表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
核紋が空の最弱冒険者、魔物を喰らって全属性で成り上がる  作者: 景都 (けいと)


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
46/67

#46 16Fへの準備

訓練場の天井が、近い。


 カイトは風属性を全開にして宙に浮いていた。

 ギルド地下の訓練用空洞——高さ三十メートルの石造りのドームが、飛行能力を得た今では窮屈に感じる。


「高度を下げなさい。天井にぶつかるわよ」


 ソフィアの声が下から飛んでくる。

 カイトは風の出力を絞り、ゆっくりと降下した。


「わかってる。まだ微調整が甘いんだ」


「甘いなんてもんじゃないでしょ。昨日は訓練場の壁に穴を開けたのよ」


「あれは事故だ」


「事故で壁に穴を開けるな」


 ソフィアが腰に手を当てて睨んでいる。

 カイトは肩をすくめて地面に降り立った。


 風B級を喰ってから五日が経つ。

 飛行そのものは安定してきたが、戦闘中の機動はまだ粗い。

 急旋回すると風の出力が乱れ、加速しすぎて止まれなくなる。


「問題は同時発動だ」


 カイトは右手に炎を、左手に風を灯した。

 二つの属性が掌の上で渦を巻く。


「炎と風は相性がいい。だが——」


 両手を合わせた瞬間、火炎が爆発的に膨張した。

 訓練場の空気が一瞬で灼熱に変わる。


「っ——」


 ソフィアが水の壁を張って熱波を遮断した。


「だからそれ、制御できてないのよ」


「今のはわざとだ」


「嘘つきなさい」


 カイトは舌を打った。

 二属性の同時発動は核紋への負荷が段違いに大きい。

 体内で二つの属性が衝突し、制御に意識の大半を持っていかれる。


 三属性以上は論外だ。

 試しに炎・風・地を同時に発動しようとしたら、全身の核紋が悲鳴を上げて意識が飛びかけた。


「二つまでだな。それ以上は体が持たない」


「制限を把握できたのは収穫よ。問題はその二つをどう組み合わせるか」


 エルザが訓練場の入口に立っていた。

 いつの間にか来ていたらしい。

 手にはメモ帳と羽ペン。


「組み合わせの相性を整理したわ」


 エルザがメモを広げた。


「炎と風。攻撃力は最大。火炎の範囲と温度が跳ね上がる。ただし制御が最も難しい」


「さっき体験した」


「水と地。防御の組み合わせ。水の結界に地の壁を重ねれば、ほぼ全属性を遮断できる。ただし攻撃力はゼロ」


「守るだけじゃ勝てない」


「風と地。機動力と防御。飛行しながら岩壁を射出できる。バランス型」


「それだ」


「そう単純じゃないわ。16F以降の敵の情報がないの。どの組み合わせが有効かは行ってみないとわからない」


 マルクが訓練場に駆け込んできた。

 息を切らしている。


「おい、ギルドの掲示板見たか」


「何だ」


「16F以降の探索に関する告知が出てる。来いよ」


* * *


 ギルド本部のロビー。

 掲示板の前に冒険者たちが群がっていた。


 カイトは人垣を押しのけて張り紙を読んだ。


『告知:16F以降の探索について

 星淵の迷宮16F以降は未踏破区域に該当します。

 当該区域の魔物・環境に関するギルドの情報は存在しません。

 探索を行う場合は自己責任とし、ギルドは一切の救援を保証しません。

 推奨ランク:金級以上

 推奨パーティ人数:6名以上

 ——迷宮都市カスカーラ冒険者ギルド本部』


「金級以上で6人以上か」


 マルクが腕を組んだ。


「俺たちは四人だぞ。しかもカイトは銀級、俺とエルザはまだ銅だ」


「推奨は推奨だ。義務じゃない」


「義務じゃなくても根拠はあるでしょ。未踏破区域の環境すら不明なのよ」


 エルザが冷静に指摘する。


 カイトは張り紙をもう一度読んだ。

 推奨金級以上。

 自分はまだ銀級だ。


 だが、銀級で15Fボスを二度倒している。

 金級のヴェルナーのパーティが全滅しかけた結晶竜を、自分たちは攻略した。


 ランクと実力は一致しない。

 それはもう証明済みだ。


「行くぞ」


「聞く前から答えはわかってたけどね」


 マルクが肩をすくめた。


「装備を見直す。三日くれ」


 ソフィアが言った。


「カイトの短剣は刃こぼれがひどいし、マルクの盾も限界よ。星脈鉄の装備を錬金通りで注文する。あと、水と食料を多めに。16F以降にどれだけ滞在するかわからないから」


「三日もかかるのか」


「あんたは三日間、飛行の精度を上げなさい。今の制御じゃ戦闘中に壁にぶつかって自滅するわよ」


 反論できなかった。

 ソフィアの言うことは大抵正しい。認めるのは癪だが、事実だ。


* * *


 三日間の準備期間。


 カイトは訓練場に籠もった。

 朝から晩まで飛行訓練を繰り返す。


 直線飛行。急停止。急旋回。上昇と降下の切り替え。

 一つ一つの動作を体に叩き込んでいく。


 二日目の午後。

 飛行しながら炎属性を発動する訓練に入った。


 高度10メートルから急降下しながら、右手に炎を集中させる。

 地面に叩きつける直前で風属性に切り替え、上昇に転じる。

 その切り替えの一瞬——0.5秒の空白が生まれる。


「遅い。属性の切り替えに時間がかかりすぎてる」


 ソフィアが地上から声を飛ばした。


「わかってる」


 カイトは歯を食いしばった。

 属性を切り替えるとき、体内の核紋が一度リセットされる感覚がある。

 炎を消して風を起こす。その間に意識が途切れる。


 何度も繰り返した。

 炎。風。炎。風。

 切り替えの間隔を縮めていく。


 三日目の夕方。


 カイトは高度15メートルで静止していた。

 右手に炎。左手に風。

 二つの属性を同時に発動し、ゆっくりと両手を近づける。


 炎が風に乗った。

 渦を巻いて回転する火炎の柱が、カイトの両手の間に生まれた。


 火炎の渦。


 炎の温度が風の回転で増幅され、通常の三倍の熱量を持つ旋風に変わる。

 訓練場の石壁が赤熱し、空気が歪んだ。


「……いけるな」


 カイトは火炎の渦を壁に向けて放った。

 赤い旋風が石壁を抉り、直径1メートルの穴を穿つ。


「また壁に穴開けた!」


 マルクが叫んだ。


「今度はわざとだ」


「壁の修理費、カイトの報酬から天引きするからね」


 ソフィアが冷たく言った。

 マルクが爆笑し、エルザが溜息をついた。


 カイトは地面に降り立ち、掌を見た。

 核紋が脈動している。二属性の同時発動の感覚が体に馴染み始めていた。


 ソフィアが近づいてきた。

 カイトの右腕を取り、石化痕を確認する。


「石化は進行してない。核紋の負荷も許容範囲ね」


「ああ。二つまでなら戦える」


「過信しないで。16Fの敵がどんな力を使うかわからないのよ」


「わかってる」


 カイトは訓練場の出口に目を向けた。

 その先にギルドのロビーがある。

 掲示板に貼られた、あの張り紙が見える。


 推奨金級以上。


「推奨なんざ知るかよ」


 ソフィアが溜息をついた。


「知ってたわよ、そう言うって」


 カイトの口元がわずかに上がった。

 銀のプレートが訓練場の灯りを反射して、鈍く光っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ