第十話 死のパック
今度入ってきた新入社員は、見た目があまり良くなくて、つい、いじってしまった。
「あんまりいい化粧品使ってないんじゃない? 私の貸してあげようかw」
新入社員ということもあり、先輩の私には何も言い返せないらしい。
もじもじしながら、その場を去っていった。
それから数日が過ぎ、化粧品のお店がスマホのおすすめに出てきた。
暗めの画面でよく見えなかったんだけど、興味があったのでのぞいてみることにした。
そこは狭い路地を入ったところにある、気を付けて見なければ通り過ぎてしまいそうな小さな店だった。
店内は暗く、化粧品店というよりは、占いの館のような雰囲気だった。
紫色の壁に、黒いレースで飾り付けがしてある。
店内を見渡している時、ドアの向こうに新入社員の姿を見たような気がした。
たぶん見間違いだろう。すぐに気を取り直した。
化粧品の種類は少なく、パックと乳液、化粧水の三種類だけだ。
店主は四十歳くらいの、美人だがどこか影のある、暗い雰囲気をまとっている。
「お嬢さん、何かお探しですか」
「いえ、特にこれといったものはないんですけど、おすすめに出てきたので……」
「これなんかいかがでしょう。美白と潤いの二つの効果があるんですよ。日差しの強い季節になりましたから、おすすめです」
店主はそう言い、さらに続けた。
「あら、A社にお勤めなんですね。いとこも今年入社したんですよ」
手に持っていた、社名の入った封筒を見てそう言った。
私は特に気にすることもなく、聞き流した。
そして店主はパックを手に取り、勧めてきた。
ちょうどパックを切らしていたこともあり、購入することにした。
「これはとても効果があるので、一週間に一回の用法用量を必ず守っていただきたいんです。そうでないと、効きすぎて大変なことになりますので」
たかがパックなのに、ちょっと大袈裟じゃない?
――まあ、大丈夫でしょ。
さっそく家に帰って使ってみると、素晴らしい。
ずっと治らなかったニキビが、一晩で綺麗になっている。
それになんだか、美白効果もあるみたいだ。
店主の言った通りだわ。
次の週もパックする。
今度は産毛も綺麗になくなっている。
一週間に一回って言ってたけど、回数を増やせばもっと綺麗になるんじゃないかしら。
三日後に使ってみた。
肌が透き通るように綺麗だ。
また三日後。
「ん?」
もっと透き通るように、血管が透けて見えている。
ちょっと使いすぎたのかしら。
やめた方がいいかも。
でも、そう思うのは遅すぎた。
パックをしていないのに、皮膚が薄く剥がれてくる。
怖くなって、買った店に行った。
「お客様、用法用量を守らなかったんですね。これはもう、何をしても治りませんよ」
――そんな。
次の日、洗顔後に顔を拭くと、タオルに細かい毛が付いている。
鏡を見ると、眉毛がなくなっていた。
その次の日には、まつ毛が……。
また次の日……。
目が痒くて擦ると、ぐちゃっと音がして、指に何かがくっついてきた。
「きゃぁぁぁ!」
なんということだ。
指にくっついてきたのは、瞼の皮だった。
瞼が取れて、目玉が剥き出しになってしまっている。
あまりの恐怖に顔を覆う。
ずるっ。
ずるずる……。
手のひらが、顔の皮膚を剥がしていく。
鼻がもげ、唇がなくなり、歯が剥き出しに――。
顔の皮膚が剥がれ落ち、人体模型のような筋肉だけの顔になる――。
叫ぼうにも口がない。
息は鼻から、口から漏れていく。
だが、不思議なことに痛みはない。
何故こんなことになった……。
何故、突然おすすめに出てきた。
こんな化粧品を勧めた店主が悪いのか。
用法用量を守らなかった私が悪いのか。
自業自得なのか……。
その時、チャイムが鳴った。
ドアホンに映ったのは、あの新入社員だった。
返事をしようにも、喋ることができない。
画面の向こうで何か喋っている。
「先輩、いとこが先輩のために特別にアレンジした化粧品、どうでしたか? 効き目ありました?」
笑い声と共に、新入社員は去っていった。
あの時、店主が言っていた「いとこ」は彼女だったのか……。
まんまと罠にはまってしまった。
私は、まるで地獄の底で叫ぶ亡者のように、喉の奥から絞り出すような呻き声をあげた。
――この先、瞬きも、喋ることもできない。
このまま生きる屍になれというのか。
新入社員をいじった代償は、あまりにも残酷だった。
そして、その復讐は見事に成功した。




