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妖刀を拾った中年探索者、女侍の亡霊に死ぬほど鍛えられる〜悪いヤツらを斬って美少女探索者パーティを助けた俺、配信でバズり始める。  作者: 甲賀流


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B級昇格試験、終了




 冴斬の一閃が走った、その直後だった。


 黒で塗り潰されていた空間に、ひびが入る。


 硝子が割れるみたいに、上も下も横も、影で閉ざされていた世界が音もなく崩れ始めた。


 天井が戻る。


 床が戻る。


 壁が戻る。


 気づけばそこは、元の演習場だった。


 ただし、空気だけが違った。


 重い静寂。


 誰も、すぐには動かなかった。


 試験官も。


 残っていた受験者たちも。


 セナでさえも。


 全員が、今起きたことを理解しきれていないようだった。


「……終わった、のか?」


 誰かが小さく呟く。


 俺は息を吐き、冴斬をゆっくりと下ろした。


 目の前。


 さっきまで怪物だったものが倒れている。


 だが、そこにいたのはもう異形ではなかった。


 黒い影は消え失せ、倒れているのは十河湊、その人間の姿だった。


 まるで本当に、何事もなかったかのように。


 血もない。


 黒い瘴気のようなものも、もう残っていない。


 ただ静かに、床に横たわっているだけだ。


 近くには、ひとつだけ。


 剣の柄のようなものが落ちていた。


 刀身はない。


 柄だけ。


 だが、ただの武器じゃないと一目で分かる。


 嫌な気配が、まだそこに微かに残っていた。


(恒一)


 彩芽の声が響く。


(それを持っていけ)


「……これを?」


(うむ。少し調べたいことがあるのでな)


 俺はゆっくり近づき、柄を拾い上げる。


 ずしりと重い。


 見た目以上に、妙な重さが手に残る。


 まるで中に何か詰まっているみたいだった。


 彩芽がそこまで言うなら、きっと今の現象と無関係じゃないんだろう。


「医療班! すぐに十河湊を回収しろ!」


 そこでようやく、試験官の声が響いた。


 それが合図だったみたいに、止まっていた時間が動き始める。


 医療班が駆け込んでくる。


 周囲もざわつき始めた。


「お、おい……今の何だったんだ?」

「化け物になってたよな?」

「いや、あれもう試験じゃねぇだろ……」


「……おじさん」


 隣で、セナがぽつりと呟く。


 振り向くと、彼女は引きつった顔のまま苦笑していた。


「マジで倒しちゃったんだ〜」


 いつもの軽さは、あまりない。


 だがその分、本音なんだろう。


「……まぁ、やるしかなかったからな」


「いやそれはそうなんだけどさ」


 セナは頭をかきながら、倒れている湊を見る。


「でもさすがに、今日一番ヤバかったのって、最後のおじさんだと思う」


「なんだそれ」


「どこからか刀を出して、あんなボス級の相手を一撃で倒すとか、もはや意味不なレベル」


「えっと、バカにしてる?」

 

「褒めてるよ」


「全然そう聞こえない」


 そんなやり取りをしている間にも、試験官たちは慌ただしく動いていた。


 そして少しして、試験官がこちらに向き直る。


「第三試験はここで打ち切る」


 場が、しんと静まる。


「今回の件は通常の昇格試験の範疇を明らかに逸脱している。合否に関しては、本部での協議の上、後日正式に通達する」


 当然だろう。


 さっきのはもう、ただの試験じゃなかった。


 俺も異論はない。


 というより、今はそれどころじゃなかった。


 スリースターズたちは。


 アケボノは。


 彩芽から無事だと聞かされていたとはいえ、この目で確認しないと落ち着かない。


「……すみません。俺、先に失礼します」


 試験官は一瞬だけこちらを見たが、すぐに頷いた。


「構わない。今回の件についても、後で事情を聞かせてもらうことになるだろう。その時は、悪いが協力してくれ」


「はい、分かりました」


「こちらこそ、ありがとう」


 試験官の深いお辞儀を背に、俺はその場を離れる。


 柄を懐にしまい、演習場を出た。

 


 * * *



 スマホを確認すると、社長から全員事務所にいると連絡が入っていた。


 そして到着。

 扉を開けた瞬間。


 中にいた全員の視線が、一斉にこちらへ向いた。


「……あ」


 最初に声を漏らしたのはヒカリだった。


 その顔を見た瞬間、胸の奥に溜まっていたものがようやく少しだけほどけた。


 いた。


 全員。


 ちゃんと。


 ヒカリも。


 ルナも。


 カナデも。


 そしてアケボノの三人も。


「……よかった」


 思わず、そんな言葉が漏れる。


 ルナが真っ先に立ち上がった。


「コッチー!」


 ヒカリも駆け寄ってくる。


「恒一さん、大丈夫ですか!?」


「俺は平気。それより、みんな無事で……」


 そこで言葉を切る。


 改めて部屋の中を見渡す。


 確かに全員いる。


 怪我はしているみたいだが、少なくとも生きている。


 それだけで十分だった。


「……ありがとう。アケボノのみんな」


 そう言うと、吉祥寺が鼻を鳴らした。


「オレらじゃねぇぞ」


「え?」


 その言葉に首を傾げた瞬間。


「よぉ、兄ちゃん」


 聞き覚えのある声。


 視線を向けると、事務所の壁にもたれるように立っている人影があった。


「……ツバキさん!?」


 不破ツバキ。


 腕を組み、いつもの余裕そうな顔でこちらを見ている。


「なんじゃ。妾がおって、そんなに意外か?」


「いや、そりゃ意外ですよ。なんでここに……」


「彩芽に呼ばれた」


 あっさりした答えだった。


 なるほど。


 それで全部繋がる。


 彩芽が無事だと断言できた理由も。


 アケボノだけでどうにかなったわけじゃないという吉祥寺の言葉も。


「危うく間に合わんところじゃったがの」


 ツバキはそう言って、わずかに口元を緩める。


 その横でルナが大きく頷いた。


「いやほんと、それ! マジでギリだったから!」


「……ほんと、死ぬかと思った」


 カナデが珍しく素直にそう漏らす。


 ヒカリも静かに頷いていた。


 アケボノの三人も、それぞれ疲れた顔だ。


「とりあえず座れ、兄ちゃん」


 ツバキが顎でソファを示す。


「お主の方も、色々あったんじゃろ?」


「……そうですね」


 俺は頷き、ようやく腰を下ろした。


 それから。


 スリースターズ側で何があったのか。


 昇格試験で何が起きたのか。


 お互いに、順を追って話し始めた。


 神崎迅という元S級のこと。


 槍の処刑人と呼ばれていること。


 ツバキが割って入らなければ危なかったこと。


 そして俺の方からは、十河湊がなんらかの力によりモンスターへと変貌したこと。

 最後に、湊から出てきたあの柄のこと。


 全ての情報を、余すことなく伝え合った。


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