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ラップ付き小説 ReversCrown 元気ないやつこっちおいで  作者: egubi
暴れ牛ビーフ編

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3-5-6 From Now


Hands on Deckの余韻が、まだクラブの床に残っていた。


拍手は少しずつ落ち着いていった。


けれど、熱は下がらない。


むしろ、さっきよりも深いところで残っている。


リバックライン五人は、まだ席に戻りきれていなかった。


Kateは涙を拭ったあとも、姿勢だけは崩していない。

Miwaは両手でグラスを持ったまま、呼吸の仕方を思い出している途中だった。

Ninaは何度も口を開きかけて、そのたびに言葉を飲み込んでいる。

Saraは静かに目元を押さえ、店内の撮影禁止表示を見て少しだけ安心していた。

Yuiはペンに触れないように、両手を膝の上に置いていた。


周りの客も、まだざわついていた。


「今の、ほんと何だったんだ」


「未発表曲?」


「リバックラインへの曲ってことだよな」


「撮影禁止なの、惜しいけど正解かもしれん」


「切り抜きで雑に流れてほしくないやつ」


「BEEFが回してるのも良かったよな」


「泣かせるだけじゃなくて、ちゃんと上げてた」


「リバクラって、こういう返し方するんだな」


BEEFはDJブースから戻ってきて、面倒くさそうにグラスを持った。


「一回だけって言っただろ」


wataが笑った。


「まだ誰も何も言ってへん」


「顔が言ってる」


EGUIが低く返す。


「それはお互いやな」


BEEFはEGUIを見た。


「お前、今日は静かに刺してくるな」


EGUIは涼しい顔で答えた。


「歓迎会やからな」


wataが吹き出した。


「歓迎会の使い方おかしいやろ」


mcRCは笑いながらも、まだリバックライン五人を見ていた。


Hands on Deckは、ちゃんと届いた。


届きすぎたくらいだった。


でも、それだけで終わらせるには、まだ少し足りなかった。


リバックラインへ「見えてる」と伝えた。

BEEFにも、音で参加してもらった。

客席にも、その手の意味が伝わった。


じゃあ、ここからどうするのか。


見えた手を、次にどう使うのか。

この関係を、ただ感動の記憶にして終わるのか。

それとも、今を未来の原因にするのか。


mcRCはBEEFを見た。


「BEEF」


「何だよ」


「もう一曲」


BEEFの眉間にしわが寄った。


「一回だけって言っただろ」


wataが両手を合わせる。


「アンコール」


「ここはライブ会場じゃねえ」


「でも、もうそういう空気やん」


BEEFはフロアを見た。


拍手の余韻。

ざわめき。

まだ帰る気のない客の目。

リバックライン五人の、泣いたあとに前を向こうとしている顔。


確かに、空気は終わっていなかった。


Ninaが、小さくつぶやいた。


「これ、広報としては最悪です」


mcRCがそちらを見る。


「最悪?」


Ninaは、泣いたあとで少し赤い目のまま言った。


「見出しがつけられません。出せないし、言葉にすると軽くなるし、でも今すごいことが起きています」


wataが笑った。


「広報泣かせ」


Ninaは真顔で頷いた。


「はい。しかも物理的にも泣いています」


Miwaが隣で力なく言った。


「語彙がなくなってきました」


Saraが静かに続ける。


「撮影禁止で良かったと思います。今の五人の状態がネットに残るのは、かなり危険です」


Yuiがぽつりと言った。


「項目化できません」


wataがすぐ反応する。


「お、Yuiさんが?」


Yuiは首を横に振った。


「項目化すると壊れます」


その一言で、少しだけ場が静かになった。


Kateが、静かに頷いた。


「そうですね。これは、壊さない方がいいです」


BEEFはその会話を聞いて、軽く舌打ちした。


けれど、店を出る方向には向かわない。


EGUIが静かに言った。


「これは、たぶん必要や」


BEEFはEGUIを見る。


「何がだよ」


EGUIは、リバックライン五人を見た。


そして、BEEFを見た。


「さっきので、見えてることは伝えた。次は、ここからどうするかや」


BEEFは黙った。


mcRCが続ける。


「さっきのは、リバックラインへの曲や。でも次は、リバックラインにも、BEEFにも、俺らにも向ける曲」


wataが少しだけ笑った。


「昨日の俺が今日を作ったなら、明日の俺は今日で作る。そういう曲」


BEEFはグラスを置いた。


「……説教くせえな」


mcRCは即答した。


「説教にせんために歌う」


その返しに、BEEFは一瞬だけ黙った。


wataがスマホを上げる。


「データは渡してある」


BEEFは嫌そうに目を細めた。


「またそれか」


EGUIが言う。


「全曲渡してあるからな」


「お前ら、俺を何だと思ってんだ」


wataが笑う。


「頼れるDJ」


BEEFは口を開きかけたが、何も言わずに視線を逸らした。


代わりに、グラスの氷を一度だけ鳴らす。


それが返事みたいだった。


Miwaが小さく言った。


「今の、かなり返事でした」


BEEFは見ない。


「氷だ」


「氷も返事するんですね」


「しねえ」


Ninaが少し笑った。


「広報的には、氷が返事した、は使えません」


Saraが頷く。


「外部向けには不可です」


Yuiは、膝の上の手を見ながら言った。


「内部でも扱い注意です」


BEEFは面倒くさそうに息を吐いた。


でも、DJブースへ戻った。


フロアがまたざわつく。


「え、もう一曲?」


「マジで?」


「アンコール?」


「BEEF戻ったぞ」


「リバクラも立つ?」


「何これ、今日当たり日すぎる」


「撮影禁止なのが悔しい」


「でも撮影禁止だからこその空気だろ」


「残せないなら、覚えるしかないな」


BEEFがDJブースに立つ。


今度は、さっきより少し早く準備した。


Hands on Deckで、もう場の温度は分かっている。


泣きすぎると沈む。

上げすぎると意味が飛ぶ。

けれど、From Nowは少し違う。


これは、前へ出す曲だ。


BEEFは、短くMPCを叩いた。


今日。

昨日。

明日。


三つの言葉が、音の中で切られた。


今日。

昨日。

明日。


刻まれた声が、クラブの床に落ちる。


客席がすぐに反応した。


「今、今日って言った?」


「昨日、明日……」


「三つだけ?」


「めっちゃシンプル」


「BEEFが刻むと重いな」


mcRC、wata、EGUIがフロアの中央へ戻る。


リバックライン五人は、まだ席にいる。


それでいい。


この曲は、無理に立たせる曲ではない。


今いる場所から、次の一歩を選ばせる曲だった。


BEEFがMPCをもう一度叩く。


今日。

昨日。

明日。


そのあと、Beat Drop。


一気に床が跳ねた。


三人の声が重なる。


≫ From now, from now

≫ ここから行こう


客席が、自然に手を上げた。


「From now!」


「ここから!」


「来た!」


三人の声は、まっすぐ前へ出る。


≫ 昨日の俺が

≫ 今日を作ったならば


≫ 明日の俺は

≫ 今日で作る


そのラインで、リバックライン五人がそろって顔を上げた。


Ninaが小さく息を飲む。


「明日の俺は、今日で作る……」


Saraが静かに言った。


「過去の結果として今日がある。でも、未来の原因は今日に置ける」


Yuiが、両手を膝の上に置いたまま、少しだけ前のめりになった。


「それ、作業表に必要な考え方です」


wataがそこに気づいて笑った。


「Yuiさん、もう作業表出てきた?」


Yuiは真面目に返す。


「出てきました。でも今は触りません」


Miwaが泣き笑いで言う。


「えらい」


Kateが小さく頷いた。


「今は聴く時間です」


Hookは続く。


≫ 泣いた日も

≫ 寝てた日も

≫ 笑って連れてけ


Miwaの顔がくしゃっと崩れた。


「寝てた日も……」


Ninaがすぐ隣で言う。


「責めないんですね」


Saraが頷いた。


「泣いた日も、寝てた日も、切り捨てていない」


Kateが低く言った。


「連れていく、なんですね」


Yuiが小さくつぶやく。


「未処理じゃなくて、同行」


wataが、歌いながら少しだけ笑いそうになった。


でも笑わない。


今のYuiの一言は、確かにFrom Nowだった。


≫ 過去が今を作ったなら

≫ 今が未来を作れる


客席から声が漏れる。


「分かりやすいのに強い」


「今が未来を作れる、いいな」


「暗くないな」


「昨日の話なのに、責めてこない」


三人の声が少し強くなる。


≫ 気づいたなら勝ち

≫ 今から

≫ 今を変えりゃいい


BEEFが、そのフレーズを短く刻む。


気づいたなら勝ち。

今から。

今を変えりゃいい。


MPCのChopが、言葉を床に打ち込む。


フロアが沸いた。


「気づいたなら勝ち!」


「今から今を変えりゃいい!」


「このフレーズ強い!」


「めちゃくちゃリバクラ!」


BEEFは顔を上げない。


けれど音は、さっきより明るい。


泣かせるための音ではない。


立たせるための音だ。


≫ From now

≫ ほら行こうぜ


Hookが落ちた瞬間、BEEFが短く音を切った。


次の場面へ行くための余白。


mcRCが前へ出る。


BEEFは音を少し細くした。


mcRCの声が、まっすぐ入る。


≫ いまは

≫ 朝の洗面台


≫ 冷たい水

≫ 鏡の中に俺


クラブの真ん中なのに、空気が朝になる。


水の冷たさ。

鏡の白さ。

寝ぐせ。

目の下の影。


さっきまでの涙と拍手が、ふっと生活の匂いに変わる。


客席が少し静かになった。


「朝の洗面台……」


「急に日常」


「クラブで洗面台見えるの何」


「mcRCの景色作り、ほんと強い」


Kateは、自宅の洗面台を思い出した。


夜に整えた文面を、朝にもう一度読み返す時間。

強すぎないか。

弱すぎないか。

相手に届くか。

リバクラの熱を削っていないか。


Miwaは、物販前に鏡を見る自分を思い出した。


ちゃんと笑えるか。

来てくれた人に、安心してもらえるか。

さっきまで泣いていた自分でも、明日はまた立てるのか。


Ninaは、投稿前にスマホ画面を見つめる自分を思い出した。


伸ばす言葉ではなく、伸ばしていい言葉を探す時間。


Saraは、確認項目を見直す自分を思い出した。


止めること。

確認すること。

言いづらいことを言うこと。


Yuiは、朝に作業表を開く自分を思い出した。


目立たない表。

でも、その表がないと、誰かの頭の中が散らかる。


mcRCは続ける。


≫ 寝ぐせのまま

≫ 目の下の影


≫ でも目はまだ

≫ 死んでない


客席から、小さな声が漏れた。


「目はまだ死んでない」


「朝の自分に言ってる感じ」


「これ、生活の曲でもあるな」


mcRCの声が、リバックラインにも、BEEFにも、フロアにも届く。


≫ 返してないLINE

≫ 机のメモとペン


≫ 好きなことなら

≫ まだ胸が鳴る


≫ 嫌いなことなら

≫ 顔にすぐ出る


BEEFが、そこで少しだけ目を逸らした。


顔にすぐ出る。


言われなくても、誰が聞いてもBEEFだった。


wataが見つけた。


言いたそうにした。


EGUIが先に視線だけで止めた。


wataは笑って黙った。


ここはいじる場所ではない。


mcRCは続ける。


≫ 優しい言葉で

≫ 泣きそうになる


≫ それも俺

≫ まあ悪くない


Miwaが小さく笑った。


「それも俺、まあ悪くない……」


Ninaがすぐ返す。


「今日のMiwaですね」


Miwaは否定しなかった。


「はい。今日の私です」


Kateが珍しく、少しだけ口元を緩めた。


「私も、少しだけです」


Miwaがすぐに振り向く。


「Kateが認めた」


Ninaが目を丸くする。


「これは大事件です」


Saraが落ち着いて言う。


「外部には出せません」


Kateは静かに言った。


「出さないでください」


客席はそこまでは聞こえていない。


でも、リバックラインの席が少しだけ笑っているのを見て、周りも柔らかくなる。


mcRCのバースは、だんだん前へ進む。


≫ ほしかった景色が

≫ 少し部屋に増えてる


≫ マイクがある

≫ メモがある


≫ 待ってる声が

≫ 画面にある


その言葉に、リバックライン五人がそれぞれ反応した。


マイク。

メモ。

待ってる声。

画面。


それはリバクラの景色であり、同時に彼女たちが支えているものでもあった。


mcRCは、少しだけ五人を見た。


≫ でも

≫ 願いは少し変わった


≫ もっと笑いたい

≫ もっと届きたい


≫ もっと雑じゃなく

≫ ちゃんと向き合いたい


BEEFの指が、ほんの少しだけ止まりかけた。


すぐに戻る。


音は途切れない。


でも、BEEFの中に何かが当たったのは、リバクラ三人には分かった。


mcRCの最後が近づく。


≫ できてることも

≫ できてないことも


≫ 全部まとめて

≫ ここから行こう


≫ いまの俺を

≫ なかったことにしない


客席が、小さくどよめいた。


「今の俺をなかったことにしない、刺さる」


「できてることも、できてないことも、っていいな」


「責めてないのに、ちゃんと前に出される」


そして、mcRCが声を落とす。


≫ いま

≫ この声で


≫ 俺は

≫ 歌ってる


その一言で、Ninaが小さく息を吸った。


「歌ってる……」


Kateが静かに頷いた。


「現在ですね」


Miwaも涙の残る顔で笑った。


「mcRCさんは、今を見てる」


Saraが続ける。


「今の自分をなかったことにしない。だから、歌ってる」


Yuiが小さく言った。


「現在形です」


客席も気づく。


「今、歌ってるって言った?」


「この曲、現在から始まってるんだな」


「今の俺を見てる」


「ここから行こうって、今の場所からなんだ」


Hookへ戻る前に、BEEFがHook Phrase Chopを入れた。


From now。

ここから。

行こう。


切って、刻んで、前へ出す。


客席が沸いた。


「BEEF!」


「うま!」


「From now刻むのいいな!」


wataのバースに入る。


wataは、少しだけBEEFを見た。


それからフロアへ向いた。


≫ かこは

≫ 深夜の机


≫ 古いノート

≫ 消し跡だらけの lyric


BEEFが、wataの入りに合わせてハットを細かく刻む。


wataの声が跳ねる。


でも、言葉の芯は軽くない。


リバックライン五人は、さっきとは違う受け取り方をしていた。


mcRCは現在だった。


朝の洗面台。

今日の顔。

今の声。


そしてwataは、過去へ降りていく。


深夜の机。

古いノート。

消し跡だらけのリリック。


Ninaが小さく言った。


「今度は過去ですね」


Yuiが頷く。


「かこは、って始まってます」


Kateが目を細める。


「現在、過去、未来。ちゃんと分けているんですね」


Miwaは涙を拭いながら笑った。


「wataさん、過去でも音が気持ちいい……」


wataはさらに進む。


≫ 急にできたわけじゃない

≫ この声もこのノリも


≫ サボった日

≫ 粘った日


≫ 寝落ちした床の

≫ cold feeling


客席が、wataのフロウに乗る。


英語が混ざっても、意味は置いていかれない。


冷たい床。

消し跡だらけのノート。

深夜の机。


誰にでもあるようで、誰のものでもない景色。


「wata、こういう過去の話も跳ねさせるんだな」


「重いのに軽快」


「cold feeling、音いい」


「でも寝落ちした床の冷たさ、分かる」


wataはさらに進む。


≫ 目立ちたかった

≫ 認められたかった


≫ 誰かに

≫ 大丈夫って言われたかった


リバックライン五人が、少しだけ反応した。


それは、リバクラだけの話ではない。


手伝う側にもある。


見てほしい。

でも、前に出たいわけではない。

認められたい。

でも、雑に持ち上げられたいわけではない。


wataは、そこを笑って流さない。


≫ あの頃の願い

≫ 振り返りゃ young


≫ でもその願いが

≫ くれたんだ run


BEEFは、そこに短くMPC Chopを入れた。


young。

run。

melody。

track。


音が跳ねる。


客席が「おお」と反応する。


wataは続ける。


≫ 見ないふり

≫ 後回し


≫ 眠気に逃がした

≫ memory


≫ 甘えた日

≫ 荒れた日


≫ それでも残った

≫ melody


BEEFの顔が、少しだけ変わった。


過去の出演。

クラブイベント。

DJコンテストの受賞歴。

誰にも細かく説明してこなかった積み上げ。


リバックラインが公開情報から拾っていたもの。


その一つ一つが、BEEFを今のBEEFにしている。


でも、BEEF自身は、それを誇るような顔をしない。


むしろ、触られたくないもののように扱う。


wataは、そこへ踏み込む。


≫ 自信があるなら

≫ 俺が置いた flag


≫ 負けても立った

≫ 泣いても書いた


≫ その跡が

≫ この track


BEEFが、小さく舌打ちした。


聞こえるか聞こえないかの音だった。


wataは気づいた。


でも、止まらない。


≫ 自信がないなら

≫ そこにも reason


≫ 閉じた season

≫ でもまだ breathing


客席が頷いている。


「過去を責めるんじゃなくて、読み解くって感じか」


「自信がない理由も見ていいんだな」


「BEEFにも向けてる?」


「たぶん」


「リバックラインにもだろ」


「リバクラにも、自分らにも言ってる」


wataは、少しだけ声を強める。


≫ 痛みも rhythm

≫ 後悔も reason


≫ 遅れた日も

≫ 俺をここへ leading


BEEFが、そこにHook Phrase Chopをかぶせる。


From now。

今から。

今を変えりゃいい。


wataが笑う。


≫ それ分かった瞬間

≫ BEEFが刻む


≫ 暗い話じゃない

≫ ここで跳ねる


客席が沸いた。


「BEEFが刻む!」


「今の入れ方いい!」


「暗い話じゃない、ここで跳ねる!」


「まさに今それ!」


BEEFは顔を上げない。


でも、音は少しだけ強くなる。


wataはラストへ入る。


≫ ほしかった未来と

≫ 欲しい未来は違う


≫ それなら更新

≫ version up していい


そのラインで、Kateが静かに息を吐いた。


昔ほしかった未来。


ただ、支えたいと思っていた。


でも今は、ただの裏方ではなく、ちゃんと横にいるチームとして関わっている。


Ninaも頷いた。


広報として、ただ伸ばすだけではなく、何を伸ばしていいかを考えるようになった。


Saraは、止める役であることを少しだけ受け入れ直していた。


Yuiは、作業表を作ることが、未来を形にすることだと感じていた。


Miwaは、物販で拾う声が、次の曲の景色になることを知ってしまった。


wataは言う。


≫ あの頃の正解に

≫ 俺を閉じ込めない


≫ 昔の願いで

≫ ここまで来たなら


≫ 新しい願いで

≫ 次を作ればいい


BEEFが、そこでBeat Dropを短く入れた。


重くない。


前へ出るDropだった。


フロアが跳ねる。


「新しい願いで次を作ればいい!」


「この曲、前向きすぎる」


「でも押しつけじゃない」


「更新していい、っていいな」


「昔の夢に縛られなくていいってことか」


wataの声が、少しだけ柔らかくなった。


≫ 声にしてないと

≫ 思ってた


≫ でもノートの端で

≫ 消し跡の中で


≫ 黙ってたようで

≫ ほんとはずっと


少しだけ音が引いた。


BEEFが、余白を作る。


wataの声だけが、少し前に出る。


≫ 俺は

≫ 歌ってた


その瞬間、リバックライン五人が一斉に反応した。


mcRCの「俺は歌ってる」は、現在だった。


wataの「俺は歌ってた」は、過去だった。


今、はっきりつながった。


Miwaが小さく言った。


「歌ってた……」


Ninaが息を飲む。


「言葉にしてないだけで、過去でも歌ってたんですね」


Saraが静かに言う。


「消し跡の中で、もう歌っていた」


Yuiが、震える声で続けた。


「現在、過去、未来……」


Kateが頷いた。


「今歌ってる。過去でも歌ってた。次は……」


そこで、誰も言わなかった。


言わなくても、次が分かった。


観客も拾い始める。


「wata、歌ってたって言った?」


「mcRCは歌ってるだったよな」


「これ、時制で分けてる?」


「現在、過去、未来か」


「次、EGUIが未来行くんじゃね?」


「構成うま」


「しかもBEEFがそこ空けたのも良い」


BEEFは、そこでMPCを短く叩いた。


From now。

今から。

今を変えりゃいい。


音が切られて、次へ飛ぶ。


EGUIのバースに入る。


BEEFは音を少し抑えた。


EGUIの声が、まっすぐ通る。


≫ みらいは

≫ 玄関の向こう


≫ 靴紐を結ぶ

≫ 指が少し震える


その一行で、Saraが静かに目を伏せた。


未来は、遠い宇宙みたいな場所ではなかった。


玄関の向こう。


靴紐を結ぶ手。


少し震える指。


それくらい近い。


それくらい怖い。


EGUIは続ける。


≫ 怖いなら

≫ 怖いままでいい


≫ そのままでいいなら

≫ それでいい


BEEFが、ほんの少しだけ顔を上げた。


そのラインは、BEEFにも向いていた。


誰かに変われと言われる筋合いはない。


BEEFはBEEFのままでいい。


でも。


EGUIは、そこで声を少しだけ低くする。


≫ 誰かに変われと

≫ 言われる筋合いはない


≫ でも

≫ そのままでいいと思えないなら


≫ もう分かってるだろ


BEEFの指が止まりかけた。


すぐに戻る。


音は途切れない。


でも、BEEFの中に何かが当たったのは、近くにいた全員が分かった。


EGUIの言葉は、説教ではなかった。


上から押しているわけではない。


ただ、逃げ道の横に立っている。


そこにいるのが苦しいなら、動ける。


それだけだった。


≫ ここで変えりゃ

≫ 先も変わる


≫ 分かったなら

≫ もう動ける


客席が小さく声を上げる。


「ここで変えりゃ先も変わる」


「EGUI、重くしすぎないのいい」


「未来って今からなんだな」


「でも刺さる」


EGUIは、リバックラインを見た。


そしてBEEFを見た。


≫ なりたかった自分に

≫ 少しは近づいた


≫ そこはちゃんと

≫ 認めていい


そのラインで、mcRCが少しだけ笑った。


wataも、目線を落として笑った。


リバックライン五人も、それぞれに受け取っていた。


ここまで来たことを、ちゃんと認めていい。


できていないことだけではなく。


できたことも、ちゃんと見る。


EGUIは続ける。


≫ 願いが変わるのは

≫ ブレたんじゃない


≫ 生きてきたから

≫ 見える景色が変わっただけだ


Kateの目元がまた少し揺れた。


Ninaが小さく頷いた。


Miwaが胸の前で手を握った。


Saraは、涙を拭わずに聞いていた。


Yuiは、ペンを持っていない手を膝の上で握った。


客席からも声が漏れる。


「願いが変わるのはブレたんじゃない、いいな」


「生きてきたから景色が変わっただけ」


「それ、今欲しかった言葉かも」


「未来って変えていいんだな」


EGUIは、さらに前へ進める。


≫ 強くなりたい?

≫ じゃあ一回増やせ


≫ 歌いたい?

≫ ならマイクを握れ


wataが小さく笑った。


「EGUI、好きやわそこ」


EGUIは歌いながら、少しだけ口元を緩めた。


≫ 優しくなりたいなら

≫ 言葉の置き方を変えろ


BEEFが、ほんの少しだけ目を細めた。


言葉の置き方。


それができないから、音で返してきた。


でも、言葉を置くことから逃げ続けるなら、未来は変わらない。


EGUIは、追い詰めるようには歌わない。


でも、逃がさない。


≫ 自分を大事にしたいなら

≫ 小さい本音を置き去りにすんな


リバックライン五人の表情が変わった。


誰かのために動く人ほど、自分の小さい本音を置き去りにする。


手伝いたい。

支えたい。

でも、疲れた。

嬉しい。

でも、怖い。

必要とされたい。

でも、前に出すぎたくない。


その小さい本音も、置き去りにしなくていい。


EGUIは続ける。


≫ 立つ

≫ 書く

≫ 謝る

≫ 聞く


≫ 鍛える

≫ 眠る

≫ また始める


BEEFが、そこに短いクラップを一つずつ置いた。


立つ。

書く。

謝る。

聞く。

鍛える。

眠る。

また始める。


客席がそのリズムに乗る。


「これ、行動リストなのにかっこいい」


「眠る、まで入るのいいな」


「ちゃんと生活してる」


「今から変えるって、でかいことじゃなくていいんだな」


EGUIの最後が近づく。


≫ 俺の続きを

≫ 俺が作る


≫ もっと遠くへ

≫ もっと長く


そして、EGUIが最後に声を置いた。


≫ 俺は

≫ 歌いたい


リバックライン五人は、何も言えなかった。


mcRCは、今歌ってる。

wataは、過去でも歌ってた。

EGUIは、未来でも歌いたい。


現在。

過去。

未来。


三人の時制が、そこでひとつになった。


Kateが小さく言った。


「つながりましたね」


Miwaは頷いた。


「歌ってる、歌ってた、歌いたい……」


Ninaが涙を拭いながら笑う。


「今と過去と未来を、三人で持ってる」


Saraが静かに言う。


「From Nowの意味が、ここで完成しましたね」


Yuiは、ペンを持っていない手を見つめた。


「これは……項目じゃなくて、矢印ですね」


wataが少しだけ笑う。


「矢印?」


Yuiは顔を上げた。


「現在から過去を見て、未来へ向かう矢印です」


Kateが静かに頷いた。


「いい表現です」


客席も、ざわめく。


「EGUI、歌いたいって言った」


「やっぱり時制だ」


「mcRCが今、wataが過去、EGUIが未来」


「歌ってる、歌ってた、歌いたい」


「構成きれいすぎる」


「これ、ちゃんと三人の曲だ」


「BEEFもそこ分かって音作ってるだろ」


「分かってない顔で分かってるやつ」


BEEFは顔を上げなかった。


でも、音は少しだけ前へ出た。


リバックライン五人は、もう泣くだけではなく、少し前を向いていた。


Hands on Deckで受け取った。


From Nowで、次へ向かされた。


ここからは短い。


Final Callに入る。


三人の声が重なる。


≫ これで決めよう

≫ From now


客席が一気に声を返す。


「From now!」


「ここから!」


三人は止まらない。


≫ 昨日の俺が

≫ 今日を作ったならば


≫ 明日の俺は

≫ 今日で作る


BEEFがその言葉を太い低音に乗せる。


今度は客席が、さっきよりはっきりと意味を持って揺れている。


≫ 泣いた日も

≫ 寝てた日も

≫ 笑って連れてけ


Miwaが、涙の残る顔で笑った。


「連れていくんですね」


Kateが頷いた。


「置いていかない」


Saraが静かに続ける。


「でも、止まったままでもない」


Ninaが言う。


「ここから、ですね」


Yuiが小さく頷いた。


「今を変える」


三人の声が、最後へ進む。


≫ 過去が今を作ったなら

≫ 今が未来を作れる


≫ 気づいたなら勝ち

≫ 今から

≫ 今を変えりゃいい


BEEFが、最後のChopを入れる。


気づいたなら勝ち。

今から。

今を変えりゃいい。


音が跳ねる。


フロアが前へ出る。


≫ From now

≫ ここで踏み出す


そして、三人は余韻を伸ばさず、最後の一行を置いた。


≫ なりたい未来が見えたら

≫ 今を変えりゃいい


BEEFがFinal MPC Chopを叩く。


From now。


今日。


昨日。


明日。


Hard Stop。


音が、切れた。


一瞬、誰も拍手しなかった。


終わり方が早すぎたからではない。


言葉が、まっすぐ残ったからだった。


なりたい未来が見えたら、今を変えりゃいい。


客席の中で、その一行が立っていた。


そして、拍手が来た。


さっきのHands on Deckとは違う。


止まって受け取る拍手ではない。


前へ送り出す拍手だった。


「From now!」


「最高!」


「ここから!」


「もう一回!」


「今の曲、配信してくれ!」


「無理、今日来てよかった!」


「撮影禁止なの信じられん!」


「でもそれがいい!」


「残せないから覚えるしかない!」


リバクラ三人は息を整えた。


BEEFはDJブースで、いつものように面倒くさそうな顔をしている。


でも、音を切ったあと、すぐには戻ってこなかった。


少しだけ、フロアを見ていた。


リバックライン五人も、立ったまま拍手をしていた。


泣いたあとだった。


でも、さっきよりも顔が前を向いていた。


mcRCはマイクを下げた。


そして、BEEFの方へ歩いた。


「ありがとう」


BEEFは顔をそむける。


「二曲もやらせやがって」


wataが近づいて言う。


「でも、よかったやろ」


BEEFは、少しだけ間を置いた。


「……悪くはなかった」


wataが目を丸くした。


「うわ、BEEFが星四つ出した」


「星なんか出してねえ」


EGUIが静かに言う。


「満点は出さないタイプやな」


BEEFは返事の代わりに、フェーダーを一度だけ軽く弾いた。


小さな音が鳴る。


wataが笑う。


「音で採点すな」


mcRCも笑った。


From Now。


ここから。


Hands on Deckで、見えない手は見えた。


From Nowで、その手が次へ向いた。


Kateが、静かに言った。


「今日を変える、ですね」


Miwaが頷く。


「今を、そこに置く感じがしました」


Ninaが涙を拭いながら笑う。


「これからもやっていけるなら、今日をそこに賭ける」


Saraが小さく続ける。


「過去の結果として今があるなら、次の関係は今の選び方で変わる」


Yuiが、最後にぽつりと言った。


「明日の作業表、少し変えます」


全員がYuiを見た。


Yuiは少しだけ照れたように、でも真面目に言った。


「やることだけじゃなくて、何の未来につながるかも一行入れます」


Kateが、少しだけ笑った。


「それは良いですね」


Ninaが頷いた。


「広報の投稿計画にも入れたいです。何を伸ばすかだけじゃなくて、何につなげるか」


Saraも言った。


「確認項目にも、守る目的を明記した方がいいかもしれません」


Miwaは両手でグラスを握りしめた。


「物販メモにも、お客さんが何を持ち帰ったかを残します」


mcRCは、その五人を見た。


さっきより、少しだけ違って見えた。


泣いている人たちではない。


次を考えている人たちだった。


BEEFが遠くから低く言う。


「撮影禁止だろ」


wataが笑う。


「まだ言うん?」


「残せねえなら、ちゃんと覚えとけって話だ」


その言葉に、少しだけ全員が黙った。


BEEFは、フロアを見た。


客席の顔。

リバックライン五人の顔。

リバクラ三人の顔。


撮影はない。


切り抜きもない。


でも、確かに残っている。


BEEFは、ほんの少しだけ息を吐いた。


「……残るもんは残るだろ」


wataが言いたそうにした。


EGUIが止める。


「言うな」


wataは笑った。


「何も言ってへん」


mcRCも笑った。


mcRCは、今を歌ってる。

wataは、過去でも歌ってた。

EGUIは、未来でも歌いたい。


リバクラ。

リバックライン。

BEEF。


過去が作った今に、全員で立っていた。


そして、今ここで選んだ一曲が、次の未来の原因になっていく。

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