第十四話 見えすぎる眼鏡
岩下弘美は視力が弱く、コンタクトではなくメガネをかけていた。
誤って落としたメガネを踏んでしまい、眼鏡屋を探していた。
大型店の横に、小さな店だが似合いそうなフレームがあったので入店すると、年配の婦人が出迎えてくれた。
「お嬢さん、何かお探しですか」
「あのショーケースにある眼鏡が欲しいんですけど」
「承知しました。今お持ちします」
婦人は眼鏡を弘美にかけると、
「とってもお似合いですよ」
と言った。
「じゃあ、これにします」
視力検査をし、合うレンズがあったので、すぐに使用することができた。
「このレンズは時々見え過ぎることがあるので気をつけてくださいね」
礼を言って店を出た。
――見え過ぎるってなんだろう?
不思議に思ったが、そのまま立ち去った。
眼鏡越しに見る人々は、なんだか様子が違って見えた。
――見え過ぎるってこういうことかな……
特に気にすることもなく、次の日仕事に出かけた。
会社では課長の出向が決まり、その後釜は誰になるかで盛り上がっていた。
弘美は係長の山本大輔なんじゃないかなと、何気なく山本に視線を向けた。
すると、課長のデスクに座っている山本の姿が眼鏡越しに見えた。
――え、なにこれ!
弘美は眼鏡を外して山本を見る。
係長のデスクに座っている。
かけたり外したりして山本を見る。
課長、係長。
――もしかしてこの眼鏡、未来が見える?
バッグに入れた眼鏡の説明書を読んだ。
◎この眼鏡は見たい人の数年後までの未来が見えます。
◎ただし、自分の未来は見えません。
◎強く願うとその未来に行くことができます。
弘美はもう一度、あの眼鏡屋を探したがどこにもなかった。
弘美は自分の未来を見たいと思ったが、見ることができない。
それじゃ、恋人の未来を見れば自分のことがわかるんじゃないか。
そう思い、恋人の妹尾潤一を電話で呼び出した。
「どうしたの、急に呼び出して」
「うん、なんだか会いたくなって」
弘美は眼鏡越しに潤一をじっと見つめた。
眼鏡の向こうの潤一は、茶髪の少しカールのかかった長い髪の女性と手を繋ぎ、仲良く歩いている。
弘美はショートで黒髪だ。
明らかに自分ではない。
「なんだよ、僕の顔に何かついてる?」
潤一はじっと見つめる弘美に、怪訝そうな顔で言った。
「う、うん。なんでもない」
――あの女は誰? 私じゃないわ。もしかして二股かけられてる?
「ねえ、私のこと愛してる?」
「当たり前じゃないか。愛してるよ。なんだよ今さら」
「だったらいいの」
次に会った時も、眼鏡の向こうで潤一はあの女とコーヒーを飲んでいる。
次の日も、また次の日も。
弘美は潤一と会うごとに、あの女の存在が頭から離れなくなっていった。
――もしかして今の私じゃ気に入らないのかな……。思い切って整形したらどうだろう。
そう思って、弘美は目をプチ整形した。
――鼻も少し高くしよう。
――唇もふっくら……
そうして弘美は次々と整形し、以前よりも綺麗になっていった。
しかし、未来の潤一は相変わらず茶髪の女と仲良くしている。
よく見ると、以前潤一にもらった指輪と同じ指輪をしている。
――これは……なぜ私と同じ指輪? 彼女にもあげたの?
――もう無理! 私の潤一を返してもらう!
ナイフを手に持つと、弘美は強く願った。
すると空間が歪み、未来へタイムスリップした。
女の前に現れた弘美は、勢いに任せその胸を突き刺した。
「私の潤一を取らないで!」
顔を上げると、そこには完全に整形を終えた自分がいた。
「あの指輪は……私……の……ゆ……び……わ……」
女に突き刺したナイフは自分の胸をも貫き、二人は一つになって息絶えた。




