第7話:心の音色、共鳴のメロディ
ロビーへと降りた少女を待っていたのは、ヘッドホンを首にかけ、少し疲れたような瞳をした少女、リアだった。
「あなたが、この場所の……」
リアは、現実の世界では「型にはまった音楽」しか求められないことに息苦しさを感じていた。完璧な音程、売れるためのリズム。そんなものに追われるうちに、彼女は自分が本当に奏でたかった「心の音」を失いかけていたのだ。
少女はリアを、メタバース内の「静寂のスタジオ」へと案内した。そこは、外の音を一切遮断し、自分の心臓の鼓動さえも音楽に変えられる場所。
「ここでは、誰かのための音楽じゃなくていいの。あなたの心が今、どんな色をしているかだけを教えて」
少女の言葉に、リアは戸惑いながらも、空中に浮かぶ光の鍵盤に指を触れた。
最初はたどたどしい、不規則な音。けれど、少女とユウくんが隣で静かに耳を傾けているのを感じて、リアの指先は次第に熱を帯びていく。
それは、悲しみと、祈りと、そして微かな希望が混ざり合った、この世に二つとない旋律だった。
「……否定されないって、こんなに自由なんだ」
弾き終えたリアの頬を、一筋の涙が伝う。
その瞬間、HUGスペースの壁一面に、彼女の音楽に反応した複雑で美しい幾何学模様の光が広がった。
少女は確信した。
ここはただ集まる場所じゃない。
失った自分を取り戻し、新しい「自分という物語」を奏で始めるためのステージなのだ。
リアの奏でた音楽は、ビルの各フロアに優しく溶け込んでいった。
ユウくんの描いたクジラが、その音色に合わせてより鮮やかに輝きを増す。
「次は、この音楽と僕の絵を組み合わせてみたい!」
ユウくんが身を乗り出す。
個人が、個人として尊重される場所。
それらが重なり合ったとき、想像もしていなかった巨大なアートが生まれようとしていた。
けれど、そんな穏やかな時間に、カイトの持つ端末が不穏なアラートを鳴らした。
「……さゆまる(少女)、ビルの外壁に、外部からの強いアクセスがある。どうやら、この場所の存在に気づいた『現実の大人たち』が動き出したみたいだ」
少女の顔が引き締まる。
夢のような時間は、同時に守るための戦いの始まりでもあった。




