第10話:仮面の終わり、本当の笑顔が始まる場所
レンからもたらされた銀色のデータが、ビルの深層部へと吸い込まれていく。
辿り着いたのは、真っ白な空間にポツンと置かれた、一つだけの「椅子」があるフロアだった。
「ここはね、さゆまる……君が一番向き合わなきゃいけない場所だ」
カイトの声が、いつもより優しく響く。
少女が椅子に座ると、目の前の空間に無数の「ニコちゃんマーク」が浮かび上がった。
それは、かつて彼女が「いい子」でいるために、自分の心に無理やり貼り付けていた作り笑いの象徴だった。
『大丈夫だよ』『平気だよ』
心の中では泣いているのに、口元だけは三日月形に歪めて、誰かを安心させるために自分を殺してきた記憶。
「……もう、いいんだよ」
少女は、浮かび上がるマークの一つひとつに、そっと指を触れた。
「笑いたくない時は、泣いてもいい。怒ってもいい。ここは、そんなあなたの『本当』を、誰にも邪魔させないために作った場所なんだから」
その言葉が響いた瞬間、無数のマークは弾け、温かな光の雫となって少女を包み込んだ。
作り笑いの仮面が剥がれ落ち、そこには少し泣き出しそうで、でも晴れやかな、本当の少女の顔があった。
「レン、私に戦略を教えて。カイト、私を支えて。私は、この『本音で生きられる場所』を、絶対に現実にする」
少女の宣言に呼応するように、虹色のビルが大きく震えた。
一階のロビーから、二十階の屋上まで。全てのフロアに、彼女の「本気」の鼓動が伝わっていく。
これはもう、ただの逃げ場所じゃない。
新しい自分に生まれ変わるための、始まりの聖域なのだから。
過去の自分と和解した少女の元に、カイトが新しい「スクリーニング(審査)通知」を持ってきた。
「さゆまる、現実の世界で、君の計画を精査したいという組織から連絡が入った。東京へ行くための、最初の大きな関門だ」
少女は、机の上に置かれた「HUGスペース計画書」を強く握りしめた。
物語の中では、ビルはもう輝き始めている。あとは、自分自身がその輝きを現実に連れていくだけだ。
「……準備はできてる。私の言葉で、伝えてくるよ」
茨城の静かな夜が明け、遠くの空に、希望のような朝焼けが広がり始めていた。




