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もふもふAIが温泉水ジェラートを売っています  作者: 櫛田こころ


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第8話 常連客その③(サラリーマンの場合)

 ちょっとだけ、珍しいアイスクリームがあるとの口コミがあった。正確には、営業先の課長から『暑いから食べたくなるんですよ』と教えてもらった、ジェラート屋のことだが。



「二年前かな? 湊星商店街の北側に温泉が発掘されてね? 飲料にも使えるってことで、反対の南側で若い店長が売り出したんだよ。『温泉水ジェラート』ってやつを」

「変わっていますね? わざわざ……ってことは、手づくりで?」

「ああ。店員もひとり変わっているが、若い子らに人気でね? こういう暑いときにはもってこいのアイスだったんだ」

「へぇ……」



 食にうるさい人がいるとは言うが、そこまでべた褒めするのには少し興味が出てきた。佑司は課長との会議を終えたあと、部長から直帰で構わないと連絡があったので……せっかくなら、会議前に話題になっていたジェラート屋に行ってみるかと意気込んでみた。


 甘いものは嫌いじゃないし、たしかに今日も夏日真っ盛りと暑くて堪らない。



(温泉の味……って、するのかな? 海水は塩味ってわかるけど、温泉のって饅頭はあんまり食べたことないし?)



 膨らむ想像を抱えつつ、スマホで地図を検索して湊星商店街の中にあるジェラート屋を探すことにした。なかなかに大きな商店街だが、ジェラート屋の方向は佑司が今いるところからそこまで離れていないようだ。



『いらっしゃいませ~』



 アーケードの中を少し歩くと、電子音に似た掛け声が聞こえてきた。宣伝用のディスプレイからの音源かと思って前を向けば……もふもふした、タレ耳のようでいて小柄なクマかなにかが最後尾と書かれた看板を持っていたのだ。


 ロボットにも似たAI。


 それが実現しているのは、社会現象にもなっているので知ってはいたが。こんな普通の商店街で見かけるとは思わず……びっくりして、口が軽く開いてしまうほどだった。



「……あの。君、どこの宣伝してるの?」



 とりあえず、会話が可能か確かめてみると、もふもふはぴこんっと耳を揺らしてからプラカードを見せてくれた。



『ここ! ジェラート屋『シルキー』の順番待ちだよ!! 僕は店員のサック!!』

「よ、よろしく……」

『お兄さんも、うちのジェラート食べに?』

「あ、うん。……並びます」

『ありがとうございまーす!!』



 どんな育成プログラムをしたか気になるが、パリピ並みに明るいし親しみが持てる。店長は女性か男性か気になったが、少し列が長いので前は見えにくい。


 だけど、買い終えた客たちの手には色鮮やかなものもあればシンプルな色合いのジェラートのカップとか、コーンが陽射しに照らされて眩しく見えた。結構種類が多いのか、組み合わせが非常に悩むがこのあと時間もあるし、ゆっくり食べるのなら多くてもいいだろう。


 シンプルなミルクやチョコレート。クッキーバニラやチョコチップ。抹茶に果物系とか……と、考えていたら、いつのまにか自分の番になっていたので気を引き締めた。出迎えてくれたのは似た年頃の男性店員。おそらく店長だが、イケメンだなあとジェラート屋でも映える顔面偏差値が羨ましく思った。



「いらっしゃいませ。ご注文、承ります」

「えっと。初回なので、おすすめとか」



 声までイケボとか、なお裏山!とか思いつつも本当に初回なのであの課長からおすすめの味は聞いていなかったのだ。



「そうですね。温泉水の風味を楽しみたいのであれば、ひとつは塩ミルク。ダブルとかにするなら、チョコ系や果物を選ぶ方が男性では多いです」

「……じゃあ、塩ミルクがひとつ。チョコチップとパインのトリプルで。……コーンで出来ます?」

「大丈夫ですよ。少しお待ちください」



 ショーケースの中のジェラートたちは半分だったり残り少なかったりするが……さっきの、『サック』と名乗ったAIとふたりで切り盛りするのには人件費が少し間に合わないのか。それか、自分たちなりの営業をしているのか。素人がツッコミを入れても仕方がないので、出来上がるまでに料金表を見てからキャッシュレス決済を選ぶことにした。



「あ、バーコード決済で」

「はい、ありがとうございます」



 QRコードをリーダーで読み取るタイプだったので、支払い金額を確認してから打ち込む。この手順に慣れるまで、佑司もそこそこ時間をかけたがこの店長は毎日のことだからもっと慣れるのに時間をかけたのだろうなと、ふんわり思い浮かんだ。


 コーンを受け取り、レシートはいらないと告げてから……最後に渡された『味見付きスプーン』にサービス良過ぎだろうとツッコミを入れそうになったが。



(考えたら、手づくりのアイスって賞味期限早いもんな?)



 ケーキ屋のような洋菓子店の生菓子同様に、これは一日でももたせるのが大変だろうに。そして、AIを搭載するくらいのローン組みとかもあっただろう。


 列から離れ、味見用の『ダブルチョコ』というのをひと口頬張れば……ふんわり、花のような香りがしたかと思えば。あとから来る濃厚なチョコレートの味わいが優しく、口の中で溶けていった。


 溶けていくのに、決してくどい甘さでもない。どこまでも優しい風味でしかなかった。



「……あの課長さんが、絶賛するわけだ」



 次はさっぱりめにパイン。そのあとは、おすすめの塩ミルク。塩味があるとより一層『温泉』がわかるが嫌な硫黄臭はしてこない。クセのあるミルクって感じだった。そこにチョコチップのジャンキーさも乙なものと言えた。


 溶けやすいので出来るだけ早く食べたのに、氷菓特有の頭痛はまったくしない。コーンはワッフルのキャラメリゼだったこともあり、最後まで香ばしさを保ちつつも甘くて楽しい味わいだった。



「……彼女出来たら、連れてきたいな~こういうとこ」



 と、この発言をした数か月後に、同僚の女性と交際が決まり。初デートの日にわざわざ連れてきたほどだった。

次回はまた明日〜

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