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ラップ付き小説 ReversCrown 元気ないやつこっちおいで  作者: egubi
sound session編

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139/186

5-1-1 声が残る人が勝つ



「リバクラなら、出る価値あると思う」


その言葉が、まだ耳に残っていた。


言ったのは、ReShiNaだった。


いや、正確には、三人とも少しずつ違う言い方で同じことを言った。


renaは、少し前のめりだった。


「勝てるかどうかは、分かんないよ。でも、あそこって、出たあとに何が残るかを見る場所だから。リバクラ、そういう場所に立った方がいい気がする」


shihoは、落ち着いた声で続けた。


「Sound Sessionは、ただ上手いだけじゃ残らない。盛り上げるだけでも、たぶん足りない。終わったあと、どの声が耳に残るか。それが大きい」


natsuは、フルートケースの留め具を指で触りながら、短く言った。


「終わったあと、耳にいる人が強い」


その時、wataは笑った。


「耳にいるって何。表現が風すぎるやろ」


でも、笑ったあとに、少し黙った。


分かってしまったからだった。


ライブが終わる。

照明が戻る。

拍手が止まる。

人が帰る。

電車に乗る。

コンビニに寄る。

風呂に入る。

布団に入る。


その時、まだ耳にいる声。


それは、勝ち負けとは少し違うようで、たぶんものすごく勝負だった。


そして今。


リバクラボラトリー。


黒い布。

ノートパソコン。

マイク三本。

水。

シェイカー。

コンビニの袋。

赤ペン。

付箋。

ホワイトボード。

床に寄せられたケーブル。


この部屋は、Reverse Crownの根っこだった。


ステージでは、逆さまの王冠を背負う三人。

配信では、コメント欄の小さな声を拾う三人。

ライブでは、客席を置いていかない三人。

曲の中では、誰にも名前をつけられていなかった価値を見つける三人。


Reverse Crown。


名前だけ聞けば、派手なグループに思える。


王冠。

クラウン。

勝者。

頂点。


けれど、この三人が掲げている王冠は、いつも逆さまだった。


上から被るためのものではない。

誰かを見下ろすためのものでもない。

下に置かれたまま見過ごされていた価値を、すくい上げるための形。


人を雑に扱うな。

横に来い。

小さな勝ちを、小さいまま捨てるな。

誰にも見えない手を、なかったことにするな。


そういう言葉を、三人はずっと曲にしてきた。


ただし、三人は同じことを同じ見方で言うわけではない。


mcRCは、Scene Maker。


場面を作る人だった。


ただ、彼が見ているのは、目に映る景色だけではない。


机の上に置かれた水。

帰り道の街灯。

誰かが黙った一秒。

椅子の背にかかった上着。

泣いたあとに笑おうとする顔。


そして、その奥にあるもの。


言えなかった本音。

気づかれないまま置かれていた優しさ。

誰にも褒められなかった準備。

場を壊さないために飲み込んだ一言。

自分でも価値だと思えていなかった小さな働き。


未承認の価値は、最初から光っているとは限らない。


そこにあるのに、誰にも見られていない。

働いているのに、名前がついていない。

誰かを支えているのに、当たり前として流されている。


それを承認するには、まず気づかなくちゃいけない。


気づくためには、見なくちゃいけない。


mcRCは、その最初の視野を持つ人だった。


人を見る。

場所を見る。

空気を見る。

沈黙を見る。

動作を見る。

そして、その奥にある、まだ承認されていない価値を見る。


だから、彼はScene Makerだった。


景色を描く人ではなく、見えなかった価値が見える場所を作る人。


ステージの上から「分かれ」と押しつけるのではなく、聞いている人が自分の生活を重ねられる入口を置く。


そして、まだ名前のついていない価値を、客席にも見える景色に変える。


だから、彼はリーダーだった。


前に立つからではない。

場を見て、人を見て、そこに眠っている価値に最初に気づくからだった。


wataは、Technician。


音と言葉を組み上げる人だった。


韻。

母音。

間。

言葉の跳ね方。

息継ぎの位置。

一行の中で、どこを踏んで、どこを抜くか。


速く言うだけではない。

硬く踏むだけでもない。

言葉を詰めるところ、空けるところ、畳みかけるところ、客席が乗れるところを、身体で測る。


wataのラップは、耳で気持ちよく入ってくる。


でも、ただ気持ちいいだけでは終わらない。


音の連なりの中に、照れや本音や痛みを混ぜる。

重い言葉を、ビートの上で受け取れる形に変える。

聞いている人が気づいた時には、もうフレーズが耳に残っている。


それがwataの武器だった。


EGUIは、Straight Type。


意味をまっすぐ通す人だった。


言葉を飾りすぎない。

回り道もしすぎない。

必要な時に、必要な強さで置く。


人を雑に扱うな。

勝ちに行く。

でも、勝ちだけ見ない。

飯は大事。

それは違う。

それは見ろ。


短い言葉が多い。


けれど、短いから浅いわけではない。


EGUIは、黙っている時間も含めて言葉を置く。

空気が軽くなりすぎた時、誰かが本当に見なければならないものから逃げそうになった時、彼の声が一段低く入る。


すると、曲の意味が逃げなくなる。


mcRCが、Scene Makerとして景色の奥にある価値を見つける。

wataが、Technicianとして音と言葉を走らせる。

EGUIが、Straight Typeとして意味を通す。


三人が同じ場所を見ているわけではない。

同じ痛みを、同じ角度から見ているわけでもない。


だからReverse Crownは、三人である必要があった。


一人では、景色だけになる。

一人では、技巧だけになる。

一人では、正しさだけになる。


三人だから、生活になる。

三人だから、音が走る。

三人だから、意味が残る。

三人だから、帰り道まで声が残る。


その三人の前に、いつもより一枚だけ重い資料が置かれていた。


表紙には、シンプルにこう書かれている。


Sound Session 出場検討資料


作ったのは、リバックラインだった。


まだ正式な出場決定ではない。

出ると送ったわけでもない。

申し込みをしたわけでもない。


ただ、ReShiNaからすすめられて、三人が「一回ちゃんと考えよう」と言った。


その翌日には、資料が来た。


早すぎる。


wataは資料の表紙を見ながら言った。


「リバックライン、たぶん俺らより大会出る気ある」


mcRCは苦笑した。


「いや、まだ出るって言ってない」


「でも資料の厚みが、もう出る人の厚みなんよ」


EGUIが水を飲みながら言った。


「資料が厚いだけで出場は決まらん」


wataはEGUIを見る。


「正論で夢を止めるな」


「夢じゃなくて検討や」


「検討って言葉、急に会議室の匂いするな」


mcRCが資料をめくる。


「実際、会議やからな」


wataは机に突っ伏した。


「ラッパーの会議、苦手」


EGUIが言う。


「会議できないラッパーは、提出期限で死ぬ」


wataが顔だけ上げる。


「提出期限で死ぬラッパー、嫌すぎる」


mcRCは笑った。


でも、笑いながらも目は資料を追っていた。


一枚目。


Sound Session 概要


一組ずつステージに立つ。

基本はライブ形式。

ただし、通常の対バンではなく、イベント全体として評価が入る。

今年の正式な評価基準はまだ未発表。

例年の傾向としては、審査員評価、観客反応、パフォーマンス完成度、独自性、構成力、ステージ上での印象、持ち帰られるフックなどが重視される。


資料の余白には、Kateの字で付箋が貼られていた。


Kate@外部連絡:

今年分の正式基準は未確認です。

現時点では過去開催分からのざっくり整理です。

確定情報が出たら差し替えます。


wataがそれを読んで、妙に真面目な顔をした。


「Kateさん、言い方がちゃんとしてる」


mcRCは頷いた。


「断定しないの、ありがたい」


EGUIも資料を見ながら言った。


「分からないことを分からないまま置ける人は信用できる」


wataはEGUIを見る。


「今日、先生モード?」


「資料を見る時はちゃんと見る」


「飯食う時もちゃんと見るやん」


「飯はもっと見る」


「優先順位」


mcRCは次のページをめくった。


例年の傾向


・会場を動かしたチームが強い

・ただし、騒がせるだけでは足りない

・初見客を巻き込めるかが重要

・曲の完成度だけでなく、ステージ全体の流れも見られる

・持ち帰れる言葉、フック、印象が残ると強い

・内輪ノリが強すぎると、初見には不利

・一方で、独自文化が伝わると大きな武器になる


wataは最後の行を指で押さえた。


「これ、俺らやん」


mcRCが見る。


「どっちの意味で?」


「良くも悪くも」


EGUIが短く頷いた。


「その通りやな」


wataは椅子にもたれた。


「リバクラって、文化が強いんよな」


「リバ点呼」


「オーダー」


「横に来い」


「リバクラーメン」


mcRCがすぐ止める。


「最後のやつ、大会に持っていくな」


wataは胸を張った。


「文化やろ」


「内輪ノリの代表みたいな顔してるやろ」


EGUIが真顔で言う。


「飯文化は悪くない」


mcRCがEGUIを見る。


「そこ支援するん?」


「ただ、ステージでラーメンを主軸にするのは違う」


wataが手を叩いた。


「冷静な飯評論」


mcRCは笑いそうになったが、資料に視線を戻した。


笑っている場合ではない。


いや、笑えることは大事だった。


でも、今日の話は大事だった。


Sound Sessionに出るのか。


それは、ただイベントに出るかどうかではない。


リバクラが、自分たちの場所ではないところに立つかどうかだった。


mcRCはホワイトボードの前に立った。


マーカーを持つ。


少し考えてから、まずこう書いた。


俺らの場所ではない


wataは、その文字を見て少し黙った。


「……重いな」


mcRCは頷いた。


「でも、そこから考えたい」


EGUIが水を置いた。


「単独ライブは、俺らの場所やった」


mcRCは頷く。


「うん」


「リバクルーがいた」


「曲の背景も、ある程度知ってくれていた」


「リバ点呼も通じた」


「SMALL WINも、THAT SEATも、Unseen Handsも、受け取る準備をしてくれていた人が多かった」


wataが続ける。


「でもSound Sessionは、そうじゃない」


mcRCはホワイトボードに書き足した。


知らない人がいる


そして、その下にさらに書く。


まだリバクルーじゃない人がいる


wataは、その文字を見て、少しだけ表情を変えた。


「そこやな」


mcRCは頷いた。


「“リバクルー以外に伝わるか”って言い方、ちょっと違うと思う」


EGUIが静かに見る。


mcRCは続けた。


「リバクラを好きになってくれたら、その人はもうリバクルーやん」


wataが頷く。


「そうやな」


「今いるリバクルーだって、元は一般客やった」


mcRCは指を折るように言った。


「たまたま配信を見た人」


「ストリートで足を止めた人」


「切り抜きで来た人」


「友達に連れてこられた人」


「前職から殴り込んできた人」


wataが吹き出した。


「最後だけ入場方法が荒い」


EGUIが言う。


「でも今はリバックラインや」


「出世したな、殴り込みから裏方へ」


mcRCも笑った。


けれど、すぐに真面目な顔に戻る。


「だから、問いはこっちやと思う」


彼はホワイトボードに大きく書いた。


まだリバクルーじゃない人を、リバクルーにできるのか


部屋が静かになった。


その文字は、勝ちたい、よりも大きかった。


いや、勝ちたい気持ちを否定しているわけではない。


むしろ、勝負だからこそ見える問いだった。


wataは椅子に座り直した。


「それ、勝つより難しくない?」


EGUIが言う。


「勝つことと別じゃない」


wataがEGUIを見る。


EGUIは、今日は一言で終わらせなかった。


「大会に出るなら、勝ちは見る。そこを見ないのは失礼や。相手にも、客にも、俺らにも」


mcRCは黙って聞いている。


EGUIは続ける。


「でも、勝ちだけ見て、知らない人を置いていったら、それはリバクラじゃない。リバクルーが知ってる合言葉だけで盛り上がって、初見の人が外から見てるだけになるなら、それは俺らの弱さやと思う」


wataは、少しだけ目を伏せた。


EGUIの声は、まっすぐだった。


短く切って終わる言葉ではなかった。


「リバ点呼もそうや。知ってる人だけが返す儀式にしたら、内輪になる。でも初めての人が、“自分も返していいんや”と思えたら、入口になる」


mcRCは頷いた。


「濃いまま、入口を作る」


wataが顔を上げた。


「それ」


mcRCはホワイトボードに書いた。


濃いまま入口を作る


wataは、しばらくその文字を見た。


「薄めるんじゃないんよな」


「うん」


「リバクラの思想を、外向きに薄くするんじゃない」


「でも、知らない人が入れるドアは作る」


EGUIが言う。


「ドアがない家は、外から見たら壁や」


wataがEGUIを見る。


「今日、たとえ上手いな」


EGUIは水を飲んだ。


「飯と家は大事やからな」


「また飯方面に戻ってきた」


mcRCは笑った。


少しだけ肩の力が抜ける。


でも、話は前に進んでいた。


mcRCは資料をめくった。


次のページには、Ninaのメモがあった。


Nina@広報:

出場する場合、告知の言い方は要注意。

「勝ちに行きます!」だけだと、普通の勝負イベントに見える。

リバクラが何を持っていくのかを先に決めた方がいいです。


wataは、その付箋を見て腕を組んだ。


「Ninaさん、やっぱ広報やな」


mcRCは頷く。


「見え方を見てくれてる」


EGUIが言った。


「勝負を煽るのは簡単や。でも、それだけで来た人は、勝ち負けしか見ないかもしれん」


wataが小さく頷いた。


「俺らが持っていくもの……」


彼は指を折っていく。


「置いていかない盛り上げ」


mcRCが書く。


置いていかない盛り上げ


EGUIが言う。


「声が残るフック」


mcRCが書く。


声が残るフック


wataが続ける。


「知らん人でも入れる景色」


mcRCが書く。


初見でも入れる景色


EGUIが少し考えてから言った。


「帰り道に残る言葉」


mcRCは、その言葉をゆっくり書いた。


帰り道に残る言葉


三人は、ホワイトボードを見た。


そこに、少しだけSound Sessionへ持っていくリバクラの形が見え始めていた。


勝ちたい。


それはある。


でも、勝ちたいだけでは足りない。


勝ったとしても、誰も持ち帰るものがなければ、リバクラが出る意味は薄い。


負けたとしても、誰かの耳に声が残れば、そこには意味がある。


でも、最初から負けていいわけではない。


勝ちに行くからこそ、残る声の価値がある。


wataは資料をめくりながら言った。


「で、現実的な問題は?」


mcRCは次の付箋を見る。


Sara@権利確認:

出場する場合、音源提出、歌詞提出、撮影許諾、二次利用範囲の確認が必要です。

正式要項が出たら、規約を確認します。


wataが顔をしかめた。


「現実が急に事務の顔してきた」


EGUIが言う。


「大事や」


「分かってるけど、音源提出って言葉の温度が低い」


「低くても必要や」


mcRCは苦笑しながら次を見る。


Yui@庶務・作業表:

出る場合、準備タスクは増えます。

判断期限を先に決めた方がいいです。

決めないまま検討を続けると、資料だけ増えます。


wataは顔を上げた。


「Yuiさん、静かに刺してくる」


EGUIが頷いた。


「正しい」


mcRCも苦笑した。


「資料だけ増える、もう今ちょっとそうなってる」


wataが資料の厚みを見る。


「たしかに」


EGUIが真面目に言った。


「出るか出ないかより、決めないまま時間を使うのが一番危ない。準備できないまま気持ちだけ膨らむ」


wataがEGUIを見る。


「それ、リバックラインの会議で言ったら拍手されるで」


「拍手はいらん」


「飯は?」


「いる」


「ぶれへんな」


mcRCは笑いながら、最後の付箋を見た。


そこには、やけに文字が大きく書かれていた。


Miwa@物販:

表では落ち着きます。

まだ決まってないのも分かってます。

でも、もしリバクラが出るなら、見つけられる人が増えると思います。

今までリバクラを知らなかった人が、あの場で初めて“横に来い”を受け取るかもしれないと思うと、出る価値はあると思います。

表では落ち着きます。


三人は、しばらく黙った。


wataが小さく言った。


「二回言ってる」


mcRCも小さく返す。


「表では落ち着きます」


EGUIが静かに言った。


「裏では落ち着いてないな」


その瞬間、mcRCのスマホが震えた。


画面に出た通知名は、リバックLINE。


リバックラインの五人が使っている作業グルチャだった。


mcRCは画面を見て、少し吹き出した。


wataがすぐに身を乗り出す。


「なに?」


mcRCは読み上げた。


Nina@広報:

なおMiwaは今、叫んでます。


すぐ次が流れる。


Miwa@物販:

叫んでません!!!!!!


その下に、Sara。


Sara@権利確認:

感嘆符が多いです。


さらにYui。


Yui@庶務・作業表:

状態:叫んでいる可能性あり。


wataが机を叩いて笑った。


「リバックLINE、通常運転」


mcRCも笑った。


「資料はちゃんとしてるのに、グルチャの温度だけバグってる」


EGUIも、少しだけ口元を緩めた。


「外で落ち着けるなら、裏で騒げる場所はあった方がいい」


wataがEGUIを見る。


「ええこと言うやん」


「我慢しすぎると壊れる」


「急にSMALL WIN側から来た」


mcRCはスマホを置いた。


笑いはあった。


でも、Miwaの言葉は軽くなかった。


見つけられる人が増える。


それは、リバクラがずっとやってきたことだった。


未承認の価値を見つける。

自分でも気づいていなかった声を拾う。

壊れる前に声を出せたことを勝ちにする。

誰かの中にある小さな火を、雑に扱わない。


Sound Sessionは、その場所を広げる機会かもしれない。


mcRCはホワイトボードを見た。


まだリバクルーじゃない人を、リバクルーにできるのか


その問いは、重かった。


でも、逃げたい重さではなかった。


向き合うべき重さだった。


wataが静かに言った。


「出る理由は、あるな」


EGUIが頷いた。


「ある」


mcRCは、まだ答えを言わなかった。


ホワイトボードの前で、腕を組む。


「出ない理由もある」


wataが頷いた。


「ある」


EGUIも言う。


「準備不足なら出ない方がいい」


mcRCはホワイトボードに新しく書いた。


出ない理由


その下に書く。


準備不足

内輪化

勝ち負けだけに飲まれる

既存リバクルーに甘える

初見を置いていく


wataが最後の行を見て、少し顔をしかめた。


「それ、嫌やな」


mcRCは頷いた。


「嫌や」


EGUIが言った。


「でも、嫌な可能性を見ないまま出る方が危ない」


mcRCは、次に書いた。


出る理由


リバクルーを増やせるか試せる

リバクラの思想を知らない人へ届けられる

置いていかない盛り上げを勝負の場で試せる

今の限界を知れる

ReShiNaの言葉に答えられる


wataが最後の行を見た。


「ReShiNaの言葉」


mcRCは頷いた。


「すすめられたから出る、じゃない」


EGUIが言う。


「でも、言葉は残った」


「うん」


mcRCは、ホワイトボードにもう一度書いた。


声が残る人が勝つ


部屋が静かになった。


リバクラが勝ちたいのは、点数だけではなかった。


もちろん、点数は大事だ。

順位も大事だ。

勝負に出る以上、そこから逃げるのは違う。


でも、それだけではない。


ステージが終わったあと。

誰かの帰り道に、リバクラの声が残るか。


まだリバクルーじゃなかった人が、帰り道にふと口ずさむか。

「なんか、あいつらの言葉、残ったな」と思うか。

翌日、切り抜きを探すか。

コメント欄を見るか。

次のライブを調べるか。


その時、その人はもう少しだけ横に来ている。


wataは、少しだけ息を吐いた。


「俺ら、声残せるかな」


mcRCはすぐには答えなかった。


EGUIも黙っている。


wataは笑った。


「いや、弱気じゃなくてさ」


「うん」


「今まで残せた時はあると思う」


「でも今回は、俺らの場所じゃない」


「そこで残せるか」


EGUIが静かに言った。


「残せるかじゃなくて、残しに行くんやろ」


wataは顔を上げた。


EGUIは、今日二度目の長い言葉を置いた。


「できるかどうかだけ見てたら、たぶん出ない理由はいくらでも出る。知らん人がいる。評価基準もまだ確定じゃない。準備もいる。負ける可能性もある。でも、俺らがやってきたことが本当に届くものなら、届かせに行かないと分からん」


mcRCは、EGUIを見た。


EGUIは続ける。


「勝ちたいだけなら違う。でも、勝負から逃げるのも違う。リバクルーを大事にするのと、リバクルーの中だけにいるのは違う」


その言葉が、部屋に落ちた。


wataは、ゆっくり笑った。


「EGUI、今日めっちゃ喋るやん」


EGUIは水を持った。


「大事な話やからな」


「いつも大事やで」


「いつも全部長く喋ったら、お前が途中で茶化す」


「茶化す」


「だから選んでる」


wataは、少しだけ悔しそうに笑った。


「読まれてる」


mcRCも笑った。


でも、もう決まりかけていた。


言葉にしないだけで、三人とも同じ方を見ていた。


mcRCは、ホワイトボードの前に立ったまま、マーカーを置いた。


そして、二人を見た。


「出よう」


wataは、すぐには返さなかった。


ほんの少しだけ、表情を変えた。


いつもの軽さが消える。


「決まり?」


mcRCは頷いた。


「出る」


wataは、深く息を吐いた。


「……よし」


それは、派手な返事ではなかった。


でも、腹に入った声だった。


EGUIが言った。


「勝ちに行く」


その言葉に、wataが頷く。


mcRCも頷く。


EGUIは続けた。


「でも、勝ちだけ見ない」


部屋が静かになった。


その一言で、リバクラがSound Sessionに持っていくものが決まった気がした。


勝ちに行く。


でも、勝ちだけ見ない。


まだリバクルーじゃない人を、置いていかない。

濃いまま入口を作る。

リバクラの思想を薄めずに、初見の人にも届く形にする。

声を残す。

帰り道に残す。

耳に残す。


mcRCは、スマホを手に取った。


リバックLINEを開く。


wataがそれを見て、少し笑った。


「送るん?」


mcRCは頷いた。


「送る」


EGUIが言う。


「短くていい」


wataがすぐ言う。


「いや、ここは感動的に長文で」


EGUIが首を振る。


「長いとMiwaさんが先に泣く」


wataは真顔になった。


「ありえる」


mcRCは笑いながら、短く打った。


mcRC:

出ます。


送信。


三人は、画面を見た。


一秒。


二秒。


三秒。


既読がついた。


早い。


wataが小さく言った。


「怖い怖い怖い」


次の瞬間、通知が爆発した。


Miwa@物販:

ぎゃーーーーーーーー!!!!!!


Nina@広報:

きた!!!!!!!!


Yui@庶務・作業表:

状態:出場決定


Sara@権利確認:

規約確認に入ります。


Kate@外部連絡:

了解しました。表では落ち着きます。


一拍遅れて、Miwa。


Miwa@物販:

表では!!!!!!


wataは机に突っ伏して笑った。


「次回、リバックライン大騒ぎ回やん」


mcRCはスマホを見ながら、少しだけ目元を緩めた。


「表では落ち着くんやろ」


EGUIが静かに言った。


「裏では無理やな」


その言葉に、三人は笑った。


大会に出る。


まだ、何も始まっていない。


曲も決まっていない。

構成も決まっていない。

評価基準も正式には出ていない。

相手も分からない。

勝てる保証もない。


でも、意味は決まった。


リバクラは、勝ちに行く。


ただし、勝ちだけを見ない。


まだリバクルーじゃない誰かに、声を残しに行く。


その誰かが、いつか声を返した時。


また一人、横に来る。

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