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閲覧禁止フォルダ  作者: 影野 紡


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第十二話 雪山の小屋

俺はスノーモービルで雪山を走り回っていた。


前方に、小さな影が見えた。

五歳くらいの子供だ。


「危ない!」


慌ててハンドルを切り、俺は横転した。


雪を払いながら立ち上がり、子供に声をかける。


「お父さんとお母さんは? どこから来たんだ?」


子供は何も言わず、ただ雪山の奥を指差した。


こんな場所に一人でいるなんておかしい。

放っておくわけにもいかず、俺はその子を連れて帰ることにした。


だが――


スノーモービルは、何度エンジンをかけても動かなかった。


辺りはすでに薄暗くなり始めている。


どうしたものかと見回すと、雪の向こうに小屋が見えた。


「……仕方ない。今日はあそこだな」


そう呟き、歩き出す。


だが、近くに見えたはずの小屋は、なぜか遠かった。


まるで空間が歪んでいるかのように、歩いても歩いても辿り着かない。


振り返っても、スノーモービルの姿はすでに見えなくなっていた。


ようやく辿り着いた頃には、日は完全に落ちていた。


小屋には灯りがついていた。


中に入ると、かまどには薪がくべられ、スープの匂いが漂っている。

テーブルにはパンが置かれていた。


朝から何も食べていない俺の腹が鳴る。


だが、勝手に食べるわけにはいかない。


ふと見ると、子供はいつの間にかベッドで眠っていた。


その時――


扉の外で、音がした。


次の瞬間、吹雪とともに女が入ってきた。


銀色に輝く髪。

透き通るような白い肌。

真っ白な着物。


その美しさに、息を呑む。


同時に吹き込んだ風で、かまどの火が消えた。


「すみません、道に迷って……勝手にお邪魔しました。明日の朝まで休ませてもらえませんか」


女は、やわらかく微笑んだ。


「ええ、どうぞ。ゆっくり休んでいってください」


そして子供を見て、言った。


「あら、“雪”も帰っていたのね」


「うん、新しいパパ連れてきたよ」


いつの間にか目を覚ましていた子供が言った。


その言葉に、一瞬だけ違和感が走った。


だが俺は気にせず、ほっと息をついた。


「あなたのお子さんだったんですか。よかった……」


女は微笑んだまま、静かに頷く。


「ええ」


「よかったら、スープとパンをどうぞ」


テーブルには三人分の食器が用意されていた。

椅子も三人分。まるで俺が来ることを知っていたかのように。


見ると、スープはすっかり冷めていた。


さっきまでかまどに火がついていたはずなのに、触れるのも躊躇うほど冷えきっている。


一瞬だけ奇妙に思ったが、猛烈な空腹には勝てなかった。


俺はそれを一気にかき込んだ。


その瞬間、味覚が消えた。

喉から腹にかけて、冷たい何かが落ちていく。


――そして、記憶が途切れた。



朝日で目が覚めた。


体を伸ばそうとして――気づく。


動かない。


指も、首も、何もかも。


(なんだ……これ……)


そのとき、体がふわりと浮いた。


昨夜の女が、俺を持ち上げている。


視線だけを動かし、周囲を見る。


小屋の外――


そこには、氷の彫像が並んでいた。


人の形をした、無数の氷の像。


「ママ! またパパが一人増えたね!」


昨日の子供がはしゃいでいる。


俺は理解した。


(……俺も、あれになるのか)


女は俺を外へ運び、彫像の列に並べた。


そのとき気づく。


彫像たちの目が、動いている。


全員、生きている。


意識だけが残されたまま、氷に閉じ込められている。


「やめろ……助けてくれ……!」


叫ぼうとするが、声は出ない。


ただ見えるだけ。

感じるだけ。

動けないまま。


冷たさだけが、永遠に続く。



雪山で子供を見つけても、連れて行ってはいけない。


どんなに腹が減っていても、

スープには手をつけるな。


今日もまたひとつ――


彫像が増えた。


「このパパ、いらない」


「そう」


女は静かに頷くと、躊躇なく斧を振り下ろした。


鈍い音。


彫像は砕け、白い雪の上に赤が広がる。


飛び散った血が、女の銀色の髪と白い着物を静かに染めていく。


白と赤の対比が、女の美しさを際立たせていた。


その横で、子供が楽しそうにはしゃいでいる。


砕けた顔の目だけが――見開いたまま、こちらを見ていた。


俺は目を閉じることもできず、

ただ次に呼ばれるのを待っていた。


――次は、あなたの番かもしれない。


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