2-7-2 Reverse Crown
mcRC「この小説の歌は実際に聴けるから、聴きながら読んでみてくれよな」
聴く場合はこちら:
コピペしてブラウザに貼り付けて、、、。とぶぞ。
Reverse Crown/リバクラ
https://youtu.be/FI0rcVj1WUA?si=YTlhx_1Sq_TaV9Qe
DESTINATION
https://youtu.be/JTYqNX2aSEM?si=XiPvuQManbc7qZ__
UNSEEN HANDS
https://youtu.be/-7JI-GA7Jkg?si=1bDm7SNAOzQLAYts
THAT SEAT
https://youtu.be/RroRseSoJ_8?si=hIIpjx5z-IxxfnTJ
BBQ
https://youtu.be/EtMf8rkKn_0?si=fOf9lmgp2QZR2MKR
HOMEBASE
https://youtu.be/ARSsZ0r8CRc?si=2e8PbVXltjdbNr2Q
feel
https://youtu.be/PAmI_q-HbFU?si=FZuLbe2ZiBzmms51
keep moving
https://youtu.be/QWW73v7L1D0?si=7YEjlRgRRuQhve80
CALL ME OUT
https://youtu.be/Y161l0pX_wA?si=GZjh8_JyrDkMdkLv
READY
https://youtu.be/P2sNZMSjjdU?si=GsE110DD92sYEhr4
SHOWTIME!
https://youtu.be/RrqmZjsded4?si=kZt8W-O5sWGhMJaN
ATTACK
https://youtu.be/tRSOHKXvij8?si=xqiYugwdtS0mTWMu
SAY IT TO ME
https://youtu.be/AdAhmiHwxfM?si=BMBopJs6y9S6hLWM
ORIGIN
https://youtu.be/v7r3_l4mYQM?si=l1vPLtDcNWjW9O6H
nofake
https://youtu.be/oV7c-3TJMgM?si=WDW85lU6iqQsmqZy
決めろ!はコチラ
https://youtu.be/P_2d3hcx3Uw?si=hvvTW3RMB2adTtwN
RUN IT
https://youtu.be/ptZZJdr_2hc?si=1Fw9cRYCdJAd1so4
ORDER
https://youtu.be/AdAhmiHwxfM?si=BMBopJs6y9S6hLWM
暗転した瞬間、会場の温度が変わった。
さっきまで、客席には人の気配があった。
隣同士で小さく話す声。
タオルを畳み直す音。
椅子を引く音。
ペットボトルのキャップを閉める音。
緊張を笑いで逃がそうとする声。
「もうすぐかな」と言う声。
「やばい、始まる」と言う声。
それらが、一瞬で消えた。
完全な無音ではない。
人がたくさんいる場所の沈黙には、音がある。
息を飲む音。
布が擦れる音。
誰かの喉が小さく鳴る音。
椅子の上で体重が前に寄る音。
胸の奥で、まだ声になる前の期待が膨らんでいく音。
客席は、ステージを見ていた。
黒い幕の奥。
三本のマイク。
中央に浮かび上がる、逆さまのクラウン。
そのロゴは、強く光っているわけではなかった。
むしろ、薄い。
暗闇の中に、最初からそこにあった傷のように浮かんでいる。
派手な王冠ではない。
勝者の証でもない。
上から与えられる栄光でもない。
逆さま。
その形だけで、もう意味があった。
会場の後方で、誰かが小さく言った。
「……来る」
その声は、すぐに低音に飲まれた。
ドン。
床が鳴った。
ただ音が鳴ったのではない。
足元から突き上げるような低音が、会場の全員の体を同じ一拍に乗せた。
ドン。
二発目で、何人かが無意識に背筋を伸ばした。
照明はまだ落ちている。
ステージは見えない。
見えないのに、そこに三人がいる気配だけが分かる。
袖の奥で、スタッフが息を止める。
PA卓の横で、新川が腕を組んでいる。
白いポロシャツ。
サングラス。
インカムの先の声を聞きながら、客席とステージを同時に見ている。
彼は表情を変えなかった。
けれど、低音が二発鳴った時点で、会場の集中が正面に吸い寄せられたことは分かった。
定刻。
満員。
導線は生きている。
物販列は収まった。
客席は入った。
音も出ている。
ここから先は、三人の仕事だった。
三発目の低音。
照明が、ステージ上の足元だけを細く照らした。
黒いスニーカー。
黒いパンツ。
少しだけ光沢のあるジャケットの裾。
足元に落ちる影。
一人。
二人。
三人。
客席から、声にならない声が漏れた。
「……いた」
「やば」
「サングラス……」
三人とも、サングラスをしていた。
配信で何度か見ていた人もいる。
けれど、画面越しとステージでは違う。
ステージライトを受けたサングラスは、ただ顔を隠す道具ではなかった。
表情を少し隠すことで、逆に身体の動きが際立つ。
マイクを握る手。
顎の角度。
肩の力。
前に出る足。
曲が始まる前の呼吸。
それが全部、客席から見えた。
mcRCは中央に立っていた。
黒を基調にした衣装。
派手すぎない。
だが、配信部屋にいる時とは明らかに違う。
ジャケットの内側に見える白いインナーが、ステージの光で一瞬だけ浮く。
wataは左側。
黒髪をまとめ、首元に少しだけアクセントがある。
身体を軽く揺らしている。
今にも一拍先へ飛び出しそうな、言葉のバネを持って立っている。
EGUIは右側。
姿勢がまっすぐだった。
余計な動きは少ない。
けれど、立っているだけで芯がある。
サングラスの奥の目は見えないのに、客席を見ていることだけは分かる。
三人が並んだ瞬間、客席の前方から歓声が上がった。
「リバクラ!」
「待ってた!」
「うわ、ほんとに来た!」
「かっこよ……」
その声は、すぐに会場全体へ広がる。
リバクルーだけではない。
初めて来た人も、思わず拍手をした。
親子連れの父親が、少し驚いたようにステージを見る。
女子グループの一人が、手元のうちわを胸の高さでぎゅっと握る。
遠征組の男が、タオルを首にかけ直す。
物販を手伝っていた五人組は、席で小さく息を飲んだ。
Miwaは、声を出さないように唇を結んでいた。
でも、目がもうだめだった。
隣のSaraが横目で見て、小さく肩を揺らす。
「落ち着いて」
Miwaは口だけで返す。
無理。
Ninaが、胸元に挿した赤ペンを指で押さえた。
「まだ一曲目」
Yuiが前を向いたまま囁く。
「一曲目でこれ、最後まで持つかな」
Kateは何も言わなかった。
ただ、ステージを見ていた。
余計なことは言わない。
言えないこともある。
でも、今のこの光景に胸が熱くならないわけがない。
三人は、まだ何も言っていない。
それなのに、もう会場は始まっていた。
ビートが少しずつ形を持つ。
キック。
クラップ。
低く跳ねるベース。
硬すぎないが、軽くもない。
王冠のロゴが、音に合わせてわずかに揺れるように見えた。
mcRCがマイクを上げる。
その動きだけで、客席が静かになる。
そして、最初の声が落ちた。
「王冠なら逆さにしな」
会場の空気が、ぴんと張った。
「上から見下ろす席はいらない」
その言葉で、前方の社会人らしき男性が小さく頷いた。
「俺らは下から来た」
mcRCの声は、普段の配信より低かった。
いや、低いというより、床に置いている声だった。
上から投げてこない。
客席の足元と同じ高さから、少しずつ立ち上がってくる声。
「泥つきのままでステージに立つ」
歓声が起きた。
まだ叫びきれない歓声。
最初の一撃を受け取って、声になるまでに少し時間がかかるような歓声だった。
wataが、そこに声を重ねる。
「Reverse Crown」
EGUIが続く。
「mcRC、wata、EGUIの3MC」
三人の声が揃う。
「誰かのルールじゃ縛れない」
一拍。
「踏まれた声から鳴らす anthem」
その瞬間、照明が一気に上がった。
白と赤の光が、三人の背後から差す。
逆さまのクラウンが、はっきり浮かび上がる。
客席が爆発した。
「うおおおお!」
「リバクラ!」
「きた!」
「始まった!」
最初から全員が声を出せるわけではない。
初ライブの人もいる。
一人で来た人もいる。
隣を気にしている人もいる。
でも、三人の名乗りは、そういう躊躇の表面を一枚剥がした。
ここは声を出していい場所だ。
そう言葉で言われたわけではない。
でも、ビートと三人の立ち姿がそう言っていた。
Hookに入る。
「Reverse Crown」
三人の声。
「逆さの crown」
客席の一部が、もう返そうとしている。
「上から来るなら turn it down」
wataが左手を下げるように振った。
その仕草に合わせて、客席の何人かが同じように手を下げる。
上から来るなら、下げる。
それはただの振り付けではなかった。
この曲の思想を、身体で一瞬だけ分かる形にした動きだった。
「リバクラ now」
「鳴らせ bounce」
今度はwataが膝を軽く使い、音を跳ねさせる。
客席が揺れた。
「下から上がるぜ underground」
後方で、初見らしき男性が「おお」と声を漏らす。
隣の友人が、得意げに言う。
「な」
「いや、ちょっと待て。普通に強いな」
「だから言ったやん」
「思ってたよりちゃんとしてる」
「“ちゃんとしてる”で済むか?」
その会話はすぐにHookの続きに飲まれる。
「No more blame」
「No more shame」
「押しつけ正義に no more chain」
このラインで、客席の温度が少し変わった。
ただ盛り上がるだけではない。
笑うための曲でも、ただ跳ねるための曲でもない。
自分に押しつけられた言葉。
誰かの正しさの形をした刃。
そういうものを知っている人たちが、少しだけ表情を変える。
Reverse Crown。
逆さまの王冠。
その名前の奥にある怒りと、痛みと、それでも跳ねる力。
1曲目で、それを全部出してきた。
mcRCが一歩前へ出る。
Verse 1。
「ぱっとしない日々に嫌気が差して」
照明が少し青くなる。
mcRCの周りだけ、夜の駅前みたいな色になる。
Scene Maker。
彼の役割が、歌詞の中だけでなく、ステージの空気ごと立ち上がる。
「鏡の奥から火花が差して」
前列の女性が、息を詰める。
その言葉で、自分が見てきた鏡を思い出したのかもしれない。
朝の洗面台。
仕事前の顔。
学校へ行く前の顔。
変わりたいと思いながら、結局同じ服を着る自分。
「『変わりたい』じゃない
『変わるしかない』」
ここで、会場の何人かが声を上げた。
「うわ……」
「そこ好き」
「変わるしかない……」
mcRCは、客席の反応を見ていた。
見すぎない。
でも、見落とさない。
サングラスの奥の目は見えない。
それでも、彼の顔の向きで分かる。
前列だけを見ているのではない。
後方。
端の席。
一人で立っている人。
腕を組んでいる人。
タオルを握っている人。
全部を、一つの景色として拾っている。
「高校デビューからここまで rise」
この一節で、少し笑いが起きる。
青さ。
ダサさ。
うまくいかなかった自分。
変わろうとして空回りした自分。
それを隠さず出すから、会場は笑える。
「笑われた日も
浮かれた日も
青くてダサい失敗の日も」
wataが後ろで、笑いながら小さく頷く。
たぶん、このあたりの言葉は、何度も聞いている。
制作の時にも、配信でも、リバクラボでも。
それでも本番で聞くと違う。
ステージ上で、mcRCが自分の青さを堂々と歌う。
それを客席が受け取る。
青さが恥ではなくなる。
「全部まとめて背負って行く
過去ごとひっくり返して swing」
ここで、wataが体を少し揺らした。
swing。
その単語だけに反応したわけではない。
ただ、曲がそこから少し前へ転がった。
mcRCはVerseを進める。
「青春の痛みも badge に変える
悔しさ全部を verse に変える」
客席の中で、若い男が無意識に拳を握る。
「納得できない理屈で縛る
わけのわからん正義が刺さる」
そのラインで、社会人勢の顔が変わった。
分かる人には分かる。
“わけのわからん正義”。
誰かの都合なのに、正しさの顔をしているもの。
上から降ってくる言葉。
「普通はこうだろ」
「みんなやってる」
「甘えるな」
「社会では通用しない」
そのくせ、言った側は自分が刺したことに気づいていない。
そういうものの質感が、この一行で客席に落ちた。
mcRCは叫ばない。
でも、言葉が強い。
「だから名付けた Reverse Crown
王冠なんて逆さでいい」
逆クラウンのロゴが、背後で強く光った。
「偉そうな席から見下ろすより
同じ地面で仲間と climb」
ここで、前方のタオルがいくつも上がる。
同じ地面。
それは、今日の会場そのものだった。
ステージと客席は分かれている。
照明はステージに当たっている。
マイクを持っているのは三人だ。
でも、言葉の位置は上ではない。
「俺が火をつける
景色を変える
黙った空気をステージに変える」
mcRCが、右手をゆっくり開いた。
その手の先に、客席の沈黙があった。
ライブ前の緊張。
初めて来た人の戸惑い。
会場外で待っていた人の気持ち。
物販列で汗を拭いていた人の表情。
それらを、彼は本当にステージに変えようとしている。
「リーダーなんて柄じゃないけど
この名前だけは譲れない」
このラインで、wataが少しだけ横を向いた。
EGUIも、ほんの少しだけ顎を引いた。
二人とも、そこに何かを感じたのだと思う。
リーダーなんて柄じゃない。
それでも、この名前だけは譲れない。
Reverse Crown。
このグループは、誰か一人の王冠ではない。
でも、名前を立てた人間の覚悟はある。
客席から、声が飛んだ。
「譲るな!」
誰かが叫んだ。
それは予定されたコールではない。
でも、mcRCは一瞬だけその方向を見た。
サングラスの奥は見えない。
けれど、口元が少しだけ笑った。
「上から来る声
全部 turn it down
下から鳴らす俺らの sound」
wataとEGUIが、後ろから声を重ねる。
「誰かの普通で終われない」
mcRCが一歩引く。
「俺が Scene Maker
幕を開ける」
そしてHook。
今度は客席が返した。
最初より、明らかに声が増えていた。
「Reverse Crown!」
「逆さの crown!」
完璧ではない。
声の高さも違う。
タイミングも少しズレる。
でも、それがライブだった。
リバクルーは当然歌う。
初見の人は、隣の声を聞きながら少し遅れて乗る。
親子連れの男の子が、「リバクラ now」だけ妙にはっきり言う。
父親が笑っている。
Kateたち五人の席でも、Miwaがもう小さく口ずさんでいた。
Saraが横から見る。
「早い」
Miwaは前を見たまま答える。
「無理」
「まだ一曲目」
「知ってる」
「持つ?」
「知らない」
Ninaが小さく笑った。
「心の中ではもう倒れてるね」
Miwaは首を横に振る。
「心の中どころじゃない」
Yuiが言う。
「声、出しすぎないでね」
「節度あるリバクルーなので」
「今、自分に言い聞かせたよね」
「うん」
その会話は、周りに聞こえないくらい小さい。
でも、確かにそこにあった。
彼女たちだけではない。
女子勢は、もうかなり撃たれていた。
サングラス。
黒衣装。
低音。
汗。
名乗り。
三人の立ち方。
しかも、ただ格好つけているだけではない。
格好つけている。
それは間違いない。
でも、ちゃんと格好いい。
それが問題だった。
客席のどこかで、女子二人組の片方が小声で言った。
「あれはずるい」
もう片方が頷く。
「かっこつけてる」
「うん」
「でも、かっこいい」
「それがずるい」
「沼?」
「入口開いた」
「閉めて」
「無理」
ステージでは、wataが前に出ていた。
Verse 2。
彼の出だしで、ビートの聞こえ方が変わる。
mcRCが景色を作った後、wataはその景色の中に言葉の回路を張る。
「音と言葉なら絡めて lock
ただ気持ちいいだけじゃ足りない stock」
声のスピードが上がる。
客席の体が、少し前のめりになる。
wataのラップは、ただ速いだけではない。
言葉が引っかかる。
跳ねる。
戻る。
次の音へ繋がる。
「rhyme の奥に意味を忍ばす
flow の裏側で牙を尖らす」
若い男性客が、思わず「うま」と漏らした。
その隣で、別の客が頷く。
「wata、音源よりライブの方がえぐい」
「声が粒立ってる」
「内韻、今の何?」
「分からん。でも気持ちいい」
wataは、客席のそういうざわめきすら自分のリズムに入れているようだった。
「straight に言えばバレる本音
だから複雑に畳む code」
このラインで、彼の表情が少し変わる。
サングラスで目元は見えない。
でも、口元の角度が変わった。
ただのテクニック自慢ではない。
言えなかったことがある。
まっすぐ言えないから、韻に畳む。
言葉遊びの裏に、本音を隠す。
でも隠しきれない火がある。
「わかるやつだけ拾えばいい
でも core の火だけは消さない」
前列のリバクルーが、胸の前で拳を握った。
その火は、分かる人には分かる。
「権力ぶった声がでかいなら
こっちは密度で返すだけ」
ここで会場の空気が少し硬くなる。
声がでかい人間。
権力のように振る舞う言葉。
理屈ではなく音量で押す人。
そういうものに疲れた人たちが、この会場には少なからずいた。
wataは、そこへ真正面から怒鳴り返さない。
密度で返す。
「押さえつけられた経験なら
俺も胸の奥に持ってるぜ」
その一行で、彼がただの技巧派ではないことが見える。
Technician。
でも、その技術は飾りではない。
「言えなかったこと
飲み込んだこと
口に出せずに沈めたこと」
声の粒が、少しずつ沈んでいく。
「その沈黙まで beat に変換
韻で分解
意味で反乱」
ここで、客席のどこかから大きな声が上がった。
「うわ!」
感想なのか歓声なのか分からない。
でも、その声にwataは反応した。
少しだけ顎を上げる。
そして、次のラインへ畳みかける。
「Reverse の R
Crown の C
理屈の檻なら break the key」
英語と日本語が混ざる。
でも雑ではない。
音の快感を作りながら、意味が逃げない。
「技巧は飾りじゃない
思想を届けるための武器」
この瞬間、wataのキャラが客席に刺さった。
韻がうまい人。
言葉が速い人。
それだけではない。
技巧は思想を届ける武器。
その一行で、彼の全体が見えた。
後方の初見客が、思わず呟く。
「この人、ただ早口なだけじゃないんだな」
隣のリバクルーが、嬉しそうに笑う。
「そう」
「なんでお前が誇らしそうなん」
「分かってくれたから」
「親か」
「リバクルーです」
wataは最後の畳みかけに入る。
「揃える韻
ずらす rhythm
隠す pain
鳴らす reason」
彼の右手が、音を刻むように動く。
「上から来るなら turn it down
地下から跳ね返す リバクラ sound」
Hookへ戻る。
客席の声は、さらに太くなっていた。
「Reverse Crown!」
今度は、リバクルーだけではない。
初見も混じる。
まだ歌詞を完全に知らない人も、「Reverse Crown」だけは返せる。
「リバクラ now」は、もうかなりの人数が言える。
wataは少し笑った。
その笑いは、余裕ではない。
嬉しさを隠しきれない笑いだった。
ステージに立つ者としては、崩れない。
でも、声が返ってきたら、やっぱり嬉しい。
その嬉しさも含めて、ライブだった。
Hookが終わると、EGUIが前に出た。
空気が変わる。
wataが作った音の密度から、一気に言葉の芯へ。
EGUIは、マイクを持つ手をほとんど動かさない。
身体の揺れも少ない。
でも、声が来る。
「俺は難しいことは苦手
でも嫌なもんは嫌って言いてえ」
シンプルだった。
あまりにシンプルで、逆に逃げられない。
客席が静かになる。
「家でも外でも飲み込んできた
本音の置き場を探してきた」
この一節で、何人かが動きを止めた。
家でも。
外でも。
どこにも置けなかった本音。
それは、特別な人だけの話ではない。
言えなかった怒り。
飲み込んだ違和感。
笑って流した一言。
帰り道にだけ思い出す悔しさ。
EGUIの言葉は、そこへまっすぐ降りる。
「だから音楽じゃ隠さない
感じたことをそのまま書きたい」
彼は、飾らない。
飾らないことが、一番難しい時がある。
言葉を整えすぎれば、痛みは薄まる。
怒りを大げさにすれば、嘘になる。
笑いに逃げれば、本音が消える。
EGUIは、そのどれでもない場所に立っている。
「朝のだるさ
街のざわめき
誰かの一言で沈む帰り」
照明が少し暖色になる。
生活の景色。
mcRCが作る景色とは違う。
もっと平たい。
もっと日常に近い。
でも、その平たさの中に痛みがある。
「日々の生活
小さな怒り
笑って流した悔しさの残り」
客席の後方で、仕事帰りのような格好をした女性が、少しだけ俯いた。
たぶん、何かを思い出した。
横にいた友人が、何も言わずに肩を軽く触れる。
「全部そのまま韻にして
嘘なくまっすぐ歌にして」
EGUIの声が、少し前に出る。
「考えすぎるのは得意じゃない
でも押さえつけられるのは大嫌い」
そのラインで、客席から小さな拍手が起きた。
まだ曲の途中なのに。
誰かが、思わず手を叩いた。
それはすぐに他の拍手へ広がる前に消えた。
でも、EGUIには届いた。
彼はほんの少しだけ頷いた。
「だからリーダーの言葉に乗った
Reverse Crown なら俺も行きたい」
mcRCが横で、その言葉を受け取った。
顔は見えない。
でも、肩が少しだけ動いた。
wataも、下を向いて笑っている。
この曲は紹介ソングだ。
でも、ただ自己紹介をしているわけではない。
三人がなぜここに立つのか。
誰の声に乗ったのか。
どういう痛みを持っているのか。
何をひっくり返そうとしているのか。
それを一曲で見せている。
EGUIは続ける。
「俺の verse は直球勝負
飾らないから刺さる衝動」
本当に直球だった。
「難しい理屈はいらない
人を潰すな
それだけだろ」
会場が、静かになった。
盛り上がっていた熱が、消えたわけではない。
むしろ、熱はそのままなのに、音だけが少し内側へ落ちた。
人を潰すな。
それだけ。
難しい言葉ではない。
でも、その一言を本当に言い切るには、覚悟がいる。
客席の誰かが、小さく「それだけだよ」と呟いた。
EGUIは最後へ向かう。
「お前が決めんな
勝手に測んな
甘えの一言で命を削んな」
このラインで、数人が明らかに息を止めた。
甘え。
その言葉で削られたことがある人。
その言葉で誰かを削ったことがある人。
両方が、この会場にいる。
EGUIは、それを責め立てるようには歌わない。
ただ、言い切る。
「俺らは逃げない
俺らは黙んない
リバクラの声で返す one time」
最後の one time に合わせて、三人が同時に前へ出た。
Bridge。
ここで、ビートが少し落ちる。
ステージの光が赤から白へ変わる。
三人の声が、交互ではなく重なる。
「人格を踏みにじって」
mcRC。
「殴った自覚もないまま」
wata。
「正論モドキで殴ってくるような」
EGUI。
声が重なる。
「無自覚なサイコパス」
その言葉で、会場に緊張が走った。
強い。
かなり強い言葉だ。
でも、この曲の中では浮かなかった。
なぜなら、ここまで三人が積んできたからだ。
見下ろす席はいらない。
押しつけ正義に no more chain。
言えなかったこと。
飲み込んだこと。
人を潰すな。
それらが積み重なった上で、この言葉が出る。
「声が出る『あれは人なのか』」
この一行で、客席の空気がさらに硬くなった。
分かる人には、分かりすぎる。
人として扱われなかった瞬間。
言葉で殴られて、相手が殴った自覚すら持っていない瞬間。
「正しいことを言っているだけ」と言われて、こちらの人格だけが削れていく瞬間。
その時、本当に思う。
あれは人なのか。
wataは、その言葉を言ったあと、すぐに次の音へ逃げなかった。
一拍、置いた。
その一拍が重かった。
EGUIが、そこに低く入る。
「そんな世界を鳴らし直すんだ」
mcRCが、マイクを高く上げた。
「掲げろ逆さの crown」
そして、三人が一気に客席へ向かった。
「さあ、みんなついて来い!」
会場が爆発した。
この瞬間、1曲目の役割が完全に決まった。
これは、自己紹介だけではなかった。
これは、契約だった。
俺たちはこういうグループだ。
こういう場所から来た。
こういう声を拾う。
こういう怒りを持っている。
こういう仲間で立っている。
そして、上からじゃない。
下から行く。
ついて来い。
その言葉に、客席は声で返した。
「行く!」
誰かが叫んだ。
「ついてく!」
別の誰かが叫んだ。
「リバクラ!」
叫びは、整っていない。
でも、熱い。
Final Hook。
「Reverse Crown
逆さの crown
上から来るなら turn it down」
客席が返す。
「turn it down!」
wataが嬉しそうに笑う。
「リバクラ now
鳴らせ bounce
下から上がるぜ underground」
タオルが上がる。
まだ二曲目でもないのに、READYジムタオルがもう会場のあちこちで揺れている。
「No more blame
No more shame
押しつけ正義に no more chain」
このフレーズでは、声よりも拳が上がった。
大声で叫べない人もいる。
でも拳は上がる。
それぞれの形で、返している。
「Reverse Crown
逆さの crown
俺らの声で変える game now」
照明が一気に明るくなる。
三人の汗が見えた。
まだ一曲目。
それなのに、もう額に汗がある。
サングラスの縁に、光が反射している。
ジャケットの肩が、呼吸に合わせて上下している。
かっこつけている。
間違いなく、かっこつけている。
でも、それは薄い見栄ではなかった。
自分たちをラッパーとして見せるため。
顔バレを防ぐため。
日常の顔とステージの顔を分けるため。
リバクラという名前に、ちゃんと形を与えるため。
そのためのサングラス。
そのための衣装。
そのための立ち姿。
だから、刺さる。
女子勢の一部は、もう完全に撃沈していた。
「待って、無理」
「ほんと無理」
「ああん……すてき……」
「声に出すな」
「出る」
「まだ一曲目」
「知ってる!」
「カッコつけてるのに、ちゃんとカッコいいのなんなの」
「それ」
「沼じゃん」
「沼」
「入口どこ?」
「もう落ちたあと」
その会話も、Final Hookの熱に飲まれていく。
「Reverse Crown
逆さの crown
王様気取りは turn it down」
EGUIが、この line で少し前へ出る。
「リバクラ now
鳴らせ bounce
踏まれた分だけ rise around」
mcRCが客席を見渡す。
踏まれた声。
この会場には、それぞれ踏まれたものを持ってきた人がいる。
仕事で。
家で。
学校で。
恋愛で。
自分自身の中で。
でも、今日はそれをただ抱えて帰るのではない。
音にする。
声にする。
笑いにする。
拳にする。
タオルにする。
涙にする。
「No more blame
No more shame
無自覚な刃に no more chain」
wataが「no more chain」でマイクを下げるように振る。
客席が返す。
「no more chain!」
今度はかなり大きい。
「Reverse Crown
逆さの crown
俺らの名前で変える game now」
最後の一拍。
音が一瞬止まる。
三人が並ぶ。
「Scene Maker」
mcRCが言う。
「Technician」
wataが言う。
「Straight Type」
EGUIが言う。
その名乗りに、客席が反応する。
「三つの声で一つの crown」
三人。
「逆さにしても輝く crown」
ステージ背後の逆クラウンが、白く光った。
「Reverse Crown」
間。
「リバクラ」
客席から、名前が返る。
「リバクラ!」
三人は、そこで少しだけ笑った。
最後。
「上からじゃない」
三人の声。
「下からだろ」
客席。
「下から!」
「ここからだろ」
三人。
「まだ終わらない」
音が落ちた。
一瞬、会場は静かだった。
本当に、一瞬だけ。
その直後、歓声が爆発した。
拍手。
叫び。
タオル。
拳。
笑い声。
泣き声に近い声。
誰かが椅子から立ち上がる音。
後ろの方で、「やばい」と何度も言っている人。
前列で口元を押さえている人。
親子連れの男の子が、父親に向かって「リバクラって言えた」と報告している声。
一曲目が終わった。
でも、終わったというより、扉が開いた。
この夜は、もうただのイベントではない。
Reverse Crownが、会場の中に名前を刻んだ。
ステージ中央で、mcRCが息を整える。
wataは首元を少し引き、汗を逃がす。
EGUIは一度だけ客席を見渡し、ゆっくり頷いた。
三人とも、まだ喋らない。
歓声を受けている。
ただ受けている。
この声が、今日ここまで準備してきたすべてへの返事だった。
物販を並べたスタッフ。
列を整えた人。
水分を取りながら待った人。
チケットを握りしめて来た人。
入れなかったけれど外で始まりを感じた人。
うちわを作った人。
タオルを買った人。
初めて声を出した人。
その全部が、この一曲目の歓声に混ざっていた。
新川は、壁際でその音を聞いていた。
表情は変えない。
でも、腕を組む指が少しだけ動いた。
一曲目で、ここまで持っていく。
ただ盛り上げたのではない。
名前を説明した。
思想を渡した。
三人の役割を見せた。
客席の声を引き出した。
イベント屋として、それがどれほど難しいか、彼は分かっていた。
初単独の一曲目。
アーティストは、そこで自分たちの全部を出しすぎてもいけない。
出さなさすぎてもいけない。
内輪に寄りすぎれば初見が置いていかれる。
説明しすぎればライブが止まる。
格好つけすぎれば薄くなる。
照れれば負ける。
リバクラは、照れなかった。
新川は、ほんの少しだけ口元を緩めた。
「……いい入りです」
隣のスタッフが小声で頷く。
「はい」
客席では、まだ拍手が続いている。
mcRCが、ようやくマイクを上げた。
「ありがとう」
その一言に、客席がまた沸く。
wataが続く。
「一曲目から声でかいな」
客席が笑う。
「いいぞ!」
「もっと出す!」
「喉守れ!」
wataが客席の声を拾う。
「喉守れって言われた。初単独で客に健康管理されるグループです」
笑いが起きる。
EGUIが低く言う。
「水飲め」
客席がさらに笑う。
「飯じゃない!」
誰かが叫ぶ。
EGUIは少しだけ間を置いて、真面目に返した。
「飯はあとでいい。今は水」
爆笑が起きた。
緊張がほどける。
一曲目で上がった熱に、少しだけ人間味が戻る。
mcRCは、笑いが落ち着くのを待った。
サングラスの奥の目は見えない。
でも、口元には確かに笑みがあった。
「改めまして」
拍手が小さくなる。
「Reverse Crownです」
客席が返す。
「リバクラ!」
mcRCは頷く。
「今日は、来てくれて本当にありがとう」
その声は、さっきの曲中とは違う。
少しだけ素に近い。
けれど、ステージ上の声だった。
「ここまで来るまでに、ほんまにいろんな声をもらってきました」
客席が静かになる。
「配信で」
「ストリートで」
「コメントで」
「ギフトで」
「切り抜きで」
「今日の物販でも」
彼は、少しだけ客席の後方を見る。
「外で待ってくれてた人も」
その言葉に、会場の空気が少し揺れた。
中にいる人たちだけではない。
来たくても来られなかった人。
チケットを取れなかった人。
遠くから応援している人。
そういう人たちも、この夜に含める。
「全部、受け取ってます」
wataが隣で頷く。
EGUIも、静かに客席を見る。
mcRCは続けた。
「で、いつものリバクラなら」
少し間。
「ここで、オーダー入りまーす、って言うところなんやけど」
客席がざわつく。
「え?」
「来る?」
「オーダー?」
「今日あるの?」
mcRCは首を横に振った。
「今日は、オーダーは取りません」
会場が、少しだけ驚いたように静まる。
それは、次の曲への入口だった。
mcRC「この小説の歌は実際に聴けるから、聴きながら読んでみてくれよな」
聴く場合はこちら:
コピペしてブラウザに貼り付けて、、、。とぶぞ。
Reverse Crown/リバクラ
https://youtu.be/FI0rcVj1WUA?si=YTlhx_1Sq_TaV9Qe
DESTINATION
https://youtu.be/JTYqNX2aSEM?si=XiPvuQManbc7qZ__
UNSEEN HANDS
https://youtu.be/-7JI-GA7Jkg?si=1bDm7SNAOzQLAYts
THAT SEAT
https://youtu.be/RroRseSoJ_8?si=hIIpjx5z-IxxfnTJ
BBQ
https://youtu.be/EtMf8rkKn_0?si=fOf9lmgp2QZR2MKR
HOMEBASE
https://youtu.be/ARSsZ0r8CRc?si=2e8PbVXltjdbNr2Q
feel
https://youtu.be/PAmI_q-HbFU?si=FZuLbe2ZiBzmms51
keep moving
https://youtu.be/QWW73v7L1D0?si=7YEjlRgRRuQhve80
CALL ME OUT
https://youtu.be/Y161l0pX_wA?si=GZjh8_JyrDkMdkLv
READY
https://youtu.be/P2sNZMSjjdU?si=GsE110DD92sYEhr4
SHOWTIME!
https://youtu.be/RrqmZjsded4?si=kZt8W-O5sWGhMJaN
ATTACK
https://youtu.be/tRSOHKXvij8?si=xqiYugwdtS0mTWMu
SAY IT TO ME
https://youtu.be/AdAhmiHwxfM?si=BMBopJs6y9S6hLWM
ORIGIN
https://youtu.be/v7r3_l4mYQM?si=l1vPLtDcNWjW9O6H
nofake
https://youtu.be/oV7c-3TJMgM?si=WDW85lU6iqQsmqZy
決めろ!はコチラ
https://youtu.be/P_2d3hcx3Uw?si=hvvTW3RMB2adTtwN
RUN IT
https://youtu.be/ptZZJdr_2hc?si=1Fw9cRYCdJAd1so4
ORDER
https://youtu.be/AdAhmiHwxfM?si=BMBopJs6y9S6hLWM




