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ラップ付き小説 ReversCrown 元気ないやつこっちおいで  作者: egubi
reshina編

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4-4-9 雪解け


配信が終わってから、しばらく誰も片づけなかった。


画面はもう暗くなっている。


コメント欄も、配信画面の中では止まっている。


けれど、部屋の中には、まだ何かが残っていた。


TSUBOMIの最後のフルート。


アコギの余韻。


低く支えていたピアノ。


Reverse Crown三人の声。


そして、コメント欄に流れた言葉。


必要だった。


その言葉だけが、何度も何度も、三人の中で鳴っていた。


renaは、椅子に座ったまま、アコギを抱えていた。


もう弾いていない。


でも、置く気にもなれなかった。


膝の上に乗せたまま、右手で弦の上をそっと撫でている。


音は出ない。


ただ、指先が弦に触れるだけ。


それだけで、さっきまで自分がちゃんと音の中にいたことを確かめているみたいだった。


shihoは、ピアノの前に座ったまま、背筋を少し丸めていた。


いつものように静かだった。


でも、いつもの沈黙とは少し違う。


低く沈んでいるのではなく、何かを受け止めたあとで、ゆっくり呼吸を整えている沈黙だった。


指先は、まだ鍵盤の上にある。


押してはいない。


けれど、離してもいない。


natsuは、フルートを膝の上に置いていた。


ケースには戻していない。


ローホイッスルも近くにある。


でも、今はフルートの管を、両手でそっと包むように持っていた。


銀色の管に、部屋の灯りが細く映っている。


natsuは、その光を見ていた。


じっと。


まるで、まだ風が中に残っているかを確認しているように。


最初に口を開いたのは、renaだった。


「……終わったね」


その声は小さかった。


でも、少しだけ笑っていた。


shihoが頷く。


「うん」


natsuも、フルートを見たまま言った。


「終わった」


少し間が空く。


natsuは続けた。


「でも、まだいる」


renaが顔を上げる。


「何が?」


natsuは、フルートの管を指で撫でた。


「音」


shihoが、静かに息を吐いた。


「うん。まだいるね」


また、三人は黙った。


でも、それは重い沈黙ではなかった。


言葉にするにはまだ少し熱すぎるものを、三人で同じ部屋に置いている沈黙だった。


renaは、スマホを手に取った。


配信後の反応を見ようとして、すぐには開けなかった。


怖かった。


でも、見たかった。


少し前なら、見ないまま伏せていたと思う。


怖いから。


傷つくかもしれないから。


見たら、また自分の中の何かが乱れるかもしれないから。


けれど、今は違った。


怖い。


でも、見たい。


それが、もう違っていた。


renaは、画面を開いた。


通知が、まだ止まっていなかった。


コメント。


感想。


切り抜き。


スレの書き込み。


「よかった」


「泣いた」


「また聴きたい」


「ReShiNaの音、必要だった」


その一文を見つけた瞬間、renaの指が止まった。


必要だった。


また、それだった。


renaは、スマホを持ったまま、しばらく動かなかった。


shihoが見る。


「どうしたの」


renaは、画面を見つめたまま言った。


「また、書いてくれてる」


「何を?」


renaは、声を少し詰まらせた。


「必要だったって」


shihoの顔が、ほんの少し変わった。


natsuも、フルートから目を離した。


renaは、スマホを胸の近くに引き寄せた。


「綺麗だった、とかじゃなくて」


声が震える。


「必要だったって」


その言葉を口にしただけで、目元が熱くなった。


必要だった。


その言葉は、優しいだけではなかった。


癒しでも、飾りでも、背景でもなく。


そこにいなければ成立しなかった、と言われた気がした。


それは、怖かった。


でも、うれしかった。


怖いくらい、うれしかった。


shihoは、鍵盤からゆっくり手を離した。


「必要だった、か」


「うん」


「……重いね」


renaは、小さく笑った。


「重い」


けれど、その笑いは嫌がっている笑いではなかった。


胸の奥に置いておきたい重さだった。


natsuは、少しだけ首を傾げた。


「重いけど、持てる?」


renaは、涙のまま笑った。


「持てる」


shihoも、小さく頷いた。


「うん。これは、持てる重さ」


natsuは、納得したようにフルートを見た。


「じゃあ、いい」


その言い方がいつも通りで、renaはまた少し笑った。


泣きそうなのに。


それでも笑えた。


さっきの配信から、三人はずっと少し浮いていた。


ふわふわしている。


地に足がついていない、というより、足元にあった氷が少し溶けて、柔らかくなってしまったようだった。


立ち方が変わる。


息の入り方が変わる。


部屋の広さまで、さっきより少し違って見える。


renaは、アコギを抱え直した。


「なんか」


shihoが見る。


「うん」


renaは、自分でも少し恥ずかしそうに笑った。


「弾きたい」


shihoの目が、少しだけ丸くなった。


natsuも顔を上げる。


renaは、慌てて付け足した。


「いや、今すぐちゃんと一曲とかじゃなくて」


「うん」


「ただ、ちょっと」


右手で弦を撫でる。


今度は、ほんの小さな音が鳴った。


ぽん、とまではいかない。


かすかな、木の中から漏れたみたいな音。


でも、確かに鳴った。


renaは、その音に自分で驚いたように、少し目を伏せた。


「鳴った」


natsuが言う。


「鳴った」


shihoも、口元を少しだけ緩める。


「鳴ったね」


その瞬間、三人の中で何かが少し変わった。


大きな曲ではない。


完成ではない。


復活でもない。


ただ、鳴った。


それだけなのに、三人の顔に、小さな明るさが戻った。


shihoは、鍵盤の方に向き直った。


「じゃあ、私も」


低い音を一つだけ鳴らした。


重くない。


沈ませる音ではない。


水の下で、凍っていたものが少し割れるような音だった。


natsuは、その音を聴いて、ローホイッスルへ手を伸ばした。


フルートではなく。


今度は、低い風。


けれど、沈むためではない。


凍った場所に、最初の息を通すための風。


natsuは、ローホイッスルを口元に持っていく。


まだ吹かない。


その前に、ぽつりと言った。


「溶ける音」


renaが見る。


「溶ける?」


natsuは頷いた。


「今の低い音。雪の下で、水が動いた」


shihoは、鍵盤に置いた手を止めた。


「雪」


その言葉が、部屋に落ちた。


雪。


白くて。


静かで。


綺麗で。


でも、冷たい。


積もると、音を消す。


足跡も隠す。


何が下にあるかも見えなくする。


renaは、小さく息を吸った。


「雪、いいかも」


shihoは、ノートを引き寄せた。


「次の曲?」


renaは少し黙った。


次の曲。


その言葉が、もう前ほど怖くなかった。


「うん」


自分の声でそう言ってから、renaは驚いた。


言えた。


次の曲。


まだできていないのに。


まだ怖いのに。


でも、言えた。


shihoはノートの新しいページを開いた。


上の方に、そっと書く。



その下に、少し間を空けて。


溶ける


さらにその横に。


解ける


natsuが、その文字を見て頷いた。


「溶ける、と、解ける」


shihoが言う。


「両方?」


「うん」


natsuは、ローホイッスルを手に持ったまま、ゆっくり言った。


「凍ってたものが溶ける」


少しだけ間を置く。


「分からなかったものが解ける」


renaは、胸の奥がきゅっとなった。


それは、まさに今の自分たちだった。


凍っていた。


見えていなかった。


分からなかった。


でも、少しずつ溶けている。


少しずつ解けている。


shihoは、ペンを握ったまま、静かに頷いた。


「いいね」


renaは、スマホを見た。


そこには、まだ「必要だった」という言葉が残っている。


必要だった。


その言葉が、雪の上に落ちた最初の光みたいだった。


冷たい場所に、温度をくれた。


renaは、アコギをそっと鳴らした。


今度は、さっきより少しだけはっきり音が出た。


「こんな曲、やりたい」


shihoが聞く。


「どんな曲?」


renaは、しばらく考えた。


今までなら、ここで黙っていた。


うまく言えないから。


変に受け取られたら怖いから。


どうせ伝わらないかもしれないから。


でも、今は少し違う。


言葉にならなくても、言っていい気がした。


「……受け取る曲」


shihoは、ペンを止めた。


natsuも、少しだけ顔を上げる。


renaは続けた。


「今まで、こういうの苦手だった」


「こういうの?」


「応援とか、心配とか、好きって言われることとか」


自分で言いながら、少しだけ笑った。


でも、すぐに目元が揺れた。


「怖かった」


shihoは、何も言わなかった。


natsuも、ローホイッスルを膝に置いたまま聞いていた。


renaは、ゆっくり言葉を探した。


「褒められると、期待されてる気がして」


一度、息を吸う。


「心配されると、見られてる気がして」


また、少し笑う。


「ありがとうって言われても、どう返したらいいか分からなくて」


声が小さくなる。


「勝手に怖くなってた」


shihoは、低く息を吐いた。


「うん」


renaは、胸元を押さえた。


「でも、みんなは善意で言ってくれていたのに」


言葉が少し詰まる。


「私は、なんなんだって」


その言葉は、自分を責めるためというより、ようやく自分の中のねじれを見つけた声だった。


泣き叫ぶほどではない。


でも、深いところから出ていた。


shihoは、ノートの端に、小さく書いた。


善意


そして、その横に。


怖かった


natsuは、その文字を見て言った。


「どっちもあった」


renaが見る。


natsuは続ける。


「善意もあった。怖さもあった」


少し間を置く。


「でも、善意を無かったことにしたのは、たぶん違う」


その言葉で、renaの目から涙が落ちた。


まっすぐだった。


痛かった。


でも、嫌じゃなかった。


「うん」


renaは、小さく頷いた。


「それ」


涙を拭く。


「それを、言いたかった」


shihoは、ペンを置いた。


「私も、見えてなかったと思う」


renaが顔を上げる。


shihoは、鍵盤を見ていた。


「音だけ見てればいいと思ってた。水とか、森とか、風とか、そういうものの中にいれば、傷つかないと思ってた」


少しだけ、目を伏せる。


「でも、みんなの言葉も、音だった」


natsuが言う。


「人も、音だった」


shihoは頷いた。


「うん」


renaは、涙を拭きながら、少し笑った。


「それ、すごくいい」


natsuは、真面目に言う。


「言っただけ」


「それがいいの」


natsuは、少し考えてから頷いた。


「なら、いい」


そのやり取りに、shihoが小さく笑った。


少し前なら、こんなふうに笑えなかったかもしれない。


自分たちの反省の話をしているのに。


痛いところを見ているのに。


それでも、笑える。


それは、責めるための話ではないからだった。


ここから変わるための話だった。


renaは、スマホをもう一度見た。


コメント欄には、まだいくつも言葉が並んでいる。


必要だった。


戻ってきてくれてありがとう。


無理しないで。


また聴きたい。


好きです。


その全部を、今までの自分なら、どこかで怖がっていた。


善意のまま受け取れなかった。


嬉しいのに、怖い。


ありがたいのに、逃げたい。


見られたいのに、見られたくない。


そうやって、自分たちの痛みの方ばかり見ていた。


renaは、アコギを抱えたまま、ぽつりと言った。


「あたしたち、みんなを見れてなかった」


shihoが、静かに頷いた。


natsuも、ローホイッスルを両手で持ったまま頷く。


renaは続けた。


「どれも、あったのに」


声が震える。


「みんなの言葉も、手も、心配も、ちゃんとあったのに」


目元を押さえる。


「それを無かったことにする方が、おかしかった」


部屋の中が、静かになった。


その言葉は、三人の中心に落ちた。


重い。


けれど、暗くはなかった。


雪の下に、水が動き始めるような重さだった。


shihoは、ノートに書いた。


なかったことにしない


natsuが、それを見て言った。


「雪解け」


renaは、涙のまま笑った。


「うん」


shihoも頷いた。


「雪解け」


そこで、renaが少しだけ顔を上げた。


「レゲルト」


shihoの手が止まる。


「レゲルト?」


natsuも、ほんの少し首を傾げた。


「レゲルト」


renaは、少し照れたように笑った。


「レゲエと、ケルト」


shihoが、瞬きをする。


natsuも、ローホイッスルを見ながら考える。


「レゲエ」


「うん」


renaは、少しだけ早口になった。


恥ずかしさをごまかすみたいに。


「リバクラさんたちのラップの、あの跳ねる感じと、私たちのケルトっぽい音を混ぜるなら、レゲエとケルトで……レゲルト、みたいな」


言ってから、renaは自分で少し恥ずかしくなった。


「……変かな」


shihoは、すぐには答えなかった。


natsuも黙っていた。


その沈黙に、renaが少し不安そうに二人を見る。


「やっぱり変?」


shihoは、ふっと笑った。


「変」


renaが肩を落とす。


「だよね」


shihoは続けた。


「でも、残る」


natsuも頷いた。


「残る音」


renaは、少し顔を上げる。


「ほんと?」


natsuは言った。


「レゲルト。変だけど、雪が溶ける音みたい」


shihoは、ノートに書いた。


雪解けレゲルト


字面は少し不思議だった。


でも、見れば見るほど、今の三人に合っていた。


雪解け。


凍っていたものが溶ける。


レゲルト。


レゲエとケルトを混ぜた、少し恥ずかしい造語。


けれど、まだ正しい名前を持っていない気持ちには、それくらいがちょうどいいのかもしれなかった。


renaは、ノートの文字を見つめた。


「……いいかも」


shihoが頷く。


「うん」


natsuも言う。


「いい」


少し間が空く。


natsuは、真面目に付け足した。


「変だけど」


renaは笑った。


「そこはもう分かった」


三人の笑いが重なった。


さっきよりも、少し明るかった。


泣いたあとに出る笑いではなく。


少し元気が戻ってきた人の笑いだった。


renaは、アコギをもう一度鳴らした。


今度は、少しだけリズムがあった。


跳ねる、とまではいかない。


でも、沈んではいない。


ぽん。


少し間を空けて。


ぽん。


shihoが、その間に低い音を置いた。


重くしすぎない。


雪の下に水が通るくらいの低さ。


natsuは、ローホイッスルを口元に持っていく。


低い息を、一音だけ入れた。


部屋の空気が、少し揺れた。


renaの顔が明るくなる。


「今の」


shihoも頷く。


「うん」


natsuは、少しだけ目を細めた。


「溶けた」


renaは、笑った。


「溶けたね」


今度は、自然に笑えた。


その笑顔は、配信中に見せたものより少し無防備だった。


誰かに見せるためではなく、三人の中だけでふっと出た笑顔。


けれど、もし今、画面の向こうにファンがいたら、きっとまたスレが大騒ぎになっていただろう。


renaは、少し頬が赤くなっていた。


テンションが上がっている。


自分でも分かる。


胸の奥が、そわそわしている。


まだ不安はある。


でも、その不安の上に、別のものが乗っている。


楽しみ。


それを認めるのが、少し恥ずかしい。


renaは、両手でアコギを抱き直した。


「やばい」


shihoが見る。


「何が?」


renaは、少し目を泳がせる。


「楽しいかも」


shihoは、ゆっくり笑った。


「うん」


natsuも、短く言う。


「楽しい」


renaは、ぱっとnatsuを見る。


「natsuも?」


natsuは頷いた。


「うん」


少し考える。


「風が、忙しい」


shihoが笑った。


「情緒も風も忙しいね」


natsuは真面目に頷く。


「忙しい」


renaは、笑いながら少し涙を拭いた。


「やばい、やばい」


shihoが言う。


「何回言うの」


「だって、やばいもん」


「語彙」


「今ない」


natsuが、ローホイッスルを膝に置いたまま言った。


「やばい、でいい」


renaは、natsuを見る。


natsuは続ける。


「言葉が溶けてる時は、短くていい」


その言葉で、また三人は少し黙った。


いいことを言われた。


でも、あまりにnatsuらしく自然に言うから、笑っていいのか、感動していいのか分からなかった。


shihoが、結局笑った。


「natsu、そういうところ」


natsuは、不思議そうにする。


「どこ?」


renaは、涙の残った目で笑った。


「好き」


natsuは、少しだけ目を伏せた。


「うん」


短い返事だった。


でも、嬉しそうだった。


そのあと、三人はしばらく、完成していない曲の断片だけを鳴らした。


renaが短い言葉を口ずさむ。


まだ歌詞ではない。


メロディにもなりきっていない。


でも、種のような言葉。


≫ 雪の下で

≫ 水が目を覚ます


shihoが、その下に低い音を置く。


natsuが、ローホイッスルで短く息を入れる。


renaは、また少し言葉を探す。


≫ 見えなかった手を

≫ 今なら見たい


そこで、声が少し詰まった。


見えなかった手。


みんなの手。


コメント。


拍手。


心配。


好きだと言ってくれた人たち。


必要だったと言ってくれた人たち。


それを、今なら見たい。


見なければいけない、ではなく。


見たい。


その違いが、renaには大きかった。


shihoが、ノートに書く。


見えなかった手を、今なら見たい


そして、その下に、自分の言葉を置く。


「外を見る、かな」


renaが頷く。


「うん」


natsuが言う。


「外も、音」


shihoは、その言葉も書いた。


外も、音


renaは、ノートを見て、少しだけ笑った。


「なんか、できそう」


shihoも頷く。


「うん」


natsuは、ローホイッスルを持ったまま言った。


「まだ、できてない」


「分かってる」


「でも、来てる」


renaは、嬉しそうに笑った。


「来てるね」


その時だった。


スマホがまた震えた。


新しい通知。


合同スレのまとめが流れてきた。


タイトルに、こんな言葉があった。


【必要だった】TSUBOMI合同配信後、リバクルーとReShiNa勢の情緒が忙しすぎる【雪解け?】


renaは、そのタイトルを見て、目を丸くした。


「雪解けって書かれてる」


shihoが覗き込む。


「ほんとだ」


natsuも見る。


「先に言われた」


renaは笑った。


「なんで分かるの」


shihoは、少し考えた。


「見えてるんだと思う」


renaが見る。


shihoは続ける。


「私たちが思ってるより、ちゃんと見てくれてる」


その言葉で、renaの胸がまた熱くなった。


見られるのが怖かった。


でも、見てくれていることが、今は少し嬉しい。


それがまた怖くて。


でも、嬉しい。


renaは、アコギを抱えたまま、小さく言った。


「やばい」


shihoは笑った。


「また?」


「また」


natsuが言う。


「やばい、増えてる」


renaは笑いながら、少しだけ顔を赤くした。


「だって、ほんとにやばい」


その言葉は、もう不安だけではなかった。


照れと、嬉しさと、怖さと、期待が混ざった「やばい」だった。


その夜、ReShiNa公式からは、まだ何も投稿されなかった。


三人は、すぐに言葉を外へ出さなかった。


まず、自分たちの中で受け止めたかった。


ただ、ノートには確かに残った。


雪解けレゲルト


そして、その下に。


なかったことにしない


外も、音


見えなかった手を、今なら見たい


善意を、善意のまま受け取る


ごめんなさい


ありがとう


その言葉を見て、renaは少しだけ息を吸った。


「これ、できたら」


shihoが見る。


「うん」


「みんなに聴いてほしい」


natsuは、ローホイッスルを口元に持っていく前に言った。


「外にも」


renaは頷いた。


「うん」


少しだけ、笑う。


「外にも」


その笑顔は、さっきより明るかった。


見た目まで少し変わったように見えた。


目の奥に、光が戻っている。


頬に、うっすら血色がある。


指先が、さっきより迷わず弦に触れる。


shihoも、姿勢が少しだけ変わっていた。


背筋が伸びている。


低い音に沈むのではなく、低い音で立っている。


natsuは、フルートとローホイッスルを交互に見ていた。


どちらを使うか、もう迷っている。


迷っているのに、嫌そうではない。


選べることが、少し楽しいように見えた。


三人とも、少し浮ついていた。


でも、それは悪い浮つきではなかった。


久しぶりに、次の音の話をしている人たちの浮つきだった。


renaは、ぽつりと言った。


「リバクラさんたちに、会えてよかったね」


shihoが静かに頷いた。


「うん」


natsuは、少しだけ考えてから言った。


「音が、外に向いた」


renaは、目を伏せた。


「うん」


胸の奥が、また温かくなる。


Reverse Crownの三人と関われたこと。


一緒に曲を作れたこと。


自分たちの音を、必要だったと言ってもらえたこと。


その全部が、じわじわと体の中に入ってくる。


受け取るのが下手だった心が、少しずつそれを飲み込もうとしている。


ぽーっとした。


本当に、少しだけ。


renaは、自分の頬に手を当てた。


「……やばい」


shihoが笑う。


「今日、そればっかり」


renaは、照れたように笑った。


「だって、リバクラさんたちと関われたの、今さらちょっと実感してきた」


natsuが頷く。


「遅れて来る風」


shihoが小さく笑った。


「今日は何でも風になるね」


natsuは、少しだけ真面目に言った。


「今日は、風が多い」


renaは、また笑った。


その笑い声が、部屋に残る。


軽い。


でも、薄くない。


三人はまだ完全に戻ったわけではない。


傷もある。


怖さもある。


外を見ることに慣れていない。


褒められることも、心配されることも、まだ少し苦手だ。


でも、今日。


少しだけ、外を見た。


見られることを、少しだけ受け入れた。


そして、その先で、自分たちに向けられていた手を見た。


それを、なかったことにしないと決めた。


雪解けレゲルト。


その曲は、まだ完成していない。


歌詞も、断片だけ。


音も、まだ部屋の中で揺れているだけ。


でも、三人の中では、もう始まっていた。


雪の下で。


水が目を覚ます。


見えなかった手を。


今なら見たい。


外も、音。


ごめんなさい。


ありがとう。


その全部を抱えたまま、renaはアコギを鳴らした。


shihoは低い音を置いた。


natsuは、ローホイッスルで最初の風を通した。


ぽつり。


また、ぽつり。


凍っていたものが、少しずつ溶けていく音がした。


その夜、ReShiNaの部屋には、久しぶりに次の曲の気配が満ちていた。


それはまだ、完成した歌ではない。


でも、もう逃げる音ではなかった。

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