第49話 その一歩の一歩②(親の場合)
芽衣は、母に報告をした。
『シルキー』の店長である我孫子拓馬と交際を始めたことに。
夕飯の支度を手伝いながら言うと、母はほっとしたかのように息を吐いた。
「やっと、なのね? 店長さんもわかりやすかったのに、なかなか進展しなかったんだもの」
「……そんなに、バレバレ?」
「ええ。AIが判断できちゃうくらい。お母さん、サックくんと世間話しちゃったくらいよ?」
「……サックくん」
演算処理とか、育成プログラムとかいろいろ使ったはずだろうが。機械にもモロバレとか少し以上に恥ずかしくなった。
「まあ、心配してたけど。きっかけはなんであれ、よかったじゃない? もう婚約とかしたの??」
「してない!! お付き合いするだけ!!」
「けど、店長さんあの年代でしょう? そろそろ婚期とか考えなくちゃだろうし……お母さんとしては、お婿さんには大歓迎ね?」
「……お母さん」
気にいっているのはわかってはいたけれど、飛躍し過ぎではないだろうか。
まずは、大学卒業までに『シルキー』の経営を維持し、そこから準社員になるのを決めるかどうかも大事だ。
なのに、いきなりお嫁に行くなどと、芽衣も考えていなかったし、拓馬にも言われていない。
年齢イコール彼氏がいなかった芽衣にとって、はじめての恋人なのだ。しかも、初恋だからこそ玉砕したくない。変なジンクスが昔に流行ったりもしたが、そこは気にしないでおくことにした。
「え~、どうしようかしら? 菓子折りくらい持ってって、あいさつし直そうかな?」
「やめて。恥ずかしいから、普通にしてて」
「え~? うちの大事な娘と交際してくれるのよ? それなりの覚悟は持ってほしいもの」
「なんか変な言葉混じってない?」
「本心よ?」
たった、一歩踏み出しただけで……周囲の環境が変わるということもわかってはいたのだが。
親としても、それなりに心配をかけていたのだから嬉しい半分、責任感が出てきたのだろう。
芽衣はひとりっ子だし、将来の夢を持つのもそろそろ現実味を帯びていかなければいけない。就活も念のためにすることにはなっているが、一番はシルキーに希望を出したままだ。
だが、繁盛している店に、なにかしらのきっかけで閉店となってしまうことだってあるのはニュースなどでもよく見る。それがシルキーにないことを願っていても、ないとは言い切れないのだ。
「……とりあえず、報告はしたから」
「うちに連れてきてもいいのよ~?」
「……変な面談とかしないよね?」
「さあ、どうしようかしら?」
「もう!」
とにかく、明日からまた大学とバイトの繰り返しの日々が続く。
それがいつまで続くのか、終わりが来ないことを願っていても……拓馬との交際も、ひとつのゴールを目標にしているのは芽衣にもわかっていた。
最初の彼氏とか関係ない。大事な大事な人だからこそ、ずっといっしょに居たい。
親の意見とか関係なく、拓馬と交際を続けていきたい気持ちは本当にある。その想いは生半可な気持ちではない。
成人してちょっとの、大人になりかけの子どもでしかないが……それなりの、覚悟を持って彼からの告白にも応えたのだ。もっと素敵な人が隣にいてもおかしくないのに、拓馬は芽衣を選んでくれた。歳の差はそこそこあるが、それは特に関係ない。
まず、親の了承を得る一歩はクリアしたので、次は仕事などで彼とサックの力になっていきたかった。
仕事は仕事。恋愛は恋愛。
それぞれの切り替えをちゃんとしないと、人生の岐路にもし立つことがあれば困るだけで済まないことくらい、芽衣でもわかっているから。
明日からの一歩をしっかり踏み出すために、夕飯後は大学のレポートなどをこなすのに部屋へ篭もるのだった。
次回は水曜日〜




