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鉄の矜持――損をして、得を取れ――  作者: 八雲 海


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第六話 メッキ職人

久保修《くぼおさむ》の工房は、川崎《かわさき》の工業地帯の片隅にあった。


 かつては数十軒あったメッキ工場も、廃液処理《はいえきしょり》の規制強化《きせいきょうか》とともに次々と姿を消し、今ではこの一軒だけが残っている。久保は、そこに一人で立っていた。


「宗吉《そうきち》」


 久保は、梶谷《かじたに》の姿を見ても、驚いた様子を見せなかった。


「バンパーとモールを頼みたい」


 それだけ言うと、久保は黙って作業台の奥を見た。液槽《えきそう》が並ぶ薬品臭い部屋の中、彼の視線は遠くを見ているようだった。


「息子は」


 久保は答えなかった。


 梶谷も、それ以上は聞かなかった。噂では、跡を継ぐはずだった息子が、ある日突然、会社員になると言い出したという。割に合わない、と。


 久保は、しばらく無言のまま、梶谷が持ってきた部品を手に取った。錆《さび》の浮いた真鍮《しんちゅう》の地金《じがね》を、指先で確かめるようになぞる。


「――どのくらい、光らせたい」


「元の通りだ」


「元の通り、か」


 久保は、小さく笑った。それとも、笑ったように見えただけかもしれなかった。


「昔は、それが当たり前だったんだがな」


 久保は部品を作業台に置き、槽《そう》の電源を入れた。低い唸《うな》り声を上げて、機械が動き出す。


 梶谷は、それ以上何も言わずに、工房を後にした。



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