第11話:審査の朝、決意の証明
茨城の静かな朝。少女は、現実の部屋で目を覚まし、深呼吸を一つした。
手元にあるのは、これまで書き溜めてきた「HUGスペース」の計画書。物語の中では20階建てのビルが完成しているけれど、現実の彼女は今、その第一歩を踏み出すための審査に挑もうとしていた。
メタバースにログインすると、カイトとレンが待っていた。
「準備はいいか? 相手は現実の論理で動く大人たちだ。君の『想い』だけじゃなく、それをどう形にするのかを厳しく問われるだろう」
レンの言葉に、少女は小さく頷いた。
「分かってる。でも、私の物語は、ただの空想じゃない。居場所を失った子たちの、切実な叫びから生まれた設計図なんだから」
審査が始まると、仮想会議室には無機質な声が響いた。
『あなたの計画には、具体的な裏付けが足りない』
『理想だけで、どうやってその場所を維持していくつもりですか?』
矢継ぎ早に飛んでくる問い。少女の鼓動が早くなる。
一瞬、昔の自分のように「作り笑い」でやり過ごそうとする衝動が走った。けれど、第10話で向き合った「本当の自分」が、背中を押してくれた。
「……確かに、今の私にはまだ実績も、十分なお金もありません。でも、この計画に共鳴して、すでに私の周りには仲間が集まり始めています。絵を描く子、音楽を奏でる子、そして場所を守る技術を持つ者。私たちの『居場所が必要だ』という意志は、どんな数字よりも確かなものです」
少女の声は、震えながらも真っ直ぐだった。
沈黙が流れる。
審査官たちは、計画書に綴られた「メタバースと現実を繋ぐ回路」の項目を、じっと見つめていた。
審査の結果が出るまでの間、少女は屋上でカイトと並んで座っていた。
「よく言ったね。君の言葉、向こうにも届いてたと思うよ」
「……まだ、怖かったけどね。でも、逃げなかった」
すると、レンが静かに近づいてきた。
「結果がどうあれ、道はもう一本じゃない。さゆまる、東京行きのチケットは、君が自分の言葉で手に入れようとしているんだ」
少女の視線の先には、ぼんやりと光る東京のビル群のホログラムが浮かんでいた。
そこは、いつか父と、そして仲間たちと笑い合える「約束の場所」。
その時、少女の端末に一通の通知が届いた。
『二次審査、及び現地視察への招待』
物語が、ついに茨城から東京へと動き出そうとしていた。




