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ラップ付き小説 ReversCrown 元気ないやつこっちおいで  作者: egubi
reshina編

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4-4-10 必要だった音



配信が終わったあと、Reverse Crownの三人も、すぐには動けなかった。


スタジオの照明は、まだ落としていない。


カメラのランプは消えている。


配信画面はもう暗い。


それなのに、部屋の中にはまだ、TSUBOMIの余韻が残っていた。


マイク三本。


アコギを置いていた場所。


shihoが座っていたピアノの椅子。


natsuのフルートスタンド。


そこに、さっきまで六人がいた。


今は三人だけなのに、音の跡だけがまだ残っている。


wataは、椅子に座ったまま、スマホを見ていた。


コメント欄。


スレ。


切り抜き。


通知。


全部が速すぎて、目で追いきれない。


けれど、ある言葉だけは、何度も何度も目に入った。


必要だった。


wataは、スマホを下ろした。


「……いや、これ、すごいな」


mcRCは、マイクケーブルを巻こうとしていた手を止める。


「何が?」


wataは、画面を見せるでもなく、ただ言った。


「必要だった、って」


EGUIが静かに顔を上げた。


wataは続ける。


「ReShiNaの音が必要だった、ってめっちゃ書かれてる」


mcRCは、少しだけ目を伏せた。


「うん」


その声は短かった。


でも、軽くなかった。


必要だった。


その言葉は、Reverse Crownにとっても特別だった。


うまい。


かっこいい。


綺麗。


泣いた。


そう言われるのも、もちろん嬉しい。


でも、必要だった、は違う。


その場にいなければ成立しなかった。


あなたの音がなければ、この曲ではなかった。


それは、ただの評価ではなく、存在への言葉だった。


EGUIは、腕を組んだまま言った。


「届いてよかったな」


wataは頷いた。


「ほんまに」


少しだけ、黙る。


それから、wataは天井を見た。


「でも、怖かったわ」


mcRCが見る。


「配信?」


「うん」


wataは、スマホを膝の上に置いた。


「俺らがReShiNaを紹介する形になったやん。そりゃ共同配信やし、向こうの公式でも流してるし、ちゃんとReShiNa本人たちが話してくれた。でも、それでも怖かった」


EGUIは、何も言わなかった。


wataは続ける。


「俺らが引き出してるつもりで、晒してたらどうしようって」


mcRCは、ケーブルをゆっくり巻き直した。


「それは、俺も思ってた」


wataが見る。


mcRCは、手元を見たまま言った。


「ReShiNaの三人、今日かなり前に出てくれた。でも、前に出たからって、こっちが喜んで使いすぎたら違う」


EGUIが頷く。


「消費になったら終わりやな」


その一言で、部屋の空気が少し締まった。


消費。


それは、三人が一番避けたかったものだった。


ReShiNaが戻ってきた。


笑った。


喋った。


natsu語録が出た。


ファンが増えた。


それは嬉しい。


でも、それを面白がって、次も出そう、もっと喋らせよう、もっと引き出そう、となった瞬間、たぶん何かが壊れる。


wataは、口元を押さえた。


「今日、スレでさ。ReShiNa勢が『引き出さんといて』って言ってたやん」


mcRCは小さく笑った。


「あれ、笑えるけど、半分本気やと思う」


「やんな」


wataは、スマホを見た。


「俺らも分かるもんな。自分らだけが知ってた良さが外に出る時の、あの変な寂しさ」


EGUIが言う。


「嬉しいけど、寂しい」


「そう」


wataは頷く。


「緑の風」


mcRCが吹き出した。


「便利やな、それ」


EGUIも、少しだけ口元を緩める。


「便利すぎる」


wataは笑った。


でも、その笑いの中に、まだ少し緊張が残っていた。


「でも、今日のnatsuさん、だいぶ見つかったで」


mcRCは頷いた。


「見つかったな」


EGUIも言う。


「ただ、見つかり方は悪くなかったと思う」


wataがEGUIを見る。


EGUIは続けた。


「変な切り抜き方じゃなくて、言葉の奥をちゃんと面白がってくれてた。『嫉妬の風』で笑って、『昔を見るけど、そこに住まない』で黙る。そういう受け取られ方やった」


mcRCは、ゆっくり頷いた。


「そうやな」


少し間が空いた。


三人とも、それぞれ違う場所を見ていた。


でも、考えていることは近かった。


今日の配信は、成功した。


それは間違いない。


数字も動いた。


コメントも伸びた。


切り抜きも出た。


ReShiNaの名前も広がった。


Reverse Crownの新しい曲の形も届いた。


でも、それだけではない。


今日、三人は、ReShiNaの音が外に届く瞬間を見た。


そして、それを自分たちが少し手伝えた。


それが、思っていたより深く効いていた。


mcRCは、ケーブルをまとめ終えると、椅子に座った。


「俺、今日ちょっと危なかった」


wataが顔を上げる。


「何が?」


mcRCは、少しだけ笑った。


「歌ってる途中」


EGUIが見る。


mcRCは続ける。


「TSUBOMIって、俺らが作った曲やけど、ReShiNaが入った瞬間、自分の曲じゃない感じがした」


wataが、少しだけ目を細める。


「分かる」


「自分らの曲じゃないっていうか、俺らだけの曲じゃなくなった。ちゃんと外に開いた感じ」


mcRCは、手を組んだ。


「renaさんのアコギが入った時、景色の光が変わった。俺が廊下とか午後の光を置いてるつもりやったのに、アコギが入ったら、その光が柔らかくなった」


wataは黙って聞いていた。


mcRCは、少し照れたように笑う。


「俺、景色作る役やろ」


EGUIが頷く。


「うん」


「でも今日、思った。景色って、一人で全部作らんでいいんやなって」


wataが、静かに言った。


「ReShiNaが照明入れてくれた感じ?」


mcRCは、少し考えて頷いた。


「そう。俺が場所を置いたら、renaさんが光を置いてくれた」


EGUIは言った。


「それ、かなり大きいな」


「うん」


mcRCは、少しだけ目を伏せた。


「俺、たぶん今まで、見せたい景色を自分で全部描こうとしてた。でも、余白を置いたら、誰かの音が入る。今日、それを初めてちゃんと見た気がする」


部屋が静かになった。


wataは、スマホを机に置いた。


「俺は、shihoさんの低音にやられた」


EGUIが少し笑う。


「それ、配信でも言ってたな」


「まだ言う」


wataは、真面目な顔で言った。


「ほんまにやられたんよ。俺、言葉を走らせる癖あるやん」


mcRCが即答する。


「ある」


EGUIも頷く。


「ある」


wataは二人を見る。


「もうちょっと迷えよ」


mcRCは笑う。


「いや、あるやろ」


「あるけど」


wataも笑った。


でも、すぐに真面目な顔に戻る。


「今日、shihoさんの低音が入ったら、俺の言葉が走っても落ちる場所があった。駅前とか、自販機とか、未来の話とか、言葉が跳ねてても、下に足場がある」


EGUIが静かに頷く。


「浮かなくなる」


「そう」


wataは、指で机を軽く叩いた。


「俺、今まで自分のフロウで床も作ろうとしてたんかもしれん。でも、床を作ってくれる音があるなら、俺はもっと跳ねられる」


mcRCが見る。


「それ、めっちゃ大事やな」


wataは頷いた。


「うん。めっちゃ大事」


少しだけ間が空く。


wataは、苦笑した。


「あと、natsuさんのフルート」


EGUIが言う。


「来たな」


wataは、少し天井を見た。


「いや、あれはあかん」


mcRCが笑う。


「あかん?」


「あかん。俺の中の昔の駅前が全部風にさらわれた」


EGUIが、少しだけ笑った。


wataは続ける。


「フルートって、綺麗な音やと思ってたんよ。普通に。でも今日のは、綺麗とかじゃなくて、時間の流れ方が変わった」


mcRCが真面目に頷く。


「分かる」


「昔に戻るんじゃない。思い出の中に入るんでもない。ただ、通り過ぎる。あ、俺、あそこにいたなって分かったあと、今の場所に戻ってこられる」


EGUIは、低く言った。


「昔を見るけど、そこに住まない」


wataは、EGUIを指差した。


「それ」


mcRCが笑う。


「natsuさんの言葉、便利やな」


EGUIは、少しだけ目を伏せた。


「でも、あれはほんまにそうやと思う」


wataは、頷いた。


「うん」


また、沈黙が落ちた。


今度の沈黙は、疲れではなかった。


それぞれが、自分の中に入ってきた音を確認している時間だった。


mcRCは景色の余白を見た。


wataは言葉が乗る足場を知った。


EGUIは、音が人の受け取り方を変えることを見た。


EGUIは、しばらく黙ったあと、低い声で言った。


「俺は、今日、自分の言葉が少し柔らかくなった気がした」


wataが見る。


「EGUIが?」


EGUIは頷く。


「うん」


mcRCも黙って聞く。


EGUIは、机の上の水を見ながら言った。


「俺は、言い切るのが役目やと思ってた。真っ直ぐ言う。逃げずに言う。それは今も変わらん」


「うん」


「でも、今日ReShiNaが入ったら、言い切った言葉の周りに余韻ができた」


mcRCが、ゆっくり頷いた。


EGUIは続ける。


「俺が『まだ花じゃなくて、つぼみだった』って言った時、後ろにReShiNaの声があった。あれで、言葉が責める方向に行かずに済んだ気がする」


wataは、少しだけ息を吐いた。


「たしかに」


「俺ひとりで言ったら、もっと断定が強くなったかもしれん。でも、あの音があると、言い切っても受け止める場所がある」


EGUIは、手を組んだ。


「強い言葉には、受ける音がいるんやなって思った」


その言葉に、三人とも黙った。


今日のTSUBOMIは、甘酸っぱい曲だった。


切ない曲だった。


楽しい曲だった。


でも、三人にとっては、それだけではなかった。


自分たちの表現が、誰かの音によって変わることを知った曲でもあった。


wataは、ふっと笑った。


「なんか、俺ら、普通に影響されてるな」


mcRCも笑った。


「そりゃされるやろ」


EGUIは、真顔で言った。


「あれだけの音が横にいたら、される」


wataは、少しだけ照れたように鼻をすすった。


「くやしいけど、めっちゃ楽しかった」


mcRCは頷いた。


「楽しかったな」


EGUIも、短く言った。


「楽しかった」


その言葉が、三人の間に置かれた。


楽しかった。


ここ最近、リバクラはずっと必死だった。


オーダーを受ける。


BEEFとぶつかる。


ライブを作る。


人を巻き込む。


守る。


考える。


気を配る。


全部大事だった。


でも、今日のTSUBOMIには、久しぶりに少し浮ついた楽しさがあった。


新しい音に触れる楽しさ。


自分たちの曲が、自分たちだけでは行けない場所へ行く楽しさ。


その楽しさに、三人とも少しだけぽーっとしていた。


wataが、ぼそっと言った。


「やばいな」


mcRCが笑う。


「語彙」


「ない」


EGUIが言う。


「今日はそれでいいやろ」


wataは、少し驚いた顔をしてから笑った。


「EGUIが許可した」


mcRCも笑う。


「珍しい」


EGUIは、表情を変えずに言う。


「言葉が追いつかん時は、短くていい」


wataが、すぐに反応した。


「それ、natsuさんっぽい」


EGUIは少し黙った。


それから、ほんの少しだけ笑った。


「影響されてるな」


三人は笑った。


小さな笑いだった。


でも、疲れた身体にちょうどいい笑いだった。


wataは、またスマホを見た。


「合同スレ、伸びてる」


mcRCが覗き込む。


「どんな感じ?」


wataは、読み上げた。


「『リバクラは人を見る音楽で、ReShiNaは景色を見る音楽。でもTSUBOMIは、人も景色も見てた』」


mcRCは、少し止まった。


EGUIも顔を上げる。


wataは、スマホを下ろした。


「これ、すごない?」


mcRCは、静かに言った。


「すごい」


EGUIは頷いた。


「ちゃんと見てる人は、見てるな」


mcRCは、少しだけ息を吐いた。


「人も景色も見てた、か」


その言葉は、mcRCに深く残った。


Reverse Crownは、人を見る。


ReShiNaは、景色を見る。


でもTSUBOMIは、その両方を見ていた。


それは、まさに今日、自分たちが手に入れたものだった。


wataは、スマホを机に置いて、背もたれに体を預けた。


「ReShiNaとやれてよかったな」


軽い言い方だった。


でも、声は軽くなかった。


mcRCは、すぐには返事をしなかった。


少しだけ目を伏せる。


「うん」


EGUIも言った。


「よかった」


wataは、天井を見たまま続けた。


「最初、俺らが声かけてよかったんかなって、正直思ってた。勝手に踏み込んでないかとか、あの人らの大事なものに触りすぎてないかとか」


mcRCが頷く。


「俺も思ってた」


「でも今日、少しだけ思った」


wataは、ゆっくり息を吐いた。


「出会えてよかったって」


その言葉で、部屋が少し静かになった。


出会えてよかった。


まだ、曲名ではない。


ただの感想だった。


でも、その言葉は、三人の中にそっと残った。


mcRCは、指先で机を軽く叩いた。


「それ、軽く言ったら薄くなるやつやな」


wataが見る。


mcRCは続ける。


「出会えてよかった、って、普通に言えばありふれてる。でも、今日の感じで言うなら、かなり重い」


EGUIが頷く。


「ただ会えて嬉しい、だけじゃない」


wataも頷いた。


「うん」


三人は、しばらく黙っていた。


ReShiNaと出会えてよかった。


その言葉の中には、いくつもの意味があった。


あのストリートで足を止めてよかった。


あの配信で言葉を拾えてよかった。


勝手に取らなくてよかった。


一緒に曲を作れてよかった。


TSUBOMIを鳴らせてよかった。


そして、ReShiNaの音によって、自分たちの音も少し変われてよかった。


wataは、小さく笑った。


「まだ言うには早いか」


mcRCは、少し考えた。


「早いというより、ちゃんと曲にするなら、もっと受け取ってからやな」


EGUIが言う。


「今は、思っただけでいい」


wataは頷いた。


「そうやな」


その時、mcRCのスマホが震えた。


通知。


リバックラインからだった。


短いメッセージ。


数字、伸びています。

ただし、ReShiNa関連の扱いは慎重に。

切り抜き範囲も一度整理した方がいいです。


mcRCは、それを見て、少し笑った。


「さすが」


wataが見る。


「リバックライン?」


「うん。数字伸びてるけど、ReShiNaの扱い慎重にって」


EGUIは頷いた。


「正しい」


wataも頷く。


「正しすぎる」


mcRCは、スマホを置いた。


「やっぱり、ここ大事やな」


EGUIが言う。


「次に何かやるとしても、ReShiNaがやりたいと思った時だけやな」


wataも頷いた。


「こっちが人気出たからって呼ぶのは違う」


mcRCは、深く頷いた。


「うん」


その確認は、三人に必要だった。


今日の成功を喜ぶ。


でも、成功に酔って、相手の場所を荒らさない。


見つけることと、引っ張り出すことは違う。


広がることと、消費されることは違う。


それを間違えたら、TSUBOMIで咲きかけたものを、こちらの手で折ってしまう。


EGUIは、静かに言った。


「ReShiNaは、ReShiNaのペースでいい」


wataが言う。


「でも、また一緒にやりたい」


mcRCも、笑った。


「それは、ある」


EGUIも、ほんの少しだけ口元を緩めた。


「あるな」


三人は、それ以上言わなかった。


言うと、少し欲が出そうだった。


だから、今はそのくらいでいい。


また一緒にやりたい。


でも、急がない。


呼びつけない。


奪わない。


その距離を、三人ともちゃんと分かっていた。


wataは、スマホをポケットに入れた。


「片づけるか」


mcRCは、周りを見た。


「そうやな」


EGUIは、ケーブルを手に取る。


三人は、少しずつ片づけ始めた。


マイクを外す。


ケーブルを巻く。


水を集める。


椅子を戻す。


ReShiNaが使っていた場所は、少しだけ丁寧に整えた。


誰かの忘れ物がないか。


譜面台に紙が残っていないか。


フルートスタンドが倒れていないか。


それを確認する動きが、三人とも自然にゆっくりだった。


wataが、ふと笑った。


「なんか、女子が来たあとの部室みたいになってる」


mcRCが言う。


「言い方」


EGUIが即座に続ける。


「部室ではない」


wataは肩をすくめた。


「いや、分かるやん。普段より丁寧に片づける感じ」


mcRCは、少しだけ笑った。


「まあ、分かる」


EGUIも、小さく頷いた。


「分かるけど、言い方や」


wataは笑った。


「はい」


少しだけ、場が軽くなった。


けれど、その軽さも悪くなかった。


感動だけでは、息が詰まる。


泣いただけでは、次に動けない。


笑いがあるから、次の一歩が少し軽くなる。


片づけが終わる頃には、三人の表情も少し落ち着いていた。


でも、完全にいつも通りではなかった。


mcRCの目は、少し遠くを見ていた。


wataは、何度もスマホを見たそうにして、我慢していた。


EGUIは、いつもより少しだけ口数が少なかった。


三人とも、まだTSUBOMIの中にいた。


それでも、部屋を出る準備はできていた。


mcRCが、最後に照明を一つ落とした。


スタジオの光が少し暗くなる。


wataがドアを開ける。


EGUIが、一度だけ部屋の中を見回した。


「今日、よかったな」


その一言に、mcRCもwataも頷いた。


「よかった」


「よかったな」


廊下に出る。


ドアが閉まる。


スタジオの中に、もう音はない。


でも、三人の中には、まだ残っていた。


春のアコギ。


足場になる低音。


昔に住まないフルート。


そして、あのコメント。


必要だった。


Reverse Crownは、誰かに必要だと言われることを目指してきた。


でも今日、誰かの音が自分たちに必要だったことを、強く知った。


それは、少し悔しくて。


でも、すごく嬉しいことだった。


wataが、廊下を歩きながら小さく言った。


「やっぱ、出会えてよかったな」


mcRCは、今度は笑った。


「うん」


EGUIも、短く言った。


「ほんまにな」


その言葉は、まだ曲になっていない。


でも、三人の中で、確かに音になり始めていた。

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