↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
鉄の矜持――損をして、得を取れ――  作者: 八雲 海


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
8/15

第八話 手を動かす

遥《はるか》の最初の仕事は、部品の洗浄《せんじょう》だった。


 外されたボルトやナットを、灯油《とうゆ》の入ったバケツに浸《ひた》し、古い歯ブラシで一つずつ錆《さび》を落としていく。単調で、地味な作業だった。


「こんなの、誰にでもできるじゃない」


 遥がぼやくと、菊田《きくた》が笑った。


「誰にでもできることを、誰もやりたがらねえのが、この仕事だよ」


 遥は黙って、手を動かし続けた。


 灯油の匂いが、指先に染み付いていく。子供の頃、実家の工場でも同じ匂いがしていたことを、遥はふと思い出した。あの頃は、その匂いが嫌いだった。父の手からも、いつもその匂いがしていた。


 午後になると、五十嵐《いがらし》が旋盤の前に座り、削り出した部品を掲《かか》げてみせた。


「――これでどうだ」


 梶谷《かじたに》は、それを受け取り、光にかざして確かめた。


「上出来だ」


 五十嵐は何も言わず、また旋盤に向き直った。震える手を、もう一方の手で押さえながら。


 遥は、その様子を遠くから見ていた。


 誰も、大げさに褒め合ったりはしない。ただ、黙って仕事を確かめ、黙って次に進む。それだけだった。


 バケツの中の部品は、洗うたびに、少しずつ元の輝きを取り戻していく。歯ブラシの先で錆をこすり落とすと、その下から、まだ鉄の色が出てきた。


 遥は、その変化を見つめながら、自分の手の中で何かが変わっていくのを、まだうまく言葉にできずにいた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。