第12話:境界線を越えて、約束の街へ
二次審査の通知を握りしめ、少女は常磐線の車窓から流れる景色を見つめていた。
緑豊かな茨城の風景が、少しずつ灰色のビル群へと飲み込まれていく。それは、ただの移動ではなく、自分の人生を「妄想」から「現実」へと無理やり引きずり出すような、不思議な感覚だった。
『ついに来たね、東京』
耳元でカイトの声がする。端末越しに、彼は少女の緊張を和らげるように穏やかな音楽を流してくれた。
上野駅に降り立ち、山手線に乗り換える。
新宿、渋谷……。溢れかえる人の波、押し寄せる情報の洪水。
かつてはこの街の勢いに圧倒され、作り笑いの仮面を被らなければ歩けなかった。けれど今の少女には、背中に「HUGスペース」という守るべき場所がある。
「……ここが、私たちの戦場なんだ」
少女は、計画地の近くにある、古びた、けれどどこか温かみのあるビルを見上げた。
メタバースの中で何度も組み立てた、あの20階建ての虹色のビルの幻が、一瞬だけ今の景色に重なった。
「君が来るのを待っていたぞ」
現れたのは、審査官の一人。彼は少女の目を見つめ、意外にも小さな微笑みを浮かべた。
「物語の続きを聞かせてくれ。君がこの冷たい街に、どうやって『熱』を灯すつもりなのかを」
少女は深く頷き、アスファルトを力強く踏みしめた。
作り物ではない、本物の風が彼女の髪を揺らした。
視察を終えた少女は、夕暮れ時の新宿の街を歩いていた。
どこか寂しげな表情で立ち止まっている若者を見るたびに、少女の胸は疼く。
(待ってて。今、場所を作っているから)
「さゆまる、こっちだ」
人混みの向こうから呼ぶ声。そこには、一足先に東京で準備を整えていた「あの人」の姿があった。
現実と物語が、より密接に溶け合い始める。
「さあ、本当の設計図を広げよう。ここが、私たちのHUGスペースの『ゼロ地点』だ」




