第十一話 「当選おめでとうございます」
最初に届いたとき、ただの迷惑メールだと思った。
「当選おめでとうございます」
反射的に削除しようとして、指が止まる。
通知の下に、見慣れた名前が一瞬だけ表示された気がした。
気のせいだと思い、そのまま消した。
——翌日。
後輩が笑いながらスマホを見せてきた。
「先輩、これ見てくださいよ」
画面には同じメール。
「当選おめでとうございます」
「こういうの、まだ来るんすね」
「開いたのか?」
何気なく聞いたつもりだったのに、声が少しだけ硬くなる。
「いや、気になって。なんか当選者一覧みたいなのあって——」
嫌な感じがした。
「……開くなよ、そういうの」
「大丈夫っすよ、ただの迷惑メールですって」
後輩は笑って、画面を閉じた。
——その翌日。
ニュース速報。
○○駅で人身事故。
画面に映った靴に、見覚えがあった。
同僚が小さく呟く。
「……昨日の後輩らしい」
喉の奥がひりついた。
あのメールを、開いたからじゃないか。
そんな考えが、頭から離れなくなる。
⸻
数日後、今度は彼女のスマホが鳴った。
「なにこれ」
軽い声。
嫌な予感がして、思わず手を伸ばす。
「開くな」
「え?」
「それ、開くな」
自分でも驚くほど強い声だった。
彼女は一瞬だけ戸惑い、それから苦笑する。
「大げさだよ。迷惑メールでしょ?」
止める間もなく、画面に触れる。
——開いた。
その瞬間、何かが終わった気がした。
「ほら、何も——」
彼女は言いかけて、首を傾げた。
「変なの。名前とかいっぱい並んでる」
胸の奥が冷たくなる。
「閉じろ。今すぐ」
「はいはい」
彼女は軽く笑って、スマホを置いた。
⸻
その翌日。
彼女は死んだ。
部屋に侵入してきた男に、刺された。
ニュースは「ストーカー被害の末」と伝えていた。
画面の中の言葉が、やけに現実離れして見えた。
違う。
あれを開いたからだ。
そうとしか思えなかった。
⸻
スマホが震える。
「当選おめでとうございます」
息が止まりそうになる。
開かない。
絶対に開かない。
震える指で、そのまま削除した。
——数分後。
また届く。
削除。
また届く。
削除。
何度消しても、消えない。
まるで、こちらが開くのを待っているみたいに。
⸻
夜。
通知音が鳴るたび、心臓が跳ねる。
見ない。開かない。
それだけでいいはずなのに、指が勝手に画面へ伸びる。
削除しようと、タップする。
——そのはずだった。
画面が、開いた。
⸻
「当選おめでとうございます」
白い画面。
黒い文字。
そして、その下に並ぶ名前。
スクロールする間もなかった。
⸻
外に逃げた。
意味もなく走る。
とにかく、ここから離れたかった。
息が切れ、ビルの前で立ち止まる。
その瞬間。
上から、風を切る音。
反射的に見上げた。
人影。
——落ちてくる。
避ける暇もなかった。
⸻
鈍い衝撃。
視界が歪む。
地面に倒れ込む中、すぐ横に転がったものが目に入る。
落ちてきた人間のスマホ。
画面が、開いたままになっていた。
そこに表示されていたのは——
「当選おめでとうございます」




