第7話 オープン初日では
開店初日を迎えた、夏本番はとにかく外気温が暑くて堪らない印象だった。
温暖化により、年々外気温が高く熱中症患者も多発する中、涼を求めて室内に篭もったり食事に取り入れたりしていることが増えてきた。
そんな中、商店街とは言え『アイス屋さん』が開店したのだから、出だしは好調……とまではいかなかった。
チラシを配って宣伝をしたりなど、工夫はそれなりにしたものの。この湊星商店街は東西南北の並びがとても長く構成されている。大きなストリートと呼ばれる道が十字路となっているが、その隙間を裏通りと呼ぶくらい細々と居酒屋やパブに倶楽部などが入り組んで営業している。
さらに、北側では発掘された温泉を整える工事が盛んになっていたため、温泉に関する施設でリニューアル中だ。
つまり、温泉水で作る『ジェラート』を売りに出しても、テナント契約の関係で正反対の方向にオープンしたので……昼前にシャッターを開けたがなかなか客が正面の道を通らない。
おまけに、今はランチタイムの時間帯なので、いきなりアイスで腹を満たす人たちもいないだろう。
「うーん。最初はこんなもんだと予想はしていたけど」
拓馬はショーケースの中にある『出来立て』のジェラートたちを見ても、ため息を吐くことはない。
焦らずじっくり。
飲食店を経営するのが、いきなり素人でないのもあってここで焦っても意味がない。ジェラートの賞味期限はもって一日にするようにレシピは工夫したので……これが全部売れなければ、元の職場や知り合いの店へおすそ分けしに行くつもりだ。初日はそうなるだろうと、喫茶店のオーナーも言っていたくらい。
『……お客さん、来ないねぇ?』
サックは喫茶店以外の店で働くのは初めてだから、まったくないという店の様子に不安を覚えたのだろうか。
「こんなもんだよ。問題は、午後からだね」
ランチを終え、ストリートを歩く人たちがこの店を目に止めてくれるか。サックに『マスコット』として店前に立っててもらい、通る人間たちの目に留まるか試してみたところ……夏休みということもあり、子ども連れの家族の子どもとかがじーっと見てくることがしばしば。
そして、記念すべきお客第一号は、なんと老年の夫婦だった。暑いので、冷えたものが食べたいとゆっくり歩きながらも近づいてきてくれたのだ。
「こんにちは~」
「いらっしゃいませ」
『いらっしゃいませー!』
「おや、元気な……着ぐるみじゃないね?」
『違うよ! 僕はこう見えて、AIです!』
「ほー? ロボットとも違うのかい?」
「厳密に言うと違うんですが。僕とふたりで今日からこの店をオープンしたんです」
「暑いから冷たいの食べたくてねぇ? 少し前に、チラシもらったの。試食も出来たでしょ? あれ、とっても美味しかったからまた食べたくて。主人も興味持ってくれたの」
「ありがとうございます」
サックには中に入るよう指示を出し、老夫婦にショーケースの中を見えやすいようにしてあげた。ざっと十種類くらい作ってあるが、ふたりともどれにしようかと表情をくるくる変えるのが見えていて微笑ましかった。
「こんなにもあるんだねぇ?」
「全部、北側で出た『温泉』が入っているの?」
「こっちにも契約で水道管に通るようにしてもらっています」
「そうなのね。じゃ、あたしは塩ミルクとチョコレートにしようか。カップでお願い」
「俺もそうだな。チョコチップと抹茶で。コーンで頼む」
「かしこまりました」
『お待ちください』
専用のスコップで掻きだし、アイス同士が交じり合わない程度に整えて逆三角になるように。最後にスプーンを添えるが、ここにはサービスとして。
「お試しに、ひと口だけ別のアイスを。味はこちらで決めましたが」
「「いいのかい??」」
「ジェラートは手作りですし、賞味期限も早いので問題ありません」
『おじいちゃんが塩ミルクで、おばあちゃんがみかんね!!』
会計のあとにサックが伸縮機能でふたりの目線に合わせて縮んでやり、びっくりするふたりの顔を見てもにこにこするだけの接客をしてくれた。最初にしては、まあまあのスキルである。
「ありがと。普通のアイスじゃないのって、スーパーで買う以外滅多にないものね?」
「よかったら、暑いのでそこのテーブル使ってください。上にはパラソルがあるので」
「そうしよう、おかあちゃん」
「そうね」
景観も兼ね、ベンチとパラソルを敷地ぎりぎりにひとつずつ設置したのだが……さっそく使ってくれると『何屋』なのかわかって、視覚的にも宣伝効果に繋がる。それがその通りになったのか、通りがかった若い世代や中年などが覗いてきて……老夫婦らがまだ半分も食べていないうちに、列が出来てしまった。
『お客さん、いっぱい!』
「「可愛い~~? ロボット??」」
「AIじゃね?」
「温泉水のジェラート?? なんか、お饅頭とかと違いそうー」
などなどなど、サック以外にも興味を持ってくれたのか。順番に対応していくと、次から次へと客足がまったく途絶えることがなかった。だいたいがダブルでコーンを選んでくれ、サービスのスプーンも忘れずにと対応していたが……最初のふたりはせわしない行列にびっくりして帰ったかと思ったが。
「美味しいねぇ?」
「コーンも美味いな? 底にまでぎっしりだ」
まだまだ宣伝効果を打ち出してくれているのか、単にゆっくりなのかでパラソルを独占していた。しかし、ふたりがいなければここまで売れなかったため、内心感謝してもし切れない。
ふたりが帰った頃には、あれだけあったジェラートもほぼ完売近くにまで無くなってしまった。初日でこの売れ行きだが、しばらくは様子見してケースの中身ももう少し種類を増やそうと拓馬は少し自信を持てた気がした。
「よう。先代が来たって?」
閉店間際に、オーナーが来て食べに来たのかと思ったが様子見だけですぐ帰るらしかった。
だが、奇妙なことを言われたのでなんのことだと返事をしそうになったが。
「先代?ですか?」
「俺んとこの喫茶店の先代夫婦だ。さっき、コーヒー飲みに来て教えてくれたんだよ」
「……あの老夫婦が??」
「旦那の方がな? 奥さんも舌肥えてんのに美味い美味い言ってたぜ」
「……ちゃ、ちゃんと接客出来てたでしょうか」
「大丈夫じぇねぇか? それと、うちにランチ来てくれた常連らもいたはずだろ?」
「あ、はい。それは」
ちらっとサックを見れば、『来てたよ?』と言わんばかりのきょとんとした表情に。記録はされてても接客優先で対応していたかもしれない。拓馬がそんな感じに育成してしまったので、自分に似て当然だ。うっかりでミスしたわけではないので胸をなでおろす。
「んで? ほぼ完売か?」
「もう微妙な量なので、終いにしようかと」
「……料金払うから、その残り全部くれねぇか?」
「いいですよ? トリプルの値段分しかないので」
「よっしゃ」
少し強面だが、甘い物は性別や性格関係なく好きなのはいいことだ。
見た目、まだら模様の仕上がりになったが口元を緩めてくれた元上司の喜ぶ顔は……見ていて落ち着けた。
これが、オープン初日の出来事だった。
次回はまた明日〜




