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核紋が空の最弱冒険者、魔物を喰らって全属性で成り上がる  作者: 景都 (けいと)


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14/22

#14 オークの巣

8Fに踏み込んだ瞬間、地面が震えた。


 ずしん、ずしん。

 規則的な振動が足裏から這い上がってくる。

 何かが歩いている。

 大きくて、重い何かが。


「オークだ」


 カイトは暗視で通路の先を見通した。

 薄暗い岩盤の洞窟に、巨大な影が蠢いている。

 身長二メートル超。

 丸太のような腕に、猪に似た頭部。

 牙が上唇から突き出し、鼻息が白い湯気になって漂っていた。

 背中には石斧を背負っている。

 刃先が岩壁に擦れて、耳障りな金属音を立てた。


「でかいな……」


「ゴブリンの比じゃないわ。正面からぶつかったら潰されるわよ」


 ソフィアが剣を構えた。

 オークは通路をのっしのっしと巡回している。

 一体だけ。

 だが周囲の岩陰に、さらに複数の気配があった。


「暗視で4体見える。奥の広い部分に2体、左右の脇道に1体ずつ。合計5体だ」


「5体……全部正面は無理ね」


「当然だ。地形を使う」


 カイトは通路の構造を確認した。

 8Fも6F同様、溶岩と水路が交互に現れるが、ここでは水路のほうが多い。

 幅の広い水路が通路を横切り、その先にオークたちの巣がある。

 岩盤と水路が入り組んだ地形は、大型の魔物にとっては動きにくい。

 カイトにとっては——使える。


「水路を使う。俺の水中呼吸で奴らの背後に回る。お前は正面から引きつけてくれ」


「私が前衛で5体のオークを?」


「全部受ける必要はない。剣と水流で一体だけ引きつけろ。残りは俺が背後から片付ける」


 ソフィアは一瞬だけ黙り、カイトの目を見つめた。

 灰色の瞳は真剣だった。

 それから頷く。


「2分よ。それ以上はもたない」


「1分で終わらせる」


* * *


 カイトは水路に音もなく滑り込んだ。


 水中呼吸が機能する。

 鱗の防御膜が全身を覆い、水が空気と同じになった。

 水の中で息ができる。

 この感覚にはまだ慣れないが、体はもう順応していた。

 暗視で水中の底まで見通しながら、オークの巣の背後へ泳ぐ。


 水路の底は砂利と岩で、苔が薄く張り付いている。

 小さな魚が驚いて逃げた。

 音を立てないように、腕だけで水を掻いて進む。


 水面の上で、ソフィアが動いた。


「こっちよ!」


 剣を石壁に叩きつけ、甲高い金属音を響かせた。

 巡回中のオーク一体が振り向き、唸り声を上げて突進してくる。

 地面が揺れるほどの足音。

 ソフィアが水流の壁を展開し、オークの石斧を受け止めた。

 衝撃でソフィアの足が滑る。

 岩盤に革靴の跡が刻まれた。

 だが持ちこたえた。


「重い……! でも——もたせる!」


 残り四体が異変に気づき、巣から出てくる。

 二体が正面から走り、二体が脇道から回り込もうとする。


 その背後から、カイトが水路を飛び出した。


 水飛沫が舞う。

 短剣が閃いた。

 暗視で捉えた急所——首の後ろ、脊髄の付け根。

 厚い皮膚の下、骨と骨の隙間。

 怪力を乗せた一撃が、そこを正確に貫いた。


 一体目が声も出さずに崩れ落ちる。

 ずしん、と洞窟が揺れた。

 振動が他の三体に伝わり、一斉に振り返った。


「来い」


 カイトは短剣を引き抜き、水路の縁に立った。

 背後が水路。

 逃げ道は確保してある。


 オークが三体同時に襲いかかる。


 石斧がカイトの頭上に振り下ろされた。

 丸太のような腕の一振り。

 カイトは横に跳んだ。

 斧が地面を砕き、岩の破片が顔に当たる。

 頬が切れた。


「くそ、重い——!」


 二体目の拳がカイトの腕を掠めた。

 肘から先が痺れる。

 怪力同士のぶつかり合い。

 だがオークの地力のほうが上だ。

 地E級の怪力では、オークの原始的な膂力に押し負ける。


 三体目が背後から回り込もうとした。

 カイトは水路に飛び込んだ。

 水中に逃れ、距離を取る。


 オークは水に入ってこない。

 陸上の生き物だ。

 水路の縁まで来て、水面を石斧で叩くが、カイトには届かない。

 水路がカイトの逃げ場であり、再突入の拠点になる。


「ソフィア、一体抑えてろ!」


「やってるわよ!」


 ソフィアの声が水面越しに聞こえた。

 彼女はまだ最初の一体と切り結んでいる。

 水の刃と剣術で、オークの石斧を巧みに捌いていた。


 カイトは水路の中を泳ぎ、別の角度から岸に上がった。

 三体のオークの側面。

 奴らの注意は水路の縁に向いている。

 暗視で死角を捉え、最も手前の一体に飛びかかった。


 短剣を握る手に怪力を集中させた。

 脇腹の隙間——皮の腰巻きと胸の間の剥き出しの肉に刃を突き立てる。

 オークが獣のような悲鳴を上げ、腕を振り回した。


 カイトは刃を残したまま後方に転がった。

 短剣がオークの体内に刺さったまま、巨体がよろめく。

 脇腹からどくどくと血が流れ、足元の岩盤を赤く染めた。


 予備の短剣を抜いた。

 ソフィアから渡された銅の短剣。

 鉄製より刃が薄いが、切れ味は悪くない。

 急所に入れば十分だ。


 残り二体が同時に襲う。

 カイトは水路を背にして退がり、一体の突進を避けた。

 もう一体の石斧が横薙ぎに振られる。

 しゃがんで躱し、勢いのまま足元を蹴った。


 オークの膝が崩れた。

 巨体が前のめりになる。

 その瞬間、首に短剣を突き立てた。

 銅の刃が鈍い手応えとともに肉を貫く。

 三体目が倒れた。


 最後の一体は脇腹に刺さった短剣のせいで動きが鈍っていた。

 片手で傷を押さえ、もう片方の手で石斧を振ろうとするが、力が入らない。

 カイトは正面から飛び込み、怪力を乗せた蹴りを腹に叩き込んだ。

 オークが仰向けに倒れ、洞窟全体が揺れた。

 喉に短剣を突き刺して、止めを刺す。


* * *


 ソフィアが最後のオークを水の刃で仕留め、8Fが静かになった。


 カイトは岩壁にもたれかかり、荒い息を吐いた。

 全身が痛い。

 腕の打撲、脇腹の擦り傷、頬の切り傷、膝の裂傷。

 短剣は一本がオークの体内に残ったまま、手元の銅の短剣も刃が欠けていた。


「消耗が激しいな」


「5体でこれよ。もっと奥にはもっといるわ」


 ソフィアが治癒を施しながら言った。

 青白い光がカイトの傷を塞いでいく。

 頬の切り傷がじわりと熱くなり、肉が繋がっていく感覚があった。


「体術と怪力だけじゃ限界がある」


 カイトは自分の拳を見た。

 地E級の怪力。

 ゴブリンやスライム相手なら圧倒できた。

 リザードマン相手でも何とかなった。

 だがオークの膂力には正面から負ける。

 同じ地属性でも、ボス級の怪力とは格が違う。


「こいつらの怪力があれば、正面から戦える」


「オークの核紋を喰うの?」


「雑魚のオークじゃ6Fの炎蛇と同じだ。密度が足りない。ボス級じゃないと器に入らない」


 カイトは通路の奥を見つめた。

 暗視が捉えた先に、9Fへ続く下り坂がある。

 そこから漂ってくる気配は、今戦った5体とは桁が違った。


「9Fにオークジェネラルがいるって聞いたことがある。群れの長だ。通常のオークとは比べものにならない」


「ボス級ってこと?」


「ああ。地E級相当。あいつの核紋なら喰える」


 ソフィアが黙った。

 カイトの目が真剣だったからだ。


「今の怪力じゃオークに正面から勝てない。だがオークジェネラルの地E級を喰えば、怪力が格段に上がる。戦い方が根本から変わる」


「分かったわ。でも今日はここまで。傷を治してから行く」


 カイトは頷いた。

 銅の短剣を鞘に収め、立ち上がる。

 今の状態で9Fに挑むのは無謀だ。


 だが目標は決まった。


 9Fの奥に、他のオークとは比べ物にならない巨大な影がある。

 オークジェネラル。

 あいつの核紋を喰う。

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