表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
核紋が空の最弱冒険者、魔物を喰らって全属性で成り上がる  作者: 景都 (けいと)


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

11/13

#11 溶岩地帯

足を踏み出した瞬間、靴底が焦げる匂いがした。


「熱っ……!」


 カイトは反射的に足を引く。

 6Fの床は赤黒い岩盤で、所々に溶岩が細い川のように流れている。

 天井からは熱気がゆらゆらと降り注ぎ、視界が歪んだ。

 空気そのものが重い。

 一呼吸するたびに、肺の中まで灼けるような熱さだった。


「暗視が利かない」


 暗闇なら無敵のはずだった。

 だが6Fには闇がない。

 溶岩の赤い光が通路の隅々まで照らし、影が消えている。

 暗視で培った「闇の中で動きを読む」戦術が、根本から封じられていた。


「ここじゃ今までの戦い方が通じないわね」


 ソフィアが剣を抜きながら言った。

 プラチナブロンドのポニーテールが、熱気を含んだ空気に揺れている。

 額には既に汗が滲んでいた。


「暗視頼みだったってことか」


 カイトは短剣を握り直した。

 1Fから5Fまで、暗闘で優位を取るのが基本戦術だった。

 明るい場所での戦闘は、ほぼ経験がない。

 ここは別の世界だ。


 通路は溶岩と水路が交互に現れる構造になっていた。

 幅3メートルほどの水路が岩盤を横切り、その向こうにまた溶岩が流れている。

 水蒸気が立ち上り、視界を白く曇らせる。

 水路は冷たいが、溶岩に近い部分は温泉のようにぬるい。


「水路があるのは助かるけど、こっちの武器は短剣だけだ。遠距離が欲しいな」


「贅沢言わないで。まず生き残ることよ」


 ソフィアの声に苦笑しかけた瞬間、背後の岩陰から何かが飛び出した。


 赤い鱗。

 細長い体。

 口から炎が噴き出す。


 炎蛇だ。


「っ——!」


 カイトは横に転がって炎を避けた。

 炎の筋が頬のすぐ横を通過し、岩壁を焦がした。

 焦げた空気の匂いが鼻を刺す。

 短剣を構え直すが、炎蛇は岩盤の上をうねりながら距離を取った。


 体長は二メートルほど。

 全身が赤い鱗に覆われ、鱗の隙間から赤熱した光が漏れている。

 生きた溶岩のような魔物だった。


「近づけない……!」


 体から放射される熱が凄まじい。

 2メートル以内に踏み込むだけで肌が灼ける。

 革鎧の表面が変色し始めている。

 短剣の間合いまで入れない。


「カイト、下がって!」


 ソフィアが前に出た。

 右手に剣、左手に水の塊を練り上げる。

 水属性B級の魔力が青白く輝き、周囲の温度が一瞬で下がった。


 水流が炎蛇を包み込む。

 蒸気が爆発的に立ち上り、炎蛇の体温が一気に下がった。

 赤熱した鱗が黒ずみ、動きが鈍くなる。


「今よ!」


 カイトが地を蹴った。

 冷却された隙に短剣を振り下ろす。

 刃が鱗の合わせ目に食い込み、炎蛇の頭部を貫いた。

 赤い鱗がぱらぱらと剥がれ落ち、炎蛇が地面に崩れる。


 一体目。

 息を吐く暇もなく、左右の岩陰から二体目と三体目が飛び出してきた。


「くそ、連携してきやがる」


 二体の炎蛇が左右から挟み込むように接近する。

 口を開けると、喉の奥に赤い火種が見えた。

 同時にブレスを吐かれたら避けようがない。


「水は維持できる。あんたは隙を狙いなさい」


 ソフィアの水流が二体の炎蛇を交互に冷却する。

 左の炎蛇に水をぶつけ、体温を下げる。

 だが同時に冷やし続けることはできない。

 片方が冷えている間に、もう片方が炎を吐く。


 火柱がソフィアの足元を焦がした。

 水の盾で何とか防ぐが、蒸気で視界が奪われる。


「ソフィア!」


「大丈夫。続けて!」


 カイトは水路に飛び込んだ。

 腰まで浸かりながら、水路越しに炎蛇の動きを観察する。

 水蒸気が立ち込める中、炎蛇の赤い体は目立つ。


 暗視はここでは使えない。

 だが暗視で培った「動きを読む目」は残っている。

 体の微妙な重心移動、首の角度、尾の振り方。

 次の動きを予測する癖は、明るい場所でも変わらない。


 二体目の炎蛇がソフィアに気を取られた。

 首がソフィアの方を向き、ブレスの構えに入る。


 その隙に、カイトは水路から飛び出した。

 濡れた足が岩盤を蹴り、短剣を突き上げる。

 鱗の隙間——首と胴の境目に刃が滑り込んだ。

 炎蛇が痙攣し、ぐねりと体をくねらせて崩れ落ちた。


 三体目はソフィアが水の刃で仕留めた。

 青い斬撃が弧を描き、赤い鱗を断ち切る。

 炎蛇の首が岩盤の上に転がり、残った体がびくびくと痙攣してから動かなくなった。


* * *


 三体の炎蛇が沈黙した通路で、カイトは息を整えた。

 全身に汗が張り付いている。

 熱気のせいだけじゃない。

 明るい場所での戦闘は、想像以上に神経を使った。


「遠距離手段がないのは致命的だな。冷却と攻撃を一人で両立させるのはお前に負担がかかりすぎる」


「分かってるわよ。弓手か魔法使いがいれば、私が冷却に専念できるのに」


 ソフィアが額の汗を拭った。

 袖が濡れている。

 水属性の魔力を大量に消費したせいで、顔色が少し白い。


「大丈夫か」


「平気よ。この程度で倒れない」


 強がりだとは分かっている。

 だがカイトはそれ以上追及しなかった。


「核紋だ」


 カイトの視線が倒れた炎蛇に向いた。

 赤い光の欠片が、体の残骸から薄く浮かび上がっている。

 炎属性の核紋。

 淡い光で、ゴブリンキングの時に比べると随分とか弱い。

 だがこれを取り込めば、遠距離の炎攻撃が手に入るかもしれない。


 手を伸ばした。

 核紋の欠片が掌に触れる。


 何も起きなかった。


「……喰えない?」


 カイトは手のひらを見つめた。

 核紋の欠片は掌の上で一瞬ちらついて、砂のように崩れ、そのまま霧散した。

 体内の「空の核紋」は微動だにしない。


「どうしたの?」


「吸収されない。手に触れたのに、体の中に入ってこなかった」


 ソフィアが残りの二体の核紋も確認する。

 どちらも同じだった。

 赤い欠片は浮かび上がるが、カイトの「空の核紋」が反応しない。

 器が拒否しているわけではない。

 欠片のほうが小さすぎて、器の目に留まらない。


「弱すぎるのか……」


 カイトは拳を握った。

 ゴブリンキングの闇F級は吸収できた。

 スライムの核紋は微弱だったが一応吸収できた。

 炎蛇はそれ以下。

 核紋としての「密度」が足りない。


「器に入らないんだ。小さすぎて、俺の核紋が受け付けない」


「つまり、吸収できる核紋とできない核紋がある」


 ソフィアが腕を組んだ。


「ゴブリンキングを吸収できたのは、ボス格だったから密度が十分だったってこと?」


「多分な。雑魚の核紋じゃ器に入らない。ボス級か、それに近い個体じゃないと」


 カイトは溶岩の流れを見つめた。

 赤い光が岩盤の上でゆらめいている。

 6Fの炎蛇では駄目だ。

 もっと強い炎の持ち主でなければ。


「10Fに炎竜がいるって聞いた。そいつの核紋なら、喰えるかもしれない」


「まだ6Fよ。10Fまであと4階層もあるわ」


「分かってる。だが目標は決まった」


 カイトは立ち上がり、通路の奥を見据えた。

 赤い光が揺らめく先に、7Fへの階段がある。

 空気はまだ熱い。

 靴底はもう半分焦げている。


「まずは一つずつ上がる。次のフロアに何がいるか、確かめに行くぞ」


「了解。でもその前に水を飲みなさい。脱水で倒れたら元も子もないでしょ」


 ソフィアが水筒を差し出した。

 カイトは黙って受け取り、一気に飲み干す。

 水がこれほどうまいと思ったことはなかった。


 溶岩の熱が肌を焼き続けている。

 だがカイトの胸の奥では、別の熱が燃えていた。


 核紋にも喰えるものと喰えないものがある。

 なら、もっと強い炎を喰うしかない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ