中」

「開演、定刻で行きます」


定刻。


その言葉を聞いて、スタッフの一人が小さく息を吐いた。


物販は混んだ。

列も伸びた。

臨時補助も入れた。

でも、間に合った。


新川は、客席を一度見た。


満員。


ただ詰め込んだ満員ではない。

立っている人も、座っている人も、それぞれに収まっている。

導線は生きている。

視界も崩れていない。

スタッフの目も届いている。


入れられる人数と、入れていい人数は違う。


彼は自分の言葉を思い出した。


今日の会場は、入れていい人数で満ちている。


そのことに、少しだけ安堵した。


そして同時に、ここから先はアーティストの時間だと思った。


イベント会社が場を整える。

客席を入れる。

導線を作る。

危険を潰す。

帰り道を考える。


でも、灯りが落ちた後、そこに熱を入れるのは三人だ。


Reverse Crown。


新川は、ステージ袖の方を見た。


黒い影が、少し動いた。


会場がその気配に気づく。


一人が息を飲む。

誰かのタオルが膝の上で握られる。

赤ペンのキャップを、意味もなく一度だけ押す音がする。

うちわを持つ手が少し震える。


遠征組が、スマホをしまった。

親子連れの父親が、子どもの肩に軽く手を置いた。

女子グループの一人が、小さく「来る」と言った。


五人組のMiwaは、両手を膝の上でぎゅっと握った。


Saraが横目で見て、少しだけ笑う。


「大丈夫?」


Miwaは小さく頷いた。


「大丈夫」


Ninaが囁く。


「恋ではある?」


Miwaは、声を出さずに口だけで言った。


やめて。


Kateが前を向いたまま、少しだけ笑った。


その瞬間、会場が暗転した。


誰かが小さく叫んだ。


次の瞬間、低音が床を揺らした。


一気に、空気が変わる。


客席のざわめきが歓声に変わった。


三本のマイクの前に、光が落ちる。


逆さまのクラウンが、黒い幕の奥で淡く浮かび上がる。


会場の外で音だけを待っていた人たちも、その低音に気づいた。


「あ」


「始まった」


中にいる人も。

外にいる人も。

物販を手伝った人も。

遠くから来た人も。

一人で来た人も。

誰かと来た人も。


同じ瞬間に、少しだけ息を止めた。


夏の単独ライブが、始まる。

mcRC「この小説の歌は実際に聴けるから、聴きながら読んでみてくれよな」

聴く場合はこちら:

コピペしてブラウザに貼り付けて、、、。とぶぞ。


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https://youtu.be/EtMf8rkKn_0?si=fOf9lmgp2QZR2MKR


HOMEBASE

https://youtu.be/ARSsZ0r8CRc?si=2e8PbVXltjdbNr2Q


feel

https://youtu.be/PAmI_q-HbFU?si=FZuLbe2ZiBzmms51


keep moving

https://youtu.be/QWW73v7L1D0?si=7YEjlRgRRuQhve80


CALL ME OUT

https://youtu.be/Y161l0pX_wA?si=GZjh8_JyrDkMdkLv


READY

https://youtu.be/P2sNZMSjjdU?si=GsE110DD92sYEhr4


SHOWTIME!

https://youtu.be/RrqmZjsded4?si=kZt8W-O5sWGhMJaN


ATTACK

https://youtu.be/tRSOHKXvij8?si=xqiYugwdtS0mTWMu


SAY IT TO ME

https://youtu.be/AdAhmiHwxfM?si=BMBopJs6y9S6hLWM


ORIGIN

https://youtu.be/v7r3_l4mYQM?si=l1vPLtDcNWjW9O6H


nofake

https://youtu.be/oV7c-3TJMgM?si=WDW85lU6iqQsmqZy


決めろ!はコチラ

https://youtu.be/P_2d3hcx3Uw?si=hvvTW3RMB2adTtwN


RUN IT

https://youtu.be/ptZZJdr_2hc?si=1Fw9cRYCdJAd1so4


ORDER

https://youtu.be/AdAhmiHwxfM?si=BMBopJs6y9S6hLWM

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