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核紋が空の最弱冒険者、魔物を喰らって全属性で成り上がる  作者: 景都 (けいと)


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#21 上級エリア

結晶が、光っていた。


 壁面を埋め尽くす六角柱の結晶群が、淡い蒼光を放っている。

 天井から垂れ下がる鍾乳石にも結晶が絡みつき、洞窟全体が万華鏡のように輝いていた。


 11F、上級エリア。


 カイトは結晶の光に目を細めた。


「暗視が効かない」


 正確には、効きすぎている。

 闇F級の暗視は暗闘でこそ真価を発揮する。

 だが結晶の反射光が四方八方から飛び込み、視界が白く焼ける。

 光が多すぎて、逆に死角が生まれていた。


「上級エリアって、こういうことなのね」


 ソフィアが剣の柄に手を置いたまま、周囲を見回した。

 結晶の光が彼女のプラチナブロンドに反射して、髪が蒼く染まっている。


「綺麗だが、戦いにくい」


「同感よ。これだけ光源があると、影が読めない」


 カイトは短剣を抜いた。

 結晶の壁面に映る自分の姿が、何十にも分裂して見える。


 鉄級のプレートが鎖骨の上で揺れた。

 10Fのボスを倒して昇格したばかりだ。


 11Fは推奨ランク「鉄〜銀」。

 鉄級の下限で挑むには、正直なところ無謀に近い。


「ソフィア、足元の振動に集中してくれ。暗視より振動のほうが頼りになる」


 言い終わらなかった。


 右の結晶壁が、爆ぜた。


 岩と結晶の破片が飛び散り、カイトは咄嗟に腕で顔を庇った。

 鱗状の薄膜が破片を弾く。


 壁の中から、巨大な腕が突き出ていた。


 ストーンゴーレム。


 全身が岩石で構成された人型の魔物。

 体高は三メートル近い。

 結晶の壁面と同じ色を纏い、完全に擬態していた。


「くそっ、見えなかった!」


 カイトは後方に跳んだ。

 ストーンゴーレムの右腕が振り下ろされ、床の岩盤が陥没した。


 衝撃波が足元を揺らす。

 結晶の欠片が舞い上がった。


「カイト、正面から殴り合っちゃ駄目!」


「わかってる!」


 だが、わかっていることと対処できることは違う。


 ストーンゴーレムが左腕を横薙ぎに振った。

 カイトは身を沈めて避けたが、腕が結晶壁を粉砕し、破片の嵐が背中に叩きつけられた。


 立ち上がる。

 怪力を右拳に込め、ストーンゴーレムの脚に叩き込んだ。


 衝撃が腕を伝って肩に走る。

 鈍い音が響いた。


 ——亀裂すら入っていない。


「嘘だろ」


 カイトの地属性はE級。

 ストーンゴーレムの岩は、少なくともC級以上の硬度だ。

 怪力同士の衝突で、完全に力負けしている。


 ストーンゴーレムの右腕が、再び振り上げられた。

 今度は真上から。

 避けなければ潰される。


 カイトは横に転がった。

 岩の拳が床を叩き、洞窟全体が揺れる。

 天井から結晶の鍾乳石が落ちてきた。


「地E級じゃ、こいつの岩拳には勝てない……!」


 ソフィアが駆け寄った。

 水属性の魔力が掌に集まる。


「関節を狙う! カイト、引きつけて!」


「やれ!」


 カイトはストーンゴーレムの正面に立った。

 短剣を構え、視線を固定する。

 岩の巨体が腕を振り上げた瞬間——水が走った。


 ソフィアの水流が、ゴーレムの右肘の関節に叩きつけられた。


 水が隙間に浸透する。

 ソフィアは両手を合わせ、水温を急速に下げた。


 凍結。


 岩の関節に入り込んだ水が凍りつき、接合部が固まる。

 ストーンゴーレムの右腕が、振り下ろしの途中で止まった。


「効いてる! 左も!」


 ソフィアが左肘にも水流を送り込む。

 凍結が広がり、左腕も動きが鈍くなる。


 だがストーンゴーレムの胸が赤く光った。


 内部の核紋が熱を放ち、凍結を溶かし始める。


「長くは持たない。撤退するわよ!」


「……ああ」


 カイトは歯を食いしばった。

 逃げるのは嫌いだ。

 だが、勝てない戦いに固執するのは馬鹿のやることだと、2Fの洗礼で骨身に沁みた。


 二人は結晶の通路を走った。

 背後でストーンゴーレムが凍結を振りほどく轟音が反響する。


 追ってこなかった。

 テリトリーの外には出ないらしい。


 通路の角を曲がったところで、カイトは壁に手をついた。

 息が荒い。

 右拳の骨が軋んでいる。


「拳を見せなさい」


 ソフィアがカイトの右手を取った。

 水属性の治癒が傷口に流れ込む。

 皮膚の裂け目が塞がっていく。


「岩を殴るのはもうやめて。短剣が弾かれるのは仕方ないけど、素手で打ち合うのは自殺行為よ」


「他に手がなかった」


「だから撤退したの。わかってるでしょ」


 カイトは黙った。

 わかっている。

 あの場で踏みとどまっていたら、右手だけでは済まなかった。


 ソフィアの治癒で出血は止まったが、骨の軋みは残っている。

 地E級の怪力で、C級の岩を殴った代償だ。


* * *


 11Fの入口まで戻ったカイトは、壁に背を預けて座り込んだ。


 右拳の皮が裂けている。

 岩を殴った代償だ。


 ソフィアが隣に座り、治癒の水をカイトの拳に流した。


「怪力が通じなかった」


「岩のC級以上よ。地E級で砕けるわけがない」


「……わかってる」


 カイトは天井を見上げた。

 結晶の蒼光が、遠くに輝いている。


「それに暗視も使えない。光が多すぎて、死角だらけだ」


「あんたの強みが二つ潰されてるのよ。怪力と暗視、どっちも11Fでは通用しない」


 ソフィアの言い方は容赦がない。

 だが事実だから反論できなかった。


「水流の凍結は効いた。でも私一人じゃ攻守が回らない。取り巻きが来たら治癒もできなくなるわ」


 カイトは黙って拳を握った。

 痛みが走る。


 10Fまでは二人でやれた。

 ソフィアの水属性とカイトの体術。

 暗視で索敵し、怪力で殴り、ソフィアが治癒する。


 だが11Fは次元が違う。

 環境が変わり、敵のランクが上がった。

 二人だけの連携では穴が多すぎる。


「……足りねぇな」


 カイトの声は低かった。


「俺もお前も足りない。遠距離攻撃がない。索敵が安定しない。火力も防御も一段足りない」


 ソフィアは治癒を続けながら、静かに言った。


「弓手か魔法使い。もう一人、仲間がいれば変わるかもしれない」


 カイトはソフィアの横顔を見た。


「お前が言うなら、そうなんだろうな」


「何よ、その言い方」


「俺は仲間を増やすのが得意じゃない。お前に任せる」


「あのね。パーティリーダーは誰よ」


「……俺か」


「そうでしょ。だったらリーダーが声をかけなさい」


 カイトは溜息をついた。


 結晶の光が遠くで明滅している。

 あの奥に、まだ見ぬ階層が広がっている。


 一人では行けない。

 二人でも足りない。

 なら、三人目を。四人目を。


 立ち上がった。

 右拳の傷はまだ塞がっていないが、足は動く。


「ギルドに戻るぞ。酒場で仲間を探す」


「やっと言ったわね」


 ソフィアが立ち上がり、髪の埃を払った。


 11Fの結晶洞窟が背後で光り続けている。

 美しくて、手が届かない。


 今は、まだ。

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