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ラップ付き小説 ReversCrown 元気ないやつこっちおいで  作者: egubi
sound session編

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150/186

5-2-7 一回戦突破、おめでとう



控室の扉が閉まった瞬間、会場の音が一段遠くなった。


さっきまで床を震わせていた歓声も、結果発表の拍手も、廊下の向こうで薄い壁に吸われていく。


三人は、しばらく何も言わなかった。


勝った。


Reverse Crownは、一回戦を突破した。


それは確かだった。


けれど、勝った直後の身体は、思ったより派手に喜ばなかった。

むしろ、ステージで張っていた糸が切れないように、まだ少しだけ強張っていた。


mcRCは、ステージ衣装の襟に指をかけた。


黒を基調にしたジャケット。

胸元には、小さく逆さのクラウンが入っている。

肩から袖にかけて、ライトを拾う細いラインが走っていて、動くたびに一瞬だけ光る。


wataはサングラスを外して、手の中でくるりと回した。


「……派手やな」


mcRCが笑った。


「今さら?」


「いや、ステージ上やと気にならんかったけど、控室で見るとだいぶ派手やなって」


wataはサングラスの横を指でなぞった。


「ここ見て。リバースクラウンのマーク入ってる」


EGUIが近づいて覗く。


「細かいな」


「やろ?」


wataは少し嬉しそうに言った。


「新品やで、これ。逆さクラウンも、サングラスも、衣装も。今日のためにちゃんと用意してくれたんやなって思うと、急に重い」


mcRCは、自分の胸元の刺繍を見た。


逆さのクラウン。


ただのロゴではない。

自分たちが名乗った名前。

下から立つという姿勢。

その形が、ちゃんと布の上にある。


「ありがたいな」


mcRCが言うと、EGUIが短く頷いた。


「うん」


wataはサングラスをケースにしまいながら、少しだけ笑った。


「ありがたいけど、派手」


EGUIが言う。


「でも似合ってた」


wataが目を丸くする。


「お、褒めた?」


「事実やろ」


「今日のEGUI、ええやん」


EGUIは水を一口飲んだ。


「勝ったからな」


wataは笑った。


「勝ったら褒めてくれるシステムなん?」


「たまには」


「たまにはかい」


そのやり取りに、mcRCの肩が少し下りた。


いつもの空気が戻ってきた。


BEEFは、壁際の椅子に座って、黒いキャップを外していた。


汗で少し乱れた髪を片手で直し、無言で自分のバッグを引き寄せる。


wataが見た。


「BEEFも衣装、黒で揃ってたな」


BEEFは短く返す。


「黒でいい」


「理由が雑」


「目立たなくていい」


mcRCが笑う。


「いや、今日めちゃくちゃ目立ってたぞ」


BEEFは顔をしかめる。


「後ろにいた」


EGUIが静かに言う。


「後ろでも目立つやつは目立つ」


wataがすぐ乗る。


「ほら。EGUIも言うてる」


BEEFは小さく舌打ちした。


「うるさい」


でも、嫌そうではなかった。


三人は、リバックラインが準備してくれたステージ衣装を脱いだ。


控室に入る前、自分たちで置いていた服に戻る。


mcRCは黒いTシャツに軽い羽織り。

wataは少しゆるいシャツ。

EGUIはシンプルな服。

BEEFは黒いTシャツにキャップ。


ステージの輪郭が、少しずつ日常の身体へ戻っていく。


脱いだ衣装は、持ち帰るために丁寧に畳む。


汗を吸った衣装を雑に扱う気にはならなかった。

今日、自分たちをステージ上で少しだけ大きく見せてくれた服だった。


wataがジャケットを畳みながら言う。


「これ、あとでちゃんとお礼言わなあかんな」


mcRCが頷く。


「言う」


EGUIも言う。


「直接言う」


BEEFが靴を履き直しながら、ぼそっと言った。


「服は大事」


wataが振り向く。


「お前、急にどうした」


「動きが変わる」


mcRCは頷いた。


「それはあるな。今日、衣装着た瞬間に少しスイッチ入った」


EGUIも短く言う。


「立ち方変わる」


wataはジャケットを袋に入れながら笑った。


「じゃあ、リバックラインには“衣装で立ち方変わりました”って言おう」


mcRCが言う。


「普通にありがとうでええやろ」


「いや、それも言う。ありがとうの中身がある方がいいやん」


EGUIが頷いた。


「それはいい」


wataがEGUIを見る。


「今日ほんま肯定多いな」


「いいものはいい」


wataは胸に手を当てた。


「沁みるわ」


BEEFが立ち上がった。


「腹減った」


全員がBEEFを見た。


wataが言う。


「お前から飯の話が出ると、なんか勝った感あるな」


BEEFは眉を寄せる。


「関係ない」


EGUIが言う。


「食うのは大事」


「ほら、EGUIも言うてる」


「それは普通」


wataは笑った。


「普通のことを言えるチーム、ええな」


mcRCは荷物を肩にかけた。


「出よう」


控室を出る前に、三人はもう一度だけ衣装の入った袋を見た。


新品の逆さクラウン。

細かい刺繍。

サングラスの小さなマーク。

今日の一回戦を一緒に通ったもの。


mcRCは小さく言った。


「ほんま、ありがとうやな」


wataも頷く。


「うん」


EGUIが短く言う。


「言いに行こう」


四人は控室を出た。


廊下は、さっきよりずっと静かだった。


スタッフの片づけの音。

遠くで台車が転がる音。

壁に残った熱。

床に残った細い紙くず。

大会初日の終わりの匂い。


wataがバッグを探った。


「忘れ物ない?」


EGUIが言う。


「財布」


wataの手が止まる。


「あった」


BEEFが低く言う。


「実績」


wataがすぐ返す。


「まだ何も忘れてへんやろ!」


mcRCが笑った。


「確認は大事」


EGUIが頷く。


「大事」


wataは二人を見る。


「今日、確認派が多い」


BEEFが言う。


「お前が忘れるから」


「まだ忘れてない!」


そのまま出口へ向かう。


外へ出ると、夏の夜の空気が一気に身体へまとわりついた。


むわっとした熱。

アスファルトの匂い。

遠くを走る車の音。

会場から離れていく人たちのざわめき。

自販機の白い光。


初日が終わった。


本当に終わった。


wataが大きく息を吐いた。


「外、暑っ」


EGUIが言う。


「夏やな」


「それは知ってる」


BEEFが短く言う。


「飯」


wataが笑った。


「BEEF、完全に飯モード」


「腹減ったって言ってる」


「素直でよろしい」


「うるさい」


少し離れた街灯の下に、五人がいた。


Kate。

Miwa。

Nina。

Sara。

Yui。


サングラスは、もう外している。


客席にいた時の熱を少し残しながら、それでも外ではちゃんと落ち着いた顔をしていた。


Miwaが小さく手を上げる。

Ninaがその横で笑う。

Yuiはスマホをしまう。

Saraは姿勢を正す。

Kateが一歩前へ出る。


「お疲れさまでした」


mcRCは自然に頭を下げた。


「来てくれてありがとう」


それから、少しだけ衣装の入った袋を持ち上げた。


「あと、衣装。ほんまにありがとう」


Kateの表情が、少し柔らかくなった。


Miwaがぱっと顔を明るくする。


「着てくれて嬉しかったです!」


Ninaが続ける。


「めっちゃ映えてました。あの逆さクラウン、ライト拾うと強かったです」


wataがサングラスケースを軽く持ち上げる。


「これも細かいな。横にマーク入ってるやん」


Miwaが嬉しそうに頷く。


「そこ見てくれたんですね!」


「見た見た。控室で見て、派手やなって」


Ninaが笑う。


「派手は狙ってます」


mcRCが言う。


「でも、ちゃんとリバクラっぽかった」


Saraが静かに頷く。


「上から豪華に見せる衣装ではなくて、黒の中に印がある感じにしたかったので」


EGUIが短く言う。


「立ちやすかった」


Saraが少し目を細めた。


「それはよかったです」


Yuiがスマホを少しだけ見て言う。


「改善点があれば後でください。動きにくさ、暑さ、視界、ポケット位置など」


wataが笑う。


「ありがたいけど、今この場で出てくる項目がプロすぎる」


Kateが言う。


「次もあるので」


その言葉に、少しだけ全員が静かになった。


次もある。


勝ったから、次がある。


Miwaがこらえきれないように言った。


「一回戦突破、おめでとうございます」


Ninaも続ける。


「ほんとに、おめでとうございます」


Yuiが言う。


「勝利ポイント三点、確認しました」


wataが笑う。


「Yuiさん、そこから入るんや」


Yuiは真顔で頷く。


「大事なので」


EGUIが言う。


「大事」


wataはEGUIを見る。


「今日はほんま乗ってくれるな」


EGUIは少しだけ笑った。


「勝ったからな」


Saraが落ち着いた声で言った。


「審査員評価だけで勝ち切ったというより、観客評価と変化・チャレンジ評価で上回ったのが、今日らしかったと思います」


wataが目を細める。


「めっちゃ見てる」


Saraは微笑んだ。


「見ていました」


BEEFが、Saraの方を一瞬だけ見た。


すぐに目を逸らす。


wataがそれを見逃さない。


「お?」


BEEFが低く言う。


「何」


「いや別に」


Saraは普通にBEEFへ向いた。


「BEEFさんも、お疲れさまでした。今日、判断が早かったですね」


BEEFの返事が、半拍遅れた。


「……どってことねぇよ」


wataが小さく叫ぶ。


「出た」


BEEFが睨む。


「何」


「照れた時のやつ」


「違う」


Saraが涼しい顔で言う。


「耳、赤いですね」


BEEFは固まった。


Miwaが口元を押さえる。

Ninaが横を向いて笑いを逃がす。

Yuiが何か入力しそうになって、Kateの視線で止まる。


BEEFは低く言った。


「……街灯」


EGUIが上を見る。


「白いな」


「うるさい」


wataは腹を抱えそうになった。


「BEEF、今日一番ダメージ受けてる」


「受けてない」


Kateが、少し笑いながら話を進めた。


「それで、もしよければなんですが」


mcRCが見る。


「うん」


「初日も終わりましたし、このあと少しだけご飯でもどうかなと」


Miwaがすぐ補足する。


「無理なら全然です!」


Ninaも言う。


「疲れてると思うので、ほんとに無理のない範囲で」


Yuiがスマホを出す。


「候補は三つあります」


wataが笑う。


「もう候補あるんや」


Yuiは画面を見せた。


「定食屋、ファミレス、駅裏の中華」


BEEFが即答する。


「定食屋」


wataが言う。


「早い」


EGUIも頷く。


「定食屋はいい」


Miwaが笑う。


「定食屋派が強い」


Ninaがスマホを覗き込む。


「でも、定食屋はラストオーダー近いです」


Kateが確認する。


「急がせるのはよくないですね」


Saraが言う。


「ファミレスなら時間に余裕があります。席も広いですし」


BEEFが短く言う。


「水がある」


wataが言う。


「判断基準そこ?」


Saraが少し笑う。


「でも、長く話すなら大事ですね」


BEEFはまた少し黙った。


wataがにやにやする。


「お?」


BEEFが睨む。


「何」


「いや別に」


Kateがまとめる。


「では、ファミレスで。徒歩十分くらいです」


Miwaが嬉しそうに言った。


「祝勝ファミレス!」


Ninaが笑う。


「語感が学生」


Yuiがスマホに入力する。


「予定名:一回戦突破食事会」


wataが言う。


「硬い」


Miwaが言う。


「飯会でいいじゃん」


BEEFがぼそっと言った。


「飯会」


全員がBEEFを見た。


wataが指を鳴らす。


「採用」


Yuiが即座に修正する。


「予定名:飯会」


Saraが微笑む。


「簡潔でいいですね」


BEEFの耳が、また少し赤くなった。


今度は、誰もすぐには突っ込まなかった。


ファミレスは、会場から一本外れた通りにあった。


大会帰りの人はちらほらいるが、会場前ほど混んではいない。

店内に入ると、冷房の風が一気に当たった。


Miwaが目を閉じる。


「文明……」


wataが頷く。


「冷房は勝ち」


EGUIが言う。


「水も勝ち」


BEEFがドリンクバーを見る。


「水ある」


Ninaが笑った。


「水への信頼が厚い」


長いテーブルを二つつなげて、九人が座る。


最初は自然に向かい合いになったが、Miwaが言った。


「あ、これ面接みたい」


mcRCが即座に言う。


「それはやめよう」


Ninaが笑う。


「元部長面接会」


BEEFが、そこで顔を上げた。


「ん? 部長ってなんのことだ?」


テーブルの空気が、一瞬だけ止まった。


wataが「あ」と口を開く。


mcRCも、少しだけ苦笑する。


BEEFは三人を見た。


「何」


wataが説明する。


「あー、前の仕事の話。mcRC、元部長やねん」


BEEFの眉が動いた。


「……なんだって?」


「いや、だから元部長」


BEEFはmcRCを見る。


「じゃあ、THAT SEAT側じゃねーか」


wataが吹き出した。


mcRCはすぐに手を上げる。


「違う違う。いや、役職で言えばそっち側やけど」


EGUIが静かに補足する。


「それだけじゃない」


kateは苦笑しながら言った。


「UNSEEN HANDS側でもあったんです」


BEEFは少し黙った。


「……どういうことだよ」


wataが笑いながら説明する。


「上の席にいたこともある。でも、見えないところで支えてる人の価値も知ってた。そういうややこしいやつやな」


mcRCが少し顔をしかめる。


「ややこしい言うな」


Ninaが笑う。


「でも、合ってます」


Kateも穏やかに言う。


「役職としては上にいたけれど、人の見えない仕事も見てくれる人でした」


Miwaが頷く。


「だから、あの曲が刺さるんです」


Saraが続ける。


「肩書きだけの人ではなかったので」


Yuiが静かに言う。


「記録上、信頼残高が高い人です」


wataが手を叩く。


「信頼残高」


BEEFは、少しだけmcRCを見直すように見た。


「んじゃ、だからこんなに信頼されてるのか」


mcRCは返答に困った。


照れたように視線を落とす。


「……いや、そんな綺麗なもんじゃないけど」


Kateが言う。


「綺麗ではなかったですね」


mcRCが顔を上げる。


「そこは言い切るんや」


Ninaが笑う。


「綺麗な部長ではなかったです」


Miwaが続ける。


「でも、見てくれる人でした」


Saraが言う。


「厳しい時もありましたけど、雑ではありませんでした」


Yuiが言う。


「以上です」


wataが笑った。


「元部長、評価されてるやん」


mcRCは耳を少し赤くして言う。


「もうええって」


BEEFがぼそっと言った。


「なるほどな」


mcRCが見る。


「何が?」


「人に置いていかれない音をやりたがる理由」


その一言に、テーブルが少しだけ静かになった。


BEEFはそれ以上、説明しなかった。


でも、十分だった。


mcRCは少しだけ笑った。


「……まあ、そうかもしれん」


Miwaが小声で言う。


「今の、ちょっとよかったですね」


Ninaが頷く。


「BEEFさん、急に核心を踏む」


wataがすかさず言う。


「ただし本人は褒めてるつもりがない」


BEEFが睨む。


「ある」


「あるんかい」


EGUIが短く言う。


「今のは褒めてた」


wataが笑う。


「翻訳係、助かる」


席を少しだけ動かして、空気が柔らかくなる。


mcRCの近くにKate。

wataの向かいにMiwaとNina。

EGUIの近くにYui。

BEEFの斜め前にSara。


wataが小声でmcRCに言った。


「BEEF、配置された?」


mcRCが小声で返す。


「たぶん偶然」


「偶然でSaraさんの斜め前になるんや」


BEEFが低く言う。


「聞こえてる」


wataはすぐ姿勢を正した。


「はい」


メニューを開く。


BEEFはすぐに言った。


「鶏むねグリル」


wataが天を仰ぐ。


「勝った日に?」


「タンパク質」


EGUIが言う。


「俺もそれ」


「お前もか」


mcRCはハンバーグ。

wataはオムライス。

Kateは和風パスタ。

Miwaはチーズドリア。

Ninaはタコライス。

Saraは魚定食。

Yuiはミニ丼セット。


注文が終わると、やっと全員の肩が下りた。


グラスの氷が鳴る。

隣の席では学生らしきグループが笑っている。

遠くでポテトが運ばれている。


大会の熱が、少しずつ日常へ戻っていく。


mcRCは、アイスコーヒーを置いた。


「改めて、今日はありがとう」


五人が少しだけ姿勢を正す。


mcRCは続けた。


「来てくれて、見てくれて、声出してくれて」


Miwaが少し照れる。


「声は……出ましたね」


Ninaが言う。


「出すぎましたね」


Yuiが淡々と補足する。


「声量は要改善」


BEEFが短く言う。


「耳は守れ」


Saraが頷く。


「本当にそうですね。大音量でしたし」


BEEFは水を飲む。


Saraは続ける。


「BEEFさんは、あの中でも細かい反応を聞いていたんでしょうね」


BEEFの手が止まる。


「……まあ」


「さすがですね」


BEEFは水を見る。


wataが小さく言う。


「負けた」


BEEFが睨む。


「負けてない」


Saraは普通に言う。


「褒めています」


「……分かってる」


MiwaとNinaが同時に笑いを噛み殺す。


Yuiはメモを取ろうとして、またKateに止められた。


料理が来ると、テーブルが一気に明るくなった。


ハンバーグの湯気。

オムライスの黄色。

ドリアのチーズ。

タコライスの香り。

魚定食の味噌汁。

鶏むねグリルの正しさ。


wataがBEEFとEGUIの皿を見比べる。


「なんで勝った日に二人そろって修行してるん」


EGUIが言う。


「うまい」


BEEFも言う。


「悪くない」


「褒め方が筋トレ飯やねん」


Miwaが自分のドリアを見て言う。


「私は祝勝感を選びました」


Ninaがタコライスを混ぜる。


「私も」


Saraが魚定食を見て言う。


「私は明日の胃を考えました」


Yuiが頷く。


「同意」


Kateがパスタを巻きながら言う。


「全員、それぞれの勝ち方ですね」


mcRCは笑った。


「それ、今日っぽいな」


少し、空気が柔らかくなった。


wataがオムライスを一口食べて、目を閉じる。


「うま」


EGUIが言う。


「飯を食うと戻るな」


「戻る。人間に戻る」


BEEFが短く言う。


「やっとか」


「俺ずっと人間や」


「ライブ中はうるさい機械」


wataがスプーンを止める。


「なんやそれ」


BEEFは淡々と言う。


「韻を詰める機械」


Miwaが笑う。


「辛口」


Ninaが言う。


「でもちょっと分かる」


wataがNinaを見る。


「味方おらんの?」


Saraが穏やかに言った。


「でも、wataさんの踏み方、今日かなり気持ちよかったです」


wataが一瞬止まる。


「……Saraさん、急に褒めるやん」


「感想です」


BEEFが小さく言う。


「客席が置いていかれてなかった」


wataがBEEFを見る。


「お前も褒めるんかい」


「感想」


「褒め方、Saraさんから借りるな」


EGUIが言う。


「wataのバース、今日は会場が乗りやすかった」


wataはスプーンを持ったまま、少し照れた。


「……お前ら、急に何なん」


mcRCが笑う。


「いい時は言うやろ」


「そうやけど、まとめて来るな」


BEEFが短く言う。


「受け取れ」


wataが顔をしかめる。


「その言い方やとプレゼントが重いねん」


Miwaが笑う。


「仲良しですね」


wataとBEEFが同時に言った。


「違う」


少し遅れて、EGUIが言う。


「仲は悪くない」


mcRCが笑った。


「それが一番正確」


テーブルが笑った。


mcRCは笑いながら、でも少し真面目な声で言った。


「今日、改めて思った」


みんなの視線が、自然にmcRCへ向く。


「やっぱりライブだなって」


彼は言葉を選びながら続けた。


「曲は準備する。曲順も考える。見せたいものも決める」


「でも、その場にいる人は毎回違う」


「相手も違う」


「会場の空気も違う」


「こっちの状態も違う」


BEEFは黙って聞いている。


mcRCは、BEEFの方を見た。


「今日、一曲目から変えたのも、ROLL CALLの入り方も、KEEP MOVINGへの軽さも」


「BEEFの判断がでかかった」


少し間。


「勉強になった。ありがとう」


BEEFは、鶏むね肉を切る手を止めた。


しばらく、何も言わない。


ファミレスの音だけが残る。


氷の音。

食器の音。

隣の席の笑い声。


それからBEEFは、小さく言った。


「……どってことねぇよ」


wataがスプーンを置く。


「出た」


BEEFが睨む。


「何」


「照れBEEF」


「黙れ」


Saraが静かに言う。


「でも、今日の判断は本当に大きかったと思います」


BEEFは水を見る。


「……そういうのは、三人が受けたから成立した」


mcRCが少し驚いたように見る。


BEEFは続ける。


「俺が切っても、三人が崩れたら終わり」


「曲を変えても、三人が意味を持ってなかったら薄くなる」


「だから、別に俺だけじゃない」


EGUIが頷く。


「それはそう」


wataが少し笑う。


「ちゃんと仲間っぽいこと言えるやん」


BEEFは即答する。


「違う」


「何が違うん」


「分析」


Saraが微笑む。


「分析でも、嬉しいですね」


BEEFは、また耳を赤くした。


今度は、誰も突っ込まなかった。


Kateが、パスタを置いて言った。


「準備は大事ですね」


全員が、自然にそちらを見る。


「でも、今日見ていて思いました。ひとつ崩れただけで終わるような準備は、たぶん準備とは言い切れない」


Saraが頷く。


「想定通りにいくことだけを準備するのではなく、想定外が起きた時に戻れる基準を用意しておく」


Yuiが続ける。


「未決定事項を見える化する。判断者を決める。共有範囲を決める」


Ninaが言う。


「広報もそうです。言い切りすぎると、現場で変えにくくなる。期待は作るけど、余白は残す」


Miwaが言う。


「物販も、売り切れた時、余った時、列が伸びた時で動き方が変わる」


EGUIが静かに言う。


「普段の積み重ねか」


BEEFが短く頷く。


「音も同じ」


wataが言う。


「今日それ、体で分かったな」


mcRCは、グラスを見つめながら言った。


「準備と臨機応変は、反対じゃないんだな」


Saraが少し嬉しそうに頷いた。


「そう思います」


BEEFがぼそっと言う。


「当たり前だろ」


Saraは笑った。


「さすがですね」


BEEFは、今度こそ何も返せなかった。


wataが小声で言う。


「負けた」


BEEFが言う。


「負けてない」


Ninaがにやにやしている。

Miwaもにやにやしている。

Yuiは静かに水を飲んでいる。


Kateは笑いを堪えながら、話題を次へ進めた。


「次戦の曲については、決めすぎない方針ですか?」


mcRCは頷いた。


「なんとなく、一曲目の候補はある」


wataが言う。


「でも、今日で分かった。決めるけど、固定しすぎない」


EGUIが続ける。


「相手を見る」


BEEFが言う。


「会場を聞く」


Ninaが言う。


「告知の温度を見る」


Miwaが言う。


「客層も見る」


Saraが言う。


「規約と持ち時間を見る」


Yuiが言う。


「提出期限を見る」


Kateがまとめる。


「その上で、三人は音楽を見る」


少しだけ、静かになった。


mcRCは、ゆっくり笑った。


「そうしてもらえると、かなり助かる」


Kateは柔らかく頷いた。


「そのために、横に来ました」


Miwaがすぐ続ける。


「でも今日は客です」


Ninaも言う。


「めちゃくちゃ客です」


Saraが整える。


「客として見て、必要なら感想を伝える立場です」


Yuiが言う。


「状態:客兼サポーター」


wataが笑った。


「肩書きが増える」


BEEFが水を飲む。


「長い」


EGUIが言う。


「リバックラインでいい」


五人は、少しだけ顔を見合わせた。


その言葉を、ファミレスのテーブルで聞くことに意味があった。


仕事としてではなく。

客席で声を出したあと、外に出て、ご飯を食べながら受け取る名前。


Miwaが小さく言った。


「はい」


Ninaが続ける。


「リバックラインです」


Saraが言う。


「ただし、今日は客です」


Yuiが付け加える。


「声量は要改善」


Kateがまとめる。


「次から気をつけます」


wataが笑う。


「そこ戻るんや」


mcRCも笑った。


BEEFがぼそっと言う。


「耳は守れ」


Saraが頷く。


「はい。次は耳栓も検討します」


BEEFは少しだけ満足そうに水を飲んだ。


wataがそれを見て言う。


「BEEF、Saraさんの前だと健康指導員になるな」


BEEFは即座に返す。


「違う」


「耳赤いぞ」


「熱い」


EGUIが言う。


「水飲め」


BEEFはもう飲んでいた。


全員が笑った。


一回戦突破。


その事実は、大きい。


でも、この夜の食事会は、勝利を飾る豪華な祝勝会ではなかった。


ファミレスの白い皿。

水のグラス。

メロンソーダ。

ハンバーグ。

鶏むねグリル。

オムライス。

チーズドリア。


軽いノリで笑いながら、でも次を見ている人たち。


ステージの熱を、日常のテーブルに持って帰る時間。


mcRCは、その光景を見ながら思った。


今日、勝った。


でも、勝ったことよりも。


勝ったあとに、こうして話せる人がいること。


それが、思ったより大きかった。


wataがメロンソーダを掲げた。


「じゃあ、改めて」


Miwaがドリアのスプーンを止める。

Ninaがカフェラテを持つ。

Saraが湯のみを持つ。

Yuiが水を持つ。

Kateがグラスを上げる。

EGUIが水を持つ。

BEEFも、少し遅れて水を持った。


mcRCが笑う。


「一回戦突破」


wataが言う。


「初日お疲れ」


EGUIが言う。


「次も行く」


BEEFがぼそっと言う。


「浮かれるな」


wataが即座に返す。


「今だけ浮かれさせろ」


Saraが微笑む。


「今は少し、いいと思います」


BEEFは黙った。


耳が赤い。


グラスが、軽く触れた。


大きな音ではない。


でも、確かに鳴った。


小さな乾杯の音。


その音は、一万一千人の歓声よりずっと小さい。


けれど、次へ進むための音としては、十分だった。

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