アメリアの元世界転移旅 〜熊野古道編(2)
「ここは……」
「あぁ〜よかったぁ! 正直、ここで死んじゃうかもってドキドキしてたからさぁ」
「えっ? ここって……」
「ん? アメリアちゃん? えっ? えっ!? アメリアちゃん!?」
「もう、なんですか? ちょっとは静かに考えさせて欲しいんですけど」
さっきから何やら喧しいタキリさんに文句を言うも……。
「えっと、あなた、だれ?」
「は? アメリアですけど?」
「……えっ? マジ? ほんとにあなたがアメリアちゃん?」
決死の覚悟でゲートを潜ったせいか、タキリさんが妙なテンションになってるなぁ。
なんだろう?
見た目だけなら年上のお姉さんって感じなのに、今はなんだか妙に子供っぽく見える。
背もちょっと縮んだような……って、あれ?
視界が妙に高いような……?
それに、声もいつもより低くなっている気がする。
ん? 私、成長した?
無意識に自分の身体を確かめるように動かした手は……。
あれ?
これ、私の手?
皮膚の色が、大きさが、アメリアのものじゃない。
でも、どこか見覚えのある、馴染みのある手で……。
「えっ? えっ!? えぇ!?」
顔は見えないけど、それ以外ならちゃんと確認できる。
腕も、足も、ちょっと貧相な胸も……。
まだ発展途上ながら将来が楽しみな抜群のプロポーションが!?
凹凸の乏しいスレンダー体型に変わってしまっている。
薄く透明感のある桜色の髪は黒髪のストレートヘアに……。
明らかに変わって……いや、戻っている。
「これ、前世の私だ……」
それに、この見覚えのある場所って……。
「ん? りょ、涼子、か?」
急に声をかけられ振り向くと、
「……おじいちゃん?」
そこには、驚きの顔を浮かべた前世の祖父がいて……。
それからは、本当に色々と大変だった。
なんせ、死んだはずの私が突然現れたんだからね。
旅先で死んだと聞かされた孫娘が突然現れたんだから、あの泰然自若としたおじいちゃんが多少取り乱すのも仕方がない。
まして、私の両親ともなれば……。
どうやら、私がこの世界で死んだことは間違いないみたいで、現地の日本大使館からの連絡を受けて、両親ははるばるアフリカまで私の死体確認にも行って来たらしい。
そんな両親にとって、突然目の前に現れた私は、ほぼほぼ幽霊みたいなもので……。
その取り乱しようは察して余りある。
ちなみに、こちらの世界時間だと、私が旅先で死んでからまだ数年しか経っていないらしい。
つまり、両親の中ではまだアフリカで見た私の死体の記憶も薄れてはいないわけで……。
色々な意味で余計に衝撃的だったみたい。
ともあれ、さすがは私の両親と言うべきか、ひとしきり大騒ぎしたあとはすっかり落ち着いて、
「それで、これはどういうこと(だ)?」
両親と祖父を前にして、私は旅先で死んでから今までの事を、事細かに説明する羽目になった。
初めは異世界転生なんて荒唐無稽な話に、もしかして娘そっくりの人間を使った詐欺じゃないかって疑い半分だったんだけどね。
胡乱な目で話を聞いていた両親も、途中からはすっかり私の異世界冒険譚に夢中になっていたよ。
話の合間合間で私の説明に加わってくれるタキリさんともすっかり意気投合して、最後の方では私のあちらでのやらかしに、みんなで盛り上がっていた。
タキリさんだって、実は私に負けず色々とやらかしてるはずなのに、なぜ娘だけが悪者にされないといけないのか?
ほんと、理不尽!
まぁ、私だけじゃなくタキリさんのことも受け入れてもらえて、私としても助かったけどね。
……それにしても、なんでタキリさんには言語チートが機能してるんだろう?
私はあんなに苦労したのに!
転生はダメだけど転移ならOKってこと!?
ほんと、理不尽だ!
と、まぁ、そんな感じで色々あって、私が日本に帰国? して数日が過ぎた。
初めこそ常識や文化、技術の違いに大騒ぎしていたタキリさんだけど、今はだいぶ落ち着いてくれたみたい。
ここ数日は、タキリさんにこの世界を案内しつつ、ずっと付きっきりでとんでもない量の質問に答え続けたからね……。
どうにかこうにか、やっと日本に不慣れな外国人くらいには見えるようになったかな。
前世の日本人の姿に戻ってしまった私と違って、タキリさんの容姿には全く変化がなかったからね。
もう、見たまんま外国人って感じだから、多少変なことをしてもスルーしてもらえると思う。
いや、実際、外国人どころか外界人だからね。
色々と非常識なくせに日本語だけはペラペラなのが多少不自然ではあるけど、そこは外国で日本人に育てられたとか適当に誤魔化すことにした。
と、そんな感じで転移後のあれこれもひと段落したところで、これからのことについて改めて考えてみることに。
「タキリさんとしては、これからどうしたいですか?」
「う〜ん、個人的にはヒノモト、ニホンかぁ……。
とにかく、この世界でもっと見てみたいものや勉強したいことがたくさんあるんだけどね。
でも、流石にこのままこちらの世界に居続けるのは不味いとは思うよ。
一応、これでも倭国の第一皇女だからね。
それはアメリアちゃんも一緒でしょ?」
そうなんだよねぇ……。
さすがに自分の国まで作っておいて、あとはお任せっていうのも無責任な気がする。
いや、きっとレジーナあたりなら私がいなくても上手くやってくれそうだけど……。
だからと言って、何もかも無責任に放り出すのは違うと思う。
あちらの世界に帰る帰らないについては、両親やおじいちゃんには既に相談済みで、「他の世界で幸せにやっているならそれでいい。こちらのことは気にせず、好きにしなさい」と言われている。
だから、あとは私の気持ち次第ってことなんだけどね。
もっとも……。
「いずれにしても、まずは帰る方法があるかどうかってことなんだけど……」
「そうだよねぇ……。これだけ技術の発展した世界なのに、転送ゲートは夢物語だとは思わなかったよ」
「まぁ、こちらの世界には科学はあっても魔法はないですから。
こちらにはそれらしいゲートは見当たらないし、多分あれは一方通行で異世界に送るものだったんだと思う」
「……ってことは、現実的に私たちが元の世界に戻るのは不可能ってことになるのかなぁ?」
「……現状では、そうなりますね」
「「…………」」
何度かこういった話し合いはしてるんだけど、つまるところ、まずは帰る方法を見つけないと話にならないよねって結論に至ってしまう。
つまり、現状では打つ手無し。
「よし、旅に出よう!」
「えっ?」
「いや、そろそろじっとしてるのも飽きてきたし……。
あぁ、でも海外は無理だなぁ。二人ともパスポート持ってないし、そもそも国籍すらないし……。
そうなると、国内旅行かぁ……どこがいいかなぁ……とりあえず、今回は近場をちょっと散策する感じで……」
「……リョウコちゃんでもアメリアちゃんでも、考えることは変わらないみたいだね」
呆れたような目でこちらを見るタキリさんを他所に、私は久々の国内旅行の計画を立てはじめ……。
……
「ねえ、ねえ、アメリアちゃん、あれ! あれ、なに?」
「えっと、どれですかねぇ?」
元の世界に戻っても、やってることは大して変わらないね。
気がつけばまた列車の揺れに身を任せている自分に呆れながら、旅の連れの尽きることのない質問責めを適当に受け流すのだった。




