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ラップ付き小説 ReversCrown 元気ないやつこっちおいで  作者: egubi
reshina編

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138/186

4-5-8 咲く前の私たちへ



拍手が、まだ止まらなかった。


一曲前の余韻が、会場の天井にゆっくり残っている。


大きなライブハウスではない。


けれど、今日はもう「小さな部屋」とは呼べなかった。


椅子席の後ろには立ち見がいて、壁際にも人がいる。

ステージの前には、昔から来てくれている常連の顔。

その少し後ろには、最近来るようになった人たち。

さらに後ろには、リバクラ経由で知ったらしい人たちもいる。


手作りの小さなボード。


「雪解けから来ました」


「月の夜の猫、好きです」


「ReShiNaありがとう」


「natsuさんの笛で風邪ひきました」


その最後のボードを見つけて、natsuは少しだけ首を傾げた。


「風邪」


客席が笑った。


前列の女性が慌ててボードを裏返す。


裏には、ちゃんと書き直されていた。


「風、浴びました」


natsuは小さく頷いた。


「そっち」


客席からまた笑いが起きた。


その笑い方が、前より近い。


前のReShiNaのライブでは、笑いが起きる時も、どこか遠慮があった。

壊してはいけないものに触れるような、静かで丁寧な笑い。


それはそれで、ありがたかった。


けれど今日は違う。


客席が、ちゃんと息をしている。


笑っていい場所で笑う。

泣きたいところで泣く。

綺麗だと思ったら、綺麗だと書く。

好きだと思ったら、好きだと返す。


その空気を見て、renaは胸の奥が少し熱くなるのを感じていた。


アコギを抱えたまま、マイクの前に立つ。


一歩。


その一歩が、前より少し軽い。


「ありがとうございます」


renaが言うと、拍手がまた少し大きくなった。


客席から声が飛ぶ。


「ありがとう!」


「こっちこそ!」


「今日来てよかった!」


「renaちゃん、声きれい!」


「shihoさん、低音やばい!」


「natsuさん、妖精!」


natsuが、また少し首を傾げた。


「妖精」


客席が笑う。


shihoがピアノの前から、静かに言った。


「受け取って」


natsuは少し考えたあと、ローホイッスルを膝の上で持ち直した。


「ありがとう」


その短い返事に、客席が妙に沸いた。


「かわいい!」


「妖精が受け取った!」


「natsuさんありがとう!」


「羽なくても大丈夫!」


natsuは、少しだけ眉を寄せた。


「羽、ない」


さらに笑いが起きる。


renaは、その笑いを聞きながら、少しだけ口元を緩めた。


前なら、こういう声が飛んだ時、どう返せばいいか分からなかった。


可愛い。

綺麗。

雰囲気が好き。

声が好き。


そういう言葉は、嬉しいより先に怖かった。


どこを見ているのだろうと思った。

ちゃんと音を聴いてくれているのだろうかと思った。

自分たちが大事にしているものを通り過ぎて、外側だけで止まられてしまう気がした。


けれど、今は。


その言葉を、少しだけ違う場所に置ける。


renaはマイクを両手で持った。


「今日、少しだけ話してもいいですか」


客席がすぐに返す。


「いいよー!」


「聞く!」


「ゆっくりでいいよ!」


「水飲んで!」


「無理しないで!」


その中に、昔から来てくれている常連の声が混じる。


「話して!」


renaは、少し笑った。


「水は、あとで飲みます」


客席からまた笑い。


shihoが横から言う。


「今でもいいよ」


「今だと、話す前に泣きそうだから」


「それは水では止まらないと思う」


客席が笑う。


renaは、少しだけ照れた顔でshihoを見た。


「今日のshiho、よく喋るね」


shihoは、ピアノの前で姿勢を正した。


「今日は、喋る日だと思ってる」


その一言で、客席の空気が少し変わった。


笑いの熱は残っている。


けれど、みんなが少しだけ前のめりになる。


shihoが喋る。


それは、ReShiNaを長く見ている人ほど分かる、少し特別なことだった。


shihoは、ピアノの鍵盤に軽く指を置いた。


音は鳴らさない。


ただ、そこに手を置く。


「最近、いろんな言葉をもらうようになりました」


客席が静かになる。


「変わったね、と言ってくれる人がいます」


前列の誰かが、小さく頷いた。


「前より笑うようになったね、とか」


別の客席から声が上がる。


「笑ってる!」


「最近めっちゃ笑ってる!」


「嬉しい!」


shihoは、その声を受けて、小さく微笑んだ。


「ありがとう」


その微笑みだけで、客席の何人かが口元を押さえた。


「笑った……」


「shihoさんがありがとうって……」


「生きててよかった……」


shihoは少し困ったように目を伏せた。


「そこまで?」


renaが横から言う。


「そこまでらしいよ」


natsuが短く言った。


「命、重い」


客席がまた笑った。


shihoも、少しだけ笑った。


「でも、嬉しいです」


その一言は、ちゃんとまっすぐ届いた。


shihoは続ける。


「前の私たちが、だめだったわけではないと思っています」


会場が静かになる。


「静かだったことも、閉じていたことも、自然ばかり見ていたことも、たぶん、あの時の私たちには必要でした」


renaは、アコギの弦にそっと触れた。


音は鳴らさない。


でも、指先が少し震えている。


shihoは、ゆっくり言葉を選ぶ。


「水を見て、森を見て、風を聴いて。そこに気持ちを置いていました」


客席のあちこちで、小さく頷く人がいる。


ReShiNaの昔からの曲を知っている人たち。


「それは、逃げだったかもしれない」


少し間。


「でも、救いでもありました」


その言葉に、客席の静けさが深くなる。


誰も急かさない。


誰も余計な声を挟まない。


shihoは、低い声で言った。


「だから、昔の私たちを否定したくはありません」


renaは、ゆっくり頷いた。


natsuも、ローホイッスルを胸の近くで抱える。


shihoは続けた。


「でも、そこだけに縮こまっていると、みなさんがどこから私たちを見ればいいか、分からなくなるんだと思いました」


客席に、小さなざわめきが走る。


「入口……」


誰かが呟いた。


その声を、renaが拾った。


「そう。入口」


renaは、少しだけ笑った。


「私たち、入口を少なくしてたのかもしれません」


客席から声が飛ぶ。


「そんなことないよ!」


「でも分かる!」


「入っていいか迷った!」


「静かすぎて拍手のタイミング迷った!」


その最後の声で、会場が笑った。


renaも吹き出した。


「拍手のタイミング、迷わせてたんだ」


客席からすぐ返る。


「迷った!」


「でも好き!」


「静かすぎて息止めてた!」


「咳したら終わると思ってた!」


shihoが思わず笑う。


「終わらないです」


natsuが、真顔で言った。


「咳、自然」


客席が大きく笑った。


「咳、自然w」


「natsuさんの許可出た」


「自然なら仕方ない」


「でも曲中は我慢する」


natsuは少し頷いた。


「できる範囲で」


そのやり取りに、空気がほぐれた。


笑いが戻ったあとで、renaはまたマイクに向かう。


「最近、可愛いって言ってもらうことが増えました」


その瞬間、客席がざわっと動いた。


「可愛い!」


「言っていいの!?」


「言ってよかったの!?」


「三人とも可愛い!」


「言いたかった!」


「我慢してた!」


renaは、顔を赤くして一歩下がった。


「ちょ、ちょっと待って」


客席は止まらない。


「可愛い!」


「綺麗!」


「声も好き!」


「雰囲気も好き!」


「natsuさんの無表情も好き!」


natsuが首を傾げる。


「無表情」


shihoが、笑いをこらえながら言った。


「褒め言葉だと思う」


natsuは少し考える。


「ありがとう」


客席が沸く。


renaは、両手でマイクを握ったまま、少しだけ困った顔をした。


でも、逃げなかった。


「前は、それが少し苦手でした」


会場が静かになる。


「可愛いって言われると、音じゃなくて外側だけ見られてる気がして」


小さな息が、客席のあちこちで落ちる。


「綺麗って言われると、ちゃんと聴いてもらえてないんじゃないかって、勝手に思って」


renaは、少しだけ笑った。


「勝手に、です」


客席から、やさしい声が飛ぶ。


「そんなことないよ!」


「でもそう思っちゃうの分かる!」


「言葉って難しいよね!」


「ちゃんと聴いてるよ!」


「声も、音も、全部好き!」


renaの目元が少し揺れた。


でも、泣かなかった。


今は泣くより、受け取る時間だった。


「ありがとうございます」


renaは、ちゃんと言った。


客席から拍手が起きる。


それは、大きすぎない拍手だった。


でも、あたたかかった。


shihoがマイクに近づく。


「私も」


その一言で、また客席が少し前に寄る。


「私も、そういう言葉を受け取るのが得意ではありませんでした」


誰かが小さく言う。


「shihoさんも?」


shihoは頷いた。


「私も」


renaが横から言う。


「shihoも逃げてました」


shihoは、少しだけ目を細めた。


「言うね」


「言います」


「今日強いね」


「もう逃さんよ」


客席が笑う。


natsuが短く言った。


「逃げてた」


shihoがnatsuを見る。


「natsuまで」


natsuは真顔で続ける。


「森に隠れてた」


客席がまた笑った。


shihoも、今度は笑った。


「そうかもしれない」


そして、少しだけ腕を見る。


renaがそれを見逃さない。


「shihoはね、見た目の話を避けてるみたいに見えて、ちゃんと気にしてます」


shihoが素早く反応する。


「そこは言わなくていい」


客席がざわつく。


「え?」


「なになに?」


「shihoさん?」


「気になる!」


renaは楽しそうに言った。


「筋トレしてます」


客席が沸いた。


「えええ!」


「shihoさん筋トレ!?」


「似合う!」


「低音は筋肉から!」


「三頭筋見たい!」


shihoが、珍しく目に見えて動揺した。


「見せません」


客席からさらに声。


「認めます!」


「三頭筋認めます!」


「shihoさんの三頭筋えらい!」


「まだ見てないけど認める!」


natsuが、ぽつりと言った。


「私の三頭筋、もっと認められたい」


shihoがnatsuを見る。


「それ、私の台詞みたいにしないで」


renaが笑いをこらえられず、アコギに顔を伏せた。


客席は大笑いだった。


「三頭筋w」


「shihoさんそんな人だったの!?」


「好きが増える!」


「入口増えた!」


その声に、shihoがふっと止まった。


入口。


客席から出たその言葉が、ちゃんとステージへ戻ってきた。


shihoは、少しだけ照れながらも、マイクに向かった。


「そうですね」


客席が静まる。


「それも、入口でいいのかもしれません」


renaがshihoを見る。


natsuも、少しだけ顔を上げる。


shihoは続けた。


「声でも、音でも、雰囲気でも、見た目でも、笑い方でも、三頭筋でも」


客席が笑う。


shihoも、少し笑った。


「そこから入ってきてくれた人が、いつか曲の奥まで来てくれたらいい」


拍手が起きた。


今度は少し長い。


shihoは、その拍手を静かに受け取った。


natsuが、ローホイッスルを持ち上げた。


客席が少し静かになる。


natsuは、マイクの前に立たない。


少し離れた場所で、笛を持ったまま言った。


「妖精にも努力は必要」


一瞬の沈黙。


そのあと、会場が爆発した。


「妖精にも努力は必要ww」


「名言出た!」


「natsuさんw」


「妖精の努力!」


「パックしてる!?」


誰かが叫んだ。


natsuは、ぴたりと止まった。


renaが横を向いた。


shihoも、肩を震わせる。


客席がざわつく。


「え、パック?」


「natsuさんパックするの?」


「妖精もスキンケアするの?」


「可愛い!」


natsuは、ものすごく真面目な顔で言った。


「それは、妖精の秘密」


会場中が笑った。


笑いながら、何人かが拍手している。


「秘密守る!」


「妖精の秘密!」


「入口増えすぎ!」


natsuは、少しだけ困ったようにローホイッスルを持ち直した。


「でも」


その一言で、笑いが少し落ち着く。


natsuは、客席を見た。


「ちゃんとしてる」


短い言葉だった。


けれど、三人には分かった。


肌を整えることも。

髪を整えることも。

息を整えることも。

楽器を磨くことも。

体調を守ることも。


全部、音のため。


全部、ステージに立つため。


全部、自分たちを雑に扱わないため。


natsuは言った。


「風も、準備いる」


その言葉に、客席が静かに拍手した。


さっきまで笑っていた人たちが、今度はちゃんと受け取っていた。


renaは、その拍手を聴きながら、胸の奥が熱くなるのを感じた。


「私たち」


renaは、ゆっくり言った。


「ずっと、自分たちの中で決めた価値だけを、大事にしすぎていたのかもしれません」


会場が静まる。


「もちろん、それも大事です」


「音を大事にしたい」


「詩を大事にしたい」


「水も、森も、風も、大事にしたい」


「それは変わりません」


客席の常連たちが、静かに頷く。


「でも」


renaは、少しだけ笑った。


「みなさんが見つけてくれるものも、たぶん、私たちの一部なんだと思います」


拍手が起きた。


今度は、すぐに広がった。


「そうだよ!」


「全部ReShiNaだよ!」


「どこから入っても好き!」


「音まで行くから!」


「もう行ってる!」


「最初から好き!」


「最近来たけど好き!」


renaの目元が揺れた。


shihoが低く言う。


「受け取ろう」


renaは頷いた。


natsuも、小さく頷く。


三人が、それぞれ一歩ずつ前に出た。


アコギ。


ピアノ。


ローホイッスル。


バスクラリネットは足元にある。


フルートも、横に置いてある。


三人がいる。


水。


森。


風。


そして、今はもう、そこに少しだけ人の声も混ざっている。


renaはマイクを両手で持った。


「まだ咲いていないことを、少し恥ずかしいと思っていました」


客席が静かになる。


「まだ途中だから」


「まだ不完全だから」


「まだ揺れているから」


「まだ怖いから」


一つずつ、置くように言う。


「でも、咲く前の時間にも、ちゃんと命があるんだと思います」


shihoが続ける。


「完成してから見てください、ではなくて」


「今の私たちも、見てもらっていい」


natsuが、短く言った。


「つぼみも、生きてる」


客席のどこかで、誰かが泣いた。


小さなすすり泣き。


それに気づいた人が、そっとハンカチを渡す。


renaは、その光景を見て、少しだけ息を吸った。


「不完全な私たちを、可愛いと言ってくれるなら」


客席が静かに聴いている。


「きれいと言ってくれるなら」


「声が好きだと言ってくれるなら」


「音が好きだと言ってくれるなら」


「雰囲気が好きだと言ってくれるなら」


renaは、少しだけ照れたように笑った。


「今日は、逃げずに受け取ります」


拍手が、会場を包んだ。


強くて、あたたかい拍手だった。


「受け取って!」


「言ってよかった!」


「可愛いよ!」


「綺麗だよ!」


「音が好き!」


「三人とも好き!」


「そのままでいい!」


renaは、泣きそうになった。


でも、泣ききらずに笑った。


shihoも、少し目元を赤くしながら微笑んでいる。


natsuは、ローホイッスルを持ったまま、静かに客席を見ていた。


その姿は、やっぱり妖精みたいだった。


でも、もうただの妖精ではない。


ちゃんと努力して、ちゃんと照れて、ちゃんと受け取ろうとしている一人の女の子だった。


renaは、最後に言った。


「聴いてください」


少しだけ間を置く。


その間に、客席が息を止める。


曲名は、ここで初めてステージに置かれる。


「Beautiful TSUBOMI」


拍手が起こる前に、natsuのローホイッスルが入った。


古い森の奥から、風が芽吹きを呼ぶような音。


照明が、ゆっくり緑と金に変わる。


renaがアコギの最初のコードを鳴らした。


shihoのピアノが、その下に深い土を置いた。


そして、renaの声が始まる。


≫ 風が囁く 古の木々の間で

≫ ツボミたちが眠る 未完の大地

≫ 「ねえ、花たちが息づいてる。」


客席は、もう声を出さなかった。


ただ、聴いた。


さっきまで可愛いと叫んでいた人たちも。


三頭筋で笑っていた人たちも。


妖精の秘密に沸いていた人たちも。


今は、ちゃんと音の奥へ入っていた。


入口は、開いた。


そして、その奥にある森へ。


三人の声と音が、会場全体を連れていった。


shihoの声が低く重なる。


≫ 土の下には まだ見えない春

≫ 名前もないまま 光を待っている

≫ 咲く前の命が 静かに震えてる


咲く前。


その言葉が、今日のReShiNaそのものだった。


もう、蕾であることに引け目はなかった。


咲いていないから価値がないのではない。


咲く前だからこそ、震えている。


咲く前だからこそ、光を探している。


咲く前だからこそ、見てもらいたい。


natsuのローホイッスルが、森の奥から風を連れてくる。


renaの声が、少しずつ明るくなる。


shihoの低音が、根を張るように支える。


曲は、静かに始まったのに、すぐに会場の奥まで広がっていった。


≫ 咲き誇れ ツボミよ 風に揺れて

≫ 未完の歌を 空に響かせ

≫ 大地と語り 星と笑い

≫ この胸に今 芽生える想いを


客席の何人かが、そっと手を胸に当てた。


声を返す曲ではない。


叫ぶ曲でもない。


けれど、内側で返事をする曲だった。


未完のままでいい。


途中でもいい。


咲く前でもいい。


それでも、美しい。


それでも、見てもらっていい。


それでも、歌っていい。


renaは、歌いながら、客席を見た。


昔から来てくれている人。


最近来た人。


初めて来た人。


可愛いと言ってくれた人。


音が好きだと言ってくれた人。


妖精と呼んだ人。


三頭筋を認めた人。


その全部が、今、同じ曲の中にいる。


それが、少し信じられなかった。


でも、確かに見えた。


入口は、ひとつじゃなくてよかった。


たくさんあってよかった。


そして、その奥に自分たちの音があればいい。


曲の中盤、natsuのアイリッシュフルートが細く上がっていく。


蕾が少しずつ開くように。


照明が、ステージの上で柔らかく広がる。


shihoの声が、低く、でもまっすぐ届く。


≫ まだ知らないまま歩くことを

≫ 弱さとは呼ばないで

≫ 迷いながら進む足音も

≫ 森はちゃんと聞いている


客席の奥で、誰かが泣いた。


その隣の人が、手を握る。


前列では、常連の女性が涙を拭きながら笑っている。


後ろの方では、リバクラ経由で来たらしい男性が、じっとステージを見ていた。


彼は、可愛いと言ったわけではない。


けれど今、音に入っている。


その姿を見て、renaはほんの少しだけ笑った。


見てくれている。


ちゃんと。


曲はBridgeへ入る。


雨。


夜。


根。


朝。


花。


それらの言葉が、ReShiNaの中を通って、会場へ届く。


≫ 雨が落ちて ツボミを濡らし

≫ 冷たい夜が 根を深くする


shihoのピアノが、低く沈む。


その下から、natsuのローホイッスルが重なる。


ただ綺麗なだけではない。


痛みも、寒さも、夜も、全部が根になる。


そして、朝が来る。


renaの声が少しだけ強くなる。


≫ 朝が来れば 花はまた開く


客席の誰かが、小さく息を呑んだ。


その音すら、曲の一部のようだった。


Final Chorus。


照明が、少しだけ明るくなる。


会場全体に、春の色が広がっていく。


≫ 咲き誇れ ツボミよ まだ名もなくていい

≫ 誰かに見つかる前から 美しい

≫ 小さな祈りが 土を押し上げ

≫ 春の声へ 変わっていく


誰かに見つかる前から、美しい。


その一行で、客席の空気が深く震えた。


可愛いと言われたから価値があるのではない。


綺麗と言われたから、美しいのではない。


でも、そう言ってくれる声を、もう敵にしない。


見つけてもらう前からある価値。


見つけてもらったことで、やっと自分たちでも受け取れる価値。


その両方を、ReShiNaは今、歌っていた。


最後のRefrainで、renaとshihoの声が重なる。


≫ 咲き誇れ ツボミよ 風に揺れて

≫ 未完の歌を 空に響かせ

≫ 咲き誇れ ツボミよ まだ途中でいい

≫ その途中こそが 命だから


natsuのフルートが、最後に高く抜けた。


ローホイッスルの低い風が、その下に戻る。


アコギ。


ピアノ。


バスクラリネット。


風。


森。


水。


そして、人の声。


最後の音が、ゆっくり消えていく。


会場は、すぐには拍手しなかった。


誰も、壊したくなかった。


音が消えたあとの静けさまで、曲だった。


その静けさの中で、renaが最後の言葉を置いた。


≫ 「ねえ、生きてるだけで美しいね。」


その瞬間。


会場のあちこちで、息が崩れた。


泣き声。


すすり泣き。


小さな笑い。


そして、拍手。


最初は一人。


次に二人。


それから一気に、会場全体へ広がった。


拍手は、ただ大きいだけではなかった。


長かった。


受け取ったものを返すような拍手だった。


「ReShiNa!」


「ありがとう!」


「Beautiful TSUBOMI!」


「三人とも綺麗!」


「可愛い!」


「音も好き!」


「全部好き!」


「そのままでいい!」


renaは、マイクの前で少しだけ泣きそうになった。


でも、逃げなかった。


笑った。


ちゃんと、客席を見て、笑った。


shihoは、ピアノの前で深く頭を下げた。


natsuは、ローホイッスルを胸元に抱えたまま、少しだけ目を閉じた。


拍手は、まだ続いている。


ReShiNaは、その中に立っていた。


まだ咲き切った花ではない。


でも、もう隠れている蕾でもなかった。


殻を破った先に、また蕾があった。


外を見られる蕾。


光を探せる蕾。


可愛いと言われても、綺麗と言われても、音を好きだと言われても、少しずつ受け取れる蕾。


その日、会場にいた人たちは、きっとそれを見た。


花ではなく。


花になる前の、いちばん震えていて、いちばん生きている時間を。


拍手の中で、三人は顔を上げた。


renaは泣きそうな顔で笑っていた。

shihoは、少しだけ赤くなった目元を隠さずに、客席を見ていた。

natsuは、ローホイッスルを胸に抱えたまま、いつものように静かに立っていた。


水は、流れ直した。


森は、奥行きを取り戻した。


風は、もう閉じた部屋の中だけを回っていなかった。


ReShiNaは、まだ完成した花ではない。


でも、もう誰にも見つからないように息を潜める蕾ではなかった。


見られてもいい。

聴かれてもいい。

可愛いと言われてもいい。

綺麗と言われてもいい。

その言葉を入口にして、もっと奥の音まで来てもらえばいい。


そう思えるところまで、三人は来た。


拍手は、まだ続いている。



その音の中で、ReShiNaの物語は、一度ここで静かに結ばれる。


終わりではない。


ただ、閉じていた蕾が、外の光を怖がらなくなったところまで。


その先の風は、また別の場所へ吹いていく。


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