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核紋が空の最弱冒険者、魔物を喰らって全属性で成り上がる  作者: 景都 (けいと)


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#23 紫の瞳

ストーンゴーレムの拳が空を切った。


 マルクの風矢が関節の隙間に突き刺さり、岩の腕が一瞬止まる。


「今だ!」


 カイトが飛び込んだ。

 怪力を込めた拳が、矢で抉れた関節に叩き込まれる。


 亀裂が走った。


 前回は傷一つつけられなかった岩壁に、確かな罅が入る。

 マルクの矢が隙間を作り、カイトの拳がそこを砕く。


「エルザ!」


「わかってる」


 エルザの杖から炎の矢が放たれた。

 D級の炎が亀裂に入り込み、内部から岩を焼く。

 熱膨張で亀裂が広がった。


 ソフィアの水流が続く。

 焼けた岩に冷水を浴びせ、急冷による脆化を引き起こす。


 ストーンゴーレムの右腕が崩壊した。

 岩の破片が床に散乱し、結晶を砕く。


「もう片腕!」


 マルクが二の矢を放った。

 左肘の関節に命中。

 カイトが突進し、同じ手順で拳を叩き込む。


 二つ目の腕が落ちた。


 腕を失ったストーンゴーレムは、胴体から結晶の光を放ちながらよろめいた。

 核紋が不安定になっている。


 カイトは核紋の欠片を見た。

 地属性。おそらくC級。


 喰うか。


 一瞬、迷った。

 だが今の自分には地E級しかない。

 C級を喰えば怪力が格段に上がる。


「喰わない」


 声に出して決めた。


「まだ早い。体が持つかわからない」


 エルザが目を細めた。

 何かを書き留めたそうな表情だったが、黙っていた。


 ストーンゴーレムは核紋の欠片を残して崩れ落ちた。

 欠片の光は数十秒で消散した。


「初めてだ。四人で倒した」


 マルクが額の汗を拭った。


「面白い。また来ようぜ」


 カイトは散乱した岩の破片を見下ろした。

 二人では撤退するしかなかった相手を、四人なら倒せる。

 連携の力がここまで差を生むのかと、改めて実感した。


「二体目がいるわ。奥の通路」


 エルザが杖を結晶壁に向けた。

 壁面の振動が微かに伝わってきている。


「行こう。同じ手順だ」


 カイトが先行し、マルクが弓弦に手をかけて続く。

 ソフィアが後衛の位置につき、エルザが杖を構えた。


 結晶の通路を進むと、壁面に大きな影が見えた。

 二体目のストーンゴーレムが、結晶に擬態して待ち構えている。


「マルク」


「見えてる」


 風矢が唸りを上げて飛んだ。

 関節の隙間を正確に射抜く。

 カイトが走り込み、拳を叩き込む。

 エルザの炎、ソフィアの水。


 同じ手順が、同じ精度で繰り返された。


 二体目のストーンゴーレムが崩壊するまで、十分もかからなかった。


「効率が全然違うわね」


 ソフィアが息をつきながら言った。


「三体目もいけるだろ」


「今日はここまで。矢の消費を考えると、一日に相手できるのは二体が限度よ」


 エルザの冷静な判断に、マルクが苦笑した。


「相変わらずお堅いなぁ」


「堅いんじゃなくて正確なの」


* * *


 夕方の「銅の角杯」は、いつもより賑わっていた。


 四人はカウンター近くのテーブルに陣取った。

 エールとチーズと干し肉。

 初の四人攻略の打ち上げだ。


「11Fが三時間で回れるようになったわ。二人の時は一体倒すだけで半日かかったのに」


 ソフィアがエールを傾けながら言った。


「マルクの風矢が鍵だったな。関節を射抜ける弓手がいるだけで、全然違う」


「照れるぜ」


「照れるな。事実を言ってるだけだ」


「そこが照れるんだよ」


 エルザが手帳を開いて書き込んでいる。


「ストーンゴーレムの岩盤硬度は地C級相当。ただし関節部はD級まで低下する。マルクの風矢による物理的破砕と私の炎による熱膨張、ソフィアの水による急冷——三段階の脆化プロセスが有効。理論通りの結果ね」


「エルザ、飲めよ。打ち上げだぞ」


「記録が先。記憶は劣化するけど記録は劣化しない」


 カイトは干し肉を齧りながら、酒場を見回した。

 冒険者たちの喧噪。

 笑い声と怒号と、杯を打ち合わせる音。


 こういう空気は嫌いじゃない。

 スラムにはなかった温度だ。


「次は12Fだな。ワイバーンがいる空域だって聞いた」


「飛ぶ敵か。弓手の出番だな」


「マルクの風矢がどこまで届くか。理論上、風属性の補助があれば百メートルは射程圏内よ」


「理論上ね。実際は風向きと湿度で変わるぜ」


「だから実証するのよ。明日」


 カイトの背筋に、ぞわりとした感覚が走った。


 話が途切れた。

 エールのジョッキが口元で止まる。


 見られている。


 カイトは首を回した。

 酒場の奥、壁際の暗い席。


 貴族風の女が座っていた。


 黒の上着に銀の刺繍。

 長い銀の髪が肩を流れ、手には銀のワイングラス。

 隣に黒髪の青年が座り、二人で何かを低く話していた。


 女の瞳が、紫だった。


 一瞬、金色に光った。


 気がした、だけかもしれない。

 結晶の反射か、酒場のランプの揺らぎか。


 だが核紋が反応した。

 体の奥で、四つの属性が微かに震えた。


 あの目。

 何かを見ている。


「知り合い?」


 ソフィアが視線の先を追った。


「いや。でもあの目……何か見られた気がした」


「あの人、貴族でしょ。こんな酒場にいるのが珍しいだけよ」


 マルクが首を伸ばした。


「やけに綺麗な女だな。あの隣の男は護衛か?」


「知らない」


 カイトは視線を戻した。


 紫の瞳の女は、すでに隣の黒髪の青年に何かを耳打ちしていた。

 こちらを見ていない。


 核紋が空の自分を鑑定しても、普通は何も映らない。

 だったら、気のせいだ。


「……ま、いいか」


 エールを飲み直した。

 冷たい液体が喉を通る。


 ソフィアが隣でエルザと明日の作戦を話し始めた。

 マルクが串焼きを追加で頼んでいる。


 カイトはもう一度だけ、奥の席を見た。


 紫の瞳の女は、ワイングラスを傾けて微笑んでいた。

 隣の黒髪の青年が低い声で何かを言い、女が小さく頷く。


 二人の会話の内容は聞こえない。

 酒場の喧噪が壁になっている。


 だがあの瞳の光り方は、ランプの揺らぎではなかった。

 カイトの核紋喰いが反応した以上、あの女は何らかの力を使った。


 何を見た。

 俺の何が見えた。


 その問いに答えは出ない。

 紫の瞳の女は、もうこちらを見ていなかった。


* * *


 酒場を出ると、夜風が冷たかった。


 星が出ている。

 迷宮都市カスカーラの夜空は、海からの湿った風が雲を運ぶから、星が見えるのは珍しい。


「明日は12Fだ」


 カイトは仲間たちに言った。


「ワイバーンの空域。飛ぶ敵は初めてだ」


「弓の出番だな」


「炎で焼き落とすのも有効なはずよ」


「私は回復に専念する。四人の命を預かってるんだから」


 カイトは頷いた。


 体の奥で、核紋が微かに脈動している。

 闇と水と地と炎。

 四つの属性が、まだ見ぬ深層の気配に反応していた。


 鉄のプレートが夜風に冷たく光った。

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