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ラップ付き小説 ReversCrown 元気ないやつこっちおいで  作者: egubi
reshina編

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127/186

4-4-7 TSUBOMI feat. ReShiNa


その配信は、珍しく事前に告知されていた。


Reverse Crown公式。


ReShiNa公式。


同じ時刻。


同じタイトル。


同じサムネイル。


黒い背景に、白い文字で一行だけ。


TSUBOMI feat. ReShiNa

Joint Streaming Premiere


告知が出た瞬間、リバクルーはざわついた。


――feat. ReShiNa?


――レジーナって、あの?


――え、前夜祭の?


――急にどういうつながり?


――リバクラ、最近動きが読めん


ReShiNa側も同じだった。


――Reverse Crownって誰?


――最近おすすめで見たサングラスの人たち?


――ReShiNaがラップと?


――どういうこと?


――でもTSUBOMIってタイトル綺麗


どちらのコメント欄にも、同じ戸惑いが流れていた。


ただ、告知文は短かった。


新曲「TSUBOMI feat. ReShiNa」を、Reverse CrownとReShiNaの共同配信で初披露します。

楽曲完成までの経緯を少しだけお話しします。


それだけだった。


細かい説明はない。


派手な煽りもない。


「奇跡のコラボ」とも書かれていない。


「話題の二組がついに」でもない。


ただ、共同配信。


ただ、新曲披露。


それでも、両方のファンには十分すぎた。


配信開始の数分前。


画面には、まだ待機画面が映っていた。


黒地に、月のような薄い円。


その下に、白い文字。


TSUBOMI feat. ReShiNa


コメントは、すでに速くなり始めていた。


――待機


――これどういう組み合わせ?


――リバクラとReShiNa?


――ReShiNa公式にも同じ画面出てる


――共同配信ってこういうことか


――音どうなるんや


――ラップとアコギとバスクラとフルート?


――想像できん


――だから見るんやろ


――たしかに


ReShiNa側のコメントも、いつもより少し硬かった。


――久しぶりの配信うれしい


――三人そろってる?


――無理してない?


――新曲?


――feat.ってことは歌うの?


――ラップ苦手だけど見に来た


――ReShiNaが決めたなら聴く


開始時刻になった。


待機画面がふっと消える。


最初に映ったのは、いつもの黒い布ではなかった。


小さなスタジオ。


奥にマイク三本。


その横に、アコギ。


低い位置にバスクラリネット。


譜面台。


フルートスタンド。


ローホイッスル。


一つの画面の中に、Reverse CrownとReShiNaがいた。


リバクルーのコメントが跳ねた。


――いる!


――ほんまに一緒におる!


――同じ部屋!?


――ReShiNa側にも同じ映像出てる


――共同配信だ


――うわ、すご


ReShiNa側も揺れた。


――三人いる


――renaちゃん


――shihoさんバスクラ持ってる


――natsuフルート?


――Reverse Crownってこの三人?


――サングラスないんだ


――普通にちゃんとしてる人たちっぽい


画面の中で、mcRCが軽く頭を下げた。


「こんばんは。Reverse Crownです」


wataが続く。


「今日は、いつもの配信とは少し違います」


EGUIが言う。


「新曲を披露します。曲名は、TSUBOMI feat. ReShiNa」


その瞬間、コメント欄に同じ言葉が並んだ。


――TSUBOMI


――タイトル綺麗


――feat. ReShiNa


――まじでコラボなんや


mcRCは、横に立つReShiNa三人を見た。


「まず、今日はReShiNaの皆さんから、少し話してもらいます」


画面の空気が少し変わった。


ReShiNa三人は、前へ出すぎない位置にいた。


でも、後ろに隠れているわけでもない。


renaが、小さく息を吸った。


アコギを抱えてはいない。


でも、手元には置いてある。


「こんばんは。ReShiNaのrenaです」


shihoが続く。


「shihoです」


natsuは、少しだけ視線を落としてから言った。


「natsuです」


いつもより、画面の中の三人は静かだった。


けれど、消えそうではなかった。


そこにいる。


そのことが、まず伝わった。


renaは、画面ではなく、少し下の一点を見ていた。


言葉を探している。


でも、逃げてはいない。


「細かくは、話しません」


その一言で、コメント欄の流れが少し遅くなった。


「でも、私たちは、いろいろあって……音楽の道に戻れないくらい、落ちていました」


ReShiNa側のコメントが止まった。


完全に止まったわけではない。


でも、さっきまでの軽いざわめきが薄くなった。


――え


――そんな状態だったの


――知らなかった


――無理しないで


――戻ってきてくれてありがとう


renaは続けた。


「その時に、Reverse Crownさんたちと出会って、一緒に曲を作る話になりました」


wataは、少しだけ目を伏せた。


EGUIも黙って聞いている。


mcRCは、真っ直ぐ前を見ていた。


renaは、少しだけ笑った。


弱い笑顔ではなかった。


でも、強がりでもなかった。


「きっかけは、私たちが、こっそり配信を見に行ったことです」


リバクルー側が一気にざわついた。


――え?


――見に来てたの!?


――誰!?


――あの時!?


――まさか


ReShiNa側も反応する。


――こっそり?


――配信見てたんだ


――Reverse Crownの?


――コメントしてたの?


shihoが静かに引き取った。


「名前は出さずに、コメントをしました」


natsuが言う。


「言葉だけ、置きました」


renaが頷く。


「その言葉を、Reverse Crownさんたちは、拾ってくれました」


mcRCは、口を挟まなかった。


wataも、EGUIも。


ここはReShiNaが話す場所だった。


shihoは、少しだけ声を落とした。


「ただ拾っただけじゃなくて、勝手に使わずに、ちゃんと預かってくれました」


コメント欄の空気が変わった。


リバクルーは、その言葉の意味をなんとなく理解し始めていた。


――オーダーか


――でも普通のオーダーじゃないやつ


――ちゃんと預かった、いいな


――リバクラらしい


――取らなかったんだな


ReShiNa側も揺れていた。


――そういうことだったんだ


――だから今回一緒にいるのか


――なんか泣きそう


natsuが、少しだけ視線を上げた。


「怖かったです」


その一言で、またコメントの速度が落ちた。


「でも、取られなかった」


短い言葉だった。


けれど、重かった。


リバクルー側にも、その言葉は刺さった。


――取られなかった


――それ大事なやつだ


――リバクラちゃんとやったんだな


――よかった


――泣きそう


shihoが頷く。


「だから、一緒に作ることにしました」


renaが、ようやく画面を見た。


「今日披露するTSUBOMIは、私たちにとっても、Reverse Crownさんたちにとっても、新しい曲です」


ここで、mcRCが少しだけ前に出た。


「作る前に、一度だけ、お互いの自己紹介を曲でしました」


コメント欄がまた揺れる。


――曲で自己紹介?


――なにそれ


――かっこいい


――曲名は?


――聴きたい


wataが、コメントを見て少し笑う。


「その話は、またいつか。今日は先にTSUBOMIを聴いてください」


――おあずけ!


――気になるやん


――いつか絶対やって


EGUIが静かに言う。


「ただ、その時間があったから、この曲になったと思います」


renaも頷いた。


「言葉で説明するより、音で分かったことがありました」


shihoが続ける。


「お互いの場所に、無理に引っ張らないこと」


natsuが言う。


「真ん中じゃなくて、別の小道」


wataが小さく頷いた。


「別の小道。これ、かなり大事でした」


mcRCは画面に向き直る。


「だから、今日の曲は、いつものReverse Crownとも、いつものReShiNaとも少し違います」


でも、それ以上は言わなかった。


曲の意味を先に説明しない。


どういう歌なのか。


何を回収するのか。


どこで刺さるのか。


それは、聴く人が曲の中で気づけばいい。


mcRCは、静かに言った。


「では、聴いてください」


一拍。


「TSUBOMI feat. ReShiNa」


画面の中で、配置が変わった。


Reverse Crown三人が、マイクの前に立つ。


ReShiNa三人は、その横ではなく、少し斜め後ろに入った。


主役を奪わない位置。


でも、背景ではない位置。


renaはアコギを抱える。


shihoはピアノの前に座り、すぐ横にバスクラリネットを置く。


natsuはフルートを手に取り、ローホイッスルを足元に置いた。


ビートが始まる。


速すぎない。


でも、沈んでいない。


明るい。


けれど、軽すぎない。


リバクルーが最初に反応した。


――え、明るい?


――この入り予想外


――バラードじゃない?


――でも泣けそう


――甘酸っぱい音してる


ReShiNa側も驚いていた。


――ビートある


――でもReShiNaの音もいる


――アコギ合う


――ピアノかわいい


――フルート入ったら絶対やばい


mcRCが、最初の景色を置く。


十代の廊下。


午後の光。


チャイムの音。


教科書の端。


目で追ってしまう笑顔。


歌いながら、mcRCは少しだけ目を細めた。


目の前のカメラではなく、どこか遠い廊下を見ているみたいだった。


横でrenaのアコギが、春の光みたいに鳴る。


強く主張しない。


でも、mcRCの置く景色の端を、そっと明るくしていた。


≫ 十代の廊下 午後の light

≫ チャイムの音に混ざる your smile

≫ 教科書の端 目で追った line

≫ なんで気になる まだ I don’t know why


コメント欄が、少しずつ変わっていく。


――うわ青春


――リバクラが恋愛?


――珍しい


――でも景色うまい


――廊下見える


――これ甘酸っぱいやつだ


mcRCは、笑いすぎない。


懐かしむように。


でも、茶化さないように。


「好きだった」と言う前の、あの名前のない胸の温度を、ラップの中に置いていく。


≫ 君が笑った それだけで

≫ 胸の奥だけ 少しあったかくて

≫ これが恋かも たぶん maybe

≫ 本で読んだような crazy feeling


その時、画面の端でnatsuが少しだけ笑った。


crazy feeling、という言葉に反応したのではない。


「これが恋かも」と言い切れないまま進んでいく、その不器用さに、ほんの少し目元が緩んだ。


ReShiNa勢のコメントがそれを拾う。


――natsu笑った?


――今ちょっと笑ったよね


――かわいい


――リバクラの青春に反応してる


――やめて、好きになる


一方、リバクルー側では別の反応が出る。


――ReShiNaの人たち、表情やわらかい


――後ろで聴いてるのいい


――なんか見守ってる


――renaのアコギ、春すぎる


Hookに入る。


三人の声が重なる。


≫ We were buds, we were young

≫ 咲いたと思ってた love

≫ でもまだ名前も知らない

≫ 青いままの two hearts

≫ We were buds, we were young

≫ 花じゃない つぼみだった

≫ 好きって言えたあの日だけで

≫ 世界は少し光った


その瞬間、コメント欄が一段跳ねた。


――うわ


――これ好き


――花じゃない、つぼみだった


――甘酸っぱすぎる


――でも明るいのずるい


――泣かせに来てないのに泣く


ReShiNa側も、驚きが混ざっていた。


――ReShiNaがこういう曲に入るの新鮮


――ラップなのにやわらかい


――これなら聴ける


――てか好き


――TSUBOMIいい


そして、renaとshihoの女性コーラスが入る。


声は前に出すぎない。


でも、曲の空気を変える。


renaは目を伏せながら歌った。


shihoは少し低い位置から、その声を支える。


≫ つぼみのまま

≫ 風に揺れてた

≫ 忘れたんじゃない

≫ 咲けなかっただけ


リバクルーのコメントが止まりかけた。


――ここReShiNaか


――うわ綺麗


――咲けなかっただけ


――これ責めてないのがいい


――忘れたんじゃない、やばい


wataのVerseに入る。


駅前。


何度目かのデート。


映画帰り。


自販機の明かり。


自然な沈黙。


けれど、未来の話が少しずつ二人を遠ざける。


wataは、いつものように言葉を転がす。


でも、今日は技巧を見せびらかさない。


距離が近いようで遠いこと。


好きはあるのに、先が見えないこと。


咲き方を知らないまま、時間だけが進んでいくこと。


≫ 何度目かの date 慣れた station

≫ 気張らない silence それが relation

≫ 映画 帰り道 vending light

≫ 並んで歩く slow good night


歌いながら、wataは少しだけshihoの方を見た。


shihoはピアノの鍵盤に手を置いたまま、目線だけで頷く。


その頷きは、合図だった。


ここから少し影を足す。


shihoの低い音が入る。


wataの軽さに、奥行きが生まれる。


コメント欄が反応する。


――wataの音遊びやわらかい


――今日いつもより優しい


――shihoのピアノ入ると急に奥行き出る


――駅前の夜になった


――自販機の明かり見える


wataが少しだけ笑う。


でも、すぐに表情を戻す。


この曲は、笑って終わるだけではない。


≫ でも life は別の lane

≫ 勉強 部活 習い事 pain

≫ 就活 面談 未来の name

≫ 同じ空でも違う frame


そこへ、shihoの低い声が返る。


≫ 近くにいると

≫ 言えなかったね

≫ 離れることを

≫ 怖がってたね


コメント欄に、短い言葉が増えた。


――あー


――ある


――わかる


――これ昔のやつ思い出す


――刺すんじゃなくて染みる


――ReShiNaの返しが優しい


――低い声よすぎる


natsuのフルートが入る。


高く、明るい。


けれど、ただ嬉しい音ではない。


少し遠い。


風に乗って、昔の駅前まで戻るような音。


低いところに沈むのではなく、思い出の上をすっと流れる風。


mcRCが、その音に少しだけ目を上げる。


wataも、言葉の最後でほんの少し口元を緩める。


EGUIは黙っている。


でも、その横顔に、次のVerseへ受け取る準備が見えた。


ReShiNa勢が反応した。


――natsuフルート!


――今日ローホイッスルじゃなくてフルート多め?


――風が明るい


――でも切ない


――このフルートは前向きな風だ


リバクルーも反応する。


――フルートで青春戻るのやばい


――風が吹いた


――これがnatsuさん?


――名前覚えた


――風の人だ


EGUIのVerseに入る。


駅のホーム。


離れ離れになる日。


「連絡するね」と笑った二人。


最初は毎晩話した。


少しずつ短くなった。


返事の間が長くなった。


嫌いになったわけじゃない。


誰かを責める話じゃない。


ただ毎日の中で、二人の場所が薄くなった。


その声が、まっすぐ入ってきた。


≫ 駅のホームで手を振った

≫ 離れ離れになる日だった

≫ 寂しいねって言い合った

≫ 連絡するねって笑った


EGUIは、カメラを見ない。


どこかにいる「あの頃の誰か」に向けて言っているようだった。


言葉は飾らない。


でも、逃げない。


後ろでshihoのピアノが、少しだけ低く支える。


renaのアコギは、強く鳴らさず、隣にいる。


natsuのフルートは入らない。


入らないことで、ホームの空白が際立つ。


コメント欄の速度が落ちる。


――EGUIきた


――これは効く


――連絡するね、が痛い


――誰も悪くないやつ


――一番苦しいやつ


――フルート入らないの逆に寂しい


そしてEGUIが、最後に置く。


≫ 別れようとは言ってない

≫ でも付き合ってるとも言えない

≫ これって恋なの

≫ もう恋じゃないの

≫ わからなかった

≫ だって俺たちは

≫ まだ花じゃなくて

≫ つぼみだった


その瞬間、曲の意味が少し変わった。


これは、失恋の歌ではない。


終わった恋を美化する歌でもない。


あの時、まだ咲けなかったものを、いま大人になって抱きしめる歌だった。


コメント欄が、その変化に気づき始める。


――あ、そういうことか


――咲かなかった恋か


――でも枯れたって言ってない


――つぼみだった、がここで効くのか


――誰も責めてないのすごい


――大人になってから分かるやつ


Bridgeで、三人の声が順番に並ぶ。


あの廊下の光。


あの駅前の夜。


あの最後の沈黙。


全部まだ青かった。


全部まだ早かった。


咲いたと思った恋は、つぼみのまま風に舞った。


そして、ReShiNaの声が、その後ろに重なる。


≫ つぼみのまま

≫ つぼみのまま

≫ 忘れたんじゃない

≫ 咲けなかっただけ


ここで、natsuのフルートが上へ抜ける。


明るいのに、少しだけ泣いている。


低く沈む風ではない。


昔へ戻る風でもない。


いまの自分が、昔の自分へそっと手を振るような風だった。


コメント欄は、もう驚きと感情で混ざっていた。


――これ新しい


――リバクラでこういう曲やるんだ


――でもちゃんとリバクラ


――ReShiNaも主役すぎないのに必要


――甘酸っぱいのに前向き


――泣くけど楽しい


――未来が見える曲だ


――刺されるんじゃなくて、ほどける


Final Verse。


いつしか俺は別の人と。


君もきっと別の場所で。


指輪をして笑っていた。


それでいいと思えたんだ。


あの恋は戻らない。


でも嘘にはならない。


今の幸せを壊さずに。


昔の青さを抱いている。


≫ あの恋は戻らない

≫ でも嘘にはならない

≫ 今の幸せを壊さずに

≫ 昔の青さを抱いている


その言葉に、ReShiNa側のコメントも反応した。


――優しい


――今の幸せを壊さないのいい


――過去を美化しすぎてない


――でも否定もしない


――大人の青春じゃん


――ReShiNaがこの曲にいる意味わかってきた


最後のHookは、明るかった。


ちゃんと明るかった。


泣かせるための暗さではない。


昔の青さを、いまの光で見返す明るさだった。


≫ We were buds, we were young

≫ Goodbye じゃなく memory

≫ 咲けなかった恋だけど

≫ 枯れたわけじゃない story

≫ We were buds, we were young

≫ 花じゃない つぼみだった

≫ それぞれの春の中で

≫ ちゃんと今を生きていた


natsuのフルートが最後に上がる。


renaのアコギが優しく締める。


shihoのピアノとバスクラリネットが、低くあたたかく支える。


音が消える。


少しの沈黙。


それから、コメント欄が一気に流れた。


――最高


――なにこれ


――リバクラ新境地


――ReShiNaありがとう


――甘酸っぱい!


――切ないのに楽しい


――これ好きすぎる


――TSUBOMIめっちゃいい


――咲けなかった恋だけど枯れたわけじゃない、やばい


――大人になってから刺さる青春


――刺すじゃなくて包む曲


――これ音源ほしい


――早く出して


――両方の良さ出てる


――ラップ苦手だったけどこれは好き


――ReShiNa勢だけど泣いた


――リバクルーだけどReShiNa好きになった


画面の中で、wataが少しだけ息を吐いた。


「コメント、速っ」


mcRCが笑う。


「ありがたいですね」


EGUIは、画面を見ながら静かに頷いた。


「ちゃんと届いてる」


ReShiNa三人も、コメントを見ていた。


renaの目元が少し赤くなる。


shihoは、静かに微笑んでいた。


natsuは、流れていくコメントを目で追いながら、小さく言った。


「つぼみ、見えてる」


その言葉に、wataが反応した。


「見えてますね」


natsuは頷く。


「咲けって言われてないのに」


mcRCが、少しだけ真面目な顔になる。


「そこ、大事にしました」


ここで、コメントがまた動く。


――そこ聞きたい


――咲けって言わないのいい


――説教じゃないんよな


――応援ソングなのに押しつけない


mcRCは、言いすぎないように、少し言葉を選んだ。


「咲かなかったから失敗、みたいにはしたくなかったんです」


EGUIが続ける。


「過去を引きずる曲じゃなくて、過去を嘘にしない曲にしたかった」


wataが少し笑った。


「あと、普通に甘酸っぱい曲をやりたかったんです」


コメント欄が反応する。


――言ったw


――甘酸っぱい大事


――リバクラの甘酸っぱい曲、あり


――ReShiNa入ると透明感えぐい


ここで、wataがReShiNaの方を見た。


「ということで、せっかくなので、ここから少しReShiNaの皆さんにも話してもらいたいんですけど」


ReShiNa三人が、少しだけ固まった。


renaは笑ったが、目が少し泳いだ。


shihoは静かに背筋を伸ばす。


natsuは、フルートを持ったまま、ほんの少し首を傾げた。


コメント欄が反応する。


――きた


――ReShiNaトーク!


――聞きたい


――無理しない範囲で


――もっと知りたい


wataは、コメントを見ながら言った。


「ほら。みんな、もっとReShiNaのこと知りたいんちゃいます?」


コメント欄が一気に流れる。


――知りたい!


――聞きたい!


――でも無理しないで!


――natsuさんのフルートの話聞きたい


――shihoさんの低音やばかった


――renaさんのアコギと声、春だった


その瞬間、ReShiNa勢のコメントが妙な方向に動いた。


――ああああ引き出さんといて


――それ俺らだけが知ってた良さなのに


――natsuの変な言葉が見つかってしまう


――shihoさんの低音の良さがバレる


――renaちゃんの透明感が全国に


――うれしいけど悔しい


リバクルー側も笑い始める。


――ReShiNa勢が嫉妬してるw


――わかる、その気持ち


――リバクラもそうやった


――うちらの三人が見つかってしまう感


さらに、別のコメントも混ざる。


――wata、ReShiNaに優しすぎない?


――mcRCの目線やさしいんだけど?


――EGUIがめっちゃ丁寧に見てる


――ちょっと嫉妬するw


――女子勢ざわついてて草


――でもこれはしゃーない


――優しくしてるリバクラ、好きです


wataがコメントを見て笑った。


「なんか両方から嫉妬が来てます」


mcRCも笑う。


「平和な範囲でお願いします」


EGUIが静かに言う。


「笑える範囲で」


natsuが、コメントを見ながら言った。


「嫉妬の風」


wataが即座に反応する。


「それは何色ですか」


natsuは少し考えた。


「ちょっと緑」


コメント欄が爆発した。


――緑www


――嫉妬色w


――natsuさん天才か


――やめて好きになる


――ReShiNa勢「引き出すな」案件


――うわ、バレた


shihoが、少し困ったように笑う。


「こういうところを、あまり引き出さないでください」


wataが笑う。


「すみません。でも、今のでかなり好きになった人いますよ」


コメント欄が流れる。


――はい


――なりました


――もう好き


――風の人、好き


――緑の風w


natsuは、少しだけ不思議そうにした。


「風、言っただけ」


mcRCが言う。


「それがいいんだと思います」


ここで、wataはshihoへ話を振った。


「shihoさん、今回の曲の低音って、かなりやわらかかったですよね。いつもの深い森感はあるけど、重くしすぎないというか」


shihoは、少しだけ目を伏せた。


「TSUBOMIは、沈める曲ではないと思ったので」


コメント欄が少し静かになる。


shihoは続ける。


「過去を見る曲だけど、そこに閉じ込める曲ではない。だから低音は、足場にしたかったです」


EGUIが頷いた。


「足場」


shihoは、静かに言った。


「はい。戻れなくても、立てる場所」


コメントが流れる。


――足場の低音


――表現すご


――shihoさん深い


――森だけど沼じゃないんだ


――立てる場所、いい


wataが小さく唸った。


「それ、めちゃくちゃいいですね」


リバクルー側が反応する。


――wataが普通にファンの顔してる


――わかる


――今のは刺さる


次に、mcRCがrenaを見る。


「renaさんのアコギは、ずっと春でした」


renaが少し驚く。


「春」


mcRCは頷いた。


「はい。明るいのに、眩しすぎない春。廊下にも、駅前にも、最後の記憶にも、ずっと柔らかく光を置いてくれていた感じがしました」


renaは、少し目を伏せた。


嬉しそうだった。


けれど、照れもある。


「TSUBOMIって言葉を聞いた時に、最初に浮かんだのが、まだ咲いていない春だったので」


mcRCは、静かに聞いていた。


renaは続ける。


「咲いていないけど、終わっていない。だから、明るくしすぎないように。でも、冷たくしないように弾きました」


コメントが流れる。


――renaちゃん……


――春のアコギ


――冷たくしない、いい


――ReShiNaの言葉選び好き


――リバクラ、引き出すのうまいな


ReShiNa勢がまた騒ぐ。


――だから引き出さんといて!


――俺らのrena語録が!


――でも嬉しい!


――複雑!


wataが笑う。


「ReShiNa勢の情緒が忙しい」


natsuがすぐ言った。


「情緒、走ってる」


コメント欄がまた笑う。


――走ってるwww


――止めてw


――ほんまそれ


――今日natsuさん強い


EGUIは、最後にnatsuへ向いた。


「natsuさんのフルートは、今回は前に行く風でしたね」


natsuは、少しだけフルートを見る。


「うん」


「ローホイッスルじゃなくて、フルートを選んだ理由ってありますか」


natsuは、すぐには答えなかった。


言葉を探すというより、風向きを確かめるように少し黙った。


「低い風だと、戻っちゃう」


コメント欄が静かになる。


natsuは続けた。


「今日は、戻る曲じゃなかった」


フルートの管を、指でそっと撫でる。


「昔を見るけど、そこに住まない」


EGUIが、深く頷いた。


「だから上に抜けた」


natsuは頷く。


「うん。少し、上」


コメント欄が流れる。


――昔を見るけど、そこに住まない


――名言


――natsu語録やばい


――フルートの意味わかった


――戻る曲じゃない、だからフルート


――鳥肌


ReShiNa勢がまた叫ぶ。


――ああああnatsuが見つかる


――だから言ったのに


――この人こういうこと言うんです


――うちらだけが知ってたのに


リバクルー側も笑う。


――もう遅い


――見つけました


――風の人、最高です


――ReShiNa沼の入口ここ?


wataが言う。


「入口、だいぶ開いてますね」


shihoが少し笑う。


「閉めます?」


mcRCが即答する。


「閉めないでください」


コメント欄がまた跳ねる。


――閉めないでw


――開けてて


――入口になる音じゃん


――あ、そこつながるのか?


wataが、コメントを見て少しだけ目を細める。


「今の気づいた人、鋭いですね」


しかし、それ以上は言わなかった。


全部を説明しない。


気づいた人が、少し嬉しくなるくらいでいい。


そのあとも、少しだけ話した。


曲作りの細かい秘密ではなく、空気の話。


最初に会った時、かなり緊張していたこと。


リバクラ側が、自己紹介として一曲聴かせたこと。


ReShiNa側も、一曲で返したこと。


その時点で、お互いの音の距離が少し分かったこと。


コメント欄は、また騒いだ。


――その自己紹介曲もいつか聴きたい


――曲で自己紹介、強すぎる


――何それ映画?


――公開して


――全部出して


wataは笑った。


「みんな、すぐ全部ほしがる」


EGUIが言う。


「分かるけどな」


mcRCも頷いた。


「順番にいきましょう」


natsuがコメントを見て言った。


「順番、大事」


wataが言う。


「natsuさんが言うと、急に説得力がある」


shihoが横から言う。


「いつも順番通りではないですけどね」


natsuは、少しだけ考えた。


「風は、順番を守らない時もある」


renaが笑った。


「ほら」


コメント欄がまた笑った。


――ほらw


――ReShiNaかわいい


――リバクラが引き出してる


――これは好きになる


――ReShiNa勢の気持ち分かった


配信の空気は、最初の緊張から完全に変わっていた。


まだ涙はある。


でも、重くない。


TSUBOMIは、刺して泣かせる曲ではなかった。


考えるべきテーマはある。


でも、それ以上に、甘酸っぱくて、切なくて、少し楽しい。


先が見える曲だった。


あの頃の自分を責めるのではなく。


今の自分を壊すのでもなく。


昔の青さを抱いたまま、ちゃんと今を生きていい。


その感覚が、画面越しにも伝わっていた。


コメント欄に、同じような言葉が何度も流れた。


――これ聴いたら昔の恋思い出す


――でも嫌な気持ちにならない


――ちゃんと今に戻ってこられる


――昔の自分も悪くなかったと思える


――やさしい曲


――楽しいのに泣ける


――リピートしたい


配信の最後に、renaが言った。


「今日、聴いてくださってありがとうございました」


shihoが続ける。


「まだ、全部が戻ったわけではありません」


natsuが言う。


「でも、音は戻ってきてる」


mcRCが頷く。


「俺らも、今日ここで一緒に披露できてよかったです」


wataが笑う。


「音源、出せるようにします」


コメント欄が跳ねる。


――待ってます!


――絶対出して


――TSUBOMI配信して


――自己紹介曲も!


――全部ください


EGUIが少し笑った。


「全部は順番に」


wataが頷く。


「そう、順番に。急に全部出すと、俺らも皆さんも情緒が終わる」


コメントが笑いで流れる。


――情緒終わってる


――もう終わってる


――責任取って音源出して


natsuが、画面のコメントを見て言った。


「情緒、忙しい」


wataが笑う。


「ほんまそれです」


最後に、六人が頭を下げた。


配信は、静かに終わった。


画面が暗くなる。


けれど、そのあとも、コメント欄はしばらく止まらなかった。


TSUBOMI。


Reverse Crown。


ReShiNa。


水の声。


森の低音。


風のフルート。


曲で自己紹介。


別の小道。


いくつもの言葉が、同じ画面の中を流れていった。


そして、その配信は、思わぬところにも届いた。


配信の切り抜きが広がる中で、過去の非公式音源についても、改めて話題になった。


ただし、今回は以前とは流れが違った。


面白がって掘る空気ではなかった。


「あれは聴いていいものだったのか」


「本人たちが出したものではないなら、広げるべきじゃない」


「練習室での無断録音なら、完全にアウトでは」


そういう声が、少しずつ増えていった。


百合根を無断で録った男の名前は、界隈の中で自然に共有されていった。


晒し上げというより、確認と線引きだった。


どこのリハーサル室で、誰が、どういう状況で録ったのか。


本人たちの許可はあったのか。


そこが、関係者の間で問題になった。


ライブハウス側も、リハーサル室側も、軽くは扱わなかった。


無断録音。


無断共有。


本人の許可がない音源の拡散。


それは、音楽の現場で越えてはいけない線だった。


結果として、その男は複数のライブハウスとリハーサル室から出入りを断られることになった。


仲間内で面白がっていた者たちも、距離を置かれた。


「軽いノリだった」


「仲間内だけのつもりだった」


そういう言い訳は、ほとんど通らなかった。


音は、人のものだ。


勝手に掘っていいものではない。


それが、今回の配信をきっかけに、はっきり線になった。


ただ、一人だけ、別の動きがあった。


あの日、録音を止めようとしていた女性ボーカル。


彼女は、配信のあと、ReShiNaにメールを送った。


長いメールだった。


自分が止めきれなかったこと。


その場にいたのに守れなかったこと。


ずっと気になっていたこと。


そして、今回の配信を見て、どうしても謝りたくなったこと。


ReShiNa三人は、そのメールを読んだ。


彼女が一生懸命止めていた姿は、周りにも見られていた。


だから、彼女が責められることはなかった。


renaは、メールを閉じて、静かに言った。


「この人は、止めようとしてくれてた」


shihoが頷く。


「うん」


natsuは、少しだけ考えてから言った。


「風、逆に吹いてた人」


renaは、目を伏せた。


「責めないでおこう」


shihoも頷いた。


「責める相手を間違えたくない」


その言葉に、natsuも頷いた。


「うん」


配信は終わった。


でも、そこで終わりではなかった。


TSUBOMIは、ただの新曲披露ではなかった。


ReShiNaが音楽へ戻るための一歩であり。


Reverse Crownが新しい曲の形へ踏み出す一歩であり。


そして、誰かの音を雑に扱ってはいけないという線を、静かに引き直す出来事にもなった。


甘酸っぱい曲だった。


切ない曲だった。


楽しい曲だった。


でも、その奥には、ちゃんと痛みもあった。


だからこそ、届いた。


そして、画面の外で、誰かが小さく呟いた。


「つぼみ、咲きそうだな」


それは、まだ満開ではない。


でも、たしかに。


何かが少しずつ、開き始めていた。

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