第十三話 遅刻する男
今井勉は時間にルーズな男だった。
「え〜もうこんな時間!昨夜飲みすぎたからなぁ……
ま、いっか。」
家を出たのは9時を回っていた。会社の始業時間は9時。
家から会社まで、徒歩と地下鉄で最低30分はかかる。
会社の近くのカフェでコーヒーを飲み、出社したのは10時を回っていた。
「遅れてすみません……」
「今井、今日で何回目だ。いい加減にしろ!」
課長の加藤が怒鳴った。
「課長、みんなの前で怒るのはパワハラですよ」
今井は悪びれもせず、言い返した。
「クッ……もういい、仕事しろ!」
席に着くと、取引先からの電話があった旨のメモが置いてあった。
用があるならまたかかってくるだろう、と丸めてゴミ箱に捨てた。
仕事の準備をしていると、スマホに今井の彼女、澤村和美からLINEが来た。デートの誘いだ。
「今度の土曜、朝10時。遊園地デートしよう。」
「うんわかった。楽しみにしてる。」
午後、メモの取引先から電話があった。
「先日の納品の件ですが、すみませんがキャンセルでお願いします。」
今井は、その納品のことをすっかり忘れていて、注文をしていなかった。
「わかりました。またよろしくお願いします。(やった、ラッキー)」
ガッツポーズをしている時、スマホに飲み会の誘いメールが来た。
「明日の金曜7時飲み会よろしく」
そして金曜の夜、今井はきっちり時間通り飲み会に参加した。
同僚と盛り上がり、その日は夜中まで、飲み続けた。
土曜朝10時。澤村和美は、遊園地で今井が来るのを待っていた。
その頃、今井は、
「うぅぅ、いてて……」
昨夜の飲みすぎで頭痛と吐き気に苦しんでいた。
約束の時間はとうに過ぎている。
和美が怒るのが目に見えているので、連絡を躊躇した。
どうしようか悩んでいると、和美から電話がかかってきた。
「ごめん、今井くん、今まで待ってたんだけど、お母さんが体調悪いから帰ってきて欲しいって連絡があったの、だから今日のデートは中止でお願い。」
「あ、そうなんだ。いいよ、お母さんお大事にね。(またまたラッキー。俺ってついてるよな)」
今井は、つくづく自分はなんて運のいい男だ、と思っていた。
週が明けて月曜日。今井は相変わらず遅刻した。
携帯の充電が切れていたが、会社で充電すれば良いやと、いつものようにコーヒーを飲み出社する。
信号待ちをしていると、時間に遅れていたバスが、猛スピードで走ってきた。
今井は足がすくんで動くことができなかったが、バスはすぐ横の電柱に衝突して止まった。
間一髪で、事故を避けられ、またしても自分はラッキーだと思った。
会社に30分遅れで出社したが、そこには誰もいなかった。
「あれ?今日休みなのかな。何も聞いてないけど。」
不思議に思いながらも、とりあえず自分の席についたその時だった。
爆音と共に今井のいたフロアが吹き飛び、今井の体は粉々に飛び散った。
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テレビのニュースで、インタビューを受けた社員は
「朝、元社員の逆恨みで、爆破予告があり、みんな避難したんです。今井くんに、電話したんですけど繋がらなくて……こんなことに……」
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「爆破予告で、社員全員避難。遅れてきた男性社員一名死亡」
とテロップに流れていた。




