第十話 それぞれの理由
作業が進むにつれ、七人の間に、少しずつ言葉が増えていった。
休憩の合間、菊田が煙草をふかしながら、誰に言うでもなく呟いた。
「昔はよ、この辺一帯、板金屋だらけだったんだ。今じゃ、俺一人だ」
誰も、それに答えなかった。答える必要もなかった。
*
久保は、メッキ槽の前で、静かに手を動かしていた。遥がふと尋ねた。
「息子さん、継がなかったんですか」
久保は、しばらく黙っていた。
「割に合わねえ仕事だ。継がせなくて、正解だったのかもしれねえ」
それだけ言うと、久保はまた作業に戻った。遥は、それ以上聞かなかった。
*
五十嵐は、旋盤の前で、震える手を見つめていた。
「若い頃はな、この手で、髪の毛一本の誤差も出さなかった」
平野が、隣で塗料を混ぜながら聞いていた。
「今は、どうなんですか」
「今も、出さねえよ。時間はかかるがな」
五十嵐は、そう言って、また旋盤に向き直った。
*
勝村は、工場の隅で、古いエンジン音の録音を繰り返し聞いていた。
「懐かしいのか」
梶谷が声をかけると、勝村は少し照れたように笑った。
「忘れたくなかったんです。この音」
七人それぞれが、それぞれの理由を抱えて、この場所に戻ってきていた。誰も、それを大げさに語ろうとはしなかった。ただ、手だけが、静かに動き続けていた。




