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第19話:一歩の重み、一秒の祈り
エベレストを目指すと決めてから、さゆまるの日常は一変した。
施設の廊下を歩く練習、重い荷物を背負っての足腰の訓練。障害のある体にとって、その一歩一歩は、健常な人が想像する何倍も険しいものだった。
「……はぁ、はぁ……」
息を切らし、膝をつくさゆまるの横で、カイトが静かにデータをチェックしている。
「さゆまる、無理は禁物だ。でも、君の心拍数は、登るたびに確実に『強く』なっているよ」
「やることに、意義があるんだもんね……」
さゆまるは自分に言い聞かせるように呟いた。
彼女がこれほどまでに体を追い込むのは、自分を鍛えるためだけではない。
夜中、HUGスペースに届くSOS。死の淵にいる誰かと対話する時、自分が「限界に挑んでいる」という事実こそが、相手の心を繋ぎ止める一番の説得力になることを知っていたからだ。
『私を見て、一緒に一歩だけ、明日へ踏み出そう』
その言葉に嘘をつかないために、彼女は今日も汗を拭い、立ち上がる。
ふと足元を見ると、命の記憶を引き継いだロボット犬が、励ますように尻尾を振っていた。
本物の命を救い、自分自身も限界を超えていく。
茨城の小さな部屋から始まった物語は、今、確実に世界の頂上へと続くルートを刻み始めていた。




