第50話 その一歩の一歩③(五年後①)
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あれから、五年が経ち。
ジェラート屋『シルキー』は閉店することなく、きちんと営業を続けることが出来ていた。店長と店員が笑顔で出迎え、温泉水を取り入れている美味しいジェラートを提供する店として。
変わったことはいくつか。
それまで唯一の店員だった武藤芽衣が、バイトじゃなくて『正社員』になったことと。
店長である我孫子拓馬と『婚約』したことだ。これについては、しばらく常連たちの間で話題になって毎回芽衣とかはからかわれる対象になったが、笑顔でなんとかかわしている。
それと、もうひとつ。
新しいスタッフが、増えたことだ。
「いらっしゃいませー」
背は高いが、まだ中学を卒業したばかりのフレッシュな顔立ち。
もともと小学生から常連だった、晴海がバイトとして入社したことだ。夢への第一歩として、高校入学と同時にシルキーへ面接の打診をしたのが最初。
それまで、シルキーの店員は芽衣だけだったが。晴海なら、と、拓馬も研修から様子見はしていたが、きちんと業務をこなす様子を見て安心したものだ。あと、AIのサックと非常に相性が良いのも知っていたため。
『晴海くーん。そろそろ交代しようかー?』
「あ、はい。サック……さん」
『別にいつも通りでいいのに~』
「いやいや、一応仕事中だし」
長年通い続けてくれていた上に、『働きたい』と本気で考えてくれた晴海を突き放す理由なんてなかった。進学も製菓学校を目指す予定はあるそうなので、ますますバイト先としても『シルキー』を残しておかなくてはいけない。
湊星商店街の名物のひとつとして、存続出来ている店のひとつとしても。長年ご愛顧していただける常連から、新規のお客たちにも大切にしてもらえる店として……ここは在り続けなければいけない。
独立してそろそろ十年近く、節目を迎えるためにも、ジェラートの改良は日夜研究を続けている拓馬だった。その味をレシピ化して登録させ、サックにも品質を安定させた商品に仕上げてもらう。
そのルーティンを続けていくのも、もちろん大事だが。
なにより、『美味しい』と皆に言ってもらえるジェラートづくりが一番の活動力だ。
商店街の中で間欠泉が発見され、勢いで出店したところもあれば……消えていくところもある。その中で、売り上げをほぼ維持しながらも年がら年中愛される店のひとつになれたのは、幸運と店員たちのおかげでもある。
拓馬ひとりで、勝ち得たものではない。
それだけは、決して驕ってはいけないことだ。
「店長? 次のお客様の注文……」
「あ、うん。いかがなさいますか?」
「えっと、ダブルショコラとティラミスのコーンで」
「「かしこまりました」」
少し、考え込んでしまう悪い癖が時折出てしまう。
三十をとっくに越えたというのに、年増のような考え方を持ってしまったのか。師匠の蓮実に似てきたのかもしれない。秀一の方は先に結婚して、今では一児の父親として先に家族生活をスタートさせている。
別に勝ち負けを競っているわけではなかったが、少しばかり悔しい気持ちはあった。
だけど、芽衣は拓馬の隣を選んでくれたのだから、何ら問題はない。まだ婚約して数か月だし、結婚式費用も満足に貯蓄できているか怪しいため、そこは慎重にいきたいからだ。
『いらっしゃいませ~。ジェラート屋『シルキー』の列はこちらですよ~』
サックがプラカードを持つタイミングになると、撮影許可の案内板をぶらさげているため、客がSNSに載せる機会がここ数年でどんどん増えていった。口コミも、ネット運営も。さらには、記事とかで取材を受け直したりで番組特集のひとつにも選ばれたり。
おかげで、サックの購入費に組んだローンはもう残り少なくなってきた。次は、サックをどう改良してあげようか、法律もいくつか変わってきたので機能も増やしてやりたかったのだ。
次回は金曜日〜
次回で最終回




