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鉄の矜持――損をして、得を取れ――  作者: 八雲 海


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第七話 七人

 平野恒一《ひらのこういち》は、コンビニの搬入《はんにゅう》トラックの運転手をしていた。かつて塗装工場《とそうこうじょう》で働いていたが、下請け先の倒産《とうさん》で職を失って以来、自動車とは縁のない仕事を転々としている。

 早朝の配送を終えた平野は、駐車場でトラックを降りたところで、見覚えのある背中に気づいた。


「――宗吉さん?」


 梶谷は、平野の作業着姿を一瞥《いちべつ》すると、軽く頷いた。


「宗吉《そうきち》さんが、俺に?」


 平野は、驚いたように目を丸くした。腕は人並みだったが、誰からも好かれる性分《しょうぶん》で、昔から現場の潤滑油《じゅんかつゆ》のような男だった。


「白の一色塗《いっしょくぬ》りだ。難しい仕事じゃない」


「難しくなくても、俺なんかでいいんですか」


 梶谷《かじたに》は、それには答えず、ただ頷《うなず》いた。


 平野は、しばらく黙っていたが、やがて笑顔を見せた。


「――やります。何年ぶりかな、ガンを握るの」


*


 勝村次郎《かつむらじろう》は、七人の中で最も若かった。かつて梶谷の工場で見習いをしていたが、父親の介護のために業界を離れ、今は畑違いの倉庫《そうこ》の仕事をしている。


「梶谷さん、久しぶりです」


「試走《しそう》を頼みたい」


「俺で、いいんですか。もう何年も、ハンドルなんて握ってません」


「お前の耳が要る」


 勝村は、その一言に、何かを思い出したような顔をした。


「……わかりました」


*


 四月二十八日。梶谷の工場に、七人が揃った。


 久保修《くぼおさむ》、菊田茂《きくたしげる》、五十嵐昭三《いがらししょうぞう》、平野恒一、勝村次郎。そして、隅に立っていた早坂遥《はやさかはるか》。


「――六人か」


 誰かが呟《つぶや》いた。


「いや」

 梶谷が、それを遮《さえぎ》るように言った。


「七人だ」


 梶谷が振り返り、遥を見た。


「六人じゃねえ。お前を入れて七人だ」


「私……?」


「お前が俺たちに火を付けただろ」


 遥は一瞬言葉を失い、それから苛立《いらだ》ったように声を上げた。


「分かったわよ! 言った責任取ればいいんでしょ! 分かったわよ!」


 誰かが小さく笑った。


「今日から査定士は休みだ。修理屋の娘、やってもらう」


「嫌! 修理屋、嫌いなんだから……」


「嫌いでも手は動く。それでいい」


 梶谷は工具箱《こうぐばこ》を、彼女の方へ押しやった。


 遥は工具箱を睨《にら》みつけたが、すぐに顔を上げた。


「――時間ないわよ! 私。何したらいいの?」


 梶谷は、初めて小さく笑ったようだった。


「まずは、部品を並べろ」


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