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核紋が空の最弱冒険者、魔物を喰らって全属性で成り上がる  作者: 景都 (けいと)


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19/25

#19 炎竜ヴァルカン

水路に飛び込んだ。


 冷たい水が全身を包む。

 鱗状の薄膜が肌を覆い、水圧を弾く。

 暗視が水中の岩壁を照らし出す。


 カイトは水路を泳いだ。

 二日前に覚えた道。

 左へ。下へ。水平。


 心臓が速い。

 水の中なのに、汗をかいている気がする。


 三分で湖底に出た。

 上を見る。

 溶岩の赤い光がゆらゆら揺れている。

 その向こうに、巨大な影。


 ヴァルカンは寝ている。


 カイトは湖底を這うように進んだ。

 岩盤の窪みに身を隠しながら、島の真下へ。


 振動が伝わる。

 鼓動。

 炎竜の心臓の音。


 目標地点に着いた。

 島の東側。翼の付け根から三メートルの位置。

 岩盤の薄い箇所。


 カイトは水中で拳を握った。

 怪力が腕に集まる。

 筋繊維が軋む。


 頭上で、ソフィアが待っている。

 溶岩の湖を迂回して島の西側の岩棚に陣取り、水の結界を準備しているはずだ。


 合図はない。

 タイミングはカイトが決める。


 一呼吸。


 拳を岩盤に叩きつけた。


 轟音。

 岩盤が砕け、破片が水中に沈む。

 熱波が穴から噴き出した。

 溶岩の層を突き抜けた拳が、地上の空気を掴む。


 カイトは穴から飛び出した。


 着地。

 暗視が炎竜を捉える。


 近い。

 翼の付け根が——目の前。


 ヴァルカンの瞳が開いた。

 縦に裂けた金の瞳が、カイトを映す。


 遅い。


 カイトは怪力の全力を右拳に込めた。

 踏み込む。

 全体重を乗せた拳が、翼の付け根の関節に突き刺さった。


 骨が砕ける感触。

 違う——砕けていない。

 鱗が硬すぎる。

 拳の皮が裂け、血が飛んだ。


 だが衝撃は通った。

 ヴァルカンが咆哮した。


 空洞が震えた。

 天井から岩が落ちる。

 溶岩の湖が波立つ。


 ヴァルカンの首が旋回した。

 口腔の奥で炎が渦巻く。

 ブレスが来る。


「ソフィア!」


 西側の岩棚から水の壁が飛んだ。

 ソフィアの全力。

 B級の水属性が形成した水の結界が、ブレスの射線に割り込む。


 炎と水が衝突した。


 蒸気爆発。

 視界が白に染まる。

 熱風がカイトの肌を焼いた。

 腕の毛が焦げる。


 だがブレスは逸れた。

 溶岩の湖に着弾し、赤い飛沫が噴き上がる。


「30秒持たせろ!」


 カイトは島の縁から水路に飛び込んだ。

 冷たい水が焼けた肌を冷やす。

 水中呼吸で息を整え、暗視で上を見る。


 ヴァルカンが翼を広げようとしていた。

 右翼は——動く。

 さっきの一撃は足りなかった。


「くそっ」


 水中で歯を食いしばる。

 地E級の怪力では、C級の鱗を砕けない。


 だが関節にダメージは入っている。

 動きが鈍い。

 もう一撃。同じ場所に。


 カイトは湖底を泳ぎ、島の反対側に回り込んだ。

 十秒。

 暗視がヴァルカンの動きを追う。

 首を振り、ソフィアのいる岩棚に向けて二発目のブレスを放った。


 水の壁が再び炎を受ける。

 蒸気が噴く。

 ソフィアの声が聞こえた。


「早くしなさい! 三発目は——持たないわよ!」


 カイトは島の北側から飛び出した。


 ヴァルカンの視界の外。

 暗視が死角を教える。

 首の向きはソフィアの方。

 尾は南を向いている。

 北側は——空いている。


 走った。

 岩盤を蹴り、翼の付け根に向かって跳ぶ。


 ヴァルカンが気配を察した。

 首が旋回する。

 口腔に炎が渦巻く。


 間に合わない。

 ブレスが来る。


 カイトは跳躍の頂点で体を捻った。

 空中で回転し、ヴァルカンの顎の下に潜り込む。


 真下。

 ブレスの死角。


 怪力の全てを左拳に集めた。


 顎に叩き込んだ。


 衝撃が腕を伝って全身に走る。

 ヴァルカンの頭が弾き上がった。

 口腔のブレスが天井に向けて放たれ、岩盤を溶かす。


 溶岩の雨が降る。


 カイトは着地と同時に転がった。

 溶岩の飛沫が背中をかすめる。

 鱗状の薄膜がなければ背中が焼けていた。


「ソフィア! 翼!」


 ソフィアが岩棚から跳んだ。

 剣ではなく、水の刃。

 B級の水属性を極限まで圧縮した、薄く鋭い水の刃が、ヴァルカンの右翼の膜を切り裂いた。


 翼膜が裂ける音。

 ヴァルカンが悲鳴を上げた。

 炎ではなく、獣の悲鳴だ。


 右翼が垂れ下がった。

 飛べない。


 カイトは立ち上がった。

 全身が軋む。

 右拳は皮が裂けて骨が見えている。

 左拳の指が二本折れている。

 火傷が背中と腕に広がっている。


 だが、立っている。


 ヴァルカンが地上に降りた。

 翼を使えない炎竜は、四足で這い回る。

 それでも速い。

 尾が薙ぎ払われ、カイトは跳んで避けた。


 着地。膝が笑う。


 ヴァルカンが吠えた。

 至近距離のブレス。

 避けられない。


「水壁!」


 ソフィアの水結界がカイトの前に展開した。

 炎が水を蒸発させる。

 蒸気の向こうで、ソフィアの顔が歪んでいた。


 限界だ。

 B級の水では、C級の炎を何度も受けられない。


 カイトの体の奥で、何かが震えた。


 三つの核紋が同時に脈動する。

 闇。水。地。

 別々に動いていた属性が、一つの流れに収束していく。


 共鳴。


 暗視が極限まで研ぎ澄まされた。

 ヴァルカンの体表の温度分布が見える。

 核紋の位置。胸の中央。鱗が一枚だけ欠けている場所。


 水の薄膜が全身を包んだ。

 熱に対する盾。


 怪力が残った右拳に集中する。

 折れた左手は使えない。

 右拳だけ。

 一撃。


 カイトは蒸気の壁を突き破って走った。


「カイト!」


 ソフィアの叫びが背中に届く。


 ヴァルカンが口を開いた。

 ブレスの予備動作。

 首を引き、喉が膨れる。


 カイトは止まらなかった。


 ブレスが放たれた。

 炎の奔流が、正面から迫る。


 カイトは地面を蹴って跳んだ。

 ブレスの射線の上を飛び越える。

 水の薄膜が全身の熱を弾く。

 髪の先が焦げた。

 革鎧の表面が溶けた。


 だが——通過した。


 ヴァルカンの顔が眼下にある。

 金の瞳が見上げている。


 カイトは右拳を振り上げた。

 三つの核紋が腕に集まる。

 闇が照準を定め、水が拳を守り、地が破壊力を乗せる。


「——喰らえ」


 拳が胸の鱗の隙間に突き刺さった。

 核紋を貫いた。


 ヴァルカンの全身が痙攣した。

 赤い光が胸から噴き出す。

 咆哮が途切れ、巨体が傾き始めた。


 カイトは拳を引き抜いて、島の岩盤に着地した。

 膝が折れた。

 立てない。


 ヴァルカンが倒れた。

 十メートルの巨体が岩盤に叩きつけられ、空洞全体が揺れた。

 溶岩の湖が大きく波打つ。


 静寂。


 カイトは這うように顔を上げた。


 炎竜の胸から、赤く輝く欠片が浮かび上がっていた。

 核紋の欠片。

 炎C級。


 赤い光が、カイトの金色に染まった瞳に映った。

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