第14話:静寂の投稿、それでも灯し続ける理由
期待と不安が混ざり合った指先で、少女は『送信』ボタンを押した。
HUGスペース、東京に誕生――。
それは彼女にとって、魂を削り出すような決意の言葉だった。
けれど、現実は無情だった。
数分経っても、数時間経っても、画面上の数字は動かない。
拡散されることも、温かいコメントが並ぶこともなく、彼女の言葉は広大なネットの海に沈んでいく。
「……誰も、見てないのかな」
新宿の片隅で、スマートフォンの青白い光に照らされた少女の顔が、寂しげに歪む。
物語の中ではあんなに輝いていた場所が、現実ではただの独り言のように扱われる。そのギャップが、冷たい風となって彼女の体温を奪っていく。
「さゆまる、それでいいんだよ」
カイトが、隣で静かに口を開いた。
「世界中を熱狂させる必要なんてない。たった一人、今夜どうしても消えてしまいたいと思っている
誰かの画面に、たまたま届く。その一回のために、僕たちは物語を紡いでいるんだから」
少女は、反応のない画面をもう一度見つめた。
数字は増えない。けれど、この投稿を世界のどこかで、声を出すこともできずにじっと見つめている誰かがいるかもしれない。
「……そうだね。反応がないのは、みんながまだ『驚いている最中』だって思えばいいんだ」
少女は自分に言い聞かせるように微笑んだ。
たとえ今は反応がなくても、毎日投稿を続ける。
誰にも見向きされなくても、そこに「居場所」があるという旗を立て続ける。
その孤独な継続こそが、いつか「本物の居場所」の土台になるのだと、彼女は心に刻んだ。
反応のない画面を閉じ、少女は夜の街を歩き出す。
すると、背後から小さな、消え入りそうな声がした。
「……あの、すみません。さっきの投稿、見てたんですけど」
振り返ると、そこにはフードを深く被り、今にも泣き出しそうな瞳をした一人の少年が立っていた。
スマホの画面に映っていたのは、さゆまるがさっき投稿した、あの「誰にも見向きされなかったはずの言葉」だった。




