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こちら銀河連邦 特異事象対策室!  作者: 左岸
第一話 出動!問題だらけの宇宙警察官?
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005

 岩窟の分子透過膜を抜けた先の光景に、ギルダスとガルドは再び息を呑んだ。


 そこには、大地の苔の光とは異なる、洗練された人工照明が街を静かに照らし出していた。建築物はどれも巨大な古代神殿を思わせる荘厳な意匠で統一されつつも、整然と区画整理された通路や構造物には、隠しきれない高度な近代化の兆しが息づいている。都市の空間全体を取り囲むように、天井の岩盤に沿って淡く青いエネルギー膜が発光していた。おそらく、岩壁が自重で崩落しないよう、内側から分子結合を強化・固定しているのだろう。二人はその未開惑星にあるまじき超テクノロジーの数々に圧倒され、珍しそうに辺りをキョロキョロと見回した。


 張り巡らされた水路を流れる水の状態も極めて良好だ。周囲に配置された美しい草木も、生態系の分析を待つまでもなく、綿密に計算されて配置された人工培養種であることは明白だった。やはり、バイオテクノロジーや空間制御がここまで発展しているなら、とっくに銀河連邦へ加盟し、宇宙進出を果たしていてもおかしくないはずなのだ。


「この辺りは、神殿の管理区画だから一般の市民はあまり立ち入らないの。だからあなたたちの姿を見られる心配はないわ。まあ、仮に見られても、私たちは過去の記録があるから特に驚かないと思うけれど。一応の配慮ね」


 前を歩くレヴィアラルスが、振り返らずに二人へと声をかける。光の豊かな明るい場所で改めて彼女の姿を見ると、タトゥーのような蒼い光のラインを除けば、本当に地球人の女性と見分けがつかないほどよく似ていた。


「おい、そこら中に描かれてるあの女の絵はなんだ?」


 ガルドが鋭い耳を動かし、周囲の岩壁や神殿の柱を見上げながら言った。

 建造物のいたるところに、慈愛に満ちた、あるいは冷徹な意志を湛えた一人の女性のような人物の壁画が精密に彫り込まれている。いわゆる宗教画というものだろうか。都市を構成するあらゆる建築物にも、その意匠が色濃く反映されていた。


「それは『アルパ』よ」

「アルパ?」

「そう、私たちの創造神アルパ。私たちは皆アルパの設計から生まれ、アルパの元へ帰っていく。生も、死も、文明の歩みも、すべてはアルパと共にある。アルパの住まう高き天から遣わされた民、それが私たちサクリファの住人よ」

「へえ。つまりそのアルパって神様の命令が、この星じゃ絶対ってことか?」


 ガルドが不思議そうに鼻を鳴らした。


「そうよ。アルパが進化を望めば私たちは進化する。滅びを望めば私たちは抗わずに滅びる。すべては神のプログラムと共にあるの。私たちは全にして個、個にして全。……かつては、そういう教えだったの」

「だった? 過去形ってことは、今はちがうのか?」


 ギルダスがその言葉の引っかかりを見逃さずに問いかけた。

 そこまで徹底した、狂信的とも言える宗教観を文明の根底に持っているというのに、目の前を歩くレヴィアラルスという女性からは、神の盲信的な信徒が放つ独特の熱量が微塵も感じられないからだ。


「どうかしらね」


 レヴィアラルスは思わせぶりに微笑むと、それ以上の言及を避けるように、さらに奥へと歩みを進めていった。

 本当に掴みどころのない人だな、とギルダスは首を傾げた。同時に、ひどく不思議な人だとも思う。彼女の美しい横顔を常に包み込んでいる、あの物事の結末をすべて見届けてしまったかのような、冷たい諦観の空気の正体は一体何なのだろうか。ギルダスは衣服の内で制限されたスキンの微かな締め付けを感じながら、彼女の背中を追った。



「あれは、なんだ?」


 今度はギルダスが視線を向けた。街の外れにある広大な広場の中央に、巨大な鉄の塊が厳かに聳え立っていた。入念に手入れをされている形跡はあるものの、天突く最上部のあたりは経年劣化でかなり錆びついている。さながら、遺された文明の巨大なモニュメントのようだった。


「宇宙船よ。あなた達の言葉で言う所のね。私たちの古い言葉では『天の舟』なんて呼んでいたけれど」

「宇宙船……! じゃあ、この星の住人は過去に宇宙に出た事があるのか?」

「ええ、あるわ。もう随分と昔の話。私が生まれるよりも、ずっとずっと前のこと」


 レヴィアラルスはどこか遠くを見るような目で、その錆びついた天の舟を見上げながら言った。

 ギルダスは呆然と彼女の視線を追い、その巨大な建造物を眺めた。これが、この惑星の宇宙船。確かに目を凝らしてよく見れば、外装のモジュール構造や推進ノズルの配置は極めて合理的で、堅牢に作られているように見える。これまで目にしてきたこの惑星の驚異的なバイオテクノロジーや空間変調技術のレベルを考えれば、宇宙を航行する船くらい作れて当然なのだ。


「宇宙に出るだけの技術があったのに、なんで今はやめちまったんだ?」


 ガルドが素朴な疑問を彼女へぶつけた。

 レヴィアラルスが生まれるずっと前ということは、少なくとも百年以上、あるいは数百年前の昔話だろう。もし技術開発をそのまま継続していれば、今頃は近隣の惑星軌道に一大宇宙施設を建造することすら容易に叶っていたはずなのだ。


「さあ……。思ったよりも、宇宙は彼らにとって良いものじゃなかったのかもね」


 レヴィアラルスの寂しそうな横顔と、その乾いた声を聞いて、ギルダスは「そうか……」と胸の内で静かに納得した。

 先程彼女が口にした、創造神「アルパ」の教えと繋ぎ合わせれば、その歴史の裏にある真実が自ずと見えてくる。この惑星の人々にとって、科学技術の発展や天の舟の建造は、決して利便性や領土拡張のためではなく、ただ盲信する「神々の元へと行くための巡礼の方法」だったのだ。


 かつてギルダスの母星である地球には、『バベルの塔』という旧約聖書の神話があった。

 傲慢になった人間たちが己の力を誇示し、神々の住まう世界へと届くように天高く塔を建てようとした。神よ、あなたの子である我ら人間はここまで偉大になり、あなたに近づいたのだという、狂信的な願いとともに。


 おそらく、極めて高い信仰心を持つこの惑星の先祖たちにとって、大気圏を突破して宇宙へと届き、崇高なる創造神アルパの身元へと直接赴くことは、民族全体の悲願であったに違いない。

 地球の神話において、バベルの塔は神の怒りを買い、人々の言語がバラバラに分かたれたことによって瓦解した。だが、彼らの宇宙進出スペース・エイジの崩壊は、それよりも遥かに残酷な結末――「空の彼方には、自分たちを愛してくれる神などどこにもいない」という、ただ冷徹な物理的事実を突きつけられたことによってもたらされたのだ。


 どんな星系に生まれ、どんな容姿をしていようと、知的生命体が宇宙進出を果たした時、最初に直面する冷酷な事実こそが「神の不在」である。

 地球を含めた銀河連邦加盟惑星の面々は、それでもなお、神のいない虚無の宇宙を受け入れ、ここではないどこかにある新たな出会いや、まだ見ぬ未知の神秘を求めて科学を発展させ続けてきた。しかし、全生命の根底を神への信仰に委ねていたこのサクリファの人々にとっては、その「宇宙の静寂」という出来事こそが、精神的な世界の終わりであり、バベルの塔の崩壊そのものだったのだろう。


 ◇


 大神殿と呼ぶにふさわしい荘厳な大広間に案内されると、そこには数人、厳かな法衣を纏った者達が静かに二人を待っていた。レヴィアラルスによれば、彼等はかつてこの惑星の最高指導者を担っていた者達であり、いまは長老として、現指導者である彼女を補佐する立場にあるという。


 彼等もまた、過去に定期的にやってきた連邦の外交官と直接接した経験があるため、突如現れたギルダスとガルドの姿を見ても、特に驚き惑うような様子は見せなかった。


「フム……。やっぱりザインの野郎、この星に深く潜り込んでやがったか」

「まあ、そんなとこだろうと思ったぜ」


 長老たちから現況を聞き出し、二人は苦々しい表情で言葉を吐き捨てた。


「最初は、街の外へ資源採取に出ていた若者が彼と偶然接触したのです。ザインと名乗るその男は、『自分には未来が見える。お前たちがここにやって来ることは、とうの昔から分かっていた』と言い放ったそうです。そして、その直後に起こる局所的な天候の変化、採掘しようとした有用な資源物質の正確な埋蔵場所、さらには落雷のポイントから先日の地震の規模の予知、果てはどの時間に誰がどこへやって来るかまで、寸分の狂いもなく完璧にやってみせたのです」


 長老の一人が、忌々しい記憶をたどるように薄く目を閉じて言った。


「それで、ついに神の使いがこの地に舞い降りたって、街の皆は大騒ぎ。特に信心深くて、かつ外の世界を知らない若い子達なんかは、彼の紡ぐ輝かしい預言にすっかり夢中だわ」


 レヴィアラルスが困ったように細い腕を組み、嘆息混じりに言う。

 彼女がいくら冷静に落ち着くよう呼びかけても、盲信から生じるお祭り騒ぎのような狂信的熱狂を食い止めることはできなかった。


「そいつ、現住民に対して何か見返りを要求してるか?」

「予言という儀式を行うには、莫大な神聖エネルギーが必要だからという理由で、この惑星の特産である高エネルギー鉱石を持ってきてほしいと言っているわ。既に信者となった若者たちの手で、結構な量が彼の手に渡されているはずよ」

「鉱石か。たしかにこの星のやつは純度も高そうだし、闇ルートで転売するにゃ都合がいい特級品かもな」


 アーティファクトによる未来予知という超常の力を悪用して、やることが原始的な惑星資源の強奪とは、なんともセコくてスケールの小さい話だな、とガルドは呆れた様子で鼻を鳴らした。未来が予測出来るなら、連邦の株価でも操作して大儲けすればいいものを。もっとも、そうなる前に自分達がこうして駆け付けるわけだが。


「私個人の見解としては、彼が常に肌身離さず持っている、あの不気味な赤い結晶が予言の正体――つまり、あなたたちの言う違法な道具だと思っているのだけど、どうかしら?」

「そうだ、まず間違いない。そいつが『アーティファクト』だ。結晶の持つ特異な時間干渉能力が、奴の脳内に直接、数時間先の確定した未来の映像を見せているんだ」


 ギルダスが断言するようにそう告げると、法衣を纏った長老たちからは、どこか落胆したような深い溜め息が漏れた。彼等もまた、かつて連邦の外交官から宇宙の冷酷な現実を教わった身とはいえ、心の底では「神の奇跡」という微かな希望を捨てきれずにいたということか。ギルダスは自分が彼らの信仰を汚したような、どこか悪い事をした気分になるが、致し方ない。都合の良い欺瞞で事実を隠蔽しても、ザインの野郎をのさばらせるだけで、何一つ根本的な解決にはならないのだ。


「その『預言者』の根城へ踏み込むときは、私も一緒に行くわ。彼がどこかに逃げ出そうとしたとき、現地の案内人がいた方がいいでしょう?」

「そりゃ案内してくれるなら助かるが、相手は凶悪犯だ、危険すぎるぞ。それに、本来なら連邦の不始末に現地の民間人を巻き込むわけには……」

「ふふ。心配ご無用よ。これでも調整役を任されている身。さあ、ついてきて」


 レヴィアラルスは長老たちに静かに頷いて挨拶を交わすと、引き締まった足取りでそのまま神殿の奥の通路へと歩いていく。

 ギルダスもまた、これ以上の問答は無用と判断し、彼女の背中を追って歩き出した。その時不意に、隣を歩くガルドが、やけにそわそわとしながら周囲の神殿の壁や天井をキョロキョロと見回しているのが気になった。


 まさかとは思うが、この重大な局面で集中力が切れたのか? 飽き性にもほどがあるぞ。やっぱり首に太い鎖をつけて強引に引きずってくるんだった――ギルダスは心底そう思いながらも、薄暗い通路を進むレヴィアラルスの背中を見失わないよう、足早に先を急ぐのだった。


 ◇


「まず、あなた達が来たことに、なぜ私たちがこれほど早く気付いたのか。まだその詳細をお話ししていなかったわね。理由はこの装置よ」

「これは……ただの水か? いや、ナノマシンか何かの流体スクリーンみたいな感じだな」


 薄暗い通路の壁面に埋め込まれた水槽のような機構を、ギルダスは興味深そうに覗き込んだ。


「この惑星サクリファは、ご覧の通り全体が常に分厚い雲に覆われているでしょう? だから上空の天候が非常に荒れやすいの。そんな自然災害にいつも無防備に翻弄されていたら、私たちは地下であっても生活していけないわ。だから、空にいくつも目に見えないほど小さな大気観測機を自律浮遊させているの。雲に隠れて見えなかったでしょうけれど。これは、その観測機群が捉えたデータをリアルタイムで受信して可視化するものね。私たちは古くから『水鏡みずかがみ』と呼んでいるわ。あなたたちの船は、この大気センサーの網に引っ掛かったというわけ」

「なるほど……。気象観測を流用した、惑星規模の超広域パッシブ・レーダーってとこか。おもしろいな」

「そして、これ」


 レヴィアラルスはそう言うと、先ほど翻訳機としての機能も兼ねていると説明した、自身の細い手首の腕輪をギルダスに向けて差し出した。


「水鏡の観測結果は、この街の市民全員が身に着けているこの腕輪へと、暗号化されてさらに転送される仕組みになっているの。もちろん、一般の市民には直近の天気の予測や災害アラートくらいしか送信されないけれどね」

「ううむ。実用的な素晴らしい機能だな」


 ギルダスは感心しながらも、自分の懐に無造作に押し込まれている、連邦警察支給の忌々しい薄型プレートデバイスのことを思い出していた。かつての古き良き銀河連邦も、こんな風にスマートで洗練された統一デバイスを運用していたのだろう。クソ、予算の縮小や規格の乱立によって、その便利な遺産を湯水のように紛失し、技術を劣化させたかつての上層部の馬鹿どもが心底憎い。ギルダスは胸の内で悪態をつく。もっとも、彼自身もこれまでに支給品を何度も紛失して始末書を書かされているため、その「馬鹿ども」の立派な一員であることは棚に上げているのだが。


「指導者や調整役のクラスには、大気の乱れだけでなく、もっと色々な高精度の情報が共有されるわ。そして私は……そうね、生まれつき空間の身体感覚が人一倍鋭敏なの。だから、腕輪から送られてくる水鏡の微細なノイズから、空の『明確な違和感』を直接肌で感じ取ることができた。これが、あなた達が姿を隠して舞い降りても、即座に感知できた理由よ。それに、連邦所属の船が発する特有の反重力波形のパターンとでも言えばいいのかしら、そういった基本データも水鏡には古くから登録されているから、地上に降りてくれば分かるようになっているの」

「……なら、ザインがこの星に来た時も、最初から気づいていたのか?」

「ええ、もちろん。検知したわ。ただ、彼の意図や目的がすぐには分からなかったから、あえて接触せずにしばらく様子を見ていたのだけれど……。結果として彼に若者たちを惑わす猶予を与えてしまったわね。もう少し早く、こちら側の武力で対処すべきだったわ」


 そう質問されると、レヴィアラルスは自嘲気味に、どこか寂しげな微笑を浮かべて答えた。自分自身も、あの異星から来た男が、もしかしたら本当に神の使いなのではないかという、あまりにも愚かで微かな希望を完全に捨てきれずにいたのだ。まったく、指導者失格ね――と、彼女は胸の内で深く自戒していた。


「あとは、これを持っていって。あなた達は『文明保護の倫理規定』という建前で、自分達の文明機器をこの星では使えないのでしょう?」


 そう言って彼女の手から差し出されたのは、ギルダスが普段愛用しているエーテルガンのフレームに酷似した形状の精密機械だった。


「こいつは……?」

「見ての通り、銃よ。あなた達の科学的な言葉で表現するなら、高圧空気銃エア・ブラスターといったところね」

「フム、大気を極限まで圧縮して弾丸の代わりに撃ち出すのか。面白いな。普段は鉱山での採掘や、硬い岩盤の破砕用に使っているってとこか」

「そういうこと。出力を手元のダイヤルで抑えれば、相手の身体を傷つけることなく、衝撃波で確実に気絶させることができるわ。遠慮なく使っていいわよ。私も同じものを持ち歩いているから、最低限の護身はできる。邪魔にならないよう、私は二人の背後についていくわ」


 そう言いながら、レヴィアラルスは法衣の懐からもう一丁の空気銃を取り出して見せた。

 なるほど、儚げで美しい見た目とは裏腹に、現地の指導者だけあって中々に肝が据わっていてたくましいな。ギルダスは内心で深く舌を巻いた。


「大気といい、滑走路の光る苔といい、この星の連中は自然物のエネルギーを最大限にまで有効活用してるってわけか」

「わざわざ外部からエネルギーを持ち込むのはもったいないもの。あるものを有効活用するのは当然よ」


 これだから異文化の捜査というのはやはり面白いな、とギルダスがプロの探究心を刺激されていると、不意に通路の遥か背後から、神殿の長老たちの慌てた話し声がエコーとなって聞こえてきた。


「あ、これこれ! それはまだ生で食べない方が……! アクが強くてお腹を壊しますぞ!」

「んー……、モグ、モグ。なるほどな。噛み応えと繊維の質感は悪くねえけど、うーん、味がちっと足りねえな」


 長老たちの困惑した声にギルダスがハッとして振り返ると、案の定、ガルドが神殿の装飾用に植えられていた未知の植物をむしり取り、悪びれもせずに口の中へ放り込んで熱心に咀嚼していた。彼は目を閉じながら、口内に広がる未知の食感や味わいを、真剣な表情で確かめているようだった。


『こいつにしては、任務開始から割と長い時間、緊張感を保った方か?』などとギルダスは一瞬だけ冷静に考えたが、即座に怒りが頂点に達し、手渡されたばかりの空気銃をノータイムでガルドの脳天に向けて構え、迷わず引き金を引いた。


 ズドン!と、空気が激しく撃ち出された実射の反動は、想像以上に手応えがあって悪くない。なるほど、これなら出力を最大まで上げれば、連邦の防弾アーマーすら凹ませる結構な殺傷力を持たせられるのだろう。何より手のひらに馴染むグリップの感触が良い。任務が終わったら記念にひとつ欲しいな、とギルダスは手の中に収まる空気銃の心地よい手触りを感じながら、冷ややかに前方の相棒を見据えた。


「――ぶっ!? 何しやがるんだよ、ギル!」

「うるさい、この脳みそスポンジドッグめ! しばらく背後で大人しいと思ったら、やっぱり集中力が切れて食欲に負けてやがったか!」


 衝撃波で毛皮を派手に散らして吠えるガルドに、ギルダスが容赦なく吠え返す。


「あの、いくら頑丈そうだからといって、あまり無闇に人に向けて撃たない方が……」

「うははは! ご心配ご無用ですよ、レヴィアラルスさん! こいつの肉体は無駄に頑丈に出来てましてね。現地の出力を落とした空気銃の衝撃くらいならば、蚊に刺されたようなもんなんですよ。射撃の練習にちょうどいい!」

「いくら怪我しねえっつったって、当たれば普通に痛えもんは痛えんだよ!」

「だったら、貴様のその浅ましい食欲が、痛みと恐怖で大人しくなるまで徹底的に躾けてくれるわ!」


 その後も、薄暗い神殿の地下通路には、二人の警察官による下らない罵倒の応酬がいつまでもけたたましく響き渡っていた。


(銀河連邦の捜査官って、もしかして全員こういう不思議で騒がしい人達ばかりなのかしら?)


 レヴィアラルスは、かつての古い記録や長老達から聞いていた「冷静沈着で理性的」という銀河連邦の人間のイメージと、目の前で幼稚なケンカを繰り広げている二人のあまりのギャップに、胸の内で深く首を傾げざるを得なかった。

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