第6話:夜の海を泳ぐ光
ユウくんが描き出した「光り輝くクジラ」は、メタバース空間の空をゆったりと泳ぎ始めた。
それは、彼が何年も心の奥底に閉じ込めていた「外の世界に出たい」という願いの形だった。
「すごい……本当に動いてる」
自分の想像力が形になり、誰かの目に触れる。その喜びで、ユウくんの瞳に少しずつ力が宿り始めた。
「これ、他の人にも見せていいかな? このクジラが、他のフロアで迷っている子の道しるべになるかもしれないから」
少女の提案に、ユウくんは少し照れながら、でもはっきりと頷いた。
HUGスペースのシステムを通じて、光のクジラはビル全体のネットワークへと広がっていく。すると、別の部屋にいた見知らぬ誰かから、次々とメッセージが届き始めた。
『そのクジラ、すごく綺麗』
『なんだか、少しだけ眠れそうな気がするよ』
自分の生み出したものが、誰かの救いになる。
それは、この場所が持つ「共鳴」の奇跡だった。
「……ねえ、次はクジラだけじゃなくて、クジラが休めるような大きな島を作ってみたいんだ」
ユウくんの言葉に、カイトと少女は顔を見合わせた。
ただ守られるだけだった子が、自分から「未来」を創り始めようとしている。
虹色のビルの中で、小さな歯車が確実に回り始めた。
少女は自分の物語の中に、新しい一頁を書き加える。
――ここは、絶望を希望の設計図に書き換える場所なのだと。
ユウくんの描いたクジラが、ビルの窓の外に映し出されるメタバースの空を泳いでいく。
それを見上げながら、カイトが静かに口を開いた。
「いい流れだね。でも、物語はここからだ。実は、このビルの『設計図』を見て、ぜひ参加したいと言っている新しい仲間が、もう一人入り口まで来ているんだ」
少女の心臓が、また高鳴る。
一人、また一人と増えていく仲間。それは嬉しいことだけれど、同時に「守らなければならないもの」が増えていくことも意味していた。
「次はどんな子が来るの……?」
「彼女は、音を失った世界で、新しい『音楽』を探しているクリエイターだよ」
新たな出会いの予感。
少女は期待と少しの緊張を胸に、一階のロビーへと続くエレベーターのボタンを押した。




